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やさしさ、研究、牢獄。

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 ・

 ・

 それからと言うもの、ダラスティアの進撃は留まるところを知らなかった。

 逆らう者はことごとく皆殺し。新しい芽が出そうな時があれば、それを村ごと焼く。……私の住んでいた村の近辺の村も、ことごとく焼き払われたそうだ。


「うう……ぎゃああああ!」

「カタリーナだ!金嵐のカタリーナが来たぞおお!」

 ブリギッド地方のとある村にやってくる。


「この村を焼けと言われてきたのか!?悪魔め!」

「違う。私は」

「言い訳などするな!どうせ貴様らは我らの話など聞かないだろう!?」

 その近辺の村も、2日前にダグラスによって焼き払われたらしい。


「違う!私は……」

「無駄です、カタリーナ様」

 言葉を遮り、兵士が前に出ると……


「火を放て!」

「なっ……!?」

 目の前に、火が放たれた。私はその様子を茫然としながら眺める。

 轟々と燃える炎、逃げ惑う女子供、逃げ切れず、炎に巻かれる人。黒い煙が立ち上り、視界を赤と黒で染める。こんなことを。こんなことをするために、私は……?




 王都に戻ると、私は突然王都の地下に通された。


「ここは……?」

「おや、ダラスティア様から話を聞いていないのですか?」

 見ると、緑色の液体に魔物が多数閉じ込められている。それらは最近、異世界にいないと思っていた魔物ばかりだ。ヴァンパイア、虎、猫など、様々な生き物がいる。


「ここは我らが開発した特殊な魔物たちの巣窟となっております。すでに何度か、魔物たちで実験を行っております」

「開発した……魔物?」

「例えば……」

 檻を開けると、そこには灰色の犬がいた。体のあちこちから、流体の鉄を流している。


「鉄を生み出す力と犬の力、双方を持った犬の魔物……名は{アイアンガルム}と呼んでおきましょう。すでにダグラス様がお使いになり、多数の反逆者を生きたまま……」

「そんな話はどうでもいい」

 反逆者……?ならこの王都に住む人物はなんなのだろう。散々人々の運命を弄んで、神にでもなったつもりだろうか?

 さらに奥に進もうとすると……


「おおっと、ここから先はいけません。今極秘研究を進めています。いくらカタリーナ様でも進ませるわけには参りません」

「極秘……」


「ぎぃやあああああああああ!!」

「!?」

 女の金切り声が、奥から聞こえた。……聞き間違いなどではない。


「な、何をしているんだ……!?」

「ふっふっふ、もうすぐわかりますよ」

 と、その時だ。


「ママ!」

 背の小さな女の子が、この研究室に入ってきた。ママ……つまり先ほどの金切り声は、この女の子の母親……?


「なっどこから入ってきやがったこのガキ!」

「ママ!ママを返して!ママ!」

 その少女も金切り声を上げる。


「黙れ!斬られたいか貴様!」

 男の近くにいる兵士が抜刀する。その刹那に私は抜刀し、剣を受け止める。


「やめろ。彼女は無関係だ」

「ほう……このワシとダラスティア様の研究を妨害する気ですか?カタリーナ様」

「ダラスティア様が……!?」

 と、その時だ。


「ワシは命令されているのです。もしこの研究を妨害するようなものがあれば……」

 私の背後に兵士が近付いてきて……


「誰であろうと、排除せよと」

 そして私は後頭部を殴られ……




 ザッバーン!


「……!?」

 頭から水をかけられて目を覚ます。辺りを見回すと、ダラスティアの前に椅子で座らされていた。


「起きろ!陛下の思慮深い研究に水を差す愚か者が!」

 ……ダグラスの声だ。左側にダグラス、そして正面にダラスティアが見える。


「カタリーナ!ワシは今日ほど不快感を覚えた日はない!貴様のような従順な者が!何故ワシの考えに水を差すのだ!!」

「陛下……一体、何のことで……ぐはっ」

 言い終える前に、ダグラスの拳が飛ぶ。


「陛下に口答えをするな陛下の言葉を遮るな陛下のお考えを汲め!」

「お前は素晴らしいなダグラス。クロードも見習ってほしいがなぁ!」

 ダグラスは、ダラスティアに従順とは聞いていたが、ここまでとは……ダグラスの目には、私がどう映っているのだろう。


「貴様は今回の事もそうだが、余罪が多数残っておるのだよ」

「余罪……?」

「……」

 ドオンと、肘掛けを強く殴る音が聞こえた。


「ワシに逆らう者をことごとく討ち取らず峰打ちのみで済ます事!その村を焼き払わずに放置した事!そして王都に住む民のウジ虫共に許可もなく食べ物を分け与えている事!ざっと上げるだけでもこれだけじゃ!」

「……!?」

 バレていた……?しかし、王都の国民に食料を分け与えていたのは記憶がない。それに、民の事をウジ虫と呼ぶ筋合いはないはず。


「大変だったのじゃろ?ダグラス」

「えっ……」

 その声に、私は戦慄した。


「えぇ。無能なカタリーナの代わりに村に住むバカどもを皆殺しにして、村を焼き回ってくるのに本当に骨が折れました。しかもこのバカ、つい最近も村を焼き払う事を拒んだようですぜ?」

