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製鉄、仲間、塩作り。

今回紹介する塩の作り方ですが、やけどの危険性が高いです。

必ず二人以上で作るようにしましょう。

「それは……鉄か?」

 ジャンが興味津々にこちらを覗き込む。


「みたい……だけど、あたしでもよくわかんない」

 マジシャンで言う『じゃ~ん!いきなり右手から鉄が出ました~!』……的な感じではない。

 何故なら出した自分が一番驚いているのだから。

 右手をもう一度見ると、こぼれるほど出ていた鉄はきれいに止まっていた。


「……」

 でも、これなら鉄の鍋を作れる……か?ヒルダはもう一度、鉄が出るよう念じてみた。


「お!?」

「ま、また出てるのだ!」

 どろどろと、今度はものすごい勢いで両手から出る。


 ――鍋を作るんだ


 ――なるべく大きめな


 ――表面は薄くて、底が深めで。


 ある程度鍋の大きさくらいになる鉄は出来た。……が、ピキン。とそこで鉄は固まり、手からあふれる液体状の鉄も止まった。……途端、ヒルダの体から力も抜けた。


「ヒルダ!」

 ジャンが慌てて駆け寄る。


「だ、大丈夫。クラっと来ただけだから……」

 疲労感がすごい……こんなに疲労感を感じたことは今までなかった。

 それに、鉄を生み出せることはわかったが、肝心の鍋型には出来なかった。

 目の前にあるのは、箱型の鉄の塊。この世界に刀鍛冶のようなものがあれば、ここから鉄が出来なくもない。……はずだが。


「ん~?この鉄の塊がどうしたのだ~?」

 ビッケが横から顔を出す。


「あ、いや……これを鍋にしたかったんだけど……失敗しちゃって」

「お?なら、ビッケちゃんにおまかせなのだ!」

 ビッケちゃんにおまかせ?それはどういう事だろう。と、考えていた時、ビッケは右肩をぐるんぐるんと回し……


「あ、あの……ビッケ……ちゃん?」

 容易に、何をするのか想像できた。


「ビッケちゃん、パーンチ!」


 ……ドウン。というすさまじい衝撃が、周囲を走った。


「ふっへ!?なんだなんだぁ!?」

 居眠りをしていたオークのような魔族は跳ね起き、


「地震なのじゃ!?」

 近場に水を汲みに行っていたキラービーのような魔族は、ツボを地面において走りだす。


「「……」」

 そして、2人とも茫然と立ち尽くす。


「ビッケ……お前は……」

「えへへ、ごめんお兄ちゃん……やりすぎたのだ……」

 地面にひびが入るほどの、すさまじいパワーだった。が、奇跡的に鉄は無事……どころか、多少いびつだが寸胴鍋のような形にちゃんとなっている。


「はぁ、なんじゃビッケか。魔族騒がせな奴じゃのう」

「オイラ、てっきり王都の奴が来ちまったかと思ったぞ!」

 がっはっはと笑うオーク型の魔族。


「笑いごとではなかろう。最近はただでさえ他の村に王都の者どもが侵攻を苛烈にしているというに」

「……で、そこにいるのは誰だ?」

 ヒルダの方を見て、オークが言う。


「あぁ、こいつはヒルダ。森の中で倒れてるのを連れてきた。この世界に不慣れらしいから、仲良くしてやってくれ」

「よ、よろしくお願いします」

 背の高さからして2人とも年上なのだろうか?ヒルダは頭を下げる。


「硬くならずともよい。ワラワもおそらくうぬと同じくらいの齢じゃ。ワラワはキラービーのライザ。よろしく頼むぞ」

「オイラはオークのハガー。よろしくな!ヒルダさん!」

 しかし、ハガーはともかく、ライザはまるで人間がハチのコスプレをしたような見た目だ。4本の腕に、ハチ特有の羽。頭には触角まで生えている。

 魔族と言えど、元は人間だったのだろうか?特にジャンがそう思える。


