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血の契約  作者: 吉村巡
45/148

44:時期外れだったから・・・

 編入2日目、レイが学校に行くとクラスの者が浮き足立っているような気がした。そんな雰囲気が煩わしいと思いつつも自分の席に着き、昨日のクラブの時に借りた本を鞄から取り出し読み進めていく。

「オハヨー」

「おはようございます」

 マリアとマリが来たらしい。椅子を引いて席に着く音がする。

「おはよう」

 本から目を離す事なく二人に挨拶したレイはふと隣に居る二人まで緊張感と高揚感を醸し出している事に気が付いた。

「今日は朝の定例会があるからそろそろ講堂に行かないと」

 準備を終えたマリの第一声はそれだった。マリとマリアは確か時間ぎりぎりに教室に入って来ていた。

「あ〜!!今年の課外活動どうしよう!?」

 いきなりマリアが叫び出し呻くが今日はそれが教室内の至る所で見受けられる。マリは「大丈夫だよ!今年も皆でやるんだから」とマリアを慰めている。

 レイはそれら一切を全て無視して本に集中している。 

 教室内から次々と生徒が減っていく。本に集中しながらもそんな事を感じていたレイは腕を掴まれる感覚に掴んでいる手の主、マリアの方に意識を向けた。

「今日は定例会があるから講堂に移動するのよ?早く早くっ!」

 腕を引かれ本を閉じて立ち上がると先導されるが侭にマリアについていった。レイの後ろにはマリが付いて来ている。

 廊下には講堂に向かう生徒で溢れていた。





 講堂は広くイメージとしては教会のような内装で生徒には木で出来た長椅子がありそれに座って壇上の先生の言葉を聴いている。

「・・・・ですので、二週間後には夏期長期休暇が始まります。ですが、前半は課外活動があると言う事を忘れない様にして下さい」

 長い前置きの後、恐らく教える学年が違うので名前を知らない先生の話が本題に入った。

「わかっているとは思いますが、課外活動の成果は休暇中の内申に影響し出来が悪ければ後半に補習授業があります。課題は自らに合った物を選び、学園の生徒だと言う事を自覚し取り組んで下さい。今日から徐々に課題移行期間に移り、一週間後には担任に課題届を提出して下さい。1グループの人数の上限は15名ですが個人で取り組んでも構いません。詳しい話は一時間目に担任の口から聞く事。以上」

 レイにはよく分らない内容の先生の話だった。課題移行期間・課題届の意味を知らないので当然の事だ。

(寧ろ、課外活動がどんな事をするのかという所から分からないからな)

 定例会は終了したのか生徒は一斉に立ち上がり教室へと帰って行く。レイもマリアとマリに促され教室へと戻る。

(担任の口から聞くなら定例会は必要ないんじゃないかな?)

 と思いながら。



「はい、注も〜く!会で言われた事を伝えます」

 ヘルマン先生がプリントを回させながら話を始める。レイにもマリから回って来た。

「課外活動の申請は届を教卓の中に入れておくから必要事項を記入して僕かギーゼラ先生に出してね。取り敢えずプリントに必要な事は全部書いてあると思うから読んでおいて。なんか質問ある?」

 もの凄く端的かつ適当な説明に質問の声は上がらなかった。何も分かっていないレイは渡されてすぐにプリントを読み始めたので質問しなくても理解出来た。

 

○課外活動とは授業ではなく自分達で自由に課題を見つけて取り組むというものだった。割と高度な研究などもなされているらしく専門機関の人達からも注目を集めていて、学年を超越した最優秀賞、機関・各学年の最優秀賞、個人賞がそれぞれにある。

○危険なもの、能力・学年に合わないものは選考にかけられ却下される場合もある。

○旅などの必要がある場合は新人兵や騎士を付ける。

○課題は一人でも15人までなら何人とでもで取り組む。学科の違いは問わない。

               ・

               ・

               ・


 紙に書かれていた内容を全て頭に入れた頃先生の話が終わった。

「それじゃあ、今から課題決めの自由時間に入ります。4時間目からは通常授業、完全移行になるのは三日後だ」

 先生の話が終わると生徒は一斉に立ち上がったり前々から決めてあったであろう者と一緒に教室内で相談を始めたりと一気に騒がしくなった。

 マリもマリアの元へ移動している。

(朝の煩わしさはこれか)

