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血の契約  作者: 吉村巡
43/148

42:お昼休みと入部

 レイは食堂ではなく教室で持って来たお弁当を取り出した。朝、ファラルが用意してくれたものだ。

(・・・・・・)

 レイは無意識のうちに教室から出て行った。何をしているんだろう?とレイ自身も思いながら足が動くままに進んでいると学園の裏手にある森の中に入って行った。

(ああ、そうか)

 とレイは自然に苦笑して自分が何故ここに来たのか理解した。ファラルの手作りの料理は野宿以外の時に食べた記憶があまり無い。自然とその状況に近づけようとしたのだろう。

 十分に奥に進み丁度いい大きさの木の根元に座るとお弁当を広げた。周りの視線の正体はわかっている。

「いただきます」

 レイはそう言うと無言でお弁当の中に入っていたおにぎりに手をつけた。残ったもう一方の手で残りのおにぎりを掴むと前に突き出した。

 おにぎりは山菜を味付けしご飯に混ぜこんだもので、形は美しく程よい強さで握られていた。そのおにぎりを近くに潜んでいた動物がモグモグと口一杯に頬張っていた。

 その光景をレイ自身もおにぎりを口に含みながら無表情に見つめていた。いつの間にか集まった動物は増えていた。レイは他のおかずも動物に分け与えた。

 その様子がレイに近づいて来ている連中にも分ったのだろう。哀れみを含んだ嘲笑が聞こえてくる。

「可哀想な奴!動物しか友達居ないんだね?」

 目の前で笑っているであろう一部の暇なクラスメイト達にレイは一瞥もくれず動物達を手懐けていた。何の反応もないレイに苛立ったのかクラスメイト達はキツイ口調で、

「何とか言ったらどうなんだよ!?」

 と言って来た。

 レイは計画通りに事が進んでいる事に笑い出したい程だった。

 お弁当の中身を殆ど動物にあげたレイは悠長に箱を片付け始めた。そして片付けが終わるとゆっくりと立ち上がり目の前に立っているクラスメートの人達に微笑みかけた。

「何か御用ですか?」

 レイは物腰柔らかく微笑みを崩さずそう言った。その言葉と態度に一瞬だけ気が削がれたクラスメイト達だったが、直ぐに当初の目的を思い出したのか、

「いい気になるなよ、元旅人風情が・・・僕等と同じ部屋の空気を吸っていると思うだけで汚らわしい」

 身勝手な主張。その主張を否定はしないがレイは一生認める事も無いだろうと思う。

「旅人の何がいけないんですか?」

 レイは無邪気な振りをして聞いた。

 クラスメイト達は嘲るような表情に顔を歪めて、笑った。

「旅人は罪人の証よ、またそうで無くとも汚らわしい者の血族でしょう?身分卑しいものが私達と同じ部屋の空気を吸う、何ておかしいわ」

(私からしてみれば、おかしいのは君の思考回路。・・・まあ、いっか。思ってる事までは分っても相手の思考回路までは分らないし、分る方がおかしいし)

 レイはクラスメイトの少女の言葉にそんな結論を自分の中で出すと、一礼してその場を通り過ぎようとした。

「! っ待てッ」

 先頭にいた男子生徒に腕を掴まれそうになった瞬間、その男性と以下数名のクラスメイトは悲鳴を上げた。

 見るとレイを掴もうとした男子生徒の手にはレイが餌付けしてた動物が噛み付いている。他のクラスメイト達にも同様のことが起きている。

「はっ、離せっ!」

 腕を振ったり引っ張ったりしても一向に動物達には離れる気配がない。

 レイは無表情にその光景を見つめていた。



「何してるのっ!?」

 聞き慣れた声が聞こえた。足音が二つ近づいてくる。

「レイっ!大丈夫だった?」

 現れたのはマリアとマリだった。

「何がですか?心配するべきは私よりも彼方の方では?」

 レイは淡々と今尚動物に襲われているクラスメイト達を見た。その言葉に今気が付いたかのようにマリアはクラスメイト達が騒いでいる方を見る。

「私はレイの後をあの人達が付いて行くの見えたから・・・追って来たんだけど、何があったの?」

 レイは首を横に傾げる。

「強いて言えば、私がここで今彼等に噛み付いている愛らしいが凶暴らしい病原菌が居るかもしれない動物達にお弁当を分けながら昼食を摂っていたら彼等がやって来た。そして私が邪魔だろうと場所を移動しよう落としたら腕を掴まれそうになり、いつの間にか動物達が彼等に噛みついていた・・・と言う事があった」

