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血の契約  作者: 吉村巡
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64:レポート作成と館への帰宅

 部室に戻ると資料室や図書室から持って来たらしい本で机が埋まっていた。

 その光景に動揺する事無く、レイは荷物を空いている所へそっと置くと、机に載っている本を手に取った。

「これは大した情報は載ってない。こっちは何ヶ所か間違った表記がある。カナタが手に取っているのは偏見に満ちてるけど情報量は多い。サラのは手堅いけど、その本を呼んだ後でここの一番下の本を読んで参考にしてみて」

 指示を出しながらレイは何冊かを選んでそれぞれに渡して行く。

「取りあえず、全員が知識を持ってないとこれからの会話に差し支えるから、全員が読んでおく事。読み終えたらまだ読んでない人に渡してね」

 1人に3〜4冊渡しているが全てを読むとなると20冊近くなる。

「レポートで分からない事があれば遠慮なく聞いて。紙はあるよね?終わったら私の所に持って来てね」

 責任者のように指示をするとレイは紙と筆記をとると初っ端から清書を始めた。

 全員がそれに目を見張ったが、諦めたように視線をずらした。

 レイの書く字はとても丁寧でありながら速く、書く事が決まっているかのように止まる事無く、均整がとれていた。


 カタッ


 15分程で何かを机の上に置くような音が聞こえ、全員が本や下書きから目を離す。

 レイの方を見ると筆記用具を置いて椅子の上で伸びをしていた。綺麗な姿勢で書いていたので体が凝ってはないだろうが、癖のようなものだろうか。

 伸びをし終えると既に結構な量になっている用紙を手にとって読み始めた。その速度も速く、ものの数分で全てを読み終えたレイは満足そうな顔で「よし、完璧」と呟いた。

「おわっ、たの?」

 マリアの言葉にレイはニッコリと頷く。全員が目を見開いた。

 軽く見ただけでもレイの書いたレポートはとても読み易そうだった。絵や図で説明した所が幾つもあり、その出来は精巧だった。文字は読み易いがとてもびっしりと書かれている。

 そのレポートを綺麗に整え、戸棚の中に入れる。

 次に、表紙を書き始めた。表紙は『ヴァルギリ』の症状でも一番有名な斑の瞳を描く。

 課題の選択理由や目的、課題終了後の感想で考察や推測をも述べている。5人は正直“レベルが違う”と思った。

「レイ、旅の事なんだけど。魔獣に教われたときの事、詳しく教えてくれないかな?」

「良いよ。どこから?」

 マリの質問にレイは語るように話しだす。

 レポートは確実に出来て行く。




 部室に数日間泊まり込んで作ったレポートは物凄い厚さになって完成した。だが、内容は読む者に分かり易く、というレイの配慮で直ぐに読めてしまえそうな出来になっていた。

 例の最終チェックが入り、全員が緊張の面持ちでレイの様子を見ている。十分程で全てを読み終えたレイは、

「うん、これで完成」

 と全員に聞こえる声で呟いて、そっと机の上にレポートを置いた。

 その瞬間、全員が嬉しそうに小さく歓声を上げた。

 マリが全員を代表して先生にレポートの提出に行くが、誰にもバレないように落とさないように慎重にレポートを持っている。

 しばらくして戻って来たマリが晴れやかな笑みで、

「提出して尾OK貰って来た」

 と嬉しそうに言った。

「あと、先生が幾つか噂教えてくれたんだけど・・・」

 次は少し微妙な表情で曖昧な笑みを浮かべながら、

「1つ目は、もしも解毒薬の効果が実証されれば多分僕らが最優秀生徒賞に入るかもしれない、って。2つ目は、今年学園で薬草の盗難が多発してるんだって。薬学部の草園から勝手に採って行ったり、保管場所に入れておいた物が消えていたり。僕らのグループに被害が無かったか?って聞いて来たから無いって答えたけど」

 その言葉に全員がレイに注目する。一番最初にその事を示唆していたのがレイだったからだ。

「・・・・・・」

 黙ったままレイは何も語らなかった。レイが犯人でない事は分かっているが、事が起こると予測していたレイに言いようの無い感情が湧き上がると共にレイの存在に疑問も感じてしまう。

 パタンッ と本を閉じると、レイは帰る準備をし始めた。

「休み明けに」

 それだけ言うと、レイは部室から出て行った。

  


 館に帰るとファラルが逸早く出迎えてくれた。抱きしめられた体を好きなようにさせる。

 レイは疲れきっていた。強いて言えば、“人間”に。

「疲れた」

 ポツリとレイが漏らした一言にファラルがレイを横抱きにして部屋まで運んだ。

 部屋に着くとレイはベッドの上に優しく横たえられた。レイはもぞもぞと動くと、上着を脱いで、ファラルの袖を掴んだ。

「一回、調子が乱れてバレるかと思った。解毒薬飲んだ時に。魔力の感覚に鋭いカナタがいるからバレないように戻すの、大変だった。リズムが乱れてそれ直すのに結構魔力使って、今でもギリギリの所で状態維持してる」

 レイの言葉に、ファラルがレイの髪に触れる。それだけでレイの表情が幾分か和らいだものになる。

「『緋の双黒』を先生が知ってた。でも、先生も双黒としての彼女しか見ていなかった。悲しいね、虚しいね・・・」

 ファラルはレイの言葉を聞いているだけで何も言わない。

「お師匠様」

 レイの呟きにファラルがレイの頭を撫でる。

 

 異常な存在だったレイを、全てを理解し分かっている上で、それでもレイを育て、全てを教えてくれたレイの師匠の名を“レイニング・ブラウン”という。

 この大陸では『緋の双黒』と呼ばれる魔女であった。

 

 レイの秘密を1つここで明かしてみました。もっと大きな秘密がありますが、これでレイが『緋の双黒』こと、レイニング・ブラウンに好意を抱いていた理由が分かっていただけたかと思います。レイのお師匠様だったんですよ。

 先生の言葉を考えて(あれっ?)と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、その秘密も頑張って書いて行きたいと思っています。

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