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血の契約  作者: 吉村巡
56/148

55:皆でお出掛け

 からっと晴れた晴天の空には雲一つなく、太陽はさんさんと地上を照らしている。夏の虫が完全に活動を開始し、鳥はその虫を求めて大空を舞っている。

 だが、レイは特に夏に思い入れがある訳でもないので目の前を通り過ぎていく人々をただ傍観しているだけだった。待ち人はまだ誰も来ていない。それもそのはず、レイは約束の時間より遥かに早く集合場所で待っていた。学園内に入っていく人々、つまり生徒達はレイがそこに存在していないかのように気にも留めずに素通りしていく。

 レイが早くに門の前に来たのは初めての友達との買い物に浮かれた訳ではなく、魔法の効き目の確認と、【蓮華館】に現在お客が来ているからだ。

(・・・買い物、何時間で終わるかな?)

 レイは暇があれば本屋に寄ろうと考えていた。約束の時間まで後10分。最初に来たのはセイジだった。周りを確認しているがレイに気付く事なく、左門の所で止まった。レイがいるのは右門だ。

(ここまで存在感がなくなれば十分か。館では、迂闊に本気で試せないからな)

 レイの悩みの種の一つだった。アルがいる限り、館での目立つ行動は慎むべきなのだ。そんな事を思いながら存在感を表に出す事なく、セイジに近づくと弁慶に軽く蹴りを入れた。そこで漸く、涙目になった彼はレイの存在に気がついた。

「何すんっ」

 レイは何かを言おうとしたセイジの口を顎を軽く殴る事で止めた。周りの生徒はセイジを気にしながらもレイには全く気に留めてない。

 だが、じわじわと来る痛みに顔を顰めているセイジはそんな状況に気づいていない。

「セイジが最初で良かった。マリアやサラで試したくは無かったから」

 レイはとても素敵な笑顔でセイジに笑いかけた。今はちゃんと存在感が人並みにある。

「・・・最初と、態度全く違うな」

 怒るのも通り過ぎて、遠い目をしたセイジの言葉にレイはさも不思議そうに可愛らしく首を傾げる。

「私は呼び捨て=対等だと思ってるから年上だからといって敬意を払うつもりはないの。まあ、例外もあるけど。年功序列と言う言葉知ってる?自分より年齢・勤務歴が長いものを上に見なす言葉なんだけど私って、年齢と学年が合ってないから同学年の人には呼び捨てか否かなんかで態度変えるよ」

