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血の契約  作者: 吉村巡
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51:真夜中の酒盛り~大人達の時間~

「チビ達が我が侭を言って、済まなかったな」

 オオワシがレイとファラルが戻って来た早々、そう謝って来た。

「いや、ここの子供達は好きだ。汚れると早いが、それまでは純真無垢だからな。時々だが汚したくなるが・・・そんな目で見るな、実行する気はないよ。ただ、一番の問題はアルファだねぇ。一番素直で良い子なんだけど自分の意思や意見を持てなくなって来てるから、このままだと自分を持てなくなるかもしれないからデルタに気にかけるように言っておいて、後近いうちに少し怒らせてみて。発作が起きるかもしれないけど、自分を失うよりは良いから」

 レイはオオワシに向かって感想とこれからの対処法を述べた。

「荒療治だな。まあ、言われた通りにしよう。今は子供が寝る時間だが、今からが大人の時間の始まりだ。子供には匂いだけでもキツい酒を開ける。今からが大人の時間の始まりだ!」

 オオワシが頭としての音頭をとる。大人達はオオワシの動作に合わせて乾杯を交わす。レイとファラルも飲み物を押し付けられた。因に飲酒はどの年齢でも禁止されていないが(儀式やなんかでお神酒等を飲む事があるため)本格的に飲み始めるのは早くて15歳、遅くて20歳である。

 レイは飲める事は飲めるが現在まだ13だ。ファラルはレイの手の中にある酒をもぎ取って自分の手にあるお酒(アルコール度数はかなり高い)をまるで水の様に平然と飲むと、次にレイに渡された先程よりは弱いお酒をこれもまた水の様に飲んだ。

「相変らず、いけるねぇ旦那。本当にザルだ・・・飲み比べで勝てる気がしないよ」

 そう、オオワシの言う通りファラルはかなりの酒豪だ。そして二日酔い知らず。レイがお酒を飲む前にファラルが全てを請け負うのでレイは軽くお酒を飲んだ事はあるが殆どをファラルに任せるので酔った事が無い。二日酔いというものの苦しみもわからない。

「お嬢だって、普段一杯飲むか飲まないかだろう?二日酔いに苦しんでみろ〜!半日は気分最悪で居られるから」

 オオワシの言葉にレイはニッコリと微笑みを返しただけで終わった。怯み、諦めた顔のオオワシを見て今回は大人の時間にお酒を飲む事は無い、とレイは感じた。次から手渡されるのはジュースばかりだ。

「そう言えば、先程の服・・・帝国の学園の制服であった気がするが。何故レイ殿が着ていたんだ?」

 近くに座っていたトンビの大人が話しかけてくる。子供や親しい者以外は皆レイの事を“殿”付きで呼ぶ。ファラルの事もだ。

「ああ、その事か。学園の生徒になったからだ。因にファラルは帝国の軍に入ったぞ?魔法小隊隊員だ」

 ごく自然に淡々と、当たり前の事の様に紡いだレイの言葉は周りにとって衝撃的だった。

「血の雨が降るっ!正気ですか!?御二人とも!!」

「何を考えているんですか!?ご自分のお力をご存じないんですか!?」

「そっか〜。まあそんなヘマはしないと思うけど、無闇にっちゃう事は無い様に。今度遊びに行くね」

 最後の反応はオオワシだが、全員が恐怖に戦慄していた。そこまで恐れているのなら、どれもレイとファラルに対する暴言のような言葉は吐かない方が良い筈だ。

「ハハハ、そこまで信用無いか?着て早々血塗れではあったがな」

「血の雨か・・・一度見てみたい物だ。特定の人物の血でな」

 レイとファラルの棒読みで淡々とした言葉に、これ以上会話を続けるのは危険な事だと判断した周りは、少し話題を逸らしてみた。

「まあ、旦那の事は初耳だけどお嬢の事なら知ってたよ。その為に今日、ここに来たんだろう?」

「まあ、来る時に一応こちらの事情は伝えたしな。面倒な所だ、学校と言う所は。実力を知らず年齢に文句を言い、生徒を危険から守ろうとする。自己満足でな。自己責任で良いと思うのに・・・・・・」

「それが秩序じゃないの?お嬢。〔トリグル〕にも決まりはある。親が子を心配する様なもんだろう?」

「そのどちらも乱れまくってる様なものだ、私は。今の所乱しまくっていると思うが?ファラルと契約している上に私には親が居無い。秩序とは無縁の世界で生きている」

「堂々と自慢する事でもないと思うよ?ねぇ、旦那?」

「何を自慢するかは個人の自由だ。そして感じ方もそれぞれだ。秩序を乱しているの事に反論はしないが無闇に混乱を求める程、愚かではない。レイの言う秩序とは人間の決めた決まりであり、俺には関係ない」

