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血の契約  作者: 吉村巡
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49:許可と同行人とレイの独断役割決め

「お帰り。皆凄い格好だね〜」

 爽やかで清々しい笑みを浮かべながら部室に座って本を読んでいるレイの言葉を聞いて5人は一気に脱力した。

 カナタが一番に立ち直って、レイに一つ質問をしてきた。

「どうして屋上にいた?立ち入り禁止で鍵が掛かっていた筈だ」

 レイは目を見開いて今更そんな事聞いてくるの?と言う顔をした。

「開けようとしたから開いたの。方法は・・・今言うべき事ではないね〜」

 とはぐらかした。暢気な笑顔で変に間延びした言葉を使い言った言葉だったが、レイが笑った際に瞑った目が開かれた時に5人が見たレイの瞳が冷たく、立ち入る事を許さないという風だった。言いたかった言葉が喉につまり出て来なかった。


 コンコン


 唐突だが、部室には三つの扉がある。一つは普段出入りに使う部員だけが鍵を持つ扉で人通りの少ない廊下に繋がっているがその扉は細工がしてあって一目見ただけでは扉だとはわからない。二つ目は隣の図書室に繋がっている扉で厳密に言えば司書さんに与えられている部屋に繋がっている。最後の扉は資料室に繋がっていてそこから旧資料室にも行けるようになっている。

 今回ノックされた扉は図書館に通じる扉で、そこから入ってくるのは司書さん、先生方らしい。

「どうぞ」

 マリが呼び掛けると扉が開いて入ってきた先生は、

「どうされたんですか?ヘルマン先生」

 ヘルマン先生が何枚かの書類を持って入ってきた。

「簡潔に言うと、許可が出た。それで、旅の担当になるのが魔法小隊の新人でファラルと言う名前らしいけど・・・レイの保護者の方だよね。裏から手でも回したの?」

 冗談半分に言った言葉かもしれないがレイはにっこり笑って「ええ、回しました」とアッサリ答えた。

 その言葉にヘルマン先生を除く全員が絶句した。

「何かいけませんでしたか?実際に手を回してくれたのはアルですよ?」

「まあね〜。アル君に頼まれちゃったらね〜。無下に断りたく無いし・・・」

 レイはニコニコと先生は暢気な顔で言い合う。

「ああ、伝える事は以上。旅の予定日とか日程なんかは早目に伝えてね」

 殆ど会話をあまりする事無く部室を出て行った。

「早くに許可出たし、今週末には出発するから。あと、採ってきた材料はこの部屋に置いといてね、薬作る所は確保してるから材料ここから出さないように。今年はここ一帯薬草の出来悪いと思うから、見つけ難かったし小さかったでしょう?最悪の場合他の生徒に盗られるかもしれないし」

 レイは座り直して本を読みながら呟くように5人に伝える。その言葉にマリが顔を顰める。

「盗まれる事なんて無いって顔だね、マリ。でも、よく考えてみて木の実はどの位置にあった?どれだけなっていた?そして、今年の天気は曇りや雨が多く無かった?」

 レイの問いかけに全員に思い当たる節がある。

「確かに盗まれる可能性は低い。でも、旅人の性でね。大切な物・必要な物は肌身離さず持っている事。盗まれてからじゃ遅いし油断していると盗られてしまう。それが私にとっての日常だった」

