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血の契約  作者: 吉村巡
36/148

35:校内見学(学食)

 そこは生徒でごった返していた。

 奥の厨房の方から聞こえてくる注文の叫び声、生徒の喧噪。

 生徒の数の多さにレイは圧倒された。

「すごい人数・・・」

 呟くように微かに囁いた言葉は隣に居たファラルとアルに聞こえたらしい。顔をレイの方へ向けてくる。

「まあ、な。全校生徒がここに集まってるようなモノだ。ここは共同使用所の一つだから校舎とは独立していて規模も大きい。こんな所で他の学科との交流を持ったり、グループ活動の相談をしたりする」

 アルがそう説明してくれる。

 確かに生徒の制服の種類が違う。大まかには三種類に分けられている。

「ここでベクターと合う筈なんだが、遅い」

 アルがそう呟いていると、噂をすれば影。ベクターが食堂に来る人混みの中から姿を現した。

「済まない。遅れた」

 全員に一言そう謝り終えると、アルが。

「全員集まったな。これから昼食にする、午後からはレイのテストだ」

 と言って、メニューを注文する所に連れて行ってくれる。

 外部のアル達とアルの隣に居るヘルマン先生。やたらと迫力のあるファラルにファラルの前を歩いているレイ。レイの隣にはロリエがいて姉妹のように見える。ヘルスはアルとベクターの後ろにいて二人の弟の様だ。

 目立つな、と言う方が無理である。

 全員が生徒の中で異彩を放っていた。

「レイは何が食べたいの?私のオススメは日替わりランチだよ」

 ロリエがレイに話しかけて来た。

「まだメニューが分らないから。決まらなかったらそれにする。ファラルはどうするの?」

 レイはロリエにそう答えて次にファラルに質問した。

「何でも良い。どれも同じだろう?腹に入れば変わらない」

 素っ気なく答える。

 レイに変わって次にロリエがヘルスに、

「ヘルスはどうするの?」

 と聞くと、

「う〜ん、悩むけど鮭のホイル焼きと日替わり野菜スープにご飯・・・かな。果物は葡萄」

 と決定事項の上、かなり細かく答えが返って来た。しかも栄養バランスがいい。

「ホイル焼き、好きだったけ?」

 ロリエがヘルスにそう質問すると、

「そこまでじゃ無いけど、最近食べてないから。久々に学食の食べたいな〜、と思って」

 と答えてくれた。

「そう言えば、レイの好きな食べ物って聞いた事無かった!レイの好きな食べ物って何?」

 ロリエがそう聞いて来たのでレイは即答で、

「母と父とファラルの作った料理です。ファラルは旅の途中でよく作ってくれました。両親の料理の味は、よく覚えてないけど・・・絶対に美味しかったです。でも、基本的に材料や料理に対する好き嫌いは無いですよ」

