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兵器、魔族、襲撃。

「どういう事ですかアーデル様ぁ!?」

 ビッケがまぁ、当然なことを言う。


「どうもこうも、わたしが無罪と言うから無罪です」

「なるほどですなのだ!」

 いや、それで納得する方もおかしい。


「長、詳しくお聞かせください!でないと……」

 ジャンが目線を送る先に顔を向けると……


「どういうことだよアーデル様ぁ!」

「こいつは俺たちをはめようとしてるんだぞ!」

「アーデル様、気でも狂ったのですか!?」

「いい加減にしろこの魚ぁ!」

 ものすごい喧騒が聞こえる……アーデルの事など、まるで何も聞こえないかのようだった。


「……」

 すると、アーデルは首の部分を押さえ、『あーあーあー』と声を整え始めた。それと同時に、ジャン、ビッケ、ハガー、ライザが耳を塞ぐ。

 ……何だか猛烈に嫌な予感がした。ヒルダも耳を塞いだ。直後に、アーデルが大きく息を吸い込んで……




「し~ずまれぇ~~~い!!!!」




 ……声の圧で、ものすごい風が起こった。……正直耳を塞いでてよかった。いや、塞いでいても、キーンという独特の音が耳の奥で反響しているのだが。

 耳をふさがなかった他の魔族は、まるで頭の上に星が回っているような状態に。


「ちゃんと彼女の罪を赦す理由ならあるのです。どうか落ち着いて聞いてください!」


 ……いや、落ち着いて聞かせる状況でないのを作り出したのは誰なんだ。と、心の中で突っ込む。


「わ、わかりました。罪を不問にする理由は……なんですか?」

 ジャンが冷静に聞く。


「……その前に、聞きたいことがあるんです。……ヒルダさん。{あなたは何者ですか}?」

「何者……えっと、魔族で、確かウェアウルフ……」

「いえ、わたしが聞いているのは、その正体の事です」

 正体?……まさか、そういう事なのだろうか?


「あなたの心音を聞きました。ですが我々魔族とは全く違う心音でした。それにその見た目……ウェアウルフであるにもかかわらず、耳と尻尾以外に、ウェアウルフの特徴はありません。ジャンさん、ハガーさんと似た感じですね」

「心音が違う……?どういう事ですか?」

 するとアーデルは、ヒルダの右手をやさしく包み込んだ後、自らの胸に手を添えさせた。

 ドドドド、ドドドド、ドドドド、と、聞いたことのない鼓動のリズムだった。

 改めて自分の胸に手をあててみる。ドクン、ドクンと、これが普通のリズムだ。……ヒルダにとっては。


「ジャンさんに聞きました。あなたは森の中で倒れているところを助けられた。と。あなたはどうして森の中にいたんですか?」

「……それが、あたしにもよく……その、なんというか……」

「正直に言ってください。ある程度なら、わたしも信じますから」

 アーデルのやさしい笑みに、何だか身をゆだねたくなってくる。ヒルダは思い切って言う事にした。


「えっと……あたし、こことは違う世界からやってきたんです!」


 ・ ・ ・ ・ ・


「……えっと……ヒルダさん?どうしただか?」

「こ、この状況で、よく冗談を言う事が出来るのう……」

 呆れるハガーとライザ。


「前も聞いたのだ。でも、どういうことなのだ~?」

 不思議がるビッケ。


「……」

 何も言わないジャン。


「……やはり、そうでしたか」

 納得した様子のアーデル。


「ヒルダさん。あなたは何か、魔法を使えますね?」

「魔法……これのことですか?」

 ヒルダは目を閉じて集中した。ぽたぽたと、右手から液状の軽い鉄がこぼれ始める。


「やはり……ヒルダさん。あなたと共にある魔物は、{アイアンガルム}。この世界で昔飼われていたとされる番犬」

「番犬!?」

「えぇ。王都が作り出した交配技術により生み出された、{人造兵器}のひとつです。おそらくあなたは、それと一体化した、わたしたちと同じ……{人造魔族}であると」

 アイアンガルム、人造兵器、人造魔族……一度に色々と聞き覚えのない言葉が多すぎて混乱する。その様子を察したアーデルは、ゆっくりと話し始めた。




 ――我々人造魔族は、かつて人間だったころ、王都にて、過酷な労働をさせられていました。王都の皇帝、ダラスティアの命により、過酷な23時間労働。この世界の権威を示すため、あちらこちらに最新鋭の人造兵器を作り、精強なる騎士を生み出し、その権威をこの大陸全体に示す。