 旅人だったが故にレイの言葉は重かった。マリは「わかった」と呟いて戸棚の何も容れていない下の段に材料を入れて行く。

「カナタ、サラ。保存の魔法を頼む」

 2人は頷いて、

『『地よ 植物よ 生命よ その輝きを 永久に保ちたまえ』』

 本当に永遠に保つ訳ではないが結構効力はあるので1~2ヶ月は保つだろう。カナタは多分、学年トップなのでもしかしたらもう少し長く保つかもしれない。

 レイは横目でその光景を見ながらぼんやりとしてきた思考を元に戻す為に立ち上がって部室から出て行く。

「何処行くの?」

 マリアの声を無視して部屋から出ると窓の外を見ながら歩き出した。ふと一点で立ち止まると無造作に窓を開けて一気に飛び越えた。因にここは三階だ。

 追いかけて来たマリアが青ざめた顔をするのが分った。レイはその顔に何も心動かされず、罪悪感も無く木を伝って地面へと降り立った。

 取り敢えず上を見上げるとマリアがホッとした顔で見下ろしているのが分る。マリ達がマリアに話しかけているのが聞こえた。マリアの隣でマリが顔を出した。

「何でそこに?」

 当然の疑問だろうがレイには当たり前の事だと思う。レイには強い理性があるが反対に思いついたら即行動、という場面もある。自分の納得に他人が追いつかない事もある。

 つまり、レイはマイペースなのだ。

「運動するため。皆も体力は作ってた方がいいよ?」

 聞こえるように答えるとレイは踵を返し森へ入って行った。





「うん、鈍っては無いな。いつも通りだ」

 レイは満足そうに呟いた。狙った的は100m程離れた木の幹で綺麗に丸が暗器によって描かれている。

「居たー!」

 レイが暗器を回収していると叫び声と足音が聞こえて来た。

「どうしたの?皆」

 レイが暢気に答えると全員が脱力したようにへたり込む。マリが疲れ切った声で、

「いきなり三階から飛び降りて、運動とか訳分んない事言われたら探しに来たくなるよ」

 と答えた。レイは「ふ〜ん。お疲れ様」と適当に答えてあげた。暫くの沈黙を破ったのはその状態を作り上げたレイだった。

「セイジ、一戦交えないか?カナタとマリも。サラとマリアは見学。旅で必要になる事だし、今やっとこう」

 レイは一人で勝手に納得し鍛練場へと向かった。5人は不審に思いながらも振り返らずに進んで行くレイの後を追いかけて行った。

「武器なんかは旅で持って行こうと思うタイプの物で、まずセイジ。礼儀は省略で」

 レイは無造作に近くにあった剣を掴むとセイジに声をかけてから立ち位置についた。セイジは少し戸惑いながらも自分に合う剣を見繕いレイの正面に立った。

「じゃあ、開始」

 レイが唐突に呟くと直ぐさま前に踏み込んだ。セイジは一瞬驚いていたが咄嗟の判断で剣を抜いた鞘をレイの剣を受け止めるのに使った。

 次にセイジが剣を弾こうと前に踏み込んだ時にレイは蹴りを繰り出した。セイジはぎりぎりでそれを避けた。

(うん、反射神経はいいな。でも、周りが見えてないかも・・・)

 レイが素早く後退するとセイジが反撃のチャンスとばかりに剣を振り下ろしてくる。レイはそれをセイジと同じく鞘で受け止めたがセイジには剣が前に行く感覚がした。

 勝った!とセイジが思った瞬間手応えが無くなった。

「首獲ったり〜」

 レイがセイジの耳元で囁いた。レイの剣はセイジの首元に突きつけられている。レイは鞘で受け止めたのではなく鞘を投げて時間稼ぎをしたのだ。

「忠告。攻めて行くよりも逃げる事を考えて。セイジは周りが見えてないから。後、誰かを守ろうとも考えないようにね?今のセイジには無理だから。やる役としては囮」

 レイはバッサリとセイジをバッサリと切った。

 セイジが納得出来なそうな顔をしているのを無視してカナタを呼んだ。

「魔術使いながらでもいいよ。とにかく実践形式で」

 カナタは少し眉を顰めて取り敢えず準備する。カナタも立ち位置につくとレイはセイジの時と同じように礼儀を省略して開始を宣言した。

 カナタはレイが剣を振り下ろしてくるのを受け止めるが魔術を使うのには躊躇しているようだ。レイはそれに苛ついた。

(未熟な子供が手加減して勝てる程、世の中は甘く無い)

 レイは突き出して来たセイジの剣を横薙ぎにしてカナタの持っていた剣を吹っ飛ばした。そのまま手を返してカナタを倒そうとするとカナタは漸く魔術を使った。

『風』

 短く叫ぶと風が起こり風圧によってレイの動きが鈍くなる、筈だった。

「うん。油断と出し惜しみと手加減をしなければ軽く反撃は出来るだろうけど・・・取り敢えず守り役だね〜。次マリ」

 カナタは無表情ながらも少し動揺しているようだった。

「風は読みさえすれば避けられるし、流せば風を全部受ける事も無いから」

 レイはカナタにそう宣言した。

「次、僕?」

 マリが苦笑して剣を選んでくる。

「何時でもどうぞ」

 マリがレイにそう言うと、レイは微笑んで「じゃ、遠慮なく」と言うと、レイは一気に剣を振り下ろした。

 受け止めてレイの剣を弾くと反撃して来た。目が本気になっている。

(うん。一番安定してるか)

 マリの剣を受け止めるとレイは一気に蹴りを繰り出した。目にも留まらぬ速さで吹っ飛んだマリは状況が理解出来ていないだろう。その首に剣先を突きつける。

「良し。一応受け身も取れてるな。マリも守り役。襲ってくる奴が居れば切れ。カナタは追い払うだけでいいけどね」

 レイはそう宣言すると使っていた剣を元の場所に戻した。

「サラは只管結界張って。マリアは・・・大人しくマリに守られる事。反撃は考えないように」

 レイはそう忠告したら、

「えっと・・・。何の確認?」

 セイジがいまだ状況を理解出来ていない様子で聞いてくる。

「旅でのこと。盗賊なんかと魔獣に対しての対策ね。私と同行者で後何とかするから、手は出すな」 

 レイが淡々と呟くが男共が、

「「「何で?」」」

 と聞いてくる。レイはその反応に一瞬呆れて、投げやり的に、

「私より弱い」

 と答えておいた。三人ともその後少し沈んでいた。





 鍛練場から部室へと帰る道中にレイが思い出したように5人に伝える。

「先生に伝えておいて欲しい事があるんだけど、明後日から行く。明日は休むから」

 主語が無いが恐らく旅の事だろう。

「明後日!?」

 マリアが叫ぶ。レイは平然と微笑んで頷く。

「まあ、後は皆で頑張ってね。来週の頭には帰ってくるだろうしね」

 レイは本当にマイペースだ。まあ、明後日は週末なのでレイの言葉は間違っていない。

 

 

 


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