 レイは周りの行動を見て冷静にそう判断すると読みかけだった本を持って喧騒から逃れる為に一人静かに教室から出て行った。

 レイが向かった先は部室で誰もいなかった。机に本を置き自由に使っていいと言われた備品で朝、【蓮華館】のお手伝いさんのマーシャルに貰った茶葉でお茶を入れた。カップは戸棚に入っていた物を勝手に使わせてもらう。

 レイが漸くゆっくり本が読める、と思った時その期待が打ち砕かれるのを感じた。

(来る)

 そう思った瞬間部室の扉が開きレイと同様、図書室クラブの部員である4人がレイの存在に気付かず入ってくる。

「レイ、何処行ったんだろう?さっきまで教室居たのに・・・」

 マリの言葉にマリアが頷いて、

「もしかして、迷子とか?」

 と不安そうな顔をした。

「そうですよね、私達より年下だし今日の課題の事だって編入して来てすぐのことです。昨日の内に言っておけば良かったです」

 サラが後悔している風に呟く。

 三人の誰もが今だレイの存在に気が付いていない中一人だけ冷静だったのがカナタだった。

「居るぞ、当人が」

 ボソリと呟いたカナタの言葉に三人が顔を上げるとレイが本を読みながらお茶をしている姿を見て声にならない驚きを見せてくれた。レイの場合は本を読んでいて見る事は無かったが・・・。

 三人の驚きが治まる頃にはレイは本を読み終えてカナタはレイ以外の全員分のお茶を用意し終えていた。

「うん、もう何も言わない。思わない・・・」

 マリアはそう呟きながら椅子に座りカナタからお茶のカップを受け取った。マリとサラも受け取りカナタは自分の分を取って席に着いた。

「レイも課外活動一緒にやらないかな、って思って誘おうと思ったんだけど僕等とやる?それとも個人でやる?」

 マリがレイに問いかける。

「そうそう、レイにとっては初めての事だろうし分らない事もあるかもしれないから一緒にやらない?」

 マリアも勧めてくる。

 レイは少し目を見開いた後少し申し訳なさそうに、

「誘ってくれてありがとう。でも、一応もう自分だけでやるって思って計画は立てたから・・・。ごめんね」

 と答えた。

 そっか〜、とマリア達が呟いたがカナタは興味を持ったかの様に「どんな課題を立てたんだ?」と聞いて来た。

 レイにとっては別段隠す事でもなかったので、あっさりと、

「解毒薬の研究、と言うか実際に作る」

 と答えた。簡潔且つ詳しい内容がよく分らない答え方にカナタはもう少し突っ込んで質問して来た。

「何の解毒薬だ?」

 その質問にレイは少しの考え込む沈黙の後に、逆に質問を返して来た。

「ヴァン・モーゼっていう魔女知ってる?通称《盲目の魔女》って言われてて200年くらい前に生きてた新薬の開発をしてた人物なんだけど・・・」

 マリとサラは思い当たる節があるのか考え込む様に黙っていたがマリアとカナタは聞いた事もないという顔をしている。

「じゃあ、こっちの方が有名かな?毒薬『ヴァルギリ』分りやすく言うと失明薬」

 レイが分りやすい説明として一番代表的な薬を挙げるとマリとサラは思い出した顔になりマリアとカナタも思い当たる節があるのか顔を顰めて考えている。

「・・・確か、解毒薬がない毒薬として有名だったかな?」

 答え合わせを求めるようなマリアの言葉にレイは頷いて肯定の意を示す。

「まさかとは思うが、『ヴァルギリ』の解毒薬の研究をするとでも言つもりなのか?」

 カナタの言葉にレイはにっこりと微笑んで頷く。これはその通りだと示す肯定の意味を持つ。

「無茶だよ。やめておいたほうがいい」

「そうだよ?専門機関の人達が必死で解毒薬の研究をして全然成果のない程の毒薬なのよ!?」

 マリとサラが必死でレイを止めようとする。

 レイは笑みを崩さないまま不安そうな顔をしている四人に向かって、

「勝算はあるから大丈夫」

 と答えた。それでも皆は止めてくるので、レイは自信の源である先程まで読んでいた本を皆の目の前に置く。

「資料室にあった《盲目の魔女》が出した本の一つ。因に初版本で『ヴァルギリ』を作った頃に出たから二ヶ月で絶版になったんだけど、売られた本の殆どはきっと処分されてるだろうね〜。この本は現存する中でも綺麗なものだから貴重なものなんだよ」