 当然、その最中、何人もの元人間が亡くなりました。それでも、ダラスティアはその権威を振りかざすことをやめませんでした。

 そこで彼は考えたのです。人間として使うことに限界があるのなら、魔物と無理矢理合体させ、道具として利用すればいい、と。


 その考えは見事に的中しました。


 魔物と人間とは、心臓の強度から違います。故に、我々人造魔族は、あくせくと働きました。その結果、王都はみるみる急成長を遂げ……次第に大陸統一を果たしました。

 それを成すやいなや、ダラスティアは人造魔族の存在を秘匿にするため、わたしたち人造魔族を1人残らず王都から排しました。

 制圧した村に、わたしたちを、まるでゴミでも捨てるかのように移転させ、その村から、一切の調味料や食材を没収しました。

 結果的に、わたしたちに残されたのは、この作られた命と、魔物の力だけ……もはや満足に、食事を取ることすら……その権利すら、ダラスティアは、王都サジタリウスは奪ったのです。




 話をすべて言い終えたアーデル。左右を見回すと、4人は全員うつむいていた。


「おそらく、ヒルダさんは別の世界でアイアンガルムに接触したことで、こちらの世界に堕ちる{きっかけ}を作ってしまったのでしょう。本来、魔物1匹にそう言った力があるとは考えにくいのですが……あなたが違う世界からやってきて、人造兵器である魔物のアイアンガルムと同じ、鉄を生み出す犬の力を持っているならば、それも説明が付きます」

 アイアンガルム……こっちの世界に……堕ちる……?……うっすらとだが、思い出した。


「あの」

 ヒルダは思い出したことを、話してみた。


 元の世界にいた時に信号を待っている時、鉄のようなものを身に着けた、犬を追いかけて……


 ドォン!!


 トラックに轢かれて、少し宙を舞った気がして……一瞬だけ痛みが走って……そして……死んだ。


 ……死んだ?


 つまり、自分は一度死んでから、この世界に来た……?……自分で言っておいて、よくわからない。


「しんごう……とらっく……よくわかりませんが、確かにアイアンガルムには接触していますね。それに、もともと人間、しかもこの世界にいないというなら、カタリーナを知らないのもうなずけます」

「……」

 だが、あまりにわからないことが多すぎる。少し考える事を放棄したくもなってきた。


「我々魔族は、それぞれ特有の力を持っています。例えば、わたしは水の中をいつまでも泳いだり、水の上に立つことが出来る。そしてヒルダさんは、おそらく犬の力だから……」

「一度味わったにおいを忘れず、においを追いかけることが出来る。ですよね」

 ジャンが言った。


「えぇ、その通りです。そしてアイアンガルムの力による錬鉄も可能。あなたは人間であり、魔族であり、そして、兵器でもあるのです」

 アーデルの話を聞いても、いまいち実感がわかなかった。

 犬崎 真昼という人間が死んで、ヒルダという人造魔族が生まれた。そしてそのヒルダは、兵器としての力も持っている。

 話が大それすぎて、よくわかんなくなってきた。


「んじゃあ、ヒルダさん。カタリーナに助けられたってのは本当なのか?」

「うん。牛に襲われそうになったところを助けてくれたし、ジャンとはぐれた後、森の入り口まで送ってくれたし、それは嘘なんかじゃない」

「じゃあ、カタリーナは王都側の人間なのに、なんでヒルダさんを助けたんだぁ?元人間であるってこと、わかってたとかかぁ?」

 それは思っていた。


 ――乗れ。お前はヴァ―ゴ村の魔族だろう?


