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血の契約  作者: 吉村巡
59/148

58:皆との初めての旅~出発の朝~

 朝日が昇りきる前、【蓮華館】では既に活動を始めた者が幾人か居た。

 レイは何も考える事無く、旅の間に使っていた女性用の動きやすい長ズボンと長袖の上着を着終えて、タンスに入れたフード付きのマントを着た後、姿鏡を見て自分の格好を確認した。結んでいない艶やかな髪が顔の前に来たりしている。

 手早く髪を軽く纏めた後、机の上に置いた旅に使う鞄を軽々と持ち上げると少しの間戻る事の出来ない部屋を何の感慨も無く後にした。

 部屋から出ると、扉の隣の壁に寄りかかるようにしてファラルが何時もの無表情で立っていた。レイの姿を視界に捉え、荷物を持っているのを確認するとその荷物を当然の事のようにファラルが奪うように預かった。

「森に入ったら返してよ?」

「・・・・・・」

 レイの言葉に無言でファラルが返した。それだけで返す気がない、という事が分かる。

 今日は旅ではなく、目的の森の近くまで馬車で行き実際には明日が旅の開始なので今日明日には奪い返すチャンスがあると考え、レイはファラルの行動にそこまで口を挟まなかった。

(私の事鍛えるくせに、荷物を持たせないって行動が矛盾してるよね)

 内心そんな事を考えながらレイはファラルと共に階下の食堂へと降りて行った。今朝は朝食の時間には早すぎるので、前日にお弁当を2人分用意してもらっているのだ。


「早いな、2人とも」

 食堂に降りると、既にアルが居た。レイは別段驚きも慌てる事もせずに、

「馬車の出る時間が決まってるから。アルも今朝は起きるの早いね」

 と返した。アルは既に動きやすそうな服に着替えている上に手に刃を潰した剣を持っていたので朝の稽古か何かだろう。

「久々に朝稽古をしようと思ってな。最近は昼や夕方にしか稽古をしていなかったから、鈍っているかもしれない」

 レイの予想は当たった。アルの場合は朝稽古は出来なくても昼や夕方に稽古をしているのでそこまで鈍ってはいないだろう。

 レイとアルが会話している所へ、お弁当を取りに行っていたファラルが戻ってきた。手にはお弁当が入った袋が携えられている。レイは当然とばかりにその袋を自分が持った。

「そういえば、レイは武器を持って行かないのか?魔獣の出る所だろう」

 アルの疑問にレイはその事か、という顔をして、

「学校の貸し出しをしているのを借ります。まあ、ファラルがいるので私は絶対に大丈夫だと思いますけどね」

 と満面の笑みで答えた。

 アルは少し厳しい顔をして、

「油断は禁物だ」

 と忠告してきたが、レイは一瞬不思議そうな顔になり、納得したのか口元に小さく笑みを作ると、

「私にとって、ファラルが強いのは当たり前の事なんです。魔獣なんかに負けたりしません。もしそうだったら、私もファラルも今ここに居ませんから。1+1=2と同じ位私にとっては当たり前の事なんですよ?」

 と当然の事を語る余裕を持って答えた。

 そしてふと、レイが真顔になると、

「少しの間留守にします。その間に体調を崩されないように気をつけて下さいね」

 と別れの文句を言い終わるか終えないかという時に、レイはファラルに担ぎ上げられた。

 アルが驚いているのに見向きもせず、ファラルは無表情に玄関へと向かう。アルがすぐに正気を取り戻し、2人の後を追うと、玄関から出てすぐにレイの声が聞こえてきた。

「行ってきまーす」

 ファラルの体に顔が押し付けられているらしく、くぐもったレイの声が聞こえると同時に、ファラルの肩越しに袋を持っていない方の手で手を振ってきた。

 アルはしばらく呆気にとられて2人を見つめていたが、いつの間にか握りしめていた剣の存在で我に返ると、館の庭へ向かった。気付かない想いを抱えながら。



「「「・・・・・・」」」

「ほら、驚いてるみたいだからおろして、ファラル」

 サラとカナタともう1人、レイの記憶に無い金髪の青年が立っていた。年にしてまだ22~23歳程に見える。綺麗に切り揃えられた髪は長くも無いが短くも無い長さだ。穏やかな雰囲気を纏っている。

