79:尋問
レイはアルと共に館に戻っていた。連れて行かれたのは地下の地下。
「牢屋・・・、いや、拷問部屋?」
物騒な事を呟く緊張感の無いレイにアルは冷ややかな目を向けたが、レイは笑みを返して来た。
「結構強い結界が張ってあるけど、何か聞きたい事でも?」
「ここは拘束部屋だ。2人の処遇が決まるまで自由を制限させてもらう」
その言葉にレイは一瞬面白がるような表情を浮かべた。
「このくらいなら、一瞬で出て行けるけど?」
「逃げるのなら逃げろ」
それだけ言うとアルは扉に鍵をかけ、部屋を出て行った。
「あはは、嫌われちゃったかな?」
ニコニコと笑いながらレイがファラルに語りかける。ファラルは無表情のままだ。
「まあ、嫌われても良いけどね」
ベッと舌を出して天井を見つめる。
すうっ、とレイの目から光が抜け落ちた。
「一部でも、この方が楽だね」
黒くなった瞳をファラルに向ける。その姿に儚さを感じたファラルはレイを引き寄せるとその首筋に歯を立てた。
レイの目が薄緑に戻る。その時、アルが扉を開けた。ファラルにもレイにも分かっていたがファラルは気にする事無く、レイは止める事が出来ず、結果アルは2人の異様な光景を目の当たりにする事になった。
「レ、イ?ファラル・・・?」
手にしていた物を地面に落とすとアルはレイとファラルを引きはがそうとした。
「何をしている!?」
アルの叫びが2人の耳に届く。だが、それだけだった。ファラルがレイの首筋から顔を離すと、
「童には、分からないだろう。私と、レイの契約も、関係も」
嘲るような言葉に、一瞬アルが怒りに顔を赤くした。
「やめておきなよ。ファラルは強いよ?傷を1つつけるうちに内臓を抉られちゃうかも」
クスクスと首筋を押さえながらレイが忠告する。押さえている手の間からは血が流れている。
「大丈夫なのか!?」
アルが青い顔をしてレイに近付いて来る。赤くなったり青くなったり大変だ、と暢気な事を思いながらもアルに促されるまま首筋を押さえていた手を離した。
「傷跡が、無い?」
「うん。さっきまではあったけどね」
それよりも、と言ってファラルに視線を向けたレイは「つまり、言えってこと?」と聞いた。ファラルは無表情のまま何も言わない。
「それじゃ、アルの用件からどうぞ」
話の脈絡が掴めない。何処からそんな話になったのだろう?そんなアルの心情などお構いなしにレイがアルに話しを促す。
「今から、隊長権限で2人に尋問を行う」
「答えられれば答えます、イシュタル達にも言われた事だし」
レイは自然に神の名を呼び捨てにする。
「ではまず、2人の名を」
アルの手には何も書かれていない紙が何枚もあった。手にはペンを持っている。アルが先程落としたモノだ。
「レイ。こっちはファラル」
「本当の名だ」
追求が厳しくなる。レイはうーん、とうなった後「まあ良いか」と呟くと、
「生まれたときつけられた名は、レイチェル。レイチェル・ブランシェ。ファラルの本名は色々あって明かせないけどね。悪魔にとって名前は命を縛る事があるから」
と言ってファラルの名は伏せた。
「レイの両親は健在か?」
「いや、2人とも死んでるんじゃないかな」
あっけらかんと言う内容ではないにも関わらず、レイはあっさりと口にした。
だが、その時口にした言葉にレイが手を堅く握りしめている事にアルは気付いていなかった。
「何処で生まれ、何処で育った?」
「アルの知らない所。でも、知っている所。町の中、森の中、暗闇の中、光の中。何処ででも育ったよ」
その事については言葉を濁した。だが、
「アルの叔父さんに会える所。これだけ言えば少しは分かるんじゃない?これ以上は深く言えないけど」
レイの一言にアルは、ハッとした顔になる。だが、次の瞬間には表情を元に戻していた。
アルは幾つもの質問を2人に投げかけ、レイがその全てに正直に、時に言葉を濁しながら答えていた。
「2人の交わした契約の内容を、答えてもらう」
少しだけ考え込んだレイは人差し指を立てて、