 と答えた。

「えー!1つくら「注文そろそろだぞ。時間かけないようにな」

 ロリエの言葉はアルの言葉に掻き消された。むしろアルが言葉を発した瞬間ロリエが口を噤んだ。良い教育をしている。

「次のご注文は?」

 レイ達の番になった。

「教師メニューの塩分控えめBランチ」とメニューも見ずにヘルマン先生。

「鶏肉の香味焼き。レタスとアボガドのサラダに、豆スープ」とメニューを一瞥した後ベクター。

「ホワイトシチューにパン2つ。飲み物にはアイスコーヒー」とメニューも見ずに適当に注文するアル。

「鮭のホイル焼きと日替わり野菜スープにご飯。果物で葡萄」宣言通りのヘルス。

「日替わりランチCの少なめです」とメニューの日替わりランチの欄を見てロリエ。

「日替わりランチAを2つ。一つは少なめでお願いします」メニューを見て早々にファラルの分まで一緒に頼むレイ。

 ファラルは食券を二枚持っているレイから並量の方の食券を渡されると受け取る所へ向かった。



「・・・・・・」

 ファラルは何も言わずに黙々と食べている。レイも同様だ。

 だが、二人以外は何となく居たたまれない感があった。

 自然、食事の手は遅くなり食べ物が喉を通らなくなる。

 本日の日替わりランチAはオムライス。

 ハッキリと言って、迫力のあるファラルには似合わない。だが食べている姿は美しいと形容しても良いだろう。

 だが、何時もの事だがファラルが静かに食べている。何を考えているのかわからない分よけいに怖い。

 レイは狙ってこんな事をしたのだろうか?と思ってしまう。彼女はファラルと一緒で何も言わずに食べているが。


 カチリ


 スプーンを置く音が聞こえた。ファラルが食事中に出した初めての音だ。オムライスを食べきったらしく皿の上にはもうオムライスがあった形跡はない。

 日替わりについてくる飲みアップルティーを静かに飲んでいる。

 そこでやっと全員に食欲が戻って来た。

 レイも食べ終わり飲み物に手を付けた頃、飲み物を飲みきり食事を終えたファラルが唐突に言った言葉は、

「わざとか?レイ」

 何時もと同じ口調。同じ声の大きさ。同じ表情。

 それでも何故かレイを除く全員が何となく食事の手を遅くする。

「分ってやりはしたけど、お腹に入れば何でも良いんでしょう?」

 レイが反論する。

 ファラルは、

「まあな」

 と呟くとレイが飲み物を飲んでいる姿を観察し始めた。

 内心ドキドキしていた全員がホッと胸を撫で下ろした。

 “漸く、落ち着いて食事が出来る”と。



「あれ、アルシア先輩?」

 食事中にアルが名前を呼ばれた。

 レイ、ファラル、ベクター、ヘルマン先生を除く三人が振り返った。

「君は、確か・・・普通科学年代表風紀委員だった・・・」

「ケイン・クレバートです。その節はお世話になりました」

 ケインは礼儀正しい生徒だった。

「今は何学年なんだ?」

「12学年です」

 質問にもしっかりと答えてくれる。

「12学年か・・・レイが受かれば一緒になるな。教師に取り計らうか・・・」

 アルが遠い目でそんなことを言う。どんな方法を使うのかは学生時代に培った教師へのコネだろう。

 ヘルマン先生がいる前で良い根性だ。

「あの、ところでそちらの方達は?」

 物思いに更けていたアルを現実に引き戻したのはケインだった。視線と質問からレイとファラルの事だと分る。

「ああ、噂が出回っているんじゃ無いか?特別編入試験受験者のレイと彼女の保護者で私の隊に新しく配属されたファラル殿だ。レイが受かれば君の世話になる事もあるかもしれないな」

 アルがケインの疑問に答える。

「元旅人のレイと言います。12学年でしたら私が受験する学年ですから同じクラスになる事があればご迷惑をおかけする事があるかもしれません。よろしくお願いします」

 レイの元旅人、と言った所にケインは反応した。

 急に侮蔑の視線をレイに投げ掛け、差し出したレイの手を嫌々というように握り返した。

 周りには気が付かないような変化だったが、レイにもファラルにもハッキリと分る。だが、その感情を向けられるのは慣れている事でもあるので大して気にはしない。

 恐らくアル達にもケインの変化は分っているだろうが全員が表情も変えずに二人を見ている。だが、内心では苛ついているのか取り巻いている空気が一瞬でピリピリとした物に変わる。

「お食事中にお邪魔をしてしまってすみませんでした。これで失礼します」

 ケインはヘルマン先生とアル達にだけ視線を向けるとレイ達が座っているテーブルから離れて行った。

「ケイン・クレバート、確か父親が治安維持局の高官だったわよね?」

 ロリエがぽつんと呟く。

「躾や礼儀は教え込んでるみたいだね。父親が治安維持局の高官なら育ちもいいんだろうね」

 ヘルスがそれに続き、呟く。

「だが、身分が高ければ旅人を悪と決めつけるのは浅慮ではないか?」

 ベクターが感情を込めずに淡々と言う。それでも怒っているという事は分った。

「「・・・」」

 アルとヘルマン先生は何も言わない。

 

 この世界では旅人の地位は低い。一部の地域では嫌悪の対象にもなっている程だ。

 理由は明白、旅人になったという事は村にいられなくなった、という事だからだ。そしてそれは罪人であったりその家族であったりした。

 追い出されるように、または逃げるようにして旅人になった者は当ても無く彷徨い金が底をつくのも早い。食べられる物の知識や狩りの技術なども持っている者の方が少ないので、追いつめられた旅人は犯罪を犯しやすい。

 また、野生の獣や魔獣に襲われる事もよくあり、死とは何時も隣り合わせの生活でもある。

 追い剥ぎや人攫いに遭遇する確率も高く、応戦中に相手の命を奪う事も間々ある。旅人という事は人を殺した事があると言われている程だ。だが、それらが罪に問われる事は無い。多くの場合が相手から襲ってくるので。正当防衛が認められるからだ。


 複雑な感情を抱きながらアル達がレイとファラルを窺うと二人は何事も無かったかのように談笑を続けている。

 ケインの事など無かったかのように振る舞っていて、感情なども読み取る事が出来ない。

「どうしたんですか?」

 レイがファラルと自分に向けられる視線に漸く注意を向けてワザとそう尋ねた。

「いや、その・・・」

「先程の方の態度ですか?」

 言いにくそうに口ごもるアルにレイは笑って、そう言った。

「旅をしていればよくある事ですし、今更です。一々気にしていればキリがありません。彼よりも酷い態度をとられた事もありますし、今ここで誰かが死んでしまったとしても取り乱さず、冷静に自分の保身を考えてしまう程には人が死んで逝くのを見ています。死という点に関しては皆さんもそうですよね?」

 それは、まだ僅かではあるが一緒に暮らして来ていたアル達が初めてレイの本性に触れた瞬間だった。

 天使のように微笑みながら、その美しく可愛らしい声で紡がれた言葉は、レイの顔にも声にも似合わない物だった。

「ロリエはまだ人の命を奪った事は無いみたいだけど、他の皆さんにはありますよね?」

 誰一人答える者はいなかった。ファラルの表情は変わらないがレイとファラル以外の表情は硬くなっている。

 その雰囲気を察しているのか近くに寄ってくる生徒は少ない。

 その場の空気は一瞬にして冷たく張り詰めたモノに変わっていた。


 カーン カーン カーン


 鐘の音が鳴り響く。テストは次の鐘が鳴る一時間後に始まる。そろそろ食事は終えなければならない。

 ここでの食事はトラブルは無かったものの、アル達とレイとファラルの間に小さな禍根を生みだす事になった。

 


 アル達がレイの本性を垣間見ました。

『次話、レイのテスト中にファラルとアル達との間に何かが起こる!?』

 を目標に頑張りたいと思っています。

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