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血の契約  作者: 吉村巡
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69:王城と王族の裏事情

 始業式の日からあれよあれよという間に時が過ぎ、6人は王城の一室のソファーに座っていた。学園長は先程まで一緒に居たのだが、人に呼ばれて何処かへ行ってしまった。

 部屋には侍女が数人居て式の時の礼儀作法を説明している。

 セイジは貴族なので問題なく、ついでに王城に来たのも初めてではないらしく他の五人に比べて幾分か落ち着いていた。

 礼の仕方や話を聞く時の目線と姿勢を短時間のうちに叩き込まれる。レイは言われる前から出来ていてすぐにOKを貰った。

 全員がOKを貰う頃には全員がそれなりに落ち着いてきていた。その中で、ふとサラがレイの異変に気がついた。

「レイ、どうしたの?顔色悪いわよ。緊張してる?」

 その言葉に全員がレイに目線を向けると確かにレイの顔は何時もと違い青白かった。

「大丈夫。緊張してる訳じゃなくて・・・気分が悪い、というか」

 曖昧に微笑んだ後、サラの耳元で「月のもの」と囁いた。

 その言葉にサラは直ぐに心配そうな顔になって、「大丈夫?」と聞いた。

「うん、初日の数時間だけだから」

 普通の大きさの声でサラに言った後、近くに居た侍女の1人に、

「お手洗いまで、案内してもらえますか?」

 と声をかけた。

「ごめんね。行って来る」

 5人にもそう声をかけると青白い顔をしながらも緊張感など感じられない足取りで案内してくれる侍女に付いて行った。

「緊張感、感じられないわね」

 呆れた様に呟いたマリアの言葉に、マリが同意する。

「遅れる事は無いだろうけど・・・直前になって部屋から出る余裕があるのは凄い」

 セイジがしみじみと呟いた。



 レイは侍女の後を付いて入り組んだ無駄に豪華な廊下を歩いていた。天井は高く、横幅は広々としている。所々に置かれた置物や絵は全て品良く、その場に合った物が置かれていた。

(近くに居ると顔色に出る・・・気分が悪い。心を鎮める。まだ、魂の保護がしっかりと出来てないんだから)

 軽く頭を抑えながら思案していると目的の場所に着いた。

(まだ、会うつもりは無い)

 そう思って手洗い所に入ると、僅かもしないうちに予想通りの事が起こった。

「・・・・子!!・・・・オン王子!!」

「殿下!お待ちください殿下!!」

「兄上がでるのなら俺は不要だ!付いて来るな!」

 何人かが走る足音と啀み合いが聞こえて来る。レイはその時を待っていた。丁度タイミング良く出たかの様に手洗い所から出る。走ってきた男達から逃げている男の子とぶつかりそうになった。

 レイはただ突っ立っていたが男の子の方が驚いて足を止めた。後ろから追いかけて来ている男達がしめたとばかりに「殿下を捕まえて下さい!」と口々に叫んだ。

 近くに居たレイを案内居て来た侍女がレイの隣に立って逃げにくい様にする。

 焦った顔の殿下と呼ばれた男の子はレイを見つめて驚いた様に目を見開いた。そしてレイの手を掴んで侍女の脇をすり抜けてまた逃走を始める。結果的に巻き込まれた形になったレイは取りあえず引かれるままに彼の逃走劇につき合った。

 追っ手を振り切った彼は人通りの少ない、寧ろ誰もいない入り組んだ植物園にまで逃げて来た。恐らく生け垣で造られた迷路なのだろう、入ってから暫く走って中央らしい噴水のある開けた所に出た。

 彼の方は軽く肩で息をしていた。レイを掴まえて逃げる前から走っていたので恐らくかなりの距離を必死で走っていたのだろう。だが、きちんと体力作りをしているのか呼吸は直ぐに整った。

「巻き込んで、悪かったな」

 レイの方に向き直り、真っ直ぐと目を見つめながら彼は謝罪した。年はマリ達と同じ15~17歳位で髪は軽く癖のある光輝く金髪で、瞳はアメジストのような紫だった。背はレイよりも頭1つ高い。