「私の方はファラルに私の契約者になってもらう事、それだけ。ファラルの方は、私はファラルの物、ファラルは私の物、だったかな。そんな内容だったよね?」
とファラルに確認をとる。ファラルは小さく頷き、
「レイに有利な契約だと理解した上でそんな契約を持ちかけるとは思っていなかったがな」
「どういう意味だ?」
その言葉にレイがニッコリと笑い「待っていました」とばかりに口を開いた。
「では、これから私とファラルが交わした契約について説明します」
笑いながらそう言いつつも、ファラルにはレイの目から微かに翳りが見えた。
「私とファラルが交わしたのは魂の契約ではありません。血の契約です」
その言葉にアルが疑問を浮かべる。
「血の契約?」
「はい。皆さんには魂の契約の方が一般的でしょうが」
そう前置きをすると、レイは詳しい説明を始めた。
「一般的な魂の契約は、悪魔に有利な契約です。願いを叶える代わりに魂を差し出す。悪魔は人の魂を喰えば力を増す。そして、もっと力を得ようとする悪魔によって暴走が起きる。だからこそ、魂の契約は禁止されている」
魂の契約についてはアルのような黒の目か髪を持つ“漆黒の者”であれば幼い頃に教えられる事だ。
「次に、一般的でない血の契約について。これは魔界でも人間界でも知っている者は少ない上に、物凄く昔に禁止された時に資料の殆どが焼かれて、現存しているのは2冊だけだからね。その2冊も見つけにくい所にあるしね」
レイはそう言った後、ファラルに手を差し伸べた。ファラルはその手を取り、手首を口に近付けると軽く牙を突き立てた。
「これが、血の契約。契約者の血を契約者が飲む。相性があるから契約の効果には違いが出るけどね。魂なんか食べなくても力を上げられる。血を提供する代わりに願いを叶えてもらう。これは人に有利な契約で願いを叶えてもらう対価に血を渡すだけ。まあ、願いによってはもう少し対価が必要な場合もあるけどね。でもそれも、人間の方が決められる。ただし、殆ど悪魔が持ちかけて来る契約だから人間側が持ちかけても契約を交わしてくれるかは分からないけど」
ファラルの魔力が上がったのが分かった。それと同時にファラルからレイに流れる魔力も感じられる。
「ファラルが暴走するのはあり得ない。血の契約は本来そんなものではないから。血の契約は契約者である人間が居ないと成立しない上に、力に溺れる程度の悪魔では契約を交わすのは無理だから」
キッパリとした言葉には確信が感じられた。
「その言葉、真実だと誓えるか?ファラルは暴走しない、と誓えるのか?」
「誓いますよ、喜んで。多分ファラルは私が居なくなれば魔界に帰るか、あらゆる策を講じて私をこの世に留めるかをするので暴走している暇なんてありません。それに、ファラルはもう十分強いですから」
アルがレイに手を差し伸べて来た。
「『絶対の誓い』を交わせるか?」
差し出された手にレイはただ黙って手を重ねた。
目線を合わせた時、アルは呪文を口にした。何重にも、何重にも誓いを結んでいる。アルの力であればもし誓いを破ればレイは死ぬ。それを分かっていてレイはアルと誓いを結んだ。ファラルは何も言わなかった。
終わった瞬間、レイはニッコリと笑った。
「私の処遇はどうなるの?このまま幽閉?それとも、今はまだ秘密にする?」
自分の事だというのに、レイは何処までも状況を面白がっていた。
「今、公にする事は出来ないが、いつまでも秘密にしておく事も出来ないだろう。隠せるまで隠しておけ。数日は調査の為に学園は休校になる。その間にレイの学園での生活も決まる。高等部まで、と思っていたが中等部で学園をやめてもらう事になるかもしれない。バレれば、それも早まるだろう」
「そう。バレた後はどうなるの?」
「身元引き受け人である、私が全てを引き受けたいと思っている。どうなるかは分からないがな」
そう言うとアルは部屋を出て行った。
「バレた後は、ファラルと引き離されるかな?」