 レイは淡々と少し長めにそんな説明をした。

「・・・レイって獣使い?」

 クラスメイトを放ったらかしにしたままそんな会話を交わすレイ達にクラスメイト達は情けなく助けを求めているが、誰も助ける素振りは見せない。

「いや、魔力は全くと言って良い程無いらしい。動物には割と好かれる方だけど獣使いには敵わないんじゃ無いか?原因として考えられるのはお弁当だな」

 レイは淡々と状況を推測した中から導き出しているかの様に見せている言葉を紡いでいく。

「「お弁当?」」

 マリアとマリの言葉が重なる。確かにそれだけ聞けば意味不明だろう。

「ああ、今日のお弁当は私の保護者が作ったもので彼が何か細工したのかもしれない」

 淡々と言っていくレイの言葉に二人は固まっていた。

「レイの保護者の方は魔術師なの?」

 マリアの言葉にレイは首を捻る。そして今だ噛み付かれ続けているクラスメイトを無視し続けてレイの言葉は続く。

「別にそう言う訳ではない。ずっと一緒に旅をしていたが別に魔術師と名乗った事は無かったかし、魔術学校に行った事も無いって言っていた。魔力があるのは知ってたけどわざわざ習わなくても自己流で何とかなる、って思ったらしくて実際に自己流で何とかしてたし、割と強いよ?」

 レイはファラルの自慢の所は嬉しそうな誇らしそうな顔をしてそう言った。

「二人とも〜?そろそろ助けた方が・・・」

 マリが控えめに主張する。声のした方向に振り返ると、マリの指が指している叫び疲れたらしいクラスメイト達が半泣きの状態で暗く沈んでいた。

「暗っ!!」

 マリアが素直に声を上げた。レイはマリアと同じ事を思ったが声には出さなかった。レイは声をあげるかわりに微笑んで、

「騒がなければ直ぐに終わったと思うんですけど・・・抵抗する程深く噛まれます、と今言っても遅いですね」

 と言った。そして、漸く助ける為に動いた。

『おいで、別にその人達に噛み付かなくてもいいよ?時間と体力の無駄。ただでさえ君たちは短命なのだから』

 レイは普通科には理解出来ない言い回しの古代魔術語を用いてファラルの術の解除に掛かった。

 レイがその言葉を呟くと噛み付いていた動物達はゆっくりと歯を外し、まるで鉄砲玉の様にもの凄い勢いで森の奥へと帰って行った。

 因に解除の言葉はお弁当を渡された時に『その牙を離し、無駄を省け。短命であるが故に』ファラルがそうレイに伝えた時についでと言う感じに「お前は冷酷なくせに優しいからな、止めたくなれば止めれば良い」と言ってレイの頭を撫で部屋から消えた。

(優しいなんて、どうしてファラルは勘違いするんだろう。やっぱり身内は可愛い、と言う奴か?私は優しくなど無いのに・・・。冷酷と言うより、優しいと言うより、狂っているのに・・・。空虚で、残酷な存在なのに。ファラルもわかっている筈なのに)

 そんな事を考えながら逃げて行く動物達が森の奥に消えるのを眺めていた。

 ふと呻き声と逃げ去って行く足音が幾つか聞こえた。

 噛み付かれていた人達の方に向き直ると逃げて行く生徒や向けられる視線に微笑みを返した。そして、レイに危害を加えようとして逆にレイの計画通りに動物に噛み付かれた富裕層の生徒達が一目散に逃げ帰るような言葉を吐いた。

「早く手当てした方が良いんじゃ無いですか?私は手当出来ないしする気もないがここにも医務室くらいはあるんでしょう?旅をしていると細菌が傷口に入り手当をせず放置していてそこから腐っていき死んだ、という話を稀に聞いた事があるから」

 とのんびりと忠告した。一応レイは傷の手当は出来るし動物達に菌がついている気配もなかったのでレイの言った事は起こる筈が無い。だが、自分を傷つけるような人達に手当をする程お人好しでもないし大丈夫だと言う事を教えてあげる義理も無い。