 キッパリとレイは言い切った。セイジは少し過去の自分を振り返って後悔した。

「二人とも、どうしたの?」

 穏やかな声に聞き覚えがあり、レイは先ほどから感じていた気配に向かって振り返った。

「腕が落ちてないかセイジで試してた。サラとカナタが来たって事は、マリアとマリは時間ピッタリ派?」

「遅刻は考えてないのか?」

 カナタの言葉にレイはあっさりと頷いた。

 そのままマリアとマリを待っている間、レイはセイジに一つの質問をされた。

「レイって何時来たの?」

「セイジが来る前」

 正確な時間は教えない。他人をからかうのは面白い事だ。相手が物凄く真剣なときにもからかう事があるので怒られる事があるのだ。ファラルにではないけれど。

「どのくらい前?」

 サラが興味を持って話題に乗ってきた。

「ザッと 2(1×3600)+17(1×60)+42 かな?」

 授業で習う外国語と計算で伝えると全てが伝わらなかったらしく、全員が首を捻った。

「2(1×3600)+17(1×60)+42」

 不意に男の声が聞こえた。続いて女の声も。

「で、答えは7200+1020+42=8262」

「おはよう。計算は正解」

 レイの言葉に、マリアは満面の笑みを浮かべる。

「それが秒だとすると・・・」

「えっと、2時間17分42秒だね」

 マリアは相変わらず計算が速い。

「そんなに待ってたの!?」

 セイジの驚きの声に、状況が見えていないマリアとマリが怪訝そうな顔をした。

「うん。居候?させて貰ってる所が普通の場所じゃないから、客人がよく来るの。そんな時は外に出るようにしてるから、丁度いいし早めに来とこうかな〜って思ってね」

 レイの言葉にカナタが、

「どうして出る必要がある?」

 と聞いてきた。レイは微笑んで、

「理由は特に無いけど、強いて言うとすれば見つかると面倒だから、かな?私にも身元引き受け人の人にも。私の保護者は隊員だけど、私は関係ない者だから」

 と答えると「早く終わらせたいから行こう」と言って、颯爽と歩き出した。



 学園から一番近い通りの入り口まで来た6人はそこで一旦立ち止まっていた。レイは存在感を上手く消しているのでそこまで目立つ事はないが、周りにいる5人はそれぞれに違うタイプの美形どころで、人々の注目の的になっていた。

「で、何処の店で買うつもりなの?旅道具一式」

 レイの言葉にカナタとマリ、マリアが事前に話し合いをしていたのか、

「うん、セットで買うと安くしてくれるお店で品質が信頼できる上に学生割引が効く所にしようと思って色々調べたんだけど・・・一番良いお店は裏通りにあるから結論が出なくて」

 と言うマリアの言葉にカナタとマリが頷いた。

「そんなに治安が悪いの?」

 レイの言葉にサラが、

「そうね、学校付近にある通りだからそこまで酷くは無いんだけど・・・他校の生徒に絡まれる事が良く起こるらしいの。大人の方がまだ酔っぱらっていたりする程度だから逃げれば平気なんだけど、他校生だとお金を巻き上げられたり暴力沙汰になったりした生徒が毎年何人も出てるわね」

 レイはその言葉にさして興味なさそうに相槌をうつと、当然の事のように悩んでいるカナタ達3人に対して、

「一番いい店に行こう。どうせ絡まれる事は目に見えてるから」

 と意見した。だが、レイの意見は意見に見えて決定事項を下しているようなモノだった。マリは少し難色を示していたが結局その意見に落ち着いた。

 マリが場所を知っているらしく、迷う事なく全員を案内していく。


「この脇道を行くけど、ここが裏通りに行く道でもあるから」

 マリの言葉にサラは少し緊張しているようだった。カナタがさり気なく近づいてサラの手を安心させるように握っていた。

 確かに陽の光が長時間届き難い立地の道だ。レイが意識を集中させれば見覚えの無い制服を着た生徒が何人もたむろしている。

 全員がマリの後ろを付いて行くが、途中で何度か睨まれたり好奇の視線にさらされる以外に特に何事も起こらずに目的の店に着いた。

 まずマリが入っていくと次にマリア、サラ、カナタ、レイ、セイジの順番だった。

「いらっしゃい。ティラマウス学園の生徒の方が来られるのは珍しいですねぇ。何をお探しですか?」

 思ったよりも若く、穏やかな顔立ちと声音の店主らしき人物に声をかけられた。

「5〜7日間の旅道具一式を5セット」

 誰が答えるよりも先にレイがそう答えた。

「毎年、課題が大変なんですねぇ学園の生徒さんは。その日程だと魔獣退治の森か、稀少生物の生態観察が選択課題にあったと思いますが・・・お見受けした所、まだ高等機関ではないでしょう?中等機関の生徒なのでしたら余程優秀なんですねぇ」

 店主の言葉にレイは顔色一つ変えずに、

「テントは解体できて、雨風をしっかりと防げる3人用の物を2つ。重さは8kg以内」

「無茶言いますね・・・。勿論無い事は無いですが。それよりも、6人居るのに5人分で良いんですか?」

 レイはその言葉にコクッと頷いた。

「そうですねぇ、暫くお待ちください」

 そう言って店主が奥に引っ込むとレイは店内を物色し始めた。残りの5人はレイの様子を見て、店内の商品を見始めた。

「何か気になるご商品でも?」

 背後で聞こえた声に、マリアが驚いて振り向くと5つのリュックと二つの解体式テントを机に置いた店主の姿がそこにあった。レイだけがいまだに商品を見続けている。

「確認しに行きなよ。リュックは背負ったときにピッタリと体につく物が望ましい。中身は旅道具を入れてもまだ何かを入れる余裕が十分にある程度。ポケットなんかもあって機能的な方がいい」