レイがファラルに俯きながら聞くと、ファラルはレイの頭を胸に押し付けた。
「そんな事を、誰が許すと思う?」
「う〜ん。ファラル達は絶対に許さないだろうね」
静かなる攻防。離れようと力を入れるレイと胸に押し付けるファラルの手に力が入る。そんな下らない戦いを暫く続けた後、レイは意識を手放した。
眠りについたレイを守るように優しく包み込む。静かな寝息が聞こえ、ファラルは自分に身を任せるレイを愛おしげに見つめている。
「______」
一度だけ、声に出す事無く少し苦しげに何かを呟いたファラルはレイが起きないように細心の注意を払いながらも、抱きしめる手に力を込めた。
アルが次に2人を見た時、レイはファラルの腕の中で眠っていた。
起こそうかと声をかけようとしたが、ファラルの鋭い眼光によって声を出す事が憚られた。漆黒や双黒でないレイが歪みを消したのだ。負担は多いだろう。
声に出さず、持って来た食事を近くにあったテーブルに食事を置くとそのまま部屋を出て行った。言うまでもないが、扉には鍵が掛かっている。
地下の為部屋には窓が無い。だが清潔に保たれている事で定期的に掃除をしている事が窺える。広くは無いが狭くも無い部屋にはベッドやテーブル、椅子が置かれている。
食事が冷めないように簡単な魔法をかけるが、レイを起こさないように動く事も無ければ声をあげる事も無かった。
久々に眠っていたレイはふと目の前に見えた情景に夢を見ているのだ、とぼんやりと思う。
「師匠、次はこれを入れれば良いんだよね?」
「そうよ」
幼い少女の声と、穏やかな女の人の声が聞こえる。
(少女の声は、幼い頃の私。女の人の声は師匠・・・・・・馬鹿だなぁ。本当に愚か)
2度と戻らない頃の記憶。そんな時の事を考えても意味が無い。その幸せを壊したのは、自分自身とも言えるのに。
「母さん!薬草と、研究の為の材料とって来るね」
「気をつけるのよ」
家からカゴを背負って飛び出そうとしたレイをレイとよく似た顔立ちをした母が心配そうに声をかける。レイは微笑みを返して、森の奥深くに材料を採りにいった。
この数ヶ月後にはこの幸せが全て崩れ落ちる。この頃の私は、まだその時を知らない。
「嫌っ、ヤダよ!師匠っ!・・・おかぁさん!」
そこから先は靄がかかったかのようにその光景が見えなかった。次に見えたのは大切な人の血を浴び、大勢の人間に囲まれ、繋がれている自分。
覚えていない光景の中、何があったのかは知っている。本当は見た事のある光景。
全部知っているのだ。不都合だから思い出せないようにしただけで。
そこから先は暗闇だった。
次に見たのは綺麗な赤と黒。手を差し伸べられレイが反応を返す前に、目の前の人物はレイを掴まえた。逃げることがないように、契約という鎖でこの世界にレイを留めたのはファラルだった。
(もう良い。もう十分)
そう思うとレイはゆっくりと瞼をあげた。
「眠れたか?」
「夢を見た」
目の前には昔と違う髪と瞳をしたファラルが居る。手を伸ばすとファラルはされるがままになってくれる。
「色が違う」
無意識のうちに呟いた言葉に、ファラルが他人には無表情に見えるが、呆れた顔をして、
「目立つから色を変えろ、と言ったのはレイだろう?」
と返して来る。無論、自分の言った言葉だ。覚えている。
「分かってるよ。でも、本当の姿の方が好き。・・・・・・誤摩化してるとね、雰囲気がどこか歪んで見えるんだ〜。でも、私自身には全く違和感がないの」
淡々と言葉を紡ぐレイの口に指を当て黙らせベッドに座らせると、食事を渡した。レイは大人しく食事を口に運んでいる。
その日は、その部屋の中で夜を過ごした。
「おはようございます」
アルがレイとファラルを拘束していた部屋へ食事を持って行くと2人とも既に起きていた。まだ朝の4時だ。アルは昨日から一睡もしていない。昨日の仕事の処理の合間に食事を運んで来たのだ。
起きているとは、思っていなかった。
「・・・おはよう」
丁寧な朝の挨拶にアルもつられて挨拶を返す。ファラルは全く声を発していないが視線だけは向けて来る。
