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血の契約  作者: 吉村巡
57/148

56:分かれた後の3人

「動きやすくて丈夫な服・・・」

「コレなんか良いんじゃない?マリア」

「どれ?」

 マリアとマリは一軒の店に入り旅に着ていく服を選んでいた。

「うん、結構良いかも。シンプルだけど機能的だし」

「2〜3着同じような服買って、着回せば良いね。色違いもあるから」

 そう言って次々とマリが服を見繕って行く。マリアはその様子を見ながら、

「マリってさ、何でもそつなく・要領よくこなすよね。何時でもしっかりしてるし、冷静だし・・・」

「何言ってるの?寧ろ、何が言いたいの?マリア」

「私がすっごい時間かけて悩んでる事を店員さんに聞いてあっさり条件ぴったりの物を探してくる事がよっ!どうせ私は要領悪いわよ!店員さんに聞けば早いなんて事気付かなかったわよ!」

 息継ぎなしでそう言いきるとあらかさまに自信なさそうな顔になった。

 マリは溜息を一つ吐くと呆れたような顔と口調で、

「何でそんな事で不機嫌になるの?マリアにはマリアの美点がある。要領が悪くたってその分どんな事にも粘り強く続けられる。それはマリアの美点だよ?」

「・・・それでも、何で双子のくせにこんなに違うの?私が直情径行で負けず嫌いなのに、マリは思慮深くて冷静沈着で頼りになって無駄な事はスッパリ切り捨てられるでしょう?どうしてこんなに違うの?」

 マリアはマリにコンプレックスを感じているのだろう。それと同じでマリも小さな頃からマリアに憧れていた。それはやがてある感情に変わり、それ以来ずっと心の内に秘め続けていた。両親も気づいているのだろうが、止める気はないらしい。

「はいはい。マリアの僕に対するコンプレックスは分かったから、服これで良い?会計は僕がやるから入り口付近で待ってて」

 マリは軽くそう返すとマリアに勧めた服を3着持って会計に向かった。

 因に、共同の財布はマリが持っている。これは両親が決めた事だ。確かにマリアに財布を持たせるのはマリも危なっかしいと思っている。

「お待たせ、って。・・・何泣きそうな顔してるの?」

「そう言えば、私って共同使用の財布の管理任された事無いな〜、って。そんなに頼りない!?危なっかしい!?」

「うん」

 マリがすっぱりとマリアの傷つく事を口にすると、もっと沈んで行くマリアの手を取って歩き出した。

「大丈夫。そのストッパーが僕だから。対極だからこそ、良いんだよ。それに、寧ろマリアの方があの人達に可愛がられてるでしょ?」

「そうだけど・・・」

「寧ろ、僕の方がぞんざいに扱われてる上にマリアの事よく奪われちゃうし・・・」

 事実だった。無茶をして叱られるのは守る事が出来なかったマリで、マリアに買い物に誘われても相手役を両親に奪われる事はザラにある。マリが早熟なのはそう言う理由もあるだろう。

「・・・そういう顔見せるの、僕と一緒に居る時だけだよね」

「見せられる訳無いでしょう!?こんな情けない姿っ!!」

「変な所でプライド高いよねぇ、マリアは」

「うるさい」

「可愛いよ」

「歯の浮くような台詞はやめて。鳥肌立って来る」

 漸く元のマリアに戻り、マリは微笑んだ。

「早速、準備は始めとかないとね!」

 気合いを入れ直したらしいマリアをマリは翳りを帯びた穏やかな瞳で見つめていた。




『目覚めれば良いな、彼女が』

 セイジは剣の手入れする道具を買いに武器屋を訪れていた。道具を見ていると、レイに言われた言葉が思い出された。

(どうして、知っているんだ?誰も、知らないはずなのに)

 そう思うと、セイジの気分は沈んで行った。

 記憶の底から甲高い子供の悲鳴が聞こえて来る。耳を塞いでいても必ず聞こえる悲鳴。彼女はまだ、目覚めていない。

「お客様?いかがなされましたか?」

 様子が変だったのだろう。店主が声をかけてきた。セイジは記憶を頭の中から振り払って笑顔を作ると、

「いえ、特に。それよりも、手入れの道具に悩んでしまって・・・」

 と当たり障りの無い答え方をした。


 セイジが必要な物を買って店を出ると、次は花屋に向かった。

「白百合とポピーを花束にして下さい。花瓶に生けられるように」

 店員にそう言うと代金を払い、花束を受け取り花屋を後にした。

 自宅に帰る前に、自分の家の隣を訪ねた。家人は何時ものように簡単に通してくれる。

「調子はどう?今日は白百合とポピーだよ。昔、花が好きだったから何時も花になるけどいいの?」

 セイジがそう語りかけても彼女は何も返してこない。当然だ。彼女は眠り続けている。

「前に、面白い女の子が編入してきたって話したよね。彼女の他にもう4人居るんだけど、学校の課題で短期間の間だけど山に行く事になったんだ。帰ってきたらその時の話するから、だから、そろそろ目覚めない?」

 花瓶の花を変えながらセイジは話しかけ続ける。彼女の両親は目覚める事の無い彼女に心を痛めている。魔法によって命を繋ぎ止めている彼女は眠りながら成長を続けている。


“体に受けた傷もあると思いますが、傷が癒えた今、お宅の御嬢さんが目を覚ます事が無いのは精神的な事でしょう”


 医者の見立てではそうだった。

「俺のせい、だね。君が目覚めないのは。・・・俺が、君を傷つけたんだ。身も心も」

「・・・・・・」

 言葉を返す者は何処にもいない。

 彼女の両親は、セイジが守りきれなかった事に責任を感じているのだ、と思っている。セイジが幾ら自分がやった、と言ったとしても信じてはくれなかった。

 セイジも、全ての真実を語る事は無かった。それは、逃げだった。怖かったのだ、彼女の両親に憎まれるのが、恨まれるのが。

「許してくれ、何て言える立場じゃない事は分かってる。恨んで良いから、憎んでいいから、嫌っていいから、喜んでその罰を受けるから、そんな事だけで許される罪じゃないって分かってるから、だからどうか目覚めて・・・」

 セイジの悲痛な言葉に、昔のように女王様のように高圧的な態度と口調でセイジの情けなさを鼻で笑う彼女の笑顔と言葉が返って来る事は無かった。

 しばらくベッドの傍らの椅子に座り、彼女の寝顔を覗き込みながら時が過ぎた。そして立ち上がると、

「また来るね」

 と彼女の前髪をそっと撫でて部屋から出て行った。

 

 今回はマリアとマリ、そしてセイジの分かれた後を書いてみました。

 マリアはマリにコンプレックスを抱いています。マリの方はマリアに自分に無い物を持っている彼女を大切にしています。

 セイジの方はレイに言わた言葉を引きずっています。眠っている彼女の事は追々書いて行きたいです。

 彼女の事で、魔法を使って生きながらえている。というのは、科学力が発展していないので魔法によって何も食べなくても生きて行けるという意味です。

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