「おはよう、サラ、カナタ。それと・・・」

 レイはわざと不審そうな目を青年に向ける。警戒心を露にして少しだけファラルに身を寄せる。

 青年はレイの警戒心に気付き、

「今回、君たちのグループの護衛をする、キラバ・ルーディールです。見習いの騎士です」

 レイはその言葉を聞いて得心したような顔になると、

「私はグループのメンバーの1人で、レイといいます。隣にいるのが私の専属護衛をしてくれるファラルです。カナタは少し知ってるよね」

 と簡単な自己紹介をした。

「ファラルさん、少しお話が・・・」

 キラバがそう言ってファラルを連れて行った。

 レイは少しの間キラバに感情の読めない視線を向けていたが、一度ゆっくりと瞬きした後、

「忠告、ファラルに話しかけても反応を得られない時があるけど、話は聞いてるから」

 とサラとカナタに唐突にアドバイスを行った。

「私に甘いから変な行動する時あるけど、気にしないように。あと、沸点が低い所があるからやめといた方がいいよ、って言った時は素直に従ってね?」

 レイの言う事をサラとカナタは漠然としか理解できなかった。話の繋がりが見えないのだ。

「じゃあ、ファラルさんはアルシア隊長の小隊に居るんですか!?」

 護衛サイドでキラバの驚いたような声が聞こえた。

「「?」」

 レイを除く2人が不思議そうな顔をする。レイはただ無表情で護衛サイドに視線を向ける。

「12小隊と言えば、アルシア隊長を筆頭に実力トップクラスの方達ばかりですよね?ですが、ファラルさんの事を入隊式で見た覚えは無いんですが・・・」

 キラバはファラルに畏敬の念を込めた眼差しを送っている。だが、レイが見る限りキラバにも新人にしては実力があるだろう。レイ達のグループはレイがいる事で他よりも少し贔屓されているのだ。

「噂になっていませんか?ファラルは途中入隊なんですけど・・・」

「そうなんですかっ!?」

 レイは恐らく喋らないであろうファラルの代わりに答えた。

「おはよう!3人ともっ」

 キラバとの会話が始まろうとしていた頃、セイジが元気よく挨拶をしながら5人の元へ駆け寄ってきた。重いバッグを背負っていても結構な速度で走れるのは武術科だからこそだろう。息切れもしていない。

「「「おはよう」」」

 3人の声が揃って挨拶を返す。

「レイの保護者のファラルさん、ですよね?前に一度拝見しました。もう1人の方は、グループの護衛の方ですか?」

 丁寧にな言葉を発したのはセイジだった。

「はい、そうです。キラバ・ルーディールです。旅の間、君たちの護衛をします」

「そうですか、よろしく御願いしますね」

 キラバとセイジは微笑みながら握手を交わした。

(セイジは貴族階級、か)

 レイはセイジの様子を見ながらその事を実感した。


「そうだったんですか・・・レイちゃんとファラルさんは一緒に旅をしていたんですね」

 少しの間、レイがファラルとの旅の頃の事とファラルが隊に入った経緯をかいつまんで話していた。

「ごめん、少し遅れたかな?」

「待ったー!?」

 マリとマリアの声が聞こえた。マリアの手荷物をマリが少しだけ持っている。

「大丈夫、まだ馬車の時間じゃないから」

 サラの言葉に2人はホッと胸をなで下ろした

「あれ、そちらの2人は?」

 マリの言葉に、また護衛の紹介が始まった。

「レイ」

「何?・・・ああ、大丈夫。ちゃんと対策は立ててるから〜」

 キラバとファラルの紹介が終わった後、ファラルがただ名前を呼んだだけでレイにはファラルの言いたい事が分かったらしい。

「はい、お守り」

 レイは服のポケットに無造作に入れておいた小さな袋をキラバを含めた6人に渡した。

「何処でも良いから持っといて。軽い防御の魔法が一回使えると思うから。まあ、いらなかったら良いけどねぇ、捨てても」

 レイは笑いながらそう言っていたが、マリとサラは躊躇い無く、セイジは不思議そうな目をお守りに向けて、カナタとセイジは探るような目つきで、キラバは眉を少し顰めながら、全員がお守りをどこかしらにしまっていた。

「あれ、もう馬車こっちに向かってない?」

 マリアが耳に手を当ててそう言った。レイにはもっと前に聞こえていたので特に反応はしない。

「時間よりも遅いな」

 カナタが見えてきた馬車と時計を見比べて呟く。

「全てが予定通り、なんてそうそうある事じゃないと思うけど・・・」

「・・・それもそうだね」

 サラの言葉に急に意見を変えたカナタに、レイは心の中で(鶴の一声)と呟いた。



 荷物を積み込み、馬車に乗り込んだ8人は慣れていないと乗り難い馬車の座席に座っていた。全員に何度か乗った経験があったらしく、乗り難そうにしている者はいなかった。

「寝ちゃったね」

 マリアの言葉に全員の視線が一瞬カナタの肩に寄りかかって静かな寝息をたてているサラに向けられた。

「俺の分まで早起きして弁当を作ってくれたんだ。俺、寝起きは良いんだけど、朝早く起きるのが苦手だったから。今は何とかなってるけど、幼なじみだからそんな情報筒抜けだよ」

