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お前に興味はない? 公爵様、その嘘、特殊能力もちの私には通用しません!  作者: 一ノ瀬千景
ありがた迷惑でしかなかった特殊能力
2/8

いち

ほのぼのコメディです

 その出会いは、本当になんの前触れもなく突然に訪れた。


 いつも通り、ひとりで趣味の遠駆けに出かけたルチアは、森の中でウサギとり用の罠にかかっている、とがり耳の動物に遭遇した。

 毛はボロボロに汚れ、痩せ細っていて、キツネなのか野犬なのか……判別不可能だった。


 罠にかかって数日経った状態なのか、ボロボロになってから罠にかかったのか、それはわからない。


(まぁ……罠を仕掛けた人も、こんな痩せ細った子じゃどうにもならないって思うよね)


 あまりのボロボロ具合を哀れに思ったルチアは、彼の前にしゃがみこみ罠を外してやった。そして、愛馬用に用意してあった餌を少し分けてやった。


「うむ、これはうまい。久しぶりの食事は格別だな」


(ん? いまの声どこから?)


 ルチアはキョロキョロと周囲を見回す。ーー誰もいない。気のせいだったようだ。


「気のせいじゃないぞ。わしじゃ、わし」


 今度は上に視線を向けた。木の上に誰かが隠れているのかと思ったからだ。だが、木々が風に揺れているだけで、人の気配はない。


「目の前におるだろうが。そなたが助けた神獣だ」


 シンジュウがなにかはわからなかったが、ルチアはようやく聞こえてくる声が目の前の動物から発せられていることに気がついた。


「えーっと……ワンちゃん? それともキツネさん? 喋れるの?」


 どう躾けたら、人間の言葉を話せるようになるのだろうか。さっぱりわからないが、とにもかくにも目の前のこの子は実際に喋っているのだ。


「犬でもキツネでもない。わしは神獣、神の遣いぞ」

「カミ? 髪? 紙?」

「神だ、神様! まったくとぼけた娘だな。まぁ、よい。助けてもらった礼をしてやる」

「いや……その、お気になさらず…」


 ルチアは一刻も早くこの場を離れたくなってきた。


 自分を神の遣いと名乗り、喋る犬。どう考えても、おかしい。自分は夢か幻覚のどちらかを見ているのだろう。


(かなりやばいよね、正気に戻らなきゃ)


「望む力を授けよう。どんな力を欲するか?」

「いやいや……力とかそんな突然言われても」

「よし、わかった。そなたは頭の回転が鈍くてトロい。それではすぐ人に騙されて、困ることも多いだろう。人の嘘がわかる能力をやる」


(こんな状況で、素早く頭を回転させられる人なんている? 絶対いないよ)


「いや、本当に結構ですので……」

「遠慮するな。というか、もう授けた。胸に印がついただろう。それが神の力の証じゃ」


 ルチアは慌てて自身の胸元に視線を落とす。左胸の上あたりに、アザのようなものができていた。よく見ると、犬の肉球のような形をしている。


(無駄なかわいさとか、いらないし!)


「誰かが嘘をついたときは、わしがそいつの本音を教えてやる。そうそう、注意点がひとつ。誰かに嘘をつかれると、その胸の印が焼かれるように痛くなる。気をつけるのじゃ」


(お礼って言ったくせに、こっちが痛みをともなうのかい!)


 勝手なことだけ言って、神獣とやらは森の奥に脱兎のごとく走り去っていた。


「な、なんだったの?」


 森の中でおかしな幻覚を見たのだ。そう信じて、その日は胸のアザを見ないようにして眠ってしまった。


 翌朝。着替えのため鏡台の前に立ったとき、すっかり忘れていた胸の肉球に気がついた。


(人の嘘がわかる力……だったっけ)


 半信半疑のままに、屋敷の女官頭のミーアにたずねてみた。


「ねぇ、ミーア。私の刺繍って上手かしら」

「下手ですね。誰がどう見ても、下手ですよ」


 肉球は痛くならないし、神獣の声とやらも聞こえてこない。 

 質問相手を間違えたようだ。ミーアは正直者だ。忖度は一切してくれない。


 人の嘘を誘うっていうのは、案外難しいものなんだなとルチアは思った。ちょうどいい相手もちょうどいい質問もまったく思いつかなかった。


(というか、真面目に考えることじゃないか。あれは幻覚だわ。夢、幻ってやつよ)










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