 レイの助言にまずセイジが差し出されたリュックを背負っているが、驚いた顔をした。

「体にピッタリだ」

「だろうね。多分、店主さんがもう微調整してくれてるだろうから」

 レイは全てをわかった上で助言をしていたらしい。ここの店主は優秀だ。

「おや、それに気がついたのは貴女が初めてです。いい目をしていますね」

「制服を確認するふりをして目分量で客の体型を完璧に推測できる店主さん程ではないですよ」

 レイの言葉に店主が笑って、

「貴女の体型だけはわからなくて困りました。既に完璧な状態、が私のポリシーなので」

「あぁ、服なんかを見ていればわかります。すぐに仕立て直しが出来るように簡単に糸が切れるようになってるから」

(そんな事を確認していたのか?)という店主の思いは他の5人も同じだろう。

「で、全部でいくらですか?」

 急にレイがそう言った。店主は少し呆気にとられた顔をした後、

「見ない内から決めるんですか?」

 と逆に質問してきた。レイは微笑んでから、

「店主さんの腕を、信用はしていますから。良い商品を選んでくれている、と」

 レイの主観で店の評価をした。

「そう言っていただけて、光栄ですね。お代は、セット価格とテントも少しおまけしてあげますよ。学生割引で学生証は持ってますか?」

 店主の言葉に、マリが代表で学生証を出した。その割引も効いて、

「お代は、テントが5万5000クルートで旅道具一式が2万クルート。合計で15万5000クルートになります」

 その額にレイを除く全員が少し拍子抜けしていた。本当に安い。普通の店なら確実に20万クルートを超えているからだ。それでも学園側が補助金を出してくれるので生徒の自己負担は少ない。学園側でも旅道具の貸し出しをしているが、数がどうしても足りないのだ。

「テント代は私が持つ。皆は自分の分払って」

 レイの言葉に、全員が驚いた。

「いや、割り勘でしょう?こんな場合は」

 マリアの言葉を無視してレイはロリエがくれた財布から1万クルート札5枚と5000クルート札を一枚出した。それでもレイの財布は多くの札が残っている。だが、皆には財布の中身が見えなかったらしい。

「いやいや、おかしいでしょう!?何でリュック買ってないレイがそんなに払ってるの?割り勘だよ、こういう時はっ!」

 マリアの言葉に、レイはため息を吐いた。

「大丈夫。学園側から補助金が出るんでしょう?その分こっちに多めに渡してもらうから。それで同じ額にすれば良い」

 レイの説得に、全員は渋々ながら応じた。

「ありがとうございました。またおこし下さい」

 店主に見送られ、全員は意外と呆気なく買い物を終えた。



「次は?」

 レイの言葉にマリアが、

「旅行道具の中にも多少はあるけど、薬買っとこうかな〜って」

 と少し躊躇いがちに言った。レイは無表情で「まあ、当然だろうね」と答えた。

「そういえば、レイどうして5万5000クルートなんて払えるの?どんな仕事してたの?」

「特に、何も。お金は・・・なんかもう渡される物、って感じだから。家賃とか生活費とか学費とかは全部援助してもらってるし、必要な物も全部そろってるし、お金渡して来る保護者は執着無いから稼ぎの殆ど渡して来るしで、私の手持ちは増え続ける一方なの。贅沢な事なんだって分かってるけど・・・必要な物があればお金なんて特に必要ないのにね」