「いえ。私は気にしません。ですが私以外の者に迷惑をかけそうです」

「分かっている。学園の生徒だろう?だから連れて来たんだ。父上との謁見は誰かが事情説明をするだろう。あとで私も言っておく。心配するな」

「いえ、特に心配もしていません。不敬に値するかもしれませんが特に帝国のお偉いさん達に会いたいと思ってませんから、ちょうど良かったですよ。『殿下』、とお呼びすれば良いですか?」

 レイの言葉が面白かったのか目の前の彼は小さく笑っていた。

「そういえば、自己紹介がまだだったな。私はアズマール帝国皇帝の第二子エリュシオン・アズマール、正式名はもっと長いがな。堅苦しいのは少々苦手だが好きに呼べば良い。歳は16だ。お前は?」

「レイです。これ以上長く名乗る事はありませんがこれ以上短くなる事もありません。現在は帝国内在住、身元引き受け人の好意でティラマウス学園に籍を置いています。歳は13です」

「それで13!?」

 殿下は皆と全く同じ反応をした。少しの間全身をじろじろと見ていたが女性に失礼だと思ったのか、また謝罪した。

「1つ、聞いて良いか」

「何なりとどうぞ、殿下。答えられる限り答えます」

「お前の身元引き受け人はアルシアという名か?」

「ええ、そうですよ」

 その言葉で彼、エリュシオン殿下は急に親しみを持った表情になる。

「そうか、アルが保護したと言っていた者か・・・」

 しみじみと呟いて何かを考える様に黙った殿下に、

「考え事をしている最中にすみません、殿下。取りあえず何故、私を連れて来たのかをお聞かせ願えますか?」

 思考に耽りそうになっていた殿下の意識をレイに向けさせる為にレイは殿下に話を振った。





 マリ達はレイの言う通り迷惑を被っていた。陛下との謁見の時間まで後僅かなのにレイが帰って来ない。真っ青な顔をして部屋に戻って来た侍女はレイが行方不明になった、としか言わなかったがその言葉に部屋に居た全員が茫然となったのは言うまでもない。

 5人に聞かれては困る内容なのか数人の侍女が直ぐにやって来てレイが行方不明になった、と言った侍女を何処かへ連れて行った。

 未だにショックから立ち直りきれていない5人は慌てて戻って来た様子の学園長を見つめた。

「事情は聞きました。陛下との謁見は君たち5人だけで行います。レイさんは・・・その、怪我をしているという事は無いでしょうが今の所行方不明です。誰と居なくなったのかが分かっているので暫くすれば見つかりますよ」

 学園長自身も少し困惑しているのか困ったような曖昧な笑みを浮かべて5人にそう言った。

「学園長先生、レイは誰と居なくなったんですか?」

 カナタの質問に「鋭い質問です。それ故に答え難い」と答える先生を5人は静かに見つめる。根負けしたのか先生は5人と向かい合う形でソファーに座り、

「第二皇子殿下であるエリュシオン殿下です」

 と簡潔に答えた。その言葉に5人は絶句した。

「ほ、本当、ですか?」

 躊躇いがちに聞いたマリに先生は重々しく頷いた。そして全員が頭を抱える。

「何で、レイと殿下が出会うんですか?殿下は謁見の際にいらっしゃられると」

「ええ、皇帝陛下を始め皇妃殿下。皇太子殿下、そしてレイさんを連れて逃げている第二皇子殿下という王室の方々が一同にみられる筈なのですが、第二皇子殿下だけが『出たくない』と言われて逃走したらしいのです」

 その言葉にまた全員の頭が重くなる。

「失礼ですが、皇太子殿下はご病気で長い間政務に顔を出した事は・・・」

 セイジの言葉の途中でドアをノックする音が聞こえた。

 部屋の扉が開かれ現れた男に謁見の用意を、と伝えられた。全員が覚悟を決めて指示に従った。



「そうだな。いきなり連れて来てしまって混乱している筈だ。お前には《ヴァルギリ》の解毒薬開発者の1人として、王家の事情を知る権利もあるだろう。私自身、お前達には直接感謝の意を述べたいと思ったいた。取りあえず、ベンチがあるのに座らないのはおかしいな。座ろう、そして先ず王家の事情を語ろう」