 魔族だという事は、耳を見れば火を見るよりも明らかだ。だが、魔族であることを否定することも無く、それどころか、魔族であることを確認してから行動を起こしたようにも思える。

 それにこれも。


 ――なぜこのような場所に来た


 ――えっと……あたし、一緒に来てたジャ……魔族の人とはぐれてしまって、それで


 ――危険だとは思わないのか


 『危険だとは思わないのか』まるで魔族が死ぬことを憂いているような口ぶりだ。


「出来れば、聞いて欲しいんだけど……」

 ヒルダは、そのことを伝えてみた。


「魔族を散々こき使った人間共が、そのような憂いの言葉を上げようとはな。カタリーナという女子がいよいよわからぬわ」

「それ、本当……なのか?」

「間違いないだろう。今ここに五体満足で立ってるヒルダが証拠だ。今更ヒルダが、嘘をつく意味もないし、そもそもヒルダは森の奥から戻る方法を知らないだろうしな」

 気が付けば、我に返った他の魔族たちがワイワイと話している。先ほどまでの殺気立った感覚はなくなっていた。


「ヒルダの言う事は本当なのか?」

「カタリーナというか、人間が私たち魔族を助けるなんて信じがたいけど……」

 確かに、信じがたいのもわかる。王都にさんざ利用された果てに、ここに連れてこられていたのなら……


「皆、わかりましたね。ヒルダさんは、無罪になってしかるべきと」

 穏やかな声で言うアーデルに、ヒルダは安心した。


「ヒルダ、ごめんなのだ……王都の人間に会ったってだけで、ヒルダにひどいことをしちゃったのだ……」

「オイラにも、謝らせてくれ。ごめん、ヒルダさん」

「元はと言えば、オレがはぐれさせてしまったのがそもそもの原因だったんだ。ごめん、ヒルダ」

「ワラワも……済まぬ。謝らせてくれ」

 口々に謝る4人。その姿につられるように、他の魔族も申し訳なさそうな視線をヒルダに送る。その姿にヒルダも、申し訳なさを感じた。そもそも森の奥ににおいにつられて行かなければ、こうはならなかったからだ。


「ですがヒルダさん。少し、お願いがあるのです」

「お願い……?」

「実は……」

 と、その時だ。


「長ぁ~~~!」

 いきなり走ってきたのは、鬣の魔族だ。


「レーヴェさん、どうしたのですか?」

「大変です!大変なんです!隣村のリオ村から……って、お前!?何やってんだこんなところで!早く洞窟の中に……」


 シーン……


「……あ、あれ?何だこの状態……」

「レーヴェ、話なら後でしよう。リオ村が……どうした?」

「あ、そうだ、リオ村のネロ村長が、この村に来たんだ!なんでも、この村を乗っ取るつもりらしいぞ!」

 乗っ取る!?その言葉に、ヒルダはびくりと体を動かした。


「ネロ氏……まだ諦めていなかったと言うのか……ワラワは先に行く!」

 にわかにあわただしくなる洞窟内。ほぼすべての魔族が、外に出ようと、磁石に吸い寄せられる砂鉄のように入口へ殺到する。


「……ヒルダさん」

 ヒルダも出ようとしたが、背後でアーデルに呼び止められた。


「ジャンさん、ハガーさん、ビッケさん、ライザさんから聞きました。……あなたは、料理がとても上手だと。それは……本当ですよね?」

「……」


 いや、その質問は『はい!』とも言いづらい……


「わたしは地上に長くいられない魔族……どうか、わたしの代わりに、あなたにこの村を守って欲しいのです」

「村を……守る?」

 こくりとうなずくアーデル。


「詳しい話はまた後ほど……今はどうか、ネロ村長を止めてください」

「……わかりました」

 ヒルダは足に力を込めた。


「……あたしは誰かのために食事を作るのは好きです。でも、誰かの上に立つのは……少し苦手です」

 と、言い残して、洞窟を抜けていった。その背中を見たアーデルは、こう言い残した。




「……あの4人のお方を見ればわかりますよ。あなたが、どれほどまでに魅力ある方か」

2話、料理と無関係な話題が続きましたが、次回から料理の話題になります。

突然襲撃してきた、ネロという魔族。その真意とは?

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