 レイの言葉を聞いた後逃げ帰って行くクラスメイトの背中を見ながらレイはマリアとマリが居ると分っていても笑いを堪えきれず声を上げて笑ってしまった。

「フ、フフッ、クスクスッ 心配性な人達。寧ろ走ると血が回って毒や菌なんかは体中に巡ってしまうから血を出すか止血する方が先なのに」

 と二人に分るように説明する。二人はレイの言葉に応急処置がレイに出来た事を知る。

「どうして・・・」

「手当てしてあげなかったか?当たり前でしょう。彼等は敵。旅には奪うか奪われるかという事が頻繁にあるんだ敵に無条件に心を許せば足下を掬われる、そしてそれは時に命のやり取りに発展する。力が無ければ頭を使ってその場をやりきるしか無い。丁度、先程の様にね」

 レイはいまだ微笑みながらマリの言葉に答えを返す。

「「・・・・・・」」

 二人は黙り込んでレイの笑っている顔を見つめた。レイはそんな二人の視線に微笑みを返し続ける。先に折れたのは二人の方だった。

「それは正論よ、認めるほか無いわね!」

「確かに、反論は出来ない。僕達の言う言葉はレイにとってはとても温い言葉に聞こえるんだろうね」

 二人はレイに少しの非難を含ませレイの言葉を認めた。

 レイはその言葉を聞いた後、急に真顔になり、

「別に二人が他人に甘くなろうが自由だよ?私は私に迷惑が掛からなければそれで良いし。逆に私はよく迷惑かけてたし。寧ろ、今思ってるのは何で二人がここに居るのか?って事」

 レイの言葉にマリアとマリは違う表情をして黙り込んだ。マリアはバツの悪そうな顔をしていたがマリの方はどうやって説明しようかと悩みながら居心地悪そうにしているマリアを見てしょうが無いなと言う風に微笑んでいる。

「・・・マリアも反省したんだ。確かに耳元で喚かれたら自分も堪らない、って。でもそう思ってもなかなか謝るタイミングが掴めなかったらしくて、目で追いはしてたんだけど話しかける事は無くて、そんな様子を端から見てて僕の方がイライラしてた。で、例の如くレイの事を目で追ってたらレイの後を付けて行く生徒達を見て念の為に尾行させてもらった訳。で、その結果が今」

 マリはなかなか話出さないマリアに痺れを切らしマリの口から説明が行なわれた。マリアの顔は赤くなっていて耳にも及んで来ている。恐らく強気で素直になれない、こんな時の謝罪が上手く出来ないという性格なのだろう。

 レイはまたクスクスと笑うとマリアは耐え切れなくなったのか叫び出そうとした。レイはそれを笑いを止め手を挙げて制止するとマリアに微笑みかけた。

「一つ聞くが、二人は私の事をどう思ってる?どんな関係だと思ってここまで来たんだ?」

 とレイが聞くと二人は顔を見合わせた後、

「「友達(でしょう?)だから心配になって、迷惑だった?」」

 二人は綺麗にハモって同じ言葉を口にした。だがレイはそう思うと同時にもう一つの事を思った。

(友達なんて出来ていたのか・・・初耳だ)

 レイは二人の事をただのクラスメイトだと思っていた。そうでなければレイに何の関わりもない他人。ファラルは友達ではないしアルは身元引き受け人、ロリエ達はファラルの仕事仲間、レイは動物と一部の限られたモノ以外に友達が居ると思った事は無い。

 そのうえ、動物の友達はレイがまだ小さい頃動物と戯れ合って居る所を母親に見られ「動物のお友達ね』と言われて思ったからで、動物以外の友達はレイが自ら言ったのではなく相手から言って来た事だった。つまり、レイは自ら進んで友達を作った事も無ければよく分らないので特に否定せずに“友達”と言って来たモノと友達になっていた。

 レイにとってその存在はさして重要な物ではなく、いざとなれば即切り捨てられる面倒な事になれば迷い無くその命を奪う事が出来る相手である。

 レイからすれば決して心配するべき部類に属する者達ではない。なので二人の言葉にレイがまず思った事は疑問だった。だが、その疑問を二人に問うのは面倒で特に二人の言葉を否定する理由も見つからない。