 殿下はレイをエスコートして広場の隅にあるベンチまで誘導した。そして腰掛けると少しだけ沈黙があり、ゆっくりと語り始めた。

「10年以上昔の話だ。私の兄であるセリオンに毒が盛られた。犯人は捕まり処刑されたが兄に盛られた毒は解毒方法が見つけられていないものだった。・・・私の目の前だった、兄が毒を盛られたのは。急に兄が苦しみだして目から血を流し始めた。次にみた兄の瞳は元の紫ではなく、白の中に所々紫がある私達にとっては絶望の色だった」

 レイはただ黙って聞いていた。幼かった彼からすればとんでもない恐怖体験だっただろう。

「兄の目は、見えなくなった。帝国の中でも重要機密の出来事だ。表向きは病気にかかったとされたが実際は城はおろか決められた区域以外は出歩く事さえ出来なくなった。父はなんとか解毒方法を見つけようと秘密裏に手を回して《ヴァルギリ》の研究に力を入れさせた。それでも、有力な貴族の間では兄の噂は直ぐに広まった。そして、私に取り入ろうとする連中が出始めた」

 淡々と語っているが内心は雰囲気から察するにそのときの事を思い出し腸が煮えくり返っている事だろう。

「王位継承権は兄にある。私は王位を奪う気は毛頭ないし、兄を傀儡にする気もさせる気もない。・・・だが、周りはそれを許さなかった。兄は目が見えないとの理由から字を教わる事は無かった。勉強は口頭のみで字を覚える事は許されなかった。王族の名には力がある、騙され、悪用されるのを防ぐ為に兄は自分の名を知る事さえ無かった。その反面、私はもしもの時の為ということで兄だけが学ぶべき事を兄と同じ様に学んだ」

 そこから彼の表情が少し和らいだ。

「視力を無くしてなお、兄は私以上に優秀だった。口頭の説明だけで全てを理解し、視力が無い代わりに発達した視覚以外の五感で人に騙される事も無ければ惑わされる事も、二度と毒を盛られる事も無かった。アルにも何度も助けられた。兄を暗殺しようとした刺客達の情報を事前に、何処で情報をつかむのかは分からないが流してくれて、実際に警護に来てくれた事が何度もある」

 そして真剣な眼差しで、

「そうして、何年も経ち、今年が来た」

 と言った。

「学園の課題の中に《ヴァルギリ》の解毒薬を開発し成功させた生徒達が居る。それがお前達だった。何人かが被験体になり、全員が視力を取り戻した。そして、兄が薬を飲んだ。兄の目は元の紫に戻り視力も回復した」

 そう言ったあと、殿下は立ち上がり、レイの目の前で深く礼をした。

「兄を助けていただき、王家の一員として、弟として、感謝の意を申し上げる。本当に、ありがとう」

 そう言って顔を上げた殿下にレイは微笑んだ。

「殿下に、そう言っていただけて光栄です。と、申し上げたい所ですが・・・」

 その言葉に皇子は怪訝そうな顔をする。レイはゆっくりと立ち上がり皇子を見つめながら言った。

「だからです」

 その先に続く言葉を彼は愕然としながら聞いていた。

 


 王座にいる皇帝はまだ若く穏やかな顔立ちだった。皇太子殿下が生まれるよりも前に前皇帝が病気を理由に王位をまだ20代だった現皇帝に譲り数年前に亡くなっている。

「皇帝として、君たちの功績を讃えます」

 緊張しながらも一言一句も聞き漏らさない様に5人は陛下の言葉を聞いていた。

 周りに居る人々はそうそうたるメンバーだった。良く知られているあらゆる世界のトップ達ばかりだった。現在の魔術師の中で最強と言われる大陸の人間なら全員が知っている『双黒の賢人』の顔もあった。

 周りの人々の視線を一身に浴びながら、程なくして謁見は終わった。レイは結局帰って来る事無く、王家の方も第二皇子殿下だけが出席していなかった。

 初めて顔を見た皇太子殿下は皇族らしく優雅で気品に溢れていた。皇帝譲りの紫の瞳に、皇妃譲りの輝くような金髪は第二皇子殿下と同じで、顔立ちも似通っている所が多くあった。