 その言葉にオオワシは呆れる。レイはその通り、と言う風に頷いている。

「話を戻しますが、学校とここに何か接点があるのですか?レイ殿」

 その言葉に、レイは、

「課題と言うものがあってな。私は薬を作ろうと思ったんだが材料がな・・・。採りに行けるんだが教師が五月蝿くて、ここに頼んだんだ。迷惑だったか?」

 レイが済まなそうに言うと、聞いて来たトンビの長老は慌てて手を横に振った。

「滅相も御座いません。一族を助けて頂いた恩義、恩人であり仲間でもあります方のお頼みをどうして断れましょう?それは恥ずべき行為に御座います」

「そこまで偉い者ではないと、先程も言ったろう?」

「とんでも御座いません!」

 もう一人のトンビが口を挟んで来た。

「原因不明であった一族の中でだけ起こる遺伝性の病。どれ程一族の者が薬の開発を行ない挫折して来たか・・・。数年前の病の流行。ほぼ全ての者が病にかかり、死を待つだけであった私共に救いの手を差し伸べて頂いた。たった数日で病の原因を突き止め、薬を開発して頂いた。それによって、被害は最小限に留まり、一族は今も大空を飛ぶ事が出来るのです!感謝してもし尽くせる筈がありません!」

 感極まった風に語るトンビにレイは当時の事を思い出した。ティタ達もまだ小さく、オオワシもまだ頭ではなかった頃の事を。

 レイとファラルは旅の途中で死にかけの鳥を見つけた。それは一族の一人だった。うわ言で呼び続ける土地へ2人は気紛れに転移してあげた。そこには死んだ者を手厚く葬る死にかけの一族が大勢居た。敵意を向けてきはしたが死にかけの仲間を連れて来た事を直ぐさま悟り、隔離された健康体の元へ通された。その中にオオワシが居た。

 お礼をされるよりも事情を知りたい。と言ったレイの言葉に、オオワシは苦笑して事情を語ってくれた。話を聞いたレイは自分に伝染する事は無い、と判断しここまで連れて来た死にかけの鳥の元へ行った。既に虫の息であった彼にレイが自分の力を行使して苦しみを引き受けた。彼には伝言があったのだ。

 全てを伝え終えた後、彼は静かに息を引き取った。レイが引き受けたのは苦しみで病ではなかったからだ。彼が死んだあと、落胆するオオワシ達にレイは手持ちの薬草と豊富に揃っている薬草で薬の開発に没頭した。三日三晩、不眠不休で研究し改良し、薬は出来上がった。

 それを飲んだ患者は、死の淵から這い上がった。一族はレイとファラルに感謝した。レイはそれを軽く流すと、病の原因や予防法・対処法・症状・発見法等を伝授し、一族の仲間となって〔トリグル〕を去った。

 それからもちょくちょく顔を出したりしながら(1年に数回)レイは一族との交流を続けていた。

「助けられなかった、命もあるさ・・・・・・」

 レイの呟きが聞こえたのはファラルだけだった。

「お嬢!この珍味食べてみないか?」

「・・・・・・」

 レイはオオワシに勧められた物を無言で手に取り、口にした。

「何で反応無いのさ〜!」

「別に、このくらいの辛さ。どうってこと無いだろう?」

 差し出された物は干し肉を激辛のタレに漬けた物で、現在見つかっている中で世界中で一番辛いとされているタレに漬けられているので幾ら辛い物が平気な人でもトラウマになる辛さだった。

 レイはそれを顔色一つ変えず、口に入れ、咀嚼し、飲み下した。ファラルも食べているが特に顔色を変えていないし感想も無い。

 知識はあるのでどういう物かはわかるが、食べたのは始めてだった。

「毎度毎度、飽きないな。甘いもの、酸っぱいもの、苦いもの、臭いもの、固いもの・・・いい加減懲りたらどうだ?無駄だぞ?」

「その反応が、面白く無いんだよ!?お嬢も旦那も・・・何で通って来た道を簡単に通り越しちゃうの!?」

 レイとファラルは冷たい視線をオオワシに向けた。オオワシはその2人の視線に怯み、口を閉ざした。

「オオワシ、酒だ。飲まないのか?」

 タカが丁度良いタイミングでオオワシに酒を勧めた。オオワシは杯を差し出し瓶からは杯へなみなみと酒が注がれた。

「はあ、で。旦那、魔法小隊って何をしてるんだ?」

「さあ、書類やら研修やら実戦訓練やら、俺には対して必要ない事を延々とさせられる。対戦相手も脆弱でな・・・そんな事よりはレイと共に居る方が良いと思うような事をやっている」