「……」

「とんでもないバカですよねぇ。えぇ?」

 蹴り飛ばされる。


「ぐっうっ……!」

 そこへダラスティアが立ち上がる。


「貴様が何をするつもりだったかは知らんが……ワシに対する反逆とみなして構わんな?このクズめ」

「……」

 反逆……どうせダラスティアは私を殺しにかかるだろう。だがそれなら話は早い。最期に思い切りぶちまけてやる。


「お言葉ですが、陛下」

「貴様ぁ!歯向かうつもりか!」

 駆け寄ろうとするダグラスを、ダラスティアが止める。


「まぁ、よい。最期ではないか。聞いてやろう」

「ならば……!」

 と、何か言おうとした時だ。


「やめてください!」

「!?」

 背後から声が飛ぶ。聞き間違えるはずもない、その声は……


「やめて!ダラスティアさま!お姉ちゃんを怒らないでください!」

 ミランダだ……


「ほう?貴様、ワシに命令する気か?」

「命令じゃないです!お願いです!」

 そしてミランダは、私の隣に来て土下座をする。


「お姉ちゃんの責任は、あたしの責任です!どうか……どうかお姉ちゃんを許してください!」

「何ぃ!?貴様ァ!皇帝陛下に指図するつもりかぁ!」

 殴りかかろうとするダグラスに、私は立ち上がってかばおうと両手を広げる。


「やめろ!罪を負うべきは私だ!」

「黙れ!虫の言葉など聞けるか!どけぇ!」

 今度は私の首を絞めようとする。それを察したミランダは……


「違います!すべてあたしがお姉ちゃんにやれって言ったんです!」

「……?!」

 瞳孔が開く。まるで口がすぼまったかのように、瞳が小さくなる。


「あたしが、人が傷付くのが嫌だから、お姉ちゃんに言ったんです。どうにかして峰打ちにしてくれって……だから、お姉ちゃんは何も悪くないです……」

「な、何を言ってるんだ……ち、違います……ミランダは」

「お願いです!ダラスティアさま!お姉ちゃんを許してください!お姉ちゃんは絶対にダラスティアさまを裏切ったりしません!」

「ち、違う……違う!これは私が」

 だが、私が言う前にダグラスは動いていた。まるで弾丸のように腕が飛び、土下座しているミランダを殴り飛ばしていた。


「貴様ああああ!皇帝陛下とカタリーナの仲を引き裂こうとは何事だあああ!」

 何度も、何度も、何度も殴る。

 その様を、私は放心するように見るしかなかった。……見る、しかなかった。

 今思えば、この時に何か動いていれば、また運命は変わっていたのかも知れない。


「ああうっ……!」

 口や鼻から血を出し、その場に大の字に倒れ込むミランダ。その体からは、すでに生気は見えていない。


「こいつを特別牢獄に連れて行け!皇帝陛下の意思に背いたことの恐怖を、骨の髄まで叩き込んでやれぇ!」

 そのまま連れ出すダグラス。


「フン。あのようなバカが我が元にいたとはな……貴様も姉として、愚かとは思わないのか?」

「……陛下、違います。私は」

「もういい、下がれ!」

 その声に、私は部屋を出るしかなかった。

 ……どうしてこの時、ダラスティアに反旗を翻すことが出来なかったのだろう。どうしてこの時、ミランダをかばえなかったのだろう。


 ……どうして……




 洞窟の中の特別牢獄に降りてくると、そこにミランダはいた。

 『人間』と呼べる姿ではない。鎖で両手両足を縛られ、X字の体勢で固定されている。


「お姉ちゃん……」

「何故、私をかばった」

 その問いに、首を静かに横に振った。


「かばってなんかないよ……これはあたしがあたしのためにやったんだから」

「嘘をつくな!」

 大声を上げると、ミランダはこちらを見つめた。


「お前は私が追い詰められるのが耐えられなくなって、それで私の前に現れたんだろう!?なんでそんなことをしたんだ!私が峰打ちだけで済ませたのは本当だ!お前に命令されたからじゃない!」

「じゃあなんでお姉ちゃんは峰打ちだけで済ませたの!?」

「!?」

 ぐうの音も出なかった。核心を突かれたからだ。


「わかってるよ。お姉ちゃんがやさしい人だって。わかってるよ。お姉ちゃんは他の人のために命をかけれるような人だって……!もしそれがさっきの人たちや、ダラスティア様に知られたら結局同じだよ……」

「……ミランダ」

「……それに、お姉ちゃんのほうが、戦えないあたしより需要ありそうだしね」

 と、にこにこと笑顔交じりで言った。


「……それで、お姉ちゃん。あたしっていつになったら出られる?」

「……」

 あぁ、どうして……


 どうしてこんな言葉を、姉である私が妹に言わないといけないのだろう。


「……」


「……お前の公開処刑が……1週間後に決まった」

次回でカタリーナの回想は終わりです。

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