肉じゃが、真実、激昂。
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メリアがやって来たのは、ネロの家がある島だった。
「……め、メリア君……ここで何を……」
崖の下を見ると、紫色の海は凪のように動かない。再び殴り書くメリア。
[メルセデス 波を立たせるほどの風 起こせる?]
「……!」
何か閃いた様子。
「出来るー。てかほかならぬメリアさんの頼みだもん。聞かなきゃ嘘だよね」
「でも、波を立たせてどうするでござるか?」
[大丈夫、私を信じて]
早速4人は調理に取り掛かる。
材料は皮を剥いてあるので、後は乱切りに切るのみ。とはいえ、せっかく皮を剥いたのにここで失敗するわけにはいかない。
「……弓なら、得意なのだが」
と言いつつ、マキシムはニンジンを器用に乱切りにしていく。
「王都にいたころを、思い出しますな」
ネロはジャガイモ。アンナは牛肉を切り、準備を整える。
鍋の中で調味料を入れ、牛肉を炒める。……醤油の香ばしさ、そして肉が焼ける独特なにおいが、天に昇って風に乗る。
メリアは汗を垂らしながら、小さな体をあくせく動かす。肉は炒めて味を付けて、自分の汗は入らないように。
ヒルダのために、がんばる。それだけで、メリアの思いとしては十分だった。
「おい!お前ら!」
対岸から声が聞こえる。……臣従派の魔族の声だ。
[いいよ 無視して どうせこっちには来られない、もし来るにしても……]
「またカイ様に断りを入れず何をやっているんだ!」
大声が聞こえる。
「……え~!?聞こえないでござる~!?」
アンナの挑発。……わかりやすく猿の魔族の象徴である尻を振りながら。
「貴様……オレをバカにする気か!」
「カイ様と違って器も小さいし、やることも卑劣だわ!」
口々に声を上げる一行。
「……貴様らが、それを言うのか?」
マキシムがさらに挑発。
「えぇ、まったくもって言う通りですな、マキシム。人に色々やらせておいて、自分は王様気取りで家に引きこもり。一体器が小さいのはどちらですかな?」
時間稼ぎをしている間に、メリアは牛肉に火が十分に通ったのを確認し、ジャガイモとニンジンを入れる。……これは肉じゃがを作っている。
あとは煮立たせる……煮立た……せる……?
大体、どのくらい煮ればいいんだろう。その部分は紙に書かれていなかった。
「貴様!話を聞けぇ!」
魔族の男が、弓を構え、メリアを狙う。
「!?メリア君!」
それを素早い動きで一陣の風が掴む。
「本当、野暮ばかりでござるな!」
「ええい、お前らも手伝え!家から弓持って……こ……!?」
その時、ネロの家の崖下の海の色が変わった。
青かった海の色は、徐々に毒々しい紫色へと変わっていく。それに混じり、死んだ魚も波に乗って、徐々に流されてくる。
「うおおおおおおおおお!!」
崖下のメルセデスが、ものすごい勢いで羽ばたいている。それにより風が起き、凪いでいた海に波を立たせ、海に山を作る。……正直翼がもげそうだ。
「鳥扱いが……雑すぎんよーーー!!」
「……な、なんだよ、これ……」
「カイ様の……毒!?一体お前たちはどうやって持ち出し」
「持ちだした?フハハハハハ!持ちだしたなら、そもそもこんな場所では使わず、カイの家の近くの海に撒くはずですが?」
毒の海だけでは正直展開に弱いが、それと共に流されてくる毒で力尽きた魚が、魔族たちに動揺を与える。
その隙に、アンナとマキシムはネロの家に入る。そこから洞窟を通って、カイの家を急襲する算段だ。
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「……カイ様……いや、カイ。これはどういうことだ」
馬の頭の魔族が、カイを鋭くにらむ。
「ま、まま、待ってくれ……こ、これはっ違うんだ……!」
「何が違うの!?じゃああの死んだ魚はなんて説明するの!?」
「そ、それは……そ、そうだ!こいつらが!こいつらが家から持ちだしたんだ!オレが家を留守にしてる間に、こっそり!」
慌てながらも、必死に弁明するカイ。
「……それはおかしいな。お前の家から、こういったものが出てきたぞ」
マキシムが何かを取り出す。それは、あの海のように紫色に染まった水だった。
「……毒薬のようなものを、水に入れたらこうなった。それだけだ」
「ち、違う!それが毒であるって証拠は何にも……」
「……なら、飲んでみるか。俺が死ねば、本当の毒であるとわかるからな」
それは困る。と、ヒルダが慌てて止める。
「……冗談だ」
さらに……
「カイ様、昨日の魚、おいしかったですね」
家の中から、コーンまで出てきた。……どうやらこいつは、とことん長いものに巻かれたがる性分らしい。
「肉もありますよ~?鶏肉に豚肉に牛肉なんでもござれ。調味料こそないですけどね」
「テメェコーン!裏切る気かぁ!」