 レイはファラルの言葉に呆れた様に溜め息をついた。それでも、レイはファラル以上にファラルに依存している。自覚はあるが認める事は少ない。

「相変らずだねぇ、旦那は。それって契約してるから?なんか制約でもあるの?」

「いや、特に決めてはないけどね。裏切らない、守り続ける、頼みを聞く、位を軽く決めてるだけで後は個人の自由。ファラルがその決まり以上の事をしてくれているだけ」

「契約者を守るのは、当然の事だ。私はレイが気に入っている。強さも、弱さもな」

「つまり、お嬢の事を愛しちゃってる訳ですね〜」

 オオワシの言葉にレイとファラルは暗く感情の読めない視線をオオワシに向けて来た。

「「「・・・・・・」」」

 無言のまま見つめあう三人の中で何とも言えない空気が流れた。オオワシはその空気を作ってしまった自分の言葉を今更後悔してしまった。

「聞かなかった事にしよう。今の言葉は・・・」

 レイの一言にオオワシは漸くその空気を脱した。苦い顔で誰にも見られない様に息を吸う。

「ファラル。もっと強いお酒飲んでみて。オオワシと飲み比べだ」

 レイが無邪気に宣言する。オオワシはその言葉に絶句した。周りの大人達は口々に囃し立てる。タカも面白そうな顔をして強い酒をどんどん持って来させる。

 ファラルとオオワシの前にはなみなみとお酒が注がれた杯が置かれる。声援は同じ位の人数だが勝つのはファラル、と皆が思っている。そしてオオワシの他にも挑戦者が出てくる。

 全員が飲み比べの準備をし、挑戦者達が一列に並ぶ。その手には同じくお酒が注がれた杯がある。声援は大きくなる。

「先ず一杯目」

 全員が酒を口に含む。直ぐさま二杯目が用意される。

「二杯目」

 同じ事が繰り返される。

 十杯目に一人が潰れた。二十杯目には残っているのは3人になった。ファラルとオオワシ、そしてハヤブサの男が残っている。ファラルの顔には何の色も浮かんでいないが後の2人は苦しそうだ。

 二十一杯目、ハヤブサが倒れた。ファラルとオオワシの戦いだ。

「三十杯目」

 オオワシはまだ耐える。ファラルは淡々と飲み続ける。普通でも、その量にお腹を膨らませるがファラルは全くの無表情だ。

「三十五杯目」

 オオワシはついに倒れた。

「勝者ファラル!・・・・・・オオワシ、明日は二日酔いに苦しめ」

 レイは高らかに宣言し、最後の呟きはオオワシにだけ聞こえる声で耳元で囁いた。オオワシは息も絶え絶えに、

「謀っ、た・・・な・・・」

 と言うと、意識を失った。正確には深い眠りについた。飲み比べで負けた奴には明日、二日酔い、という苦しみが待っている。

(謀ったも何も、予想はしていただろうに・・・。それに、乗って来たのはオオワシだろう)


 パンッパンッ 


 タカが手を叩いた。全員が一斉に注目する。

「さて、今日はオオワシも潰れたし、お開きだな。起きてて酔っている奴は夜風に当たって来い。行水もしてくれば良い。風呂の湯は既に温くなっていたので抜いた。風呂は朝か、今かだ」

 ファラルは涼やかな態度でレイの手をとると、今日の宿である用意されたテントへ向かった。現在は既に、真夜中の2時になっている。

 後ろでは大人達が様々な鳥に変化し夜空を切って飛んでいる。

「ファラルって、お酒の匂いも無いよね。あんなに飲んでるのに。もう少し人間的になれば?」

「悪魔に人間らしさ等、必要ない」

「上には上がいるのよねぇ」

「俺の上は父だ。その上を母が行く。母よりも強いのは祖父らしい」

「聞いた、聞いた。鍛えられたのよね?」

「嫌と言う程な」

 レイは声を押し殺して笑った。

「着いたな。久しぶりの2人きりだ。今日はゆっくりと眠れ」

 オオワシの言っていた事はあながち間違いでは無いかもしれない。それ程までにレイを見つめるファラルの目は他人からは見分けがつかないだろうが、優しく、愛おしそうな雰囲気を醸し出している。

「うん」

 レイは幼子の様に返事をし、ファラルに縋ると、安らかな寝息を立てて眠り始めた。ファラルは起こさない様にゆっくりと移動すると、ランプの灯りを消し、柔らかな肌触りの良い用意された薄い羽毛布団をレイを抱いたままレイに掛けた。

 レイの寝息は朝が来るまで途切れる事は無かった。

 

 ファラルの家族は凄いです。レイは会った事はありませんが、話は良く強請って聞かせて貰って居ました。

 

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