 そう言うカナタの目は何処までも愛しさに満ちあふれていた。

「告は・・・」

「何?」

 セイジが無謀にも「告白しないの?」と言いそうになった瞬間セイジの足が一瞬で凍りついた。カナタの顔は笑顔だが、それが一層カナタの本気を表している。

「次は、温度入れるから」

 ボソッと顔を下に向けて呟いたカナタの言葉にセイジの顔が青ざめた。首をぶんぶんと縦に振っていた。了解の意味だろう。

「馬鹿」

 マリが全員に聞こえるように呟いてセイジは完全に撃沈した。


『ねぇ、伝えちゃえば良いのにね?・・・明日が、今日と同じなんて誰にも分からないのに』

 レイは無表情でファラルに心の声を送った。

『それは、経験談か?レイ』

 淡々と返してくれるファラルにレイは何時も安心して全てを曝け出す。

『そうだね。ファラルは、後悔する事は無いよね。過去は変えられないと分かってるし、後悔するような事をしない。自分の行動に絶対の自信を持ってる。私は、自分に自身が無いから。過去に囚われて生きてるから。後悔してるから、変えたい過去が出来てしまう』

 ファラルは何時も、レイの話を真剣に聞いてくれる。だが、助言をする時としない時がある。今回は、何も言わなかった。


「カナタ、セイジみたいにストレートに言う気はないけど、サラって結構人気あるのよ?」

 マリアの言葉にカナタが顔を上げる。見せてくれた表情は底の見えない微笑。護衛2人とレイ、そして眠っていサラ以外が思わず背筋に鳥肌を立ててしまうような笑みを浮かべたまま、カナタは、

「それ、具体的に聞かせて欲しいな?」

 と穏やかに聞いてきた。その表情と声とは裏腹に、皆“教えたら、サラを好きになっている男は酷い目に遭う”と本能的に察してしまった。

 マリアは、声を出せないでいる。カナタはさらに笑みを深めて来る。マリアの心境は崖に追いやられた兎で、カナタは捕食者だ。そんな中でマリが助け舟を出した。

「サラが起きちゃうよ」

 カナタはその一言で一気に纏っていた雰囲気を鎮め、また愛おしそうにサラの寝顔に魅入った。

「マリア、その話は被害者が出そうだから今後口にしないようにね?」

 マリの忠告に、マリアは素直にコクコクと頷いた。


「あれ?」

 途中で昼食を摂り、また馬車が走り出して各々が自由に長い馬車の中での時間を過ごしていると、急にマリが声を上げた。

「どうかしたのか?」

 カナタが声をかける。マリアはサラと同じくマリの肩に寄りかかって眠っている。セイジは眠気を飛ばすためだ、と御者台に座っており、キラバは揺れる馬車の中で報告者のような物を器用に書いていて、レイは窓から外を眺め、ファラルは乗った時と同じ体勢のままだ。カナタとマリは本を読んでいた。

「否、今更なんだけど。『ヴァルギリ』の解毒薬を作るのが、今回の課題だよね?なら、本当に薬効があるのか証明するためにはどうするの?」

「確かに、『ヴァルギリ』がなければその効果を証明できない。そこら辺で売ってる物でもないしな。作れる筈もないし・・・」

「問題なし。その事は既に予測済みだから、対策もちゃんと練ってます。人体実験になっちゃうけど、本人の了解は取ってあるし」

 レイは淡々と言葉を紡いだ。だが、その言葉は余りにも衝撃的だった。

 「人体実験って・・・駄目だろう、流石に」というマリの言葉に、

「そうでもないよ。課題の規約に、事情を全て話した上での同意であれば自分の作った薬を他人に服用させてもい良い。ただし、必ず教師をその実験の場に呼んでおく事。ってあるから」