 皇太子殿下は初めての病気が治って公式には初めての政務らしく、5人に労いの言葉をかけていた。

 謁見の間から出た5人はホッと肩の力を抜いた。次の部屋へ案内される途中で、

「き、緊張した〜」

 とマリアが呟いた。その言葉に周りの人間全員が苦笑しながらもその気持ちがわかるという風にマリアに視線を向けた。

「レイも居れば良かったのに。だって、今回の一番の功労者はレイだよ」

「そうなんですか?」

 セイジの言葉に周りの大人達が反応する。その反応に全員が頷きを返す。

「僕はレイが決めたリーダーですよ。正直、編入して間もないレイの提案した課題をする事には、例え興味があっても少しは躊躇しました。でも、逆に僕たちの方が役立たずだったんですよ。薬の開発はレイがいなければ出来ない事だったんです」

 マリが全員を代表して周りの大人達に淡々と語る。

「旅のときだってそうです。レイが気付かなければ助けた人達も、僕らもどうなっていたか分かりません」

 マリはそこで話を締めくくった。何時のまにか全員の足が止まっていた。

 後ろから歩いて来る人が居てようやくまた歩き始めた。




「だからです」

 レイの真っ直ぐな視線を受け止めて皇子は不審そうな顔になる。

「だから?」

 レイの言葉の意味が掴めず聞き返した皇子はレイの笑った顔を見た。

「世話をしていただいている身として、期待に応えるのは当然ですよ。手っ取り早く結果を出せると分かっていたので《ヴァルギリ》の解毒薬を作ったんです。皇太子殿下が《ヴァルギリ》を飲んで失明している事はある筋から教えて貰っていたので。まあ、開発は私達の実力ですけどね」

「・・・・・・何処で、その情報を知ったんだ?」

 皇子は愕然として聞いた。レイはクスクスと微笑んで、

「知ってどうするんですか?彼らは守秘義務をきっちり守ってますよ。まあ、私に対しては例外ですけど・・・例えば他にも、皇太子殿下が実は三子だったとも。生まれてすぐ亡くなられたんですよね」