 レイは遠い目をしながらそう言った。

「そういえば、今度のお店もちゃんと信用できるの?」 

 レイの唐突な言葉に、マリは「ああ」と予想していたかのように言った。

「それでも、なんか複雑そうな顔ね」とレイが言うと、

「・・・腕は確かに良いんだが、学生割引とセット割引が効かなくてな。値段は良心的なんだが、まけてくれる事は無い」

「何処で、そんな噂掴んでくるんだ?」

 セイジの疑問に、マリはただ底の見えない微笑みを浮かべるだけだった。

「ここで、唐突だけど別行動でも取る?」

 レイの本当に唐突な言葉に全員の思考は一瞬停止される。

「何で?」

「諸事情」

 カナタの言葉に簡潔に返すが全員納得できずにその場に留まっている。

「・・・はぁ、言う通りにしておけば良かったのに。今更間に合わないわね。セイジ、周り囲まれてない?」

 セイジがレイの言葉で周りの気配を読むとレイの言う通り、四方を誰かに囲まれている。明確な敵意がゆっくりと近づいてきている。

「・・・囲まれてる」

「さっき別行動取ろう、って言った時にはまだ二ヶ所開いてたの。言う通りにしないから」

 レイは呆れて物も言えない、と言う表情をして億劫そうにそう説明した。

「それならそうと早く言えっ!」

 マリがそう叫ぶが、レイはにっこりと笑って、

「絡まれる事は目に見えてる。そう最初に言ったよね?」

 その言葉に全員がハッとする。

「何か知らないけど、私絡まれ体質なのよね。おかげで旅してた時も大変だった」

 こんな風にね、と言う意味も含めてレイが後ろを指すとそこには学園の制服ではない制服を着た生徒達がニヤニヤと笑いながら立っていた。

「結構な上玉揃い。男どもが邪魔だけど」

「確かに」

「しかも、学園のガリ勉ばっかり」

 当人達抜きでされる会話にレイを除く全員が苛立っていた。レイはこんな状況の中、微笑みを見せていた。


 パンッ

 

 サラに触ろうとした他校の男子生徒の手にカナタが平手を打った。目には怒りを含んでいる。

 相手はカナタの反撃に怒ったのか顔を真っ赤にして殴り掛かってきた。

「怒りっぽいんですね。まるで小さな子供みたいでみっともないですよ?」

 いつの間にか移動していたレイが口元に妖艶な微笑みを浮かべてカナタに向かうはずの拳を片手だけで受け止めた。そしてその手を軽く力を込めるように握ると、

 

 ポキン


 と小気味いい音を立てて関節が鳴っているかのような、骨が折れたかのような音を相手の手で鳴らした。

 相手の男子生徒は恐怖に目を見開いてレイの手から自分の手を引き抜くと、途端に痛みに顔を歪めた。

「小指を折りましたけど、複雑骨折ではないので安心してください。綺麗に折ったので寧ろ無茶をしたりしなければ治りは早いし、元通りどころか前より丈夫になりますよ。小指ですけどね」

 レイはそう言って子供のように笑った。

(小指なんて、丈夫になってもどう役に立つんだろう?)

 内心、そんな事を考えながらレイは笑い続けた。

 そのレイのマリよりも底の見えない微笑みに、相手は恐怖を覚え引き下がっていった。

「根性無いですね。ナイフ持ってたくせに」

 レイが興味が失せたように急に真顔に戻ると、少し残念そうにそう言った。事実、少し落胆していたのだ。本当の恐怖に怯える生徒の顔が見れない事に。

「ナイフ持ってたの?」

 マリアの驚いたような声と顔に、レイはあっさりと頷いた。

「返り討ちに、してあげたのにな・・・」

 寂しく、残念そうなレイの言葉に全員が、苦笑いを浮かべていた。

(((((旅、対丈夫かな?)))))