 レイは淡々と事実を述べる。それでもカナタとマリは納得していない。苦い顔をしているのはキラバも同じだ。

「本当に、全部の事情を話してるのか?薬が学生の開発した物である事も、実験体になる事も」

 レイは窓の外の景色から目を逸らすと、その目を2人に向けた。

「信じてないの?それなら、一緒に旅は出来ないわ。・・・それに、疑われるなんて心外ね。頼んだ相手は事情を全て分かっている上で同意したのに」

 何故反対するのかが分からない、という表情でレイは2人に失望を混ぜた口調で言った。そして溜息を一つ吐くと、冷ややかな目で2人を見つめながら、

「そこまで言うなら、カナタとマリがもう一度説明をしてみれば?意思は変わらないと思うけど」

 と妥協案を出した。

 重苦しい空気が流れ始めた。その空気を打開しようと動いたのはキラバだった。

「3人とも、今から仲違いしてどうするんですか?旅は信頼が大切なのに」

「キラバさん、私は仲違いをした覚えはありませんよ?議論をしているんです」

 レイはにこやかに訂正を入れた。

「さん付けはやめて下さい。キバ、と呼んで下さい」

 キラバは必死に話題を逸らそうとしていた。レイはその気持ちを汲み取って、

「さん付けは止められません。でも、キバさんなら。そう呼んでも良いですか?」

 とキラバ、もといキバの話題に乗った。

「カナタ君とマリ君も自由に呼んでくれていいですよ?」

「「あっ、はい」」

 戸惑った声で返事をした所で、レイはまた窓の外を見つめた。マリとカナタも話を蒸し返すような事をせず、手元の本に目を落とした。

 朝早くに出発し、目的地に着いたのは日も沈みかけた頃だった。



「体が強張ってる。ずっと同じ体勢だったから」

 マリアはマリに起こされて馬車の外に出ると軽く体を伸ばして強張りを解していた。レイは降り立った瞬間から周りの観察を始め、ファラルはレイの隣に立ち、カナタも周りを物珍しそうに見ているサラに視線をやり、セイジはマリア同様体を軽く動かし、マリは御者に礼を言っている。キラバはマリの傍らにいる。

「さて、今日は宿に泊まって明日の旅のルートなどを決めるミーティングを行う。森に入るのは明日の朝7時だから、6時半には宿を出る。部屋割りは、キバさんとファラルさんが同室で、女子と男子の部屋」

 宿に向かう道すがら、マリが一応班長のような役柄なので必要事項を話しながら全員を先導する。

 マリの足が止まったのは、一度に泊まれるのが20人程度の宿の前だった。

「予約している学園の生徒の者ですが・・・」

 マリがそう言って中に呼びかけるとすぐに、恰幅のいい、白髪まじりの焦げ茶色の髪を頭の上でお団子にした女将らしき人が笑って姿を見せた。

「ああ、学生さん達。遅いから主人と少し心配してた所よ。男の子が3人、女の子が3人、大人が2人で3部屋の予約よね?準備は出来てるわ。お風呂も沸いてるし、食事もすぐに出せるわよ」

「ありがとうございます。先ずは部屋に荷物を置いて食事をしたいと思ってるんですけど」

「分かったわ。これが鍵。青いのが2人部屋で、赤いのが3人部屋。2階の一番奥の部屋の右側2部屋と左側の1部屋よ。トイレは1階の浴場の隣。食事はここで出すわ」

「わかりました」

 マリは渡された鍵を配ると2階にあがって行った。全員がそれに続く。

「荷物置いたらすぐに下に集合」

 マリの指示に全員が頷き、部屋に入った。



「良い宿ね。こじんまりしてるけど手入れが行き届いてて、私の性に合ってる」

 マリアの言葉にサラも頷いて、

「うん、女将さんも優しそうだし」

 と言った。

 レイは会話を聞きながらも無口で荷物を置いていた。マントを脱いで荷物の上に投げると部屋の中の観察を始めた。

(建物の造りは良し。掃除も隅々まで行き届いてて、布団も日干しをしてある。髪の毛一つ落ちてない。クモの巣も張ってない。窓も綺麗に磨かれてる)

 女将さんとその旦那さんだけでやっているのならとても良い仕事をしている。

「レイ?行くよ」

 マリアの呼びかけにレイは笑って振り向いた。サラとマリアの後を付いて階下に降りて行く。一番遅かったのが女子だったようだが、キバとファラルも今まさに席に座ろうとしている所だった。

「食事、運びますね。近くの山で採れた山菜と兎肉のスープ。小麦で作った自家製のパンに採れたての野菜で作ったサラダ。ドレッシングは3種類、全て自家製よ」

 そう言って出された料理はどれもおいしかった。

 セイジは何度もおかわりして、女将さんにも旦那さんにも気に入られていた。ファラルも黙々と出された物を食べている。レイも同様だ。マリアとサラはサラダを気に入り、カナタはスープを一度、マリはパンを一度、キバがスープとパンを一度ずつおかわりしていた。

