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血の契約  作者: 吉村巡
53/148

52:ここに来た目的

「・・う、ん・・・」

 朝、鳥達が鳴き出す前に、朝日が昇ってくる前に、レイはゆっくりと閉じた瞼を開いた。

「起きたか、レイ」

「うん。久々に良い眠り。おはよう、ファラル」

「おはよう、レイ」

 2人は起き出すと、テントの外に出て川に向かった。

 レイは服のまま川の中に入ると水浴びを行なった。その姿は、川の精霊が水浴びを行なっているかの様に他人には見えるだろう。

「朝日が出て来たな・・・。レイ、上がれ。人が来るぞ」

 レイはファラルの言葉に素直に従った。水から上がると服は体に張り付き、体の線を露にしていた。髪からは雫がポタポタと滴り落ちる。

「着替えろ」

 レイはいつの間にか手にしているファラルの服を受け取った。ファラルはいつの間にか全身を乾かしてくれていた。レイはそこで生着替えを始めた。

 白く、真珠のように滑らかできめ細かい肌を露にしレイは恥じ入る様子も無く、堂々と着替え続ける。

(触るのは駄目だけど、見られるのは別に良いって・・・感覚の違いだね)

 レイはファラルの事を考えながら着替えを続ける。着替え終える頃、一羽の大きな鳥が舞い降りて来た。

「やはりここでしたか・・・探しましたよ?御二方」

 その鳥はタカの姿に戻ると、何時もと変わらない声で2人に声を掛けて来た。

「朝食は軽い物ですが用意出来ています。その後オオワシの元へ、話があるそうです」

 タカの言葉に頷くと、タカはまた鳥の姿に戻り戻って行った。ファラルはレイを抱きかかえるといつの間にか生えている黒い羽根を広げ空へ飛び立つ。

 昨夜宴を行なった所ではオオワシ他、何人もの大人が顔色悪く座っていた。どこかしら酒臭さを感じる。現在6時少し過ぎだが起きている子供も多い。大人達の酒臭さに顔を顰めている者が多数だ。

 その中へファラルは降り立った。羽根は霧散して消える。レイとファラルの姿を確認した子供達は一様に喜び朝の挨拶に来た。オオワシがフラフラとしながらも、子供に囲まれている2人の元へやって来る。

「二日酔いか?オオワシ。ファラルは何ともないらしいが・・・」

「ザルと一緒にするな!こっちは少し強いだけだ!!」

「足下も覚束無いのか・・・後で二日酔いに効く薬をやろう。新しく作ってみたが使う機会が無くてな」

「これは計算ずくか!?前回のよりも効くのか?その薬」

「前の薬の改良版だ。少しは効果が上がっていると思う」

 オオワシとレイの会話に、二日酔いになっている大人達は希望の光を見出していた。

「取り敢えず、朝食をいただきます。話も用事もその後ね?」

 レイがオオワシにそう断ると、レイとファラルの前には果物と食べやすくあっさりとした味付けのお腹に優しい野菜スープ。二日酔いの大人達に配慮されている。

 何時もの通り手早く食事を済ませると。タカに案内されてある馬車に向かった。




「ご自由にお使い下さい。何かあれば、御呼び下さいね?」

「ああ、食べ終わった方にこれを水と一緒に一錠ずつ飲ませて下さい」

 出て行こうとするタカに、ポケットから取り出した粒状の薬が入っている瓶を渡す。

「すみませんね。レイの薬は良く効くのでありがたいです」

 一言お礼を言うと、タカは本当にその場から立ち去った。

 レイは馬車内に視線を向けた。中心に作業場があり、周りを囲むように棚が上から下までビッシリとある。中身は薬草だったり毒草だったり、薬の材料になる物だったりする。

「ファラル、取り敢えずアルファの薬の材料を全部集めて固めて置いといて。次に《ヴァルギリ》の材料。よろしくね?」

 レイは道具の準備をする。

 ファラルは指一本で材料を集める。程なくして、全ての準備が整った。

「さて、始めますか」

 レイは腕を捲り、その場に座ると乾燥した材料をすり潰したり、木の実を割って中身を出したり、汁を搾ったり、混ぜ合わせたり、炙ったり、加えたり。

「・・・・・・出来た。何時も通りの薬で大丈夫だから助かる。人によったら耐性が出来るのが早い人がいるし」

「お前みたいにな」

「直ぐ治る代わりに、直ぐ効かなくなるからね。何でも」

 2人の会話にはしみじみとした物があった。1〜2度までは効くが3度目が効いた試しが無い。

「次に行こうか。時間勿体無いし」

 レイが独り言の様に呟くと、また無言で今度は《ヴァルギリ》を作り始めた。

「なんか、毎度毎度よくここまで透明な赤になるよね。何で失敗しないんだろう?」

「教えの賜物だろう?成功の証だ」

「喜んで良いのかな〜?私は別に、失敗しても良いんだけど・・・骨の髄まで染み込んでる『せめて薬の材料と料理の材料は無駄にするな』という母の言葉が私の失敗を許さないっ!!」