「で?何をしておるのじゃ?」

「それはかくかくしかじか」


 ジャンが丁寧に説明をしてくれた。


「ジャンさん、そんなの本当に作れるだか?」

「オレもわからん。こいつに聞かないと」

 そういえば、作り方をちゃんと説明していない。


「えっと……ライザ、ハガー。どっちでもいいから水に強い紙はあるかしら?あと、ヘラと、何か棒のようなもの。それと、取り出した塩を入れる容器はある?」


 幸いにもライザが紙を、ハガーがヘラを持っていた。

 紙と言っても、キッチンペーパーはないので、違う紙で代用する。塩分に耐えられるなら上出来だ。

 そしてヘラ……ではなく薄い木片と、細い木の棒。池の水でよく洗えば十分使えるだろう。

 ライザとハガーは塩が出来る瞬間を見たいと言っていたので、5人で海に行くことにした。歩いているうちに……


「しかし、まさかお前にあんな錬鉄の力があったとはな」

「錬鉄……さっきの、鉄を出したやつ?」

 手に持った鍋に目を落とす。見た目はステンレスに近い感じだ。これなら熱に強いし、錆にも強いから、洗えば何度かは使える。

 さらに鉄を呼び出し、持ち手も作ったものだ。

 しかし……何度思い返しても、


――ビッケちゃん、パーンチ!


 ただの一撃だけで、このようなへこみを生み出してしまうとは……


「さっきのビッケも、あれも力なの?」

「あぁ、お前を含め、オレたち魔族は全員何らかの力を持ってる。例えば……お前の力は鉄を生み出す力。あいつの力はすさまじい馬力のパワーを生み出す技。そんな感じだ」

 それでとんでもない力を発揮したのか……


「という事は、ライザとハガーも?」

「まぁ、そうだな。オレには見せてくれたことはないけど」

「じゃあ、ジャンもそういう力を持ってるんでしょ?」

 ……その問いに、ジャンは答えなかった。何か言いにくい力……なのか?


 しばらく森の中を進むと、視界にコバルトブルーの海が広がってきた。


「おぉ~!」

 都会に住んできたヒルダには、海という光景はなかなか斬新だ。

 元々友達はそれほどいなかったし、家族旅行でも海に来たことはあまりない……母が山派だし。


「ヒルダ、変わってるのだ。ボクたちは漁で、よくここにくるからもう見飽きたのだ」

「まぁそう言わずにビッケさん。で、どうするんだ?」

 興味津々なハガー。


「そうね……本当は海水から塩を取り出す方法は二通りあるの。ひとつは、天日干しした草に海水をかけて、塩を取り出す方法。で、もうひとつが今からやる方法よ」

 ヒルダは端的に、製法を教えることにした。


 =塩の作り方=


 用意するもの

 海水 適量

 海水用の容器 2個

 紙(濾過用。コーヒーメーカー、キッチンペーパーなどがおすすめ)

 鍋 1個

 ヘラ 1個


 まずは、容器に海水を汲み上げる。


「よいしょっと」

 ビッケがツボ一杯の海水を取り出した。


「お前……相変わらず力すごいな」


 次に容器の注ぎ口を紙で覆い、別の容器に海水を濾過して入れる。


「濾過しないと目に見えないゴミまで入っちゃうから注意して」

「な、なかなか神経を使う作業じゃな……」

 ライザが緊張した面持ちで、徐々に紙で蓋をした容器を傾ける。

 確かにこぼしてしまうと、また汲みなおしだ。

 まあ、ビッケも下の方を支えている。こぼれることはないだろう。透き通った水が、ゆっくりと別の容器の中へと収まっていく。


「とりあえず、海水を全部入れ終えたら連絡して」

 4本ある腕のうち、1本を動かしてグッとサインを出すライザ。

 今のうちに火を点けておかねば。


「そっちも大丈……」

「あぁ。無事に火が付いた」

 ジャンの方を向くと、ものすごい勢いで炎が上がっている!