不意にレイがクスクスと笑みを漏らす。笑いの発作が治まった頃、
「疲れた顔してますね。あれから色々あったんですか?」
「君が知る必要の無い事だ」
突き放すような言葉にレイは穏やかな笑みを浮かべ、
「私達の事が邪魔なのであれば、バラしても良いんですよ?アルの事はイシュタルに頼めば何とかしてもらえるし。追い出しても良いです。逃げたと誤摩化せば良いんですから」
と提案した。アルが何を考えているのか知る方法はあったがその方法を使う気はない。無表情で何を考えているのか分からない顔。感情をコントロールする方法を知っているのだ。
「バラす気もなければ、逃がす気もない。爆弾を抱えているような者を逃がすのは危険な事だ。だが、何の事情も知らないままに全てをバラすつもりも無い。これからも今までと同じように過ごして貰うが、その中で2人の危険がどれ程なのかを私が判断する。・・・・・・今、この部屋に拘束しているのは周囲が少し混乱しているからだ。今日の昼にまた来る。その時には少しは混乱も治まっているだろうからここから出そうと思っている」
「分かりました」
レイが素直に返事をしたのを聞くと、アルは上へ戻って行った。
学園に即席で作られた事後処理の為の小隊の執務室の扉を叩く者があった。
「ランド・バーアス・スターレット・ティラマウスです」
名乗られた名と、時間でアルは直ぐに入室の許可を出した。
「失礼します。四古参の者が数人の生徒を連れて来ると言っていたので来た時には全員を中に入れても?」
「それは構わない」
「ありがとうございます」
「どうぞ、お座りください」
アルの目の前に座ったのはティラマウス学園学園長だった。
「では、今回の事件の報告を」
まずアルが事の経緯を説明する。学園長がアルに質問された事に答え、逆に質問を返す。
「それでは、レイさんには魔力があり、急に現れたという男性はレイさんの保護者だと?」
「ええ。それで、彼女の今後の身の振り方ですが・・・・・・」
その瞬間、扉がまた叩かれた。
「四古参の者です」
「入って下さい」
四古参の4人とともに、レイと一緒に居る所を何度か見た事のある生徒が5人四古参と共に入って来る。
「全員、連れてきました」
「掛けて下さい」
生徒5人は俯き加減にアルを見つめている。
「アルシア、編入試験を受けさせてくれと頼んだのは御主だろう。何故彼女に普通科を受けさせた?」
四古参のフォール先生が言った言葉に、
「レイが魔力は無いといったので」
「確かに、完璧に隠しておったの」
先生達が遠い目をする。
「今、彼女の身の振り方を決めようとしていた所です」
アルがその言葉を口にした瞬間生徒が口を開いた。
「レイはっ!レイは、無事なんですか?怪我とかしてませんか!?」
マリアが悲痛な叫びをあげる。表情には不安がありありと窺えた。全員の気持ちを代弁した言葉だったのだろう、視線がアルに集中する。
「レイから、魔力が感じられました」
カナタの呟きに、アルが溜息を吐き「今から、順を追って説明しよう」と言った。
「まず、今回の事件は誰にも非は無いということを伝えておきます。レイはある特殊な事情で先に知る事は出来ましたが、回避する事は出来なかった。だが、被害を最小限にする為に行動するしか無かった、と言っていました。その証拠に負傷者は皆無に等しい」
アルの言葉に、先生達が頷く。
「魔力を持っている事を隠していましたが、その理由は語りませんでした。レイの魔力は歪みを消す程なので正確に量ってはいませんが、多い事は確かです」
学園長以外が驚いた表情を浮かべる。学園長も最初に聞いたときは驚いていた。
「ですが、未だに経歴に謎が多い上に経歴を詐称している疑いもあります。そのレイをまたこの学園へ通わせて良いのかどうかを学園長に聞いています」
アルの言葉に生徒五人が先生達を見る。ここで先生達がレイを受け入れなければレイが学園をやめるという事は理解出来た。
