29:編入試験への道のり(2)
試験勉強も軽い頭の体操。と思っているかのように問題を解いていくレイと、それをまじまじと見つめているロリエ。
アルが見つけたのはそんな一場面だった。
ロリエの膝の上には本が一冊載っているが、手に取ってもいない。
数分経って、レイがロリエに紙を渡す。
ロリエは机に置いてあるペンを手に取り、採点を始める。
備え付けの時計を確認すると勉強を始める時間から三十分と経っていない。
「もう済んだのか?」
アルは堪らず出て行ってしまった。
昨日の内に仕事を片付け今日はベクターとヘルスにファラルの世話を任せてレイの勉強の手伝いをしようと思っていた。
「アル!?どうしたの、こんな所で・・・」
「レイに勉強を教えようと思ってな・・・。もう終わったのか?」
「うん。レイって優秀だよ〜。試験問題、あともう少しで無くなっちゃうくらい」
ロリエは嬉しそうにアルにそう告げる。
妹のような存在になりつつあるレイが優秀なのが嬉しく誇らしいのだろう。
「結果はどうなんだ?」
フッフッフッ、と怪しく笑ったロリエはまるで自分の事のように自慢した。
「聞いて驚け!何と全問正解のオール満点よ」
アルは表情にはあまり出さないが、内心かなり驚いていた。
「満点・・・。それは、本当か?」
「嘘ついてどうするの。どうせなら証拠でも見る?」
「証拠?」
「レイに問題を作って。勿論アルのオリジナルで。いいよねレイ」
レイはいつの間にか持って来て読んでいた本から顔を上げ微笑みながら頷いた。
「レベルは十二年生の最高水準。アルのオリジナルならレイの実力も分るでしょう?」
ロリエが挑戦的に微笑む。
(解くのはお前じゃ無いだろう)
と半ばロリエに呆れながらも、レイの実力が知りたくなったアルはロリエの言葉を呑んだ。
「こんなモノか?」
アルは、ぱぱっと作った問題をロリエに見せる。
問題を見たロリエはまるで外道を見るような表情でアルを見た。
「エゲツない。最悪、冷血漢、性悪男!こんな問題レイに解かせる気!中等機関どころか下手すれば高等機関でも解けない人いるよ、これは」
レイに聞こえないように小声でアルをなじる。
「だが、12年で解ける問題でもあるだろう?」
その言葉にロリエは渋々頷く。
「それとも何か?レイには解けないのか?」
アルの言葉にはレイを過大評価する所は無い。
まずはちゃんと試験に受かる為に勉強をしなければならない。だが、教える立場にあるロリエが油断してしまっては元も子もない。
そもそも、こんな問題。解ける者の方がいない。
むしろ突出した教科しか全問正解は無理だろう。
アルはそれを量る意味もあってえげつない問題を用意してみた。
「制限時間は二時間。質問は無しだ。始め」
アルの言葉にレイは早速問題の方を読み始めた。
十分程で計五枚びっしりと書かれている問題用紙を読み終えると、解答用紙の方へと移った。
それからレイは一度も問題用紙の方を見ずに、解答欄に途切れる事無く答えを書いて行く。
アルもロリエもその様子に目を離せなかった。
アルは最初見ていたレイを見つめるロリエの気持ちが理解出来た。
(こんなモノを見せられたら注目するな)
レイは三十分間筆を止める事は無かった。
一度も問題用紙を見る事も無かった。
「出来ました」
と渡された紙には丁寧な文字で全ての解答欄に正しい答えが書いてあった。
今でこそアルにならレイの解いている問題程度、考え込む事も無く1時間以内に終わらせられるとは思うが、13の時にだとしたら、無理だ。
アルも驚愕していた。ロリエと同じように。
それでも、レイを過大評価はしない。だが、過小評価もしない。
きっとレイは、勉強をしなくても試験には受かるだろう。
それは予想ではなく、確信だった。
それで落ちると言う事は、学校側の陰謀や、誰かの画策。そしてレイのやる気と気持ち次第だと言う事にも気がついた。
「ど〜お〜?アル。レイは優秀でしょう?」
ロリエの何故か勝ち誇ったかのような言葉に、
(だから、解いたのはレイだろう)
と思いながら、素直に頷いた。
(本当にレイは、優秀と言うよりも、天才だ)
アルは本当に、心の底からそう思った。
そんな事を思ったのは初めての事で、アルがそう思う程の頭脳を持つレイに感嘆した。
「レイは、ファラル殿にどんな事を教わっていたんだ?」
アルが結果を聞いても、自分の実力に驚きもせずただ当たり前のように受け入れているレイに問う。
う〜ん、と少し唸った後、
「まず、読み書きを習って、色んな種類の本を読んで、そうしたらいつの間にか覚えてました」
