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蜂蜜、みりん、照り焼き。

思ったより回想が長引き、今回でリオ村に突入できませんでした(滝汗

そのためまた前回の後書きを改稿しています。本当申し訳ありません……

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「……ポテトサラダ、そして鶏の照り焼き……だと?」

 手にした通信機のようなものを持って話すカタリーナ。


「あぁ、あのヒルダって女、相当なやり手だ。あいつのおかげでヴァーゴ村の士気は最高潮ってとこだ」

 通話先の男は、何かをかじりながら言う。


「待て、調味料は何もなかったはず。ポテトサラダも鶏の照り焼きも、どう作ったんだ?」

「何もないから作ったんだよ。塩は海水から、マヨネーズはリオ村の奴らが持ってきた酢から。照り焼きは同じようにリオ村の奴らが持ってきた日本酒を、みりんに代用してな」

 カタリーナは驚いていた。すでに十二分なほど、ヴァーゴ村の住民には絶望を味合わせていたはず。だが、まだ立ち上がれるというのか?まだ……心の灯は……消えないというのか?


「……こちらはあと3日もすれば、{そちら}に到着する」

「おいおい、随分な遅刻じゃねぇか。何してたよ」

「通りかかった村で……な。あまりに激しく抵抗するものだから……」


「全員殺した」

 カタリーナの背後には、その場に倒れ込んだ魔族たちが。その魔族たちの住む場所は、もはや村とは言えないような洞窟だった。

 魔族の数も、6人ほどしかいない。


「そこまでするかよお前」

「邪魔をするなら容赦はしないだけだ。一路王都に戻り、部隊を編成し終えてからそちらに向かうつもりだ。異存は?」

 通話先はフン、と軽く鼻を鳴らした後、


「ねぇよ。ところで、いいニュースと悪いニュースがあるんだが。どうするよ?」

「……いいニュースから聞こう」

「いいニュースは、抵抗勢力のリオ村、今は敵対派と臣従派に分かれて小競り合いをしてるらしい。こりゃほっといても瓦解すんじゃねぇか?」

 それを聞いた後、目を閉じてしばらく黙り込むカタリーナ。……おおよそ『悪いニュース』がどんなものかわかった様子だ。


「……お前にゃバレてるかも知れねぇけど、悪いニュースはそのリオ村にヒルダが向かった。あいつ、メシの力で本当にこの世界を変える気らしいぜ」

「女1人の力は限られているものだ。放っておいていいだろう」

 洞窟を出るカタリーナ。


「まぁそうかも知れねぇが……あいつ意外とバカだぞ。本当にそれでこの世界ごと変えようとしてるわけだからよ」

「そんなもので変えられるような簡単な世界なら、ミランダは死んでいない」

「でも、期待してるんだろ?」

 その問いには、何も答えなかった。


「……で?どうするよ。あいつがリオ村からここまで戻ってくるって可能性、高くもなけりゃ低くもなさそうだぜ?」

「その前にスコーピオ村にも寄るつもりだ。そこで野菜を接収する。また追って連絡する」


「……抜かるなよ。{クロード}」


 そうとだけ言って、カタリーナは通信を切った。


「……」

 そしてそのまま、背後に目をやる。倒れていた魔族からは、何故か血は出ていない。

 ……どうやら、峰打ちのようだ。




「ヒルダ……何故その魔族は、この期に及んで抵抗できる?何故何も失わない?何故……」


 ――お姉ちゃん!


「私と、どこからが違う……!?」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ・

 ・

 ・

 時は、3日前にさかのぼる。


「3日待って」

「……3日?」

 洞窟の中で、ネロに向かって人差し指、中指、薬指を立てる。


「えぇ。あたしはあんたたちを助けだすつもりでいる。だけど、そのために少しだけ時間が欲しい」

「ヒルダさん……」

 自分でも、割と無茶をしていると思っている。それを案じての、アーデルの言葉なのだろう。

 でも、乗り掛かった舟を降りることは、自分には出来ない。

 ただ、今助けに行くとなると、またこの村は食事に活を見いだせない状態に逆戻りだ。なら、自分が少しでも色々と教えてから向かいたい。


「……わかりました。ヒルダちゃんが助けに来ることを信じましょう。その代わり、何らかの条件は飲もうと思います。何かありますかな?」

「なら……」




 村に戻ったあと、早速ヒルダは、ツボの中に入った醤油と酢を眺めた。改めて醤油と酢をそれぞれかきまぜる。どちらもきれいな色で、吸い込まれそうだ。


「……」

 それぞれ4つのツボに入ってあり、これなら結構長持ちしそうだ。ツボは全部で9個あり、醤油入りが4個、酢入りが4個……

 ん?9個?余った1個のツボの中には何が……?


「うぅ~……」

 そのツボを眺めていたビッケの足が、おぼつかなくなっている……?


