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血の契約  作者: 吉村巡
32/148

31:午前中の試験

 目の前には裏返しにされた用紙が置いてある。

 ギーゼラ先生が腕時計で秒読みを始める。

「開始まで、10・9・8・7・6・5・4・3・2・1、開始!」

 レイは特に焦る事もなく、ゆっくりと用紙を裏返した。

 いつもと同じようにまず問題を読んだ。

 全てを読み切ったあと、またゆっくりと解答用紙に答えを書き込んでいく。

 最初のテストは歴史だった。

 答えを書き終えるまでの間、レイはいつもと同じように一度も問題用紙を見なかった。

 ギーゼラ先生はあまり表情を変えはしなかったが、少なからず驚いていた。

(問題を見ていない上に、手が止まる事も無い。記憶力が良いという次元ではないな・・・)

 冷静にそんな事を考えていると、レイの手が初めて止まった。

 レイがゆっくりとした動作で左手を挙げた。

 解答用紙を見てみると、既に最後の欄までを文字で埋めていた。開始からレイからすれば何時も通り20分と経っていない。ギーゼラ先生はこんな短時間で問題を終えた生徒を過去に見た事は無かった。

 テストの制限時間は二時間で、早く終わったのでもレイ以前で一番早かったのが一時間弱だった。

 テストは右手を挙げれば質問、左手を挙げれば終了となる。

 時間は一教科につき二時間だが、早くテストを終えられれば次の教科へ行く事が出来る。その時、余った時間は次の教科に繰り越し出来る。

 ギーゼラ先生は、レイの解答用紙を回収して時間を確かめ、そして次の用紙を渡して時間を正確に計った。

 計ると同時に、レイが問題を解く様子も観察した。

 表情・目の動き・手の動き・姿勢を重点的に見ていった。

 

 二つ目のテストは国語だった。

 レイは口元に微笑みを浮かべそうな雰囲気さえ纏っていた。鼻歌までも歌いだしそうな程リラックスした様子だった。

 目は傍目から見ればゆっくりとも思ってしまいそうな程穏やかな眼差しで、実際はかなりの速さで目は動いていた。

 問題を読む時には紙を捲る時にしか手は動かなかった。解答用紙に問題を書き込む時には手は全くと良い程止まる事は無かった。その代わり、問題用紙を見る事は無くなり、解答用紙の全てがまとめられ机の隅に綺麗に置かれている。だがレイはその問題用紙には一切目を向けなかった。

 姿勢は集中してしまうと前屈みにはなってしまう人が多く、そんな人は自然と目も近づけていく。だが、レイは猫背の癖は無く、前屈みになる癖も無いらしい。綺麗な姿勢で問題を解いていく。

 一問を解く速さは約5秒前後。一教科の総問題数は200問前後で確実に10分台には終わるだろうと予測出来た。

 事実、レイはまたも三十分とかけずに問題を終わらせた。


 次の問題でギーゼラ先生が観察したのはどうやって解いていくのか?だった。

 教科は化学。計算問題もある。

 レイはまた解答用紙には目もくれず、問題を読んでいた。

 計算問題もある。その過程を書く事無く答えを頭だけで導きだすのは至難の業だ。

 レイは数分で問題を読み終えると、解答用紙に向かった。

 計算の過程を先程と同じように、まるで書き写しをしているかのように軽快に書いていく。

 計算をしているようにはとても見えなかった。

 問題の過程を見てみると、その計算は正確で見やすく、無駄も無かった。

(字も丁寧で綺麗に書かれていて、読みやすい)