「何時、友達なんかになったの?別に答えなくていいけど」

 とだけレイは二人に質問した。

「えっ、自己紹介したよね?」

 マリアが今更と言う様に驚く。マリは少し眉を上げた程度で何も言わないので自覚しているのだろうと思いマリ相手には何も言わなかった。

「・・・二人とも、自己紹介が友達の証拠になるんなら二人には何人の友達が居るの?」

 レイがもっともな指摘をすると、マリアは黙り込んだ。取り敢えず、友人になるかそうでないかはマリアが相手を気に入るかどうかと言う問題なのだろう。

 黙り込んだマリアにレイは呆れたような溜め息を一つ吐くと授業が始まる前に教室に戻る為に歩き出した。

 二人はその後を追いかける様にして付いて来て、横に並ぶとレイと歩調を合わせながらレイに問いかけて来た。

「友達じゃ無いの?」

 そう呟いたマリアにレイは顔も向けず足を止める事も無く、

「知らないよ、初耳だし。でも、そんな関係になろうと言われて否定する理由は無い。二人の好きにすれば良いでしょう?私は二人の言う友達を否定するつもりは無いから」

 と答えた。

「つまり、友達で良いってこと?」

 マリアの言葉にレイは短く「ええ」と答えた。途端にマリアの表情は明るくなる。マリの表情もマリアのが嬉しそうな顔をしたのを見ると小さくだが綻んだ。

 三人は並んでマリアの問いかけにレイが答えながら、時々マリがマリアを諌めながら森を抜け、裏庭を横切り校舎に入り教室へと戻って授業の準備を始めた。




 放課後、クラブ見学の為にレイの机の机の上には入部届けとそれに関する資料が置かれていた。

「レイ、クラブ見学に行くとしてどんなクラブが良いの?確か、用紙と一緒に一覧表が貰えるわよね〜」

 そうしてマリアは資料の中を漁って行く。

「あっ!あった」

 マリアは資料の中から一覧表を見つけてレイの目の前に置く。そこにはありとあらゆるクラブ・同好会の名前がズラリと並んでいた。

「その前に、レイはどんなクラブが良いの?」

 マリがはやるマリアの気持ちを抑える為にそう言った。

「この学園って大陸全土から人が集まって来てるから人数が多くてクラブや同好会の数も半端じゃないんだ。だから、ある程度絞ってないと見学に時間がかかるんだ。レイはどんなクラブに入りたいの?」

 レイは少し思考を巡らせてから、

「図書室でひたすら本が読める所、かな。つまり、図書室に近くて暇なクラブや同好会が良い」

 と答えた。マリアとマリは少し顔を見合わせレイの方に向き直ると嬉しそうに「良い所がある」と言うとレイの手を引っ張ってある所に連れて行った。



「二人とも〜!居る?」

 ノックもなしにマリアが開けた部屋は図書室と蔵書室の裏にあり、その両方に繋がっている部屋だった。

「鍵が開いてるんだ、分るだろう?」

 マリがマリアにもっともな意見を言う。

「居ますよ〜」「マリ、その台詞何度目だ?」

 女子生徒らしき人の声と男子生徒らしき声が返って来た。

 レイが部屋の中に足を踏み入れると全く知らない女生徒と、その向かいに座るどこかで見た覚えのある男子生徒が本を広げて座っていた。視線がゆっくりと三人の方を向く。そして、二人の双眸は驚きに見開かれた。

「新しい部員になるかもしれない子!噂は知ってるわよね?普通科特別試験満点合格者のレイ」

 レイは紹介されてペコリと頭を下げ、

「レイと言います。呼び捨てで構いません」

 と挨拶をした。

「ようこそ、図書室クラブへ。私は部員のサラサ・ミカサエルです。マリア達と同じ12学年です。サラと呼んで下さい。そしてこっちが・・・」

 サラは椅子から立ち上がってレイにそう挨拶して握手をした。フワフワとした少し癖のあるけれど艶やかで柔らかそうな亜麻色の髪をゆるく二つくくりにしている。瞳は若紫にオレンジが所々さしているような珍しい色だ。全体的に目の前の男子生徒を紹介しようとしたサラだったが、男子生徒の方はサラが自分の事を紹介する前に、立ち上がり、

「カナタ・シルロード。カナタと呼び捨てでいい」

 真っ直ぐな青みの強い群青の髪と髪と同系色の切れ長の瞳のカナタはその容姿と雰囲気から推察できる素っ気なく飾り気のない自己紹介をして握手を求めた。レイはそれに応じる。カナタとサラは制服が違い二人のシンプルな作りの制服が表す学科は、

「御二人とも魔術科の方ですよね?カナタは試験の時に校内見学をしていて一度見かけました、水属性の方ですよね」

 カナタと握手をしながらレイはそう言った。カナタは顔を知られていた事に驚いていたがレイの言葉に頷いて、

「僕もミズノエを使って精霊を止めようとしてたけど彼が結果的に精霊を止めた時にレイの事を見た。何故か彼の事を知っていたミズノエに彼の事を聞いたけど何も答えてはくれなかった。機会があれば彼に会いたいと思っているんだけど」