「ビッケ?」

「な……なんなのだ……?フラフラってしてきて……」

 よく見ると、顔がほんのり紅潮している……あれ?もしかして……ツボの中を覗き込むと、香りが漂ってくる。


「これ……お酒だわ」

「お酒ぇ……?」

 そう言っているうちに、ビッケはついに尻もちをついてしまった。……においだけで酔ったのか……


「おぉっと、大丈夫かビッケさん」

「ハガー、水持ってきてあげて」

「うははぁ~……目が回るのだぁ~」

 おそらく、日本酒だろう。酢か醤油を作っている間に余った酒を、こちらまで持ってきていたようだ。

 通常、料理酒は塩味があるのだが、日本酒でもアルコールを飛ばせば十分に代用が利く。


「……ライザ。ちょっと聞きたいんだけど、あなたってハチよね?」

「うむ、キラービーであるからな。……それがどうしたのじゃ?」

 あることを耳打ちする。


「一応できなくはないが……どれほどの量を採れようかワラワにもわからぬぞ」

「それでもいいわ。とりあえず採ってきてくれれば」

「承知した。ヒルダ氏の期待に応えてみせよう」


 その間に、ヒルダは村の人々に塩の作り方、黒糖の作り方、油の作り方を教えた。

 サトウキビもゴマも、原料はある。作り手が足りていれば、数を作れるはずだ。

 その際に、錬鉄の魔法で様々なものを作り出す。

 鍋、フライパン、フライ返し、おたまなど……その使い方も教える必要があった。

 そしてそれを作り上げるのに重要だった魔族が……


「次、こっちもお願い!」

「なんかお前!オレ様に!対する!魔族扱いが!荒く!ないか!?」

「しょうがないじゃない!鉄を伸ばせる役割を持てるのがあんたしかいないんだから!……感謝してるんだからね」

 レーヴェの額から汗が飛ぶ。振り下ろされるハンマーは、的確に単なる『鉄』を実用性のある『鉄』に変えていく。


「感謝!してるだぁ!?本当に!そうなら!もっと!自分で!何とか!しやがれ!」

「1人で出来ることなんて限られてるの!」




 そしてその日の夜……


「ヒルダ氏!」

 ライザが帰ってきた。


「お帰りライザ!あ、結構取ってきてくれたのね」

「キラービーは本来、こう言ったものを集めるのは苦手なのじゃが……」

 ツボの中に、粘り気の強い液状のものが入っている。ペロっと舐める。

 舌に乗せた際のほのかな甘み、そして口の中を通っていく独特の香り。


 ……そう、蜂蜜だ。


「しかしこの蜂蜜を、何に使うのじゃ?」

「作るの。新しい調味料をね」

 するとヒルダは、おもむろに日本酒を取り出し、ボウルに入れる。


「なんだなんだ?」

「ヒルダ、また何か作るのか?」

 どこからか、集まってくる魔族たち。


「日本酒が3ほどの量に対して、はちみつは1にも満たないほどくらいでいいわ。これを混ぜ合わせて……なめてみて、ライザ」

 ぺろりと一口。


「これは……みりんか?」

「そう。本物のみりんに比べてコクや深みは少ないけど、代用には十分だわ」

 そのみりんもどきに、黒糖と醤油を加え、よく混ぜ合わせる。ここで一度味見。……うん。十分な出来だ。


「ハガー、ジャン、準備はできた?」

「おう!バッチリ火は起きてるぞ!」

「こっちもだ。だが、なんで皮の部分を突かないといけなかったんだ?」

 鶏肉の胸肉の部分がある。これはジャンが狩ってきたものだ。


「味の染みこみをよくするためと、余分な脂を取り出すためよ」

 そして熱したフライパンに、そのままの状態で皮目から乗せ、そのままじっと、4分ほど焼く。焼いている間にフライ返しで肉を押さえ、あふれ出る油を紙でふき取る。


「鶏肉の皮は油の塊のようなもの、だから油をひかずと……も!」

 裏返すと、皮の部分はキツネ色に染まっていた。ぱちぱちと皮の表面で油が舞い踊る。


「こんなふうに、きれいに焼き目が出来るわ」

 歓声が上がり、輝く目でフライパンの中を覗き込む。


「あ、あの……焼きにくいんだけど……」

 ……離れる。


 裏返した状態で3分ほど焼き、先ほど混ぜ合わせたタレを入れると、フライパンの中で、甘美な響きが広がるようだった。

 同時に醤油の香ばしい香りが辺り一面に広がっていく。


「お、オイラ……これだけでメシが食えそうだぁ……」

「こ、これはたまらん……腹が減って仕方なくなるのじゃ……」

 徐々にとろみが出てくるタレを、今度は回しかけるように作り上げたスプーンで回しかけていく。

 ……徐々にタレが少なくなってきたので、石を火に入れ火を弱める。

 タレをかける動きを速めると、皮目にタレが留まるようになった。これで完成だ。フライパンから鶏肉を取り出し、食べやすい大きさに切り分け、皿に飾ったその肉の上に、さらにタレをかけていく。

 皮目に色のついた鶏肉は、そのタレを身にまとって……


「鶏の照り焼きの、完成よ!さぁ、食べてみて!」

 ヒルダはそれを前に出すと、まずビッケ、ハガー、ヒルダが味見。


「うんめぇ~~~!」

「タレの味が本当にすんごいのだ!白いご飯が欲しくなるのだ~!」

「なんと美味な……本当にヒルダ殿には驚かされる……!」

 そして当然のように群がる魔族たち。全部食べられないうちに、自分の取り分も取る。

 ……うん。我ながらおいしい。


「一個じゃ足りんよ~!」

「ヒルダさん!もう一個作って~!」

 周りの魔族から声が飛ぶ。


「そういうと思って、実はもうひとつ鶏肉を用意してあるわよ!」

「うおおおおおお!!」

 魔族たちは、歓喜の雄たけびを上げた。


「……」

 その様子を遠くから見るジャンは、ニコッと笑った。

 いや、


 ……ニヤリと笑った。


(なるほどな)


「……ジャン?食べないの?」

「……あぁ、食べるぜ」

 ヒルダの言葉にジャンは、ゆっくりと歩み寄った。

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