「ひいぃ!ごめんなさぁい!」
すぐに隠れるコーン。だが、カイは自分自身で口を滑らせたことに、まだ気付いていない。
「{テメェ裏切る気か}。つまり、肉が家の中にあることは認めるのね?」
「……!!?」
ヒルダの言葉でようやく気付くと、カイは口を開け、ガクガクと口が震えだした。
『もう大丈夫』と、アンナに借りていた肩から離れる。
「……メルセデスから聞いたわ。小さなエビくらいしか、ここのところ食べてないって。きっと村の人もそうなんでしょうね。それなのに、あんたは美味しいものを食べられるだけ食べてる。違う?」
「か、カイ……どうなんだ!」
「カイ……アンタ……!」
追い込まれたカイ。すると……
「……へッヘッヘッ」
「ヒィ~~~ヤッハッハッハァ~~~!」
けたたましく笑った。……どうやら、もう逃げられないと思い……開き直ったらしい。
「何が悪いんだよ!オレ様が王になるために、どんな犠牲もいとう必要がねぇってだけだ!むしろオレ様のおかげで{飢え死ねる}のに、テメェらはどうして歓喜しねぇんだよ!」
その目は真っ赤に血走り、焦点が定まらなくなっている。憤怒、傲慢、そして貪欲。すべてが入り混じった、見るのも汚らわしい瞳。……闇。そのものと言って差し支えない。
「あぁ~そうさ!オレ様は蛇の下半身使って崖上ることも下ることも簡単だから、あいつらが極秘に使ってる釣り場に毒撒いたんだよ!いい加減オレ様に従わねぇ奴らが目障りだったからなぁ!」
ギロリ。とヒルダをにらみつける。
「そう、例えば……テメェとかだあああ!!」
ものすごい速度で尻尾を伸ばしてくるカイ。
「ヒルダ殿!」
駆け寄るアンナ。しかし間に合わない。
カイの尻尾は、まるでソフトクリームのように幾重にもヒルダに巻き付く……
「ヒャッヒャッヒャッ!あんだけオレ様に痛めつけられたんだ!わざわざ死にに来ることもなかった……」
……はず、だった。
「……あたし、大嫌いなの……」
ギリギリギリと、広がりだす尻尾。
「!?」
「食べ物を粗末にする人、料理を作る人をバカにする人……」
広がった尻尾から、ヒルダの顔が見えると……
「ひぃ!?」
犬の毛が逆立った四肢、大きくとんがった犬耳、鋭く生えた牙、そして怒りで真っ赤に染まった瞳。
「ひ、ヒルダ殿……あの時と……!?」
その威圧感は、周囲の魔族たちを徐々に後ずさりさせるほどだった。
「て、て、テメェ……何を……!?」
「そして……他の人を見て見ぬふりをして……自分だけっ……おいしい思いをする奴が……反吐が出るほど嫌い……!」
そのまま尻尾の間から飛び出す。
「うおオオォォォォォ!」
そしてヒルダは、人間のような、獣のような咆哮を上げた。
「ぬ、あっああっ……!?」
カイは蛇に睨まれた蛙……いや、犬に睨まれた蛇。石にでもされたかのように、一歩も動けない。
「オオオオオオ……」
高く跳躍し、右腕を構えるヒルダ。すると右腕に、多くの液体の鉄が集まり……
「ウオオアアァァァ!!」
ドウン……!!
砂ぼこりが晴れると、カイはその場に仰向けに倒れ伏していた。
「……なんという……力だ……!?」
ヒルダの右腕にまとわりついた液状の鉄はきれいに消え、逆立った毛は元通りに戻った。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
肩で息をする。異常なまでの疲労感が襲い掛かり、ヒルダは……
……暗転。
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「ねぇ、真昼。真昼は進路どうすんの?」
同級生の声がする。
「あたし?あたしは……多分進学しないわ」
教科書、ノート、筆記用具、料理雑誌……荷物をそそくさとまとめる。今日も家に帰ったら、母の手伝いだ。
部活なんてやる時間はないし、友人と買い食いしながら下校。なんて女子高生らしいことは何もしていない。と言うか出来ない。
「やっぱお母さんの手伝い?」
「まぁね」
通学用のバッグにそれを入れ、そのまま帰ろうと椅子から立ち上がる。
「じゃ、また明日ね」
「うん、また明日!」
考えてみれば、元の世界では孤独だった。自分に接してくれる人と言えば、母親のみだった。
……でも、それでよかった。……それが、よかった。
そう言えば、母は今何をしているんだろう。自分がいなくなって……
母は、自分に多くの料理を教えてくれた。大恩人だ。
……悲しんでいるだろうか。それとも、意外と強く生きているだろうか?
……会いたいな。久しぶりに。……戻りたい、な。元の世界に。
そして、光へ手を伸ばす……
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文字数的に少ないですが、キリがいいので今回はここまで。
リオ村編はもう少し続きます。