 レイは小さくそう叫んだ。その代わりに、力や命なんかは無駄にしている。

「お嬢〜!旦那〜!」

 オオワシの声が聞こえて来た。レイとファラルは出来上がった薬と毒薬を手に携えて馬車の中から出た。

「アルファの診察をする」

 レイの言葉はオオワシとその隣にちょこんと立っているアルファに向かって言われた言葉だ。

「そうだね。俺の馬車に来てくれと伝えようと思っていたんだ。依頼の品もあるしね」

「今更だが、すまなかったな。急に無理を言って」

「いいよ、いいよ。気にしないで。簡単な事だし」

 レイとオオワシは歩きながらこんな話をしていた。アルファは歩き出す前に少し物欲しそうな顔をしていたのでその欲求を満たす為にレイが手を繋いでいる。

 オオワシ専用の馬車に着くと中に入った。



「さて、オオワシ。ファラル。別室に移ってくれ」

 2人は大人しくとなりの部屋へ移った。

「アルファ、服を上に捲れ。心音を聴く」

 レイの指示に彼女は大人しく服を捲った。レイは心臓位置に手を当て瞼を閉じる。レイの感覚は常人よりも発達しているので指先の触覚だけで音を感じる事が出来る。

「うん、もう良いよ。前よりもほんの僅かだけど落ち着いてる、けどそこまで良くなってる訳じゃ無いからね?ただ、体が成長して心臓も体に伴って丈夫になっただけだから」

 レイの言葉はどこまでも義務的で淡々としていた。診断を下す時は何時も徹底している。

「薬はまだ効くから変えなくていい。補充分を作っておいたからタカに渡しておく。自分の体に異変を感じる事は無い?」

 レイの質問にアルファはフルフルと首を横に振った。

「前来た時から発作は何回起こした?」

「・・・一月に2~3回」

「うん、前よりは良いね。一緒に過ごしてた時は一日数回がざらにあった。それを考えれば、良くなっているんだ。このまま順調にいけば病気は治る。だから、未来に絶望する事は無いよ」

 レイが診断の時に必ず言う言葉。アルファは小さい頃、生きる事に絶望していた。その小さな体で発作の苦しみに耐えるには酷で、起こる度にこのまま死ねたら、と考えていた。

 苦しみが永遠だと思っていた時に、レイに希望を諭され、治る事を希望に今までを過ごして来た。

「治ったら、空飛べる?走れる?皆みたいになれる?」

 アルファの言葉に、レイはいつも頷いて答える。

「さあ、診断は終わりだ。外にデルタが待ってるから、行きな」

 馬車の扉の外にデルタの気配を感じ、レイはアルファに診察の終わりを告げた。



「何時も、ありがとね〜。お嬢の見立ては完璧だから・・・ついつい頼っちゃうんだよね。今、旦那に頼まれてたもの見せてるからこっちに来て」

 アルファが去った後、隣部屋の扉が開きオオワシが顔を出した。

「いや、診たい奴じゃ無いと診ないから。アルファを診たいと言ったのは私だから当然の事だ」

 レイがそう切り返しながら隣の部屋へ入った。

「流石〔トリグル〕だな。仕事が速い。全部でいくらだ?《ヴァルギリ》も作ったからそれ分も合わせて払う」

 ズラリと並んだ簡単に手に入らない材料を見てレイはオオワシに料金を聞くと、

「仲間から、金貰う訳にはいかない。気にすんな、全部持ってけ」

「払えるのに・・・」

「貰う必要ないんだ。金なら有り余ってる」

 レイは払うつもりでいた。昨日襲って来た人攫いから金や金目の物は抜き取って来たのだ。全てを合わせると気の小さい者なら持っているのも怖くなる程度の額が手元にある。

「あのな、アルファの診察から二日酔いの薬、一族の者を助けてくれた恩。そして、仲間と助け合うのは常識だ。だから、金はいらない」

 オオワシは確固たる意思でレイの支払いを断った。

「はあ、・・・・・・恩に着る」

 小さな溜め息を漏らすと、レイはそう言ってオオワシの言葉を受けれた。溜め息の中にはオオワシの頑固さに呆れているのも含まれる。流石、頭と言った所だ。

「ファラル持ってね?」

「当然だ」

 レイの言葉にファラルは短く答えた。

「じゃあ、そろそろ帰る。来週学校あるし、明日は下処理しないといけないし」

「そっか・・・。残念だけど、また来てね?今度はこっちが会いに行くかもしれないけど」

「楽しみにしていよう。まあ、間の悪い時に来ない様に」

「大丈夫。僕等は空を飛べるから」

 オオワシとレイの会話は自然なようで異質であり、平凡のようで非凡だった。



「今度はティタに負けずに会いに行く」

 タウがレイに向かって宣言する。レイの周りには子供が群がっている。その様子を大人達が微笑ましく見つめている。二日酔いの大人もレイの薬で大分楽になっているらしい。

「オオワシが帝国の方へ来ると言ったから、その内また皆に会えるだろう。それまで精進を怠るな。アルファは激しい運動は無理だが、ストレッチくらいなら許可する。ただし、誰かと一緒にな。無理を絶対にしない事」

 レイの言葉にアルファが少し顔を綻ばせて喜ぶ。兄的な心境のデルタもその様子を見て嬉しそうにアルファを見つめている。

「それじゃ、またな」

 オオワシにも皆にも聞こえる声でそう告げるとファラルの転移魔法でレイは昨日転移した場所に戻った。

「まあ、予定通りの帰還だな」

 レイは昨日と同じく人気の無い風景を見ながら隣にいるファラルを見上げる。

「戻ろうか、館へ」

 反応の無いファラルから目を逸らすと、レイは関門に向かってファラルと共に歩き出した。



 題と内容があまり重なっていませんね。題決めは難しいです。

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