 と少しうんちくを語ると、全員が目を丸くした。

「「「「なんで、そんな詳しい事知ってる」の」のよ」んだ」

 レイは微笑んでその質問を無視した。

「元々魔女は目の見えない者を救う為に視力を回復する薬の研究をしていたとも言われる。過去に読んだ彼女について書かれた本でもその事を仄めかしている部分があるし、《盲目の魔女》の手記からも視力を回復する薬が出来たとも書かれてるし・・・」

 レイが言葉を続けようとした時にマリアが叫んだ。

「《盲目の魔女》の手記!?」

 レイが当然の事の様に言っていた内容には驚きの真実が含まれていた。マリアは叫んだが、他の三人はその事実に呆然としていた。

「・・・読んだのか?」

「二百年前の人の手記・・・」

「何処でそんな物手に入れられるの?」

 カナタ、サラ、マリの驚きは静かでそしてとても深かった。

「まぁ、そこは置いといて。失明後の手記では作り途中の薬に弟子が余分な薬を入れたせいで毒薬に変わったって書いてあった。そして、魔女自らが実験体となって薬を服用したら失明してしまった。その噂が広まって視力を回復する筈だった薬は失明させる毒薬へと成り下がり『盲目の魔女』が解毒薬の作り方を公表しようとしたが、欲に塗れてしまった毒薬を作る原因になった弟子に解毒薬の作り方は燃やされてしまった」

 レイの言葉に皆シンとして聞き入っている。

「その後、魔女は姿を消すが実際には弟子に監禁されていたらしい。手記の最後のページに書かれていたのは遺書だった。魔女は自殺した。弟子はちゃんと魔女を弔ったらしく白骨死体なんかは無かったな・・・」

 レイの言葉に全員が戦慄した。

「レイが、手記を見つけた所ってもしかして?」

 マリアの言葉にマリが続ける。

「『盲目の魔女』が監禁されてたっていう所?」

「うん、旅の途中で雨が降って来てね。山奥にあった廃屋の屋敷を勝手に借りてその中を見て回ってたら地下室見つけてそこで手記を見つけたの。確かに厳重に結界はってあるな〜とは思ってたんだけど」

 暢気にレイが真相を教えてくれる。そして、話の続きを語る。

「手記に書かれていた遺書にはこう書いてあった」


『私はとんでもない物を生み出してしまった。これから先も何人の者が光の無い闇の中で苦しむ事となるだろう?私には彼の心の闇が分っていなかった。今、それが悔やまれる。目も見えず、右足を切断され私はもうここから動く事も出来ない。

どうすれば、あの忌まわしい毒薬の解毒法を世に知らしめる事が出来るのか?弟子から新たに出した私の本が二ヶ月足らずで絶版になった事を先程伝えられた。あれにも毒薬の解毒法を書いていたのに・・・。

     

                この手記を、誰かが見つける事を願って    

                                               ヴァン・モーゼ』


 レイは飄々とした態度で遺書を手記なしでいい終えると皆の顔を見渡した。

 先ず口を開いたのはカナタだった。

「それは、真実なのか?」

 レイは笑って「さあね〜?・・・でも、調べてみる価値はあるかな〜?って思って。いい機会だし」と答えた。

「ちょっと、見てもいい?本」

 レイは笑ってサラの言葉に頷いた。全員の視線が本に集められる。

 サラはゆっくりと本を開いた。そして呟いた。

「何これ?」

 目次にはそれらしき名前の薬は書いていなかった。レイは困惑する四人を見てニコニコと笑っている。

「見方が違うの。これは手記を読んでないと気付けないんだけど、遺書は手記の最後のページに書かれていた。書かれていた本自体はまだ半分も書かれていないかったのに。それは何故かは解毒薬の作り方のヒントがあとがきにあるから。だからこそ手記を見つけなければならなかった」

 サラはあとがきのページを開く。そこには本の中で使われている薬の材料の名前が二列になって書かれておりそれぞれの説明が書かれていた。

「この右側は解毒薬には関係ない薬草。その中でも薬草が使われているページの中で天日干しされる物を選ぶ。遺書の一説『光のない闇』から光=太陽と考える。石の粉末やら獣の骨や爪や羽毛やらはその中で太陽を表す向日葵を使ったページに書かれてる物を書かれている量ずつ使う。それを『ヴァルギリ』の作り方通りに一番上に書かれている物から容れていくだけ。因に毒薬の方は『血薔薇薬』と解毒薬にも使うカーセの実・パルバ鳥の眼球・ケルト草・白銀の狼の毛で出来る。ここで問題なのが解毒薬の方が『血薔薇薬』に成分と一緒に使うと逆の作用をもつ物が多い事」

