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なな

更新遅くなりました!またちょこちょこあげていきます!

「本当にこれで……よかったの?」


 馬車に乗りこもうとするルチアの背中にアンヌが声をかける。

 振り返ったルチアを見上げる彼女の瞳は、悩ましげに揺れていた。

 ルチアはいつも以上に能天気な声で明るく答える。

 

「もっちろん! ズィーカの馬を間近で見れるなんて、嬉しすぎて悶え死にそうよ」


 それでも、アンヌの顔は曇ったままだ。彼女はなにか言いたげに、じっとルチアを見ている。

 だが、ルチアはそれには気づかない振りをした。


「ほら、私はそろそろ行かないと! あのお迎えのおばさん、すっごい怖そうだし」


ルチアは先に馬車に乗り込んでいる女性をちらりと見ながら言う。


 ご丁寧なことに、ズィーカ公爵家は、わざわざ迎えの馬車を寄こしてきた。これから丸3日もかかる馬車旅に同乗することになるのが彼女、トゥーラだった。どうやらトゥーラはルチアの世話係をつとめることになる人らしいのだが……表情筋がまったく機能してないのでは? と思うほどに無表情で、はっきり言って怖い。ものすこぐ有能そうなところも、ルチアは苦手だった。


(同い年くらいの気の合う子がよかったなぁ)


 もちろん、そんな本音はとても口にはできなたかったが。ルチアは小さく息を吐いた。


「それじゃ、みんな元気でね……」


 家族に手を振り、今度こそ馬車に乗り込もうするルチアのドレスの裾をアンヌがひいた。ルチアは足元のバランスを崩して転びそうになるが、持ち前の運動神経でなんとかこらえた。


「ちょっと、アンヌ。これでも嫁入りを控えた身なんだから気をつけてよ」


 アンヌは意を決したという真剣な顔で口を開いた。


「ねぇ、ルチア。もしかして、あなた私達のために……」

「あ。そーだ、アンヌ。私のことを大好きなビクトールがきっとすごーく落ち込むと思うのよ」

「えっ……」

「だからさ慰めてあげてね。頼んだわよ!」


 そう言い置くと、ルチアはもう振り返らなかった。

 そして、馬車は出発する。


(幸せになってよー! アンヌ、ビクトール)


 もう涙は出なかった。これでよかったのだと、自信を持って思える。そんな楽観的で能天気な自分がルチアは嫌いではない。


(幸せな結婚とひきかえにしたんだから、ズィーカの馬をめいいっぱい愛でてやるー!)



 馬車の旅、半日経過。ルチアは早くも退屈していた。さすが公爵家という立派な馬車で、乗り心地も抜群なのだが……いかんせん遅い。

 乗馬が得意なルチアからすると、馬車のメリットがさっぱりわからない。


(騎馬のが早いし、気持ちいいのになぁ)


 そう思うものの、目の前でむっつりと押し黙っているトゥーラにそんなことは言えない。「乗馬をする令嬢なんて、公爵にはふさわしくない」とそこらへんに投げ捨てられそうだ。

 とは言え、トゥーラとは友好的な関係を築いておきたい。長い付き合いになることは間違いないのだから。

 よしっと、気合いを入れてルチアはトゥーラに微笑みかけた。


「トゥーラさん……と呼んでいいかしら?」


 トゥーラは無表情のまま、ちらりとルチアに視線を向けた。


「トゥーラで結構です、使用人ですから。なにか?」


 用がないなら話しかけるなと言わんばかりだが、ルチアはひるまず頑張った。


「少しお話しませんか? 末永くお世話になるわけだし、仲良くなりたいなぁって。それに、馬車の旅って退屈しませんか? 景色もあんまり見えないし」


 貴人が乗るような馬車には日除けがついているのだが、ルチアはこれが嫌いだ。風を感じられないし、せっかくの景色を楽しめない。


「景色なんて見てどうするのです?」


 意地悪でもなんでもなく、彼女は本気でそう思っているらしい。心底不思議そうな顔で言い返されてしまった。


「どうするって……山とか海とか古い城跡とか見えると楽しくないですか?」

「ないですね、私は」

「そ、そう……」


(うぅ、やっぱり気が合わない)


「それから、ひとつ指摘させていただくと……末永いお付き合いになるかどうかはオルランド様次第です」

「へ?」

「ルチア様は現時点では、奥方候補。正式に奥方となるかどうかはオルランド様が決めることです」

「あ……やっぱり、そういう感じなの?」

「はい、そういう感じでございます」


 良家のご令嬢がことごとく振られているという話はたしかに聞いてはいた。が、わざわざ迎えの馬車もきたし、丸3日もかけてズィーカ領まで行くんだし……まぁ追い返されるってことはないだろうとルチアはタカをくくっていたのだが。


「その〜万が一、公爵様に気に入られななかった場合、私はどうなるんでしょう?」

「実家にお帰りいただくことになりますね」

「いや、待って、待って! それは困る、非常にまずい事態なのよ」


 ルチアは馬車のなかで思わず立ち上がってしまい、トゥーラにちっと舌打ちされた。表情筋が動かないのではと心配していたが、どうやら不快の感情はしっかり表す主義らしい。


(私が出戻ってきたりなんかしたら、アンヌとビクトールが結婚しにくいじゃないの! ていうか、私も邪魔者な小姑になんてなりたくないっ)


 トゥーラは情け容赦ない冷たい声で言い放つ。


「私に言われても困ります。オルランド様に訴えてくださいませ」













 


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