 今更な事を全員が思い、迫る出発の時を不安に思った。



 薬屋ではレイとサラが店主の魔女に気に入られて、恐らく殆どされた事のないオマケをしてもらい、旅用の薬セットを1つ購入した。

 非常食もマリの情報収集力のお陰でとても安く仕入れる事が出来た。

「あと他に、行きたい所とかある?」

 マリの言葉に、

「魔道具屋さんに」「同じく」とサラとカナタが言い。

「剣の手入れ道具が欲しいなっと思ってるけど」とセイジが言い。

「旅用の服を買いに行きたい」とマリアが言い。

「本屋かな。あと、ついでに教会行かないといけないかな」とレイが呟いた。

 全員の意見はバラバラだ。マリは全員の言葉に、

「じゃあ、今日はここで解散だな」

 と宣言した。マリは本当に仕切り屋だ。

「バイバイ、また明日」

「俺も、もう行く。また明日な」

 マリアはマリと、セイジは一人で別の方向へと進んで行った。残ったカナタとサラとレイは3人で同じ方向に歩き出す。魔道具屋の隣に本屋があるらしく誘われたのだ。

「こっちは遅くなると思うから本屋さんの中で待っててね。教会の場所知らないと思うし」

 サラの言葉は事実だった。レイは2人と分かれて本屋に入ると早速読んでいない本を探し始めた。

 少しの間歩き回っている間に5冊程の本を手に取ると店員の元に向かい、購入した。外国文学から動物の育て方までバラバラのジャンルの本を差し出された店員は一瞬眉をひそめながらも何も言わずに黙々と自分の仕事に取り組んだ。