「おぉ~!ガンガン燃えるぞぉ!」

「キャンプファイヤーか!?そこまで燃やさなくていいわよ!」


 そして鍋に目印を付けるのだが……


「必要なのは10分の2ほどの目印……10分の2……か」

 ヒルダは鍋を見た。当然そう言った目印はついていないし、目分量でやるしかない。目分量……


「……」

「うん?」


 ……ザクっと、ライザが地面に尻の針を突き刺す。倒れないように、ビッケが背中側を支える。


「ひ、ヒルダ氏、何をしておるのじゃ……?」

「……」

 パッと見ても、ライザの縞模様は均等な間隔でついている。これなら目分量は多少できるかもしれない。

 鍋の大きさに比べ、ライザの縞模様は5つ。

 5等分に出来た部分から、さらに半分の大きさを見つけ……指先から細い鉄を出し、それを木の棒に突き刺す。


「うん。これでいいわ。濾過した海水を……」

「そ、その前にワラワを抜いてくれ!」

 バタバタと足を振るライザ。


 濾過した海水を鍋に入れて火にかけ、海水が目印が見えるほど蒸発するまで、焦がさないように強火で混ぜながら煮詰める。一番重要な部分だ。


「これ、大体どれくらい混ぜればいいだか?」

「そうね……強火で大体30分ほどかしら」

「30分かぁ。それならオイラでも集中できそうだぞ!」

 鼻を鳴らしながら待つハガー。鍋の中で海水が焦げてしまわないよう、時折かき混ぜる。


 約30分後。


「「「「おぉ~!?」」」」

 魔族たちが一斉に声を上げる。

 水の体積は減り、鍋の中で、白い物体が現れ始めていた。


「塩が……塩が出来たのだ~~~!」

 喜ぶのはビッケ。ヒルダは鍋を持ち上げて、海岸に置く。


「えっと、濾過した海水が入っていた側のツボをこっちにちょうだい」

「こっちなのだ!」

 それに紙をかぶせると、その上から煮詰めた海水を入れる。


「……これは……塩じゃないな」

「えぇ。硫酸カルシウムって言う塩とは似て非なる物質でね。舐めても薄い甘味しかしなくてまずいわよ?」

「うっへ~、本当なのだ……」

 もう手を伸ばしてしまったビッケ。


「まぁ、大豆があればここから豆腐も作れるんだけど……正直塩化マグネシウムで固めたほうがおいしいわね」

「りゅ、りゅう……さん……?えんか……?ワラワには聞いたことのないものばかりじゃ……」


 ……もう一度海水を鍋に入れ、今度は中火で煮詰める。


「跳ねた海水がかからないように注意して」

「ハッハッハ~!心配性だなぁヒルダさんは、そんなのオイラが我慢できないとでも……あっちぃ!」

 見事な振りとオチ。


「少し強く混ぜすぎじゃないのか?貸してみろ」

 ジャンが代わると、静かに混ぜ始める。

 ぐつぐつと煮立つ、白い液体。すると白い個体のようなものが、徐々に鍋の中央に集まりだす。


「こ、今度こそ塩だか!?」

「そう。これが……」

 さらに火を弱め、ゆっくりとかき混ぜ始める。徐々に水分が飛び、白い個体がはっきりとその見た目を現す。

 再び濾過用の容器を使って余計な水分を切り……小さな容器の中に、塩をサラサラと入れる。


「すべての調味料の父、塩の完成よ!」

「「「「おぉ~~~!!」」」」

 再び大声を上げる魔族たち。


 ……にしても我ながらくさいセリフだ。ヒルダは反射的にそう思った。


 容器の中の塩を見る。海水から取り出したものなので、少ししっとりとしている。


「少しだけ舐めていいのだ~?」

「いいわよ。ほら」

 全員がそれぞれ、指に少しだけ塩を乗せ……4人一斉に舐める。


「しょっぱ!」

「でも、懐かしい味だぞ!」

「あぁ……ワラワが生きているうちに、再び塩を食せようとは!」

「もうひと口舐めたくなるのだ~!」

 口々に様々な感想を言うが、全員に揃って言えることは……


 歓喜。


 塩だけで、これだけ喜べるとは、今までロクなものを食べていなかったのだろう。

 塩は万能だ。野菜と共に漬け込めば漬物にできるし、料理の味付けにも使える。これさえあれば、少なくともあのようなステーキは食べなくて済むだろう。

 早速村に帰って、塩を使って何か料理を作ってみよう。ヒルダは塩の入った容器を眺め、そう思った。

リザード族のジャン、タウロス族のビッケ、キラービー族のライザ、オーク族のハガー。

そして、ウェアウルフ族のヒルダ。

魔族のキャラはもう少し増える予定です。

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