4:導き出した結論
レイは終止、微笑んでいた。
ファラルは声一つ上げず、表情一つ変えなかった。
他の者は、何も言わず、ただレイの話に耳を傾けていた。
レイが服を着直していると、その沈黙を破るかのように、
「話は分った。ややこしい所だが、つまり、悪魔と契約しているのかは不明、気配があるのは印のせいかもしれない。そして何より、ファラル殿に悪魔の疑いもかけられる」
と、アルが冷静に言った。
その冷ややかな目に怯みもせず、レイは微笑んでいた。
「そう言えば、そうとも言えるわね」
今更ながら気付いたように言う。
でもその口調はあっけらかんとしていた。
「確かに、命を助けてくれた者は疑はかけにくいわね。そして、疑われてない内に私の魂を奪うことはとても簡単よね」
と、アルを見ながらレイは続ける。
アルとレイの視線がぶつかる。
見つめ合い、先に逸らしたのはアルだった。
「アルシアさん、私とファラルの容疑は晴れましたか?」
レイは意地悪く笑いながら聞く。
アルは顔をしかめながらも、
「まだ情報の整理が追いつかない。今、結論は出さないが、先程の君の話もふまえて、帝国まで私達に付いて来てもらうこともあるだろう。賊の一味の容疑も、今晩中には結論を出そう。もう下がっていいが、逃げることも断ることも出来ないということを忠告しておく」
と言った。
レイは何かを含んだ笑い方をすると、
「出来るだけ速く、正確に結論を出してもらうことを願うわ。でも、速すぎるのは、何かを見落としがち、考えすぎてると取り返しがつかなくなる。結論は、今出すべきか今夜出すべきか、ね」
そう言うと、ファラルとともにテントを出た。
テントを出ると、ファラルは珍しく声を出して軽く笑っていた。
今まで我慢していたらしい。
それは、レイも同じで、二人して先程までの話を思い出し笑っていた。
『よくあれだけのことが即興で言えたな。デタラメな昔話なども、笑ったぞ』
頭の中に、ファラルの声が響いた。
『伊達に、子供相手に作り話聞かせてないから。まぁ、子供好きだから楽しいけど』
『帝国に行くことになるぞ?』
『それはそれで良いよ。なるようになるでしょう?足掻いても、諦めても、その結果は受け入れないと。ファラルの言った言葉だと思うけど?それに、いつかは行くはずだった』
『そうか。それにしても、消さないのか?その刻印』
『便利じゃない。騙されてくれる人がいるなら』
『そんなモノを残しておくよりも、消して新しく作ろうか?という意味だ。察しているくせに話をそらすな』
ファラルの言葉にレイが黙り込むと、ファラルは何も言わずに消えた。瞬きの間に。
人々の喧噪から、遠ざかり施設のはずれの木陰の幹に腰を下ろすと、ゆっくりと目蓋を閉じた。
「結論か・・・」
アルは、テントの中でそう呟いた。
ヘルス、ロリエ、ベクターは、アルの方へ意識を向ける。
「帝国へ連れて行くのが、正しいのか、それとも連れて行かない方が良いのか。皆の意見を聞きたい」
アルは、皆の意見をちゃんと聞く、そして、それらをふまえた上で自分の意見を出す。
「連れて行っても、ここで別れても。どっちでも良いと思うけど?ファラルさんは掴めなかったけどさ、レイさんは、多分悪魔に魂を売ってないと思うし、何より、賊の仲間じゃないと思う」
ヘルスがまず意見を言った。
「私も、賊の仲間ではないと思う。飲み物が、珈琲にならなかったから。それに、あんな辛い過去・・・」
ロリエも意見を言った。
「私と意見としては、連れて行くべきだ。レイ殿の身が潔白であろうと、無かろうと。13ならば教育を受けなければならない。ファラル殿の力も、呪文も、道具もすべて無し。その上、その力を習った訳ではないのに使えるとなっては潜在能力やセンスは高いのだろう。だが、暴走すれば厄介だ。それに、もしもあの話が本当なのなら悪魔の討伐をしなければならない。嘘ならば、何故嘘をついたのか、調べなければならない」
ベクターの意見はもっともで、アルは全員の意見を聞いた後、
「そうだな、取り敢えず、身元の確認は必要だ。彼女の過去についても、確かめなければならない。ずっと旅をしていて、教育を受けたことが無いなら、受けさせないと」
結論は出た。
早速伝えにいこうとテントを出てレイを探すが見当たらなかった。
「逃げたのか?」
そんな考えがよぎった。
そんな可能性に、全員が戸惑っていると、兵から声をかけられた。
「すみません。施設に住んでいた方達の今後しばらくの間、寝泊まりする所はどうすれば良いでしょうか?」
この手の件は、隊長である、アルシアが行くべきことだったが、
「私が」
そう、ベクターが言った。
「隊長は、そちらに専念して下さい」
淡々とそう告げると、ベクターは兵を連れ施設長の元へ向かった。
アルは、3人でレイを探した。
そして、ようやく施設の外れにある木陰で眠っているレイを見つけ出した。