 次々と王家の機密事項を暴露して行くレイに皇子は慌ててレイの口を塞いで周りを見た。レイはその手をゆっくりとどけて、

「近くには誰もいません。他にも色々と知ってますよ、殿下の知らない事も・・・聞きたいですか?因に誰にも売るつもりはないのでご安心ください」

「お前が何者なのか、聞かせてもらおうか。何処かの間者か?刺客か?」

「何者なんて・・・何者でもありませんよ。間者でもなければ刺客でもありません。何者でもない、ただのレイという存在です。少し前まで旅人でしたけど」

「お前は、危険人物か?」

「さあ。他人の受け取り方は人それぞれですから」

 皇子の疑いの視線と急に冷たくなった口調にレイはにこやかに笑って穏やかに質問に答えて行く。すると、皇子は急に笑い出した。

「お前、面白いな。間者というには情報を流し過ぎだし、刺客にしては仕事が遅すぎる。それに、ここまで連れて来たのは私だしな」

「覚えてたんですね、自分のした事。決めつけて切り掛かって来るかと思っていました」

「・・・お前、実は少し性格悪いか?もしくは猫を被っている」

「皇子、お互い様だと思いますが」

 その言葉に皇子は不適に笑って「不敬だぞ。王族に対して」と言ったがレイは微笑みをキープしながら、

「気にするような方ではないと思いますけど。お忍びで良く城下に行かれているみたいですので」

 皇子はそれも知っているのか、という顔になった。

「お前、気に入った」

 先程までの表情とは打って変わって何かを企むような陰のある笑みを浮かべてレイに向かって皇子はそう言った。

 鐘の音が聞こえ、皇子がはっとした表情になった。

「戻ろう。さっきのは謁見が終わる合図だ」

 皇子がそういうとレイの手をまた取った。迷路の地図が完璧に頭に入っているのか迷う事無い足取りで迷路を進んで行く。迷路を抜けると王城内の何処かに向かって廊下を走る。

「ここだ。一応、私が皆に弁解しておく。お前が怒られる事は無いだろう」

 ある部屋の前で皇子はレイとともに人を待っていた。



「エリュシオン殿下!」

 程なくしてマリ達がやって来て、案内していた男が皇子の姿を見て驚く。

「すまなかったな、この者を連れ回したのは私だ。式に出るつもりは無かったが感謝の意を伝えたいとは思っていたので連れて行った。許せ」

 強引だがそれは許されると分かっている、という態度で皇子が言う。

「殿下の付き人を呼んで来てくれ。まだ探していると思う」

 5人を連れて来た男は近くに居た侍女にそう言うと侍女は直ぐに引き返して見えなくなった。

「お前達にも礼を言う」

 マリ、マリア、セイジ、サラ、カナタを見つめて皇子はそう伝えるとまた何処かへ消えた。程なくして皇子の付き人らしき男達が肩で息をして現れた。

「で、殿下はっ!?」

 鬼のような形相で聞いて来た男達に少し引きつった表情で5人を案内して来た男が皇子が消えた方向を指差した。男達は絶望を顔に浮かべ、横腹を押さえながらまた走り出した。

「嵐のようですねぇ」

 レイだけが暢気にその光景をそう言い表す。



「ではその森に、かの魔女の最後に住んでいた屋敷があると?」

「言いきる事は出来ませんが、その可能性は高いと思います。私が彼女の手記を見つけその手記を参考に資料を集め、薬は完成したのですから」

 研究家達との会合はレイが殆ど対応していた。

「その手記はまだその屋敷に?」

「ええ、勝手に持ち出すのは憚られますから。旅の途中で雨宿りの為に勝手に使わせて戴いた無人の屋敷でしたが」

「おい、森の場所分かるな?直ぐに研究員派遣するぞ」

 レイの話を聞きながら相手側ではそんな事が囁かれていた。

 話の内容は段々と濃くなって行き、その内かなり専門的な用語や内容が飛び交う様になった。5人は早々とついて行けなくなり、対応を全てレイ任せにした。

 研究家達は相手がまだ学生、それも中等科だという事を忘れて興奮しながら会話を続けていた。顔はすでに仕事中の顔になっていた。

「あの〜」 

 時間が、と言うつもりだった案内してくれた男は研究家達に邪魔をするな、という顔で凄まれた。

「いえ、その・・・」

「すみませんが、そろそろ時間です。これ以上は生徒達の緊張がピークに達するので、と始めに決めましたので」

 迫力に押された男に助け舟を出したのは学園長だった。研究家達はまだ物足りなそうな視線をレイに向けたが渋々と言った感じで終わりの挨拶を交わした。



 馬車に乗るとゆっくりと動き出した。

「なんか、これで終わると思うとホッとする」

 マリアが本当に安心したような微笑みを浮かべる。

「・・・本当に、終わりかな?第二皇子殿下と話したけど、ちょっとやり過ぎた感じがする」

「「「「「「え?」」」」」」

 5人だけでなく学園長までもが声を上げた。

「何か、変な振る舞いしたの?別に、そんな事気にする方ではなかったと思うけど」

 セイジの言葉にレイは分かっている、という風に頷く。

「そうではなく、少し慌ただしい事になりそうな予感がする。あくまで予感だけど」

「そうですか」

 学園長がすこし無理矢理の様に納得した。全員がそれに倣う。

 一抹の不安を残したまま、話題は別のものに移り、そのまま学園についた。


 先生に報告をして出会う先生全員から祝福されてようやく館に帰宅したレイはファラルにじろじろと見られた。

「王族か・・・」

 ファラルはレイの手を取るとファラルの部屋へ連れて行った。

「わざわざそこから飲むの?」

 ファラルは皇子に握られた方の手を口元へもって行き歯を立てた。溢れ出る血を一滴も無駄にしない様に舐めとって行く。

「乱れてきていただろう?」

「バレバレだね、ファラルにはぜーんぶ」

 レイは額に手を当てられる。ひんやりとした手が気持ちよかった。

「言っただろう、レイの意見を尊重はするが全ての意見を聞く事は無い。契約で決まっている」

「うん。私はファラルを私に縛り付ける事が本望ではないから。最初にそう決めたけど止めて欲しい訳じゃないから。

・・・・・・限界は、来るんだよ?何時か、必ず。今はまだ大丈夫でも、明日急に消えるかもしれない、それは何十年も先の事かもしれない。でも、ファラルには一瞬の間に、私は消えるよ。もう、私も疲れてきちゃってるから」