 とレイに言った。マリア達は初耳だったのだろう、目を丸くして驚いている。

「カナタ、知ってたの?レイの事・・・それより、彼って誰?」

 マリアは驚きはしているものの、ちゃんと会話は聞いていたらしい。

「彼とは、私の保護者の事です。試験の日は保護者と身元引き受け人の方達とでここに来ましたから」

 とレイはマリアの疑問に答えを返した。

「うん。アル先輩達が来たのにも驚いたけど、彼にも驚いた。あそこまで遠慮も容赦もなく炎霊に水をかける人見た事無かったから」

 カナタの言葉にサラも思い当たる節があるらしく、

「それって、最近学科変更になった生徒の事件の事?」

 とカナタに聞くと、カナタはコクリと頷いた。

「因に、僕は最高学年ではないですよ?僕は例外的に最高学年の実践練習に混ぜてもらうんです。だから実際は皆と同じ12年生です」

 レイに説明しているらしく、カナタはそう言った。

「彼は何時もあんな感じだけど、一応手加減はしていると思う。まだほんの嫌がらせのような物だろうと思うけど・・・本気で怒ったら炎霊どころかあの男子生徒まで消していたと思うし」

 とのほほんと言ったレイの言葉に全員が凍りついた。そんな反応をされる、とわかっていて言うのかわからずに言っているのか付き合いの浅いマリア達にはわからなかった。

 全員が黙り込んでいる中でマリが取り敢えずこの空気を無くそうと口を開いた。

「取り敢えず、このクラブに入るかそうでないかと言う事を決める為にこの学園のクラブ入部についてと図書室クラブの活動内容及び説明をします。取り敢えず全員座りなさい」

 マリの言葉にレイが思った事は、

(マリがこのクラブの部長なのか?)

 だった。全員が大人しく席に着く。


「まず、この学園のクラブ入部について。生徒のクラブ入部は絶対。クラブは学科の交流も目的とされていて誰が何処に入るかって言うのは基本的に自由。入部届に必要事項を書き込んでクラブの部長_ここでは僕ね_にその届出を出して、部長のサインが貰えて受理されたとすれば晴れてその部の部員になる。入部届は先生に言えばいくらでも発行してもらえるから他の部との掛け持ちは認められてる。勿論、色んな事情で掛け持ち禁止のクラブや掛け持ち出来ない生徒も居るけどね」

 そこで一旦マリは言葉を切った。サラがお茶を容れてくれたのだ。レイはまたペコリと頭を下げた。

「クラブは最低一月に一度は出ないといけない。事情があるなら仕方ないけど例外を除いて3ヶ月以上クラブに来なかった生徒は強制的に止めさせるクラブが殆どだね。でも、退部届を出して受理されればもしくは部長が受理しなくても先生にクラブの籍を消してもらえば退部出来る」

 そこでまた話を切り、マリはレイにお茶を勧めた。レイは大人しく言われた通りにお茶を飲む。サラの容れたお茶はレイからしてみても上手に容れられていた。

「次に図書室クラブの説明。部員は全部で4人、部室はここ、掛け持ち自由、顧問の先生は特に居ない強いて言えば司書さんかな。絶対参加の時以外は別に来ても来なくてもいい。絶対参加の日なんて半年に一回ある程度だけどね。活動内容は図書室・蔵書室の本を読むのと、半年に一度の本の整理。それ以外は自由」

 大雑把にマリが説明する。

「広い部室が貰えるし、色々な設備も整っているのに何故人数は少ないんですか?」

 レイの指摘はもっともだった。

「ここはね、図書室に1年間毎日通いつめて300冊以上読んだ生徒に入部の権利が与えられるんだ。因にその権利を貰ったのはサラなんだけど、サラからカナタ、カナタから僕等、って言う風に伝染していったんだ。一覧表にも載せられてない秘密クラブ。先生達は知ってるけどね。部員が部員を集めるのは自由だから、サラみたいに権利を持たなくても入れたって訳で、設備が整ってるのは学園の仕事である本の整理を手伝うからだろうね。特権だよ、特権。一般生徒は蔵書室の中に入れないから。でも、僕等は持ち出し自由の上に何時でも出入り可能なんだ」

 レイはこのクラブに入りたいと思った。クラブの存在を知られてはいけない為か防音はしっかりしているし、扉には鍵をかけられるらしい。設備は文句無しの上に、外からは見えないようになっているだろうが窓もちゃんとある。