 食事が一段落し、ミーティングが始まった。マリが持っていた地図を机に広げてルートを決める相談を始めた。

「一番近いのは直線距離で森の真ん中を突っ切るルート。上手くいけば、3日とかからない」

 マリの言葉にレイが笑ってストップを出した。

「駄目。川沿いが一番いい。方向を見失わないし、幾らカナタが青属性が得意だからといっても何が起こるかは分からないから。それに皆、旅なんて経験無いでしょう?だから、遠回りでも安全性から言えば川沿いが一番良いの」

 女将さんが話を聞いていたらしく、

「その子の言う通りよ。昔、森を突っ切ろうとして結局遭難してしまった子達が何人もいるの。今回も他の宿に泊まった子達が最短ルートを選んだらしいけど、学生がその道を使って帰ってきた子達は数える程よ」

 とレイの意見に賛同する。

 地域の人の言葉に、マリは説得力を感じたらしく、

「分かった。確かに、レイ以外に本格的に旅した事がある者はいない。レイの意見を採用」

 そう言って、マリは地図に印を書き始めた。

 どんどんと明日の事が決定していき、全てが決定した頃には既に9時を回っていた。

「話し合いも終わったし、明日も早いからお風呂にしようか。6時には起きてね」

 マリがそう言って全員が夜着を取りに部屋へ向かった。



「レイもサラも肌白っ!!」

 マリアの声は反響して浴場に響いた。マリアは日に焼けた健康的な薄い小麦色だ。サラは室内で本を読んでいるので白い。レイは体質で肌が焼ける事はない。

「しかも、2人とも私より胸でかい」

 マリアの叫びにレイもサラも苦笑するしかなかった。レイの胸元にある筈の刻印はなぜか見当たらない。

「マリアだって、ちゃんとあるじゃない。背も高くて、羨ましい。マリアもレイも髪の毛も真っ直ぐで・・・私ちょっとくせ毛だから・・・」

 悲しそうに言うサラの言葉に、

「何言ってるの!?私はデカ女よ。サラは可愛いから、ずっと今のままでいて〜。癒しだもん」

 とマリアは慌てて言った。

「その前に、隣に聞こえるかもしれないっていう心配しないの?多分聞こえてるよ、さっきまであっち側話してたのに急に声聞こえなくなったし、居たたまれなくなったんじゃない?」

 レイの言葉にマリアがハッとなって隣に叫ぶ、

「聞いてたの!?今の話っ!!」

「ごめん、聞くつもりじゃなかったんだけど・・・」

 マリの困ったような、申し訳ないような声が返ってくる。

 サラが顔を真っ赤にして俯く。レイは平然として恥ずかしさのあまりへたり込みそうになったサラを支えた。マリアはさっきの勢いは何処へやら急にしおらしくなり、黙り込んだ。

「あれ、どうしたの?顔赤いよ。のぼせた?それともガールズトーク聞いちゃったの?・・・聞いちゃったん、だね」

 キバの声が聞こえた。恐らくファラルも入っているだろう。キバの言葉から、あちら側もどうすれば良いのか分からないらしい。

「そんな時は、開き直って聞いた話にコメント返してみれば?勿論言葉を考えて」

 キラバが3人に助言を与えた。サラとマリアには聞こえないらしいがレイには聞こえた。

「サラ、俺はお前の髪、柔らかくて触り心地良いし、好きだよ」

 カナタの言葉にサラはまた真っ赤になって、「ありがとう」と小さく答えた。

「マリア、さっきはごめん。でも、僕から見ればマリアの身長なんて高くないし、可愛い・・・妹だよ」

「こっ、こっちも少し動揺しすぎた。ごめん」

 マリアはそう言って、隣に謝った。

「3人ともムガッ・・・ウーッ ウーッ」

「「お前は喋るな」」

 セイジだけはコメントを言う前にカナタとマリに止められた。

 その出来事で、その場は和み明日への支障はなくなりそうだった。



「おやすみ」

「うん、おやすみ」

「明日は早いね」

 女子部屋では、お風呂からあがってすぐに静寂が訪れ、次第に静かな寝息が2つ規則的になり始めた。レイだけはゆっくりと起き上がり、窓の外から見える夜の空をじっと見つめていた。





 


 

 

 



 今回は旅ではなく、旅の直前です。ファラルともう1人の護衛のキラバさんが登場です。その内、登場人物表を作りたいと思っています。

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