 レイは紙袋に入った本を代金と引き換えに受け取ると店を出て隣の魔道具屋に入った。

「本屋さんで待ってて良かったのに・・・」

「いいの。ここに来たかっただけだから」

 サラの言葉に微笑んでキッパリとそう答えると店内を見回した。

「私にはあんまり縁の無い店だし。見学的なノリで」

 店内を見回すレイに視線を向けていたサラとカナタにそう言って納得させた。

 魔道具とは、魔力を増幅させたり、魔法の威力を上げたり、召還魔法に使ったり、と色々な用途があり、形状もアクセサリー・宝石・お札・刃物等、色々な種類がある。

 レイが店内を一通り見回すと、店主と共に何を買うかで悩んでいるサラとカナタに近づいた。

「何に使うもの?」

 レイの言葉にサラが、

「私、援護の魔法が得意だから森に行くし草花や樹木の精霊の力を借りれる道具を探してるの」

「サラは、精霊使い?」

「うん。突出した属性は無いけど使うのが苦手な属性もないの」

 と微笑みながら答えた。

「じゃあ、カナタは?」

「俺は青の属性が得意かな」

「だったら樹木もいけるか」

「良く知ってるわね」

 サラの言葉にレイは笑って、

「伊達に長年、ふざけたような力を持つ保護者と一緒に生活してた訳じゃないからね」

 と答えた。そして、並べられている魔道具を少しの間じっと見つめて、

「サラにはこれが良さそう」

 と言って緑の透明な石が嵌め込まれた指輪を指差した。

「これ?」

 そう言って店主に断りを入れて指に嵌めてみると、サイズはぴったりで手にしっかりと馴染んだ。カナタはサラの様子で何か気づく事があったらしくサラを凝視している。

「すごい。何か馴染んで来る気がする」

 サラの呟きにカナタが、

「分かる。急にサラの魔力が上がったから。緑属性の」

 と答えて、レイを見た。

「こんなお店には縁がないけど、魔道具の見立てで外した事はあんまり無いから」

 とニッコリと笑ってレイが答えた。

「ちなみに、カナタにはあっちにあったペンダント」

 カナタの見立てもしてくれるレイに、サラがペンダントを取って来るとカナタの首にかけた。

 レイの見立てが本当に確かな事が証明された。それ程までに良く馴染む。

「幾らですか?」

 カナタの言葉に店主が笑って、良心的な値を答える。

 サラの分まで支払うと店主は嬉しそうな笑みを浮かべた。サラは申し訳なさそうな顔をしてカナタに自分で払う、と言っている。

「そこのお嬢さん。この店で働く気はありませんか?」

 不意に店主にそう言われたレイは、悩むまでもなく、

「すみません。ありがたいですが、お断りさせていただきます」

 とキッパリと答えた。アル達に、アルバイトも止められているのだ。するとしたら館でしか出来ない。

「そうですか、また来てくださいね」

 そう言われて、3人は魔道具屋を後にした。



「教会はもう少し先」

 カナタが先導しながら道を歩いて行く。周りは相変わらず賑やかだ。

「ここがこの地区の教会」

 人口の多い町や国では何ヶ所にも教会が建っている。国の首都だと特にそうだ。

 目の前の教会には人影は疎らで、神官も教会内に居るらしい。

「お祈りするの?」

 サラの言葉にレイはまさか、とでも言うかのように首を振った。

「じゃあ、聖水?」

「違う」

 カナタの言葉にもキッパリと否定を入れた。

「「じゃあ、どうして?」」

 重なった2人の声に、レイは簡潔に、

「現状報告」

 としか答えてくれなかった。

「ここで言うのも何だけど、私は神様なんて当てにしてないから。祈るだけ無駄だ、労力も時間もね。だけど、これは私に対しての事だから他の人達の祈りを否定する気はない」

 と、要約すると“私は神様なんて信じてない”にも当たる言葉をレイは吐いた。

 サラとカナタは周りを見回し、誰も聞いていない事を確認すると溜息を一つ吐いた。

「レイ、軽々しくそんな言葉言うものじゃ・・・」

 サラの言葉をレイは軽く微笑んで遮ると、

「神様は、居るよ。でも、私の願いを叶えてくれる存在では無いと思うだけ。祈って全てが叶うなら、私は喜んで一生をかけて神に祈り続けてあげるわ」

 と顔に不釣り合いな冷たい口調で言った。その言葉は、2人ではなく神に向けて言った言葉でもある。もう何度目かになる台詞を、レイはまた口にした。

 教会内はそこまで広くは無かった。それでも、100人は収容できる椅子があり、レリーフは神の使いを表すペガサスや天使、白鳩などと共に、女の神や子供の神、男の神など様々な神が地域ごとに描かれている。

 この教会では、白蛇を手に絡ませている厳しい目をした男の神だった。

「神官様」

 レイがそう言って、レリーフに祈りを捧げていた初老の神官に近づいて行った。

「お手をお出しください」

 レイの唐突な言葉に、全員が驚いたが、神官は反射的に手を差し出した。

 レイはその手を取って片膝をつき、まるで祈っているかのようなポーズをとった。

 神官の方は、レイにしか分からないが手を出した時から雰囲気が変わっていた。

 暫くその体勢を続けていたがレイが手を離して「ありがとうございました」と告げると、神官は眠りから覚めたような顔になり、出て行くレイとそれを追いかけるサラとカナタを見つめた。




「私の用は済んだから、そろそろ帰る」

 レイはマイペースにそう言うとカナタとサラに手を振って人ごみの中に紛れて行った。

「何がしたかったんだろう?」

「さあな」

 サラの呟きにカナタが答える。今日のレイは旅道具をそろえて、別行動を始めた頃から変だった。

「なんか、世話焼いてくれたり、神様に頼らないとか言ったり」

 今日のレイのテンションは少し変だった。

 だが、まだレイとの付き合いは長く無い。これもレイの普段の姿、と納得して2人も帰路についた。



(現状報告、ご苦労様。・・・と言いたい所だけど、さっきの言葉は酷く無い?)

 レイは握っている神官の手から伝わって来る言葉に、

(事実だろう?言っておくが、私は執念深い。教会なんぞ、私には何の意味も無いだろう。現状報告だからとわざわざ教会まで来る事自体億劫なんだ)

 レイの今日の変な理由はこれだった。

(確かに、レイの言う通りだけど・・・一応は叶えられるよ?)

(私の本当に望んでいる事以外なら、な)

(それ言われると、反論の余地がないんだけど・・・)

(させる気がない。もう行く)

 レイは相手に唐突な別れを切り出して神官の手を離した。

 この場合、神官を媒体として相手と会話をしていただけなのでレイが手を離すと相手との会話は相手が出てこない限り不可能になる。

 神官はその間の記憶を塗り替えるので問題は無い。

 レイはするべき事を終わらせて、教会から出て行った。

 



 


 

 


 



 しばらくパソコンが壊れていて、小説を書く事が出来ませんでした。久しぶりに書いたので人物の性格が変わっている気がしてなりません。

 

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