「私も入っていいんですか?このクラブ」

 レイが部長であるマリに問いかけると、

「勿論。ただ、半年に一度の本の整理は大変だけどね」

 と答えた。レイは持って来ていた用紙に早速名前等を書き始めた。その場に居る全員が少し嬉しそうな顔をする。新入部員など余り居ないのだろう。

 レイの書き終えた用紙を受け取るとマリは記入漏れが無いかの確認をしてサインをしようとした。だが、その手がある一点を見て止まる。

 全員その異変に気付いたのかマリに近づき固まった原因であるらしい入部届に目をやる。全員が読み進めていく内にマリが固まった理由がわかった。理由は全員が固まる程の事だったからだ。

「「「「13歳っ!?」」」」

 この部屋が防音で良かったと思える一瞬である。図書室では静かにしないといけないからだ。

 レイは暢気にそんな事を考えながら、全員の叫んだ言葉に笑って、

「そうですよ〜」

 と肯定した。

 そこからの騒ぎは、言うまでもない。








 マリが漸くサインをした頃、騒ぎ疲れた事で少しぐったりしたマリアがレイに、

「どうして言ってくれなかったの〜?絶対にタメだと思ってたのに!パリス先生が悔しがってたの、わかる気がする。悔しいよ、確かに。・・・でもさっ!見た目は絶対に16歳でしょう!?」

 とまだ主張してくる。しかもぐったりとしていたくせに途中からはまた元気になった。

「どうしてと言われても、別に年齢を聞かれなかったし。マリアの事を大人気ないって言ったのもマリアが私より年上だったからだけど」

 そう、一応かなり解り難いヒントは上げていたつもりだったのだ。

「じゃあ、何で年下のくせにそんなに発育が良いのよ!?まだ育つ可能性があるですって!冗談じゃ無いわよ!既に越されてるって言うのに・・・」

 自分で言った言葉に傷ついたのかマリアのテンションは低くなる。浮き沈みの激しい人だ。

「放っといていいと思うよ?マリアの事は」

「何時もの事ですから余り相手にしない方が良いです。絡まれますから」

「何時も被害に受けるのはサラだからね〜」

 向かいに座るカナタとサラのが忠告をしてくる。レイはそう言われてマリアの事を無視する事に決めた。

「サインし終わったよ。これで、晴れてレイはこのクラブの仲間入り。一応規約を言っておくけど無闇に他の生徒にクラブの所在を口外しない、それ位かな。物の持ち込みは自由。これが部室の鍵、落とさない様にね?」

 そう言って鍵を渡された。その時にレイは気になっていた事を聞く。

「マリ達とカナタって何処で知り合ったの?」

 そう、サラからカナタに行くまでは魔術科なので解る。だがカナタとマリ達は何処で知り合ったのだろう?

「ああ、その事。武闘クラブ、っていう割と大きいクラブで知り合ったんだ。気が合って、何度もサラに会う位の間柄にはなったんだ。因にサラとカナタは幼馴染みなんだって。で、そのツテから入部を勧められて・・・今の所掛け持ちしてないのはサラとレイだけで、僕等は武闘クラブに入ってるんだよ?」

 と答えた。

「ほぼ毎日行っている。朝練と放課後は本を一時間程読んでから夕方の練習に行って夜遅くまで練習している。俺とサラは家が帝国内ではないから学園寮に入っているんだ。一応公式なクラブの時間には武闘クラブの方へ行く」

 カナタが補足してくれる。サラは笑って、

「私は表には公表されていませんがこのクラブに入っているので一応クラブ活動免除者と言う事になっているんです。レイはどうするんですか?」

 と言った。レイはその言葉を聞いて、

「私も、このクラブだけで良い」

 と答えた。マリは頷いて、

「わかった、先生にそう言っておこう。理由はあるだろうしな・・・レイは普通まだ初等機関の年齢だから、中等機関のクラブは付いて行けない、と言う理由で免除されるべきと言えば通じるだろう」

 と答えた。

「私も時々カナタ達の練習風景を見に行くけど凄いんだ迫力があって。それにマリは12学年で副部長さんをやってるし、カナタやマリアも上の学年の人対戦してるから強さと実力は折り紙付き。私も時々、剣を握らせてもらうんだけど体力が無いから全然駄目で・・・」

 とサラが教えてくれた。さらに「今度一緒に見に行こう」と誘われ、レイは微笑んで頷いた。

 

 

 



 

 


 

 

 

 

 レイの入部が先が決まりました。そして、新キャラ登場です。ミズノエさんの契約者の生徒を出せて良かった。

 

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