 今まで感じる事の無かった才能に出会い、現実逃避気味にそんな下らない事をギーゼラ先生は思った。

 午前中のテストが終わったのは、残りの薬学・古代語のテストが終わった30分後だった。




「早かったな・・・」

 アルの第一声はそれだった。

「もう終わったのかね?」

 フォール先生も驚いた様子でギーゼラ先生に問いかけた。

「ええ、午前のテストは全て終了しました。残すは午後のテストだけです」

 相変らずの無表情で淡々と事実を告げた。

「そうですか・・・、まだ一教科が終わる時間ではないのに。本当に、アルシア君は優秀な人材を見つけましたねぇ」

 ギーゼラ先生の言葉に、ファオール先生は驚きから立ち直り、逆に嬉しそうに微笑んだ。

「ですが、午後からのテストまでどうしましょうか?アルシア君達の意見を聞かせて頂きたい」

 フォール先生は、何も分らないレイに指示するのではなく、アル達にどうしたいのかを聞いた。

「そうですね・・・まずは皆の意見を出して下さい。それから考えましょう」

 アルはファラルの側に入るレイと、自分の後ろに入るロリエ達に向かってそう言った。

「そうね、学園内を見て回りたい。と思ってるけど・・・お昼ご飯には久々に学食で食べたいし」

 ロリエはそんな意見を出した。

「僕もロリエの意見に賛成。ただ、僕は魔術科の方にも行きたいと思ってる」

 ヘルスの意見も出た。

「俺は皆とは別行動になるかもしれない。学校の動物の状態を見て回りたいと思っているんでな」

 ベクターも意見を出した。

「そうか、私も許可して頂けるのなら学内を回りたいと思っていたんだ。フォール先生、午後の試験までの空き時間に学内を見学しても良いですか?」

 アルが皆の意見をまとめ、フォール先生にそう言うと、フォール先生は笑って、

「そう言うと思っていましたよ。いいでしょう、許可しましょう」

 許可はいとも簡単に出た。

 そうして、午後からのテストまでの空き時間を手に入れた。



「そう言えば午前のテストはどうだったんだ?」

「私も少し気になる!」

 アルとロリエにそう言われ、レイは笑って、

「いつも通りです。リラックスして出来ました」

 と答えた。

 皆、納得したように頷いた。ファラルを除いて。

『もう少し時間をかければ良かっただろう?人間共に姿を曝すなど、俺は心配だ。お前をそんな者共に興味の対象にされるのがな』

 レイの中にファラルの声が響いて来た。

 相変らず、表情は全く変えないくせにそんな台詞をしれっと言って来る。

 それが嬉しいと感じる自分にレイは気付いていた。

(そう言えば、最初は思いっ切り嫌がったな。ファラルも気付いていながら何度も、そんな事を半嫌がらせ的に続けていたし・・・)

 根比べだった。レイは不意にそんな事を思った。

(結局、折れたのは私だったな。本当は、最初から嬉しかったのかな?)

 時々、自分が何をしようとしているのか分らない。

 それは誰にでもある事だ。

 それでも、レイには自分の中にある自分でも分らない感情や想いに対して強い疑問と嫌悪感を覚えてしまう。

 レイには、何故帝国に来ようと思ったのか分らない。ただ何となく、流されてみてそうなった。

 では何故流されようと思ったのか?

(どうでも、いいか・・・。考えたとしても答えは出ない。私の行動理念は変わらない)

『ファラル、私が他人の視線に動じるとでも?そんなもので私は消えたりはしないよ。何も、消えはしない』

 長い沈黙の後。レイはファラルにそう返した。

 レイの言葉に何の反応も見せず、

『そうか、決めたことならば何も言わない』

 と素っ気なく返して来た。

 



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                     歴史

(1) 第20〜29代皇帝の名前と各皇帝の行なった改革・方針・内政を全て200字以内にまとめ解答欄へ書け。

                     ・

                     ・

                     ・

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                     国語

(1) 古典「神の言葉」の作者名と作者が書いた作品を他5作品の題名とその内容を300字以内にまとめ、解答欄へ書    け。

                     ・

                     ・

                     ・

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                     化学

(1) 疑似ダイアモンドの生成法の一例を材料から過程まで詳しく纏めよ。

                     ・

                     ・ 

                     ・

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                     薬学

(1) 腹痛を引き起こす毒草を5つ挙げ、各毒を全てを中和出来る薬草を5つ挙げよ。

                     ・

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                     ・

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                     古代語

(1) 有名な昔話、「騎士と竜」の内容を全て古代語に直せ。ただし、「騎士と竜」の内容は下記にある内容を完璧に

    古代語に直す事。

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                     ・

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 レイは学内の廊下を歩きながらロリエに出題された問題の内容を聞かれたので答えていた。

「難しっ!!私が12年の時そんな事習ったかな?学年の最後の頃に習った気がするけど・・・」

 廊下には人影が疎らだった。

 恐らく今は授業中なのだろう。

「そうか?薬学なんかは簡単だろう?例えば、腹痛は白季系の毒草を書けば月草・樺六かむ草等の薬草を書けば良いんだろう?」

 レイは少し驚いて、すぐに笑って、

「そうです。私もそんな事を書きました」

 と答えた。

 問題の出題内容は適当です。薬学の毒草・薬草でアルが答えていた名前もでたらめです。

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