 穏やかな口調で幼子の様にファラルに擦り寄りながらファラルに呟く様に語りかける。ファラルは無表情な顔で無防備に近くにあった体を抱き寄せた。

 



「アル。アルの引き取った子供、名前は確か、レイだったかな。学園の生徒だよな?」

 アルが従兄弟であるエリュシオン殿下の自室へ入ると、予想通りそこには従兄弟が暢気に座って自らいれた茶を飲んでいた。

「その質問の前に、いまだに殿下を捜している付き人達を安心させたらいかがですか?セリオン皇太子殿下が視力を回復させた今、殿下の周りには不穏な輩が多い筈」

「そんな事、分かりきっている。それより、どうせ周りには誰もいないんだ。その言葉直せ」

「セリオンが心配していたぞ。まあ、謁見の間はそんな素振り全く見せなかったがな。お前がレイを連れて行ったと聞いて俺の方がセリオンより驚いたよ」

「悪かったな、勝手に連れ回して。でも、面白い奴だった」

 何時になく楽しそうなエリュシオンの様子にアルは少し嫌な予感がした。

「確かに、不思議な子ではある。帝国に来るまで学校に通った事が無いにしてはかなりの頭脳をもっている。剣も兵士並みに扱える。まあ、レイの保護者の男には敵わないらしいが・・・本当の名前もハッキリとは分かっていないしな」

 アルの言葉に皇子が意外そうに、「良く引き取ったな」と言った。

「学校に通った事が無い、悪魔の生け贄にされそうになった、といったんだ。魔法小隊隊長として引き取らないわけにはいかない。それに、その保護者の方がかなりの魔力の持ち主でな。埋まるには惜しい人材なんだ」

「ああ、そう言う裏があったのか」

「まあな。気紛れで引き取る、というわけにはいかない。だが、引き取って良かったと思うよ。セリオンの目を直す薬を作るとは思わなかった」

 アルの言葉にレイに語られた事を話そうかと一瞬迷ったが、やめた。

「そのレイだが、気に入った。その内また会いたい」

「・・・呼んだとしても数日前の反応からすれば城に来る気はないと思うぞ。卒業後に召しかかえようとしても今日の学者達の反応で、このまま行けば様々な研究機関から引く手数多だろう」

「そうか・・・。なら、会いに行くまでだ」

 皇子の言葉にアルは墓穴を掘ったかもしれない、と自分の言葉を早々に後悔した。

「程々にしろ、その顔は止めても無駄みたいだからな」

 何かを企むような皇子の顔はアルにとって見たく無いものであり、見慣れたものでもあった。初めて無断で城下へ降りた時、城の隠し通路を見つけて使った時、内緒でセリオンに会いに行った時、同じ笑みを浮かべ周りを混乱させ甚大な迷惑を何度も被った人々がいる。

 その都度、アルに泣きついて来る者も居た。

「言っておくが、無茶をするなら無理矢理にでも止めるからな」

 城下へ降りたときは迷子になり、人攫いに攫われそうになっていた所をアルが寸での所で発見し城へ連れ帰った。

 隠し通路から出られなくなった時に餓死の危険から救ったのもまたアルだった。

 セリオンに会いに行った時、セリオン皇太子派の者達が濡れ衣を着せて目の前の皇子を殺そうとしたとき助けたのもアルだった。

 そんな数々の事件があって以来、アルは王室の間では皇子のストッパー・回収係として何かあると毎回城に呼ばれていた。


 エリュシオン殿下の企みはその内明かしたいと思います。皇子は結構、自由奔放で子供のようですが、自分の微妙な立場を理解しています。ですが、兄を慕い臣下として次期皇帝になる兄を支えよう、という信念を持っています。

 そして、兄の歩く道の邪魔になるなら潔く死ぬ覚悟も出来ています。

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