 レイはここで言葉を一旦切りお茶を一口飲む。

「それで・・・」

 全員の期待の眼差しを受けながらレイがまた淡々と語り出そうとした所でレイは話すのを止めた。

「どうしたの?続きは?」

 マリアの言葉にレイは一つ溜め息をついて、

「そう言えば、別に一緒にやる訳でも無いのになんで説明しないといけないんだろうか?と思って」

 冷めた瞳でサラの手から本を取り資料室へと返しにいった。

 戻って来たときにレイを見つめる皆の眼には不満が窺えた。レイはにっこり笑って、

「マリア達はグループでやるんでしょう?決めなくていいの?」

 と聞いた。全員は不満そうな目のまま見事に重なって、

「「「「あんな話聞いた後でもっといい課題思いつかない」わよ!」です」んだよね」

 と答えた。レイは苦笑してカップの中に残っているお茶を飲み干した。

「お願いっ!一緒に課題やろう!?」

 マリアの言葉に他の三人は頷くレイはそんな必死のお願いにあっさりと許可を出すが水も差した。

「別にいいけど・・・。結構危険だよ?聞いてなかったの白銀の狼の毛もパルバ鳥の眼球も珍しい物だし、危険な地域に住んでるし」

 その言葉を聞いて皆は黙り込んだ。だがレイの言葉にカナタが冷静に反論した。

「それはレイも同じ事だろう?」 

 カナタ達にとって危険だというのならレイにとっても危険だろう、という事を言いたいのだろう。

「そうだね」

 流した。もの凄くいい笑顔でレイは流した。

 口をパクパクとさせて何も言い返せないカナタにレイは補足をしてあげた。

「一応ツテがあるしね。保護者にも付いて来てもらうし」

 と答えた。それに、いくらレイの実年齢が13歳でも旅をしていたのだ。カナタ達よりは旅慣れしている。

「それで、どうするの?一緒にやるの?やらないの?」

「「「「やる」」」」

 全員が即答した。レイは紙にさらさらと何かを書き付けると紙を三つに破った。

「はい」

 その内の一つをマリア達に渡し、残りの二つはレイが持っている。

 渡された紙をマリアが黙読するとそれは解毒薬に必要な材料リストだった。直ぐに手に入る物やこの地域にはない物までザッと30はある。

「取り敢えず、揃えられる物は揃えておいて。一週間後にはもう本格的に課題に取り組むんだよね?三週間後にはそれ全部揃えて置く、を目安にして。来週から一週間くらい学校休んでちょっと私も材料揃えてくるから。それと・・・」

 まだ続けようとするレイの言葉をマリが遮る。

「ちょっと待った!レイ、言い忘れた事があった。メンバーもう一人増えても良い?武闘科の生徒なんだけど、この教室のことも知っていてそろそろここに来ると思うんだけど」

「別に15人以内なら良いんでしょう?今の所あと10人は大丈夫」

 レイの言葉にマリは安心した様に息をついた。

「課題届、持ってる?」

 唐突なレイの言葉に一瞬ぽかんとするが、マリが正気に返ると持って来ていた届出を机の上に出す。

 レイは自分の名前と課題の内容を書いていく。書くべき所を埋めると隣に座っているマリアに渡す。マリアからカナタ、サラ、マリの順に書いていく。

「責任者って誰?」

 レイの言葉に、全員で顔を見合わせる。

「レイは来たばかりで荷が重いだろうし、だからといって課題の内容をちゃんと理解出来るのは・・・」

 全員の目がカナタに向く。見つめられている当人は一瞬眉間に皺を寄せて諦めたように両手を挙げた。


 コンコン


 扉をノックする音が聞こえる。

「来たか・・・」

 マリが呟くと扉を開けに行った。マリが開けた扉の前に立っていたのは、

「セイジさん」

 レイは別段驚いた風もなく立っていた人物の名前をいう。だがセイジの方は驚きを露に、

「レイ・・ちゃん?何でここに?」

「あれ、知り合い?」

 マリの言葉が冷静なレイと驚き中のセイジの耳に届き、レイは「顔見知りです。一度手合わせをした事があって」と答えたが、セイジは右から左に流れていったらしい。


 

 

 

 



 漸くセイジが出せました。因にセイジはカナタ達が掛け持ちしているクラブで知り合っています。

 一応、頭は悪く無いですが勉強・読書している暇があれば剣術の練習に精を出したい、と言う考えの持ち主です。

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