「私は、彼女のような優秀な生徒を辞めさせるのには反対です。研究に協力して欲しいと思う程に、彼女は優秀です」
ヒアネオ先生が自分の意見を述べる。
「優秀な事は認めるが、問題を起こしているだろう?今がまさにその状況だ」
四古参の教師の1人、ルベーク・パークライの発言にも一理ある。
「ですが、今回の件はレイの起こした事ではありません」
マリが速やかに先生の言葉に訂正を入れる。
「それはそうだが、経歴詐称は問題です」
まだ苦い顔をしているルベーク先生に、サラが、
「経歴が分からなければ調査する、それが学園の方針ではありませんでしたか?私は不確かな身元を調査されました。レイにも同じ事をすれば良いだけです」
と反論した。
「優秀やら、問題児やら言う前に当人の希望はどうなんだ?一連の報告を見て思ったがこの学園に通う必要性が感じられん」
四古参のフブナー・ゲイノスが言った言葉にまたアルに視線が集中する。
「レイはどちらでも良い、といっていました。自分が通う事に難色を示すようならいかない、決定権を持つ人間全てが通う事を快く認めるのならまた通う、と」
全員が黙り込んだ時、ああ、と思い出したようにアルが、
「『ただし、私に学園へ通う事を認めるのならばそれなりの覚悟を』との事です『何が起こるかは保証出来かねない』とも言っていました」
と付け加えた。その言葉にさらに先生達の表情が曇る。
「私としては、彼女が学園に通うのは構わないと思いますよ。優秀な生徒ですし。ただ、今までと同じように普通科、というのは・・・彼女に有り余る程の魔力があると分かったのですから、魔術科に転科という事にすればどうでしょうか?そうすれば万一何かが起こった時に直ぐに動けます」
フォール先生の言葉に学園長も、
「彼女の転科は私も考えていた事です。そうですね、魔術科に転科・一定以上の成績を修める・学園に貢献する、という条件を全て満たすのであれば彼女がまた学園に通う事を認める事とします。彼女の実力であれば難しくは無い条件でしょう。皆さんはどう思いますか?」
「その条件であれば」
「まあ、確かに意図的に彼女が問題を起こしたわけでは無いな」
「本人が希望すれば良いだろう」
四古参の先生達が賛同の意を示す。マリア達の表情が明るくなる。
「では、本人にそのように伝えます」
アルの言葉でその話し合いは終了となった。
「それで、先生が3人と生徒5人が居るんですね」
アルの許可が出てお風呂に入って着替え、昼食を食べた後レイはアルと共に食堂に居た。
「転科でも退学でもお好きにどうぞ、と言っておきます。転科の事ももうバレたんですから、そこはどうでも良いです。都合のいいようにどうぞ」
気のない返事に、全員が脱力した。本人以外が騒いだだけで当人であるレイはボーッと話を聞いている。
「ただ、本当にその条件で良いんですか?重要な事が抜けていると思いますけど」
首を傾け上目遣いで忠告のような言葉を紡ぐレイにどこか妖艶な雰囲気を感じた。
「気付かないならそれでも良いですけど。この書類にサインすれば良いんですか?」
レイは目を通していた書類を指して聞くと、先生が頷く。レイはさらさらと自分の名前を書いて行く。ものの数十秒で全てにサインを入れたレイはそこである事を指摘した。
「私に、問題を起こさないように、という条件は無いんですね」
そこで先生がレイが先程サインした書類の中から一枚の書類を探しだした。
「無いですね、問題を起こさないように、という条件」
「これから、楽しみですねぇ」
面白がっているレイの顔と声に全員が言いようのない何かを感じた。
レイの本名が出てきました。今回はレイの過去についても触れています。そしてレイを育てた“師匠”と“お母さん”が登場です。
ファラルとの関係も少しはっきりしてきましたが、レイについての謎はまだまだ多いです。
それに、アルは悪魔との契約を嫌悪しているのでレイに対して今まで通りに接するよう努力していますがそれでもどこか接し方に戸惑いがあります。