レイはそんな建前を言った。
アルとロリエはレイから見てみれば、そんな事に大袈裟に驚いている。
カーン、カーン
何処からか鐘の音が聞こえて来る。魔法で町の何処からでも聞けるようになっているんだろう、大きくも無く小さくも無い鳴っているのに誰もが気がつく程の音。
もう、お昼という合図。
ロリエとアルは長い時間無言であったり、小声だったりで色んな事を相談したり考え込んでいるらしい。
レイの机の上には図書室からいつの間にか持って来ていたらしい本で溢れていた。
「そろそろ下に降りるか、二人と・・・」
言葉がそこで途切れた。
「何?どうしたのアル?」
ロリエが言葉を止めたアルに問いかける。
溢れている本はロリエにも見えている筈だ。
それでも平然としているロリエを見てこれはいつもの事なのだ、と悟ったアルは何気なく本の題名を確認していく。
『毒草と薬草』 『世界の始まりについての推測〜ブロッド・テクスター〜』 『人間と猿』 『人間の定義』
『過去の過ち〜戦乱の世〜』 『過去の過ち〜禁忌の研究〜』 『死を求める者の心理』 『狂い』・・・・・・
アルはその題名を読んでいく内に、その厚さと書いてあるであろう内容に唖然とした。
幾つか読んだ事のある本もあったが、13歳の読む内容の物は全く無かった気がする。
レイはアルの視線に気が付いていない。ただ、もの凄い速さでページを捲っていくのを見ていると本当に読めているのか疑問だが数分何も言わず、その様子を見ているとレイは最後のページを捲り読み終えた。
読み切った。という風な満足感は表情に見られなかった。
その本を読んでどう思っているのかも分らなかった。
「読み終えたか。食堂に行くと言った言葉、聞こえていたか?」
アルがレイに向かってそう言うと、レイはコクリと頷いた。
「『禁忌の先』・・・こんな本読んだのか!?レイっ」
驚いたようにアルが叫ぶ。
これは13歳が読める代物ではない。アルが内容を理解し読み切ったのは15歳の時だった。
『禁忌の先』は魔術を確実に理解し、使える者であったとしても読める者はかなり少ない。理由として現在は一般に使われていない文字が書かれているからと、禁忌の部分の論理が常人の理解の範疇を超えて行くモノだからである。
「アルも読んだ事あるの?この本。第五章の不老の研究で不老を得た魔導師が狂っていくっていう史実、本当だって思う?彼が不老を求めた理由が書かれてないのが残念だよね、魔導師が狂っているのかそうじゃないのかの判断材料が少ないもの。経歴から見れば危険な薬草や術には手を出さなそうだから、もしかしたら不老で使った術や薬草とかの中に肉体が若返る物が入ってて体が縮むのに筋肉や脂肪、骨が縮まなくて出来た傷が彼自身がつけたように見えて狂っていると言われたのかもしれない。材料が書いていない事が残念」
驚いた。パラパラと捲るだけに見えてそこまで読んでいたレイに。
確かにその魔導師の研究の理由は建前は知られているが実際は不明だった。
魔導師は不老を得たが発狂して死んだ。死に方は、皮膚が引き千切られ骨が至る所から突き出し言葉では言い表せない程凄惨な惨状だったと伝えられている。
その惨状の直後彼を発見した者が狂い、精神を病んで亡くなった程に。
彼の死は発狂とされていたが、レイの視点が正解という可能性もある。もしも彼が発狂したのではなく、若返っていく体に体内がついて行かなかったのだとしたら・・・。
レイの推測は正しい物となる。
だが、今ではその研究をする者はいないし、魔導師が作った研究資料も城の重要機密資料室に保管されているらしい。
結局、常人の目に触れる所には無い。
「でも、私の推測だし本当にこれが事実なのかもね。彼は狂ってしまった、若さに。そして破滅していった、自分に」
レイはポツリとそんな言葉を漏らすと、
「な〜んて、ストーリー作ったら面白いよね。あっ、本片付けるから先に食堂行っててもいいよ」
と言って、本を沢山抱え込んで図書室へと向かった。
アルとロリエは呆気にとられていた。今まで狂った人として死んだと思っていた不老の話にそんな可能性があった等と思いもしなかった。と同時に、読んですぐにそう思ったレイが普通ではないように感じた。
だがレイの考えはただの想像でしか無いのかもしれない。
結局、材料と研究資料が無ければ真相は分らない。
だが、アルは思う。
(レイは、色々な可能性や視点を持ち合わせている。考えつかないような可能性や視点を何でもない事のように見