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お前に興味はない? 公爵様、その嘘、特殊能力もちの私には通用しません!  作者: 一ノ瀬千景
ありがた迷惑でしかなかった特殊能力
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 ほんの少し間が空いたが、神獣は答えてくれた。


《……シン様と呼ぶ約束だったろうが》


 ルチアは天井を仰ぎ、姿の見えない彼をにらんだ。


「様づけされたいなら、それに見合う行動を取ってよねっ」


《偉大な神の力を授けてやっただろう》


「いらなかったわよ、こんなわけわかんない変な能力! はっきり言わせてもらうけどね、余計なお世話以外のなにものでもないですからー」


 余計なお世話。この言葉がこれほどしっくりくることってあるだろうか。欲しくなかった、嘘がわかる能力なんて。


 そんなものなければ、ビクトールの心の声なんて知らないままでいれば……ルチアは輝かしい未来を手にすることができたはずなのに。


《そうかのぉ? 他の女を愛しているくせにそれを隠したまま結婚するような男と、本当に幸せになれるか》


「ビクトールを悪く言わないで! ビクトールは悪くないもん」


《では、婚約者のいる男をたぶらかした女のほうが悪いのかもな。魔性の女ってやつじゃな》


「アンヌはもっと悪くない!」


 ビクトールもアンヌも悪くない。むしろ……きっとふたりはルチアを傷つけないように、静かに恋を終わらせようとしていたのだろう。互いに深く思い合っているのにもかかわらず。


(もし悪い人間がいるとすれば、それはきっと私だ)


 ふたりの気持ちを知ろうともせず、能天気にへらへらと笑っていた。そんな私をずっとそばで見てきたアンヌは、どれほど辛かったことだろうか。


 自分のほうが先に生まれていたら……。そんなふうに思う時も、きっとあったことだろう。  


「ねぇ、シンちゃん。潔く身をひくべきと思うこの気持ちは……偽善ってやつかなぁ?」


 神獣は答えない。


「それとも、私、心のどこかではふたりを恨んでるのかな? 裏切者って思ってるのかな……」


 ルチアは視線を落とした。よく磨かれた木目の床に、彼女の落とした涙が滲んでいく。


「自分でも自分の感情がよくわからないの。ねぇ、シンちゃん。私の嘘は見抜いてくれないの?」


《ふむ……仕様変更してやろうか?》


 ルチアは少し考えてから、首を横に振った。


「やっぱりいい。こういうのは、自分で決めることだよね」


 姿の見えない神獣がふっと微笑んだような気がした。


《ひとつ教えてやろう。誰かのためにする行為。それは偽善とは言わんぞ。まごうことなき善じゃ》


 ルチアは泣き笑いを浮かべながら言った。


「シンちゃん、いいこと言うじゃん」


 そうして涙をぬぐって、前を向いた。


 ビクトールとの未来はなくなった。だけど、ルチアの前に今、新しい未来への扉が開いたのだ。

 この道は、きっと幸せに繋がっているはず。それを信じて前に進もう。ルチアはそう心に誓った。


 それから数日後。

 ルチアは夕食の鴨肉のソテーを味わいつつも、頭をフル回転させて考えていた。


(う〜ん。身をひくと決めたものの、どう切り出したらいいのか悩ましいなぁ)


 ビクトールとアンヌが両思いであることを両親にそのまま伝えたら、アンヌが悪者のようにならないだろうか。先にビクトールとアンヌと三人で話し合ってみるのがいいだろうか。


 ルチアはビクトールとの婚約をどう破棄するかで頭がいっぱいだったので、家族の会話は完全に上の空でちっとも頭に入ってきていなかった。


「ちょっとルチア。ちゃんと聞いてるの?」


 母親にそうたしなめられても、「ごめん、全然聞いてなかった」と正直に白状するしかない。


「まったく。ルチアもちゃんと聞いて。とっても大事な話よ」


 母親の言葉を引き取って、話を始めたのは父親だった。なんだか深刻そうな顔をしているので、大事な話というのは嘘じゃないのだろう。


(ていうか、嘘だったらわかるんだった……私には)


 この家は使用人も含めて正直者しかいないので、ルチアの特殊能力は今のところあまり発動していなかった。そのせいで、ついつい忘れがちになるのだ。 


「実はなぁ……アンヌに縁談の話がきたんだ。聞いて驚くなよ、相手はまさかの公爵様だ! ズィーカ領をおさめる死神将軍といえば、ふたりもその名くらいは知ってるだろう?」


 死神将軍。政治やら情勢やらにうといルチアでもさすがにその名は知っている。


 彼はいわば、この国の英雄だ。百戦錬磨の戦の天才。一年前、長年の仇敵である隣国ディールドとの六年にも及んだ大戦を勝利に導き、その功績から最高位の公爵位を得た。


 死神将軍の通り名は、戦場でディールド側の兵士達にささやかれ広まったものだ。


 現在はようやく戦場を離れ、国境沿いの前線の地を含む広大なズィーカ領を治めている。


 はっきり言えば、ウィスリーズ子爵家とは到底釣り合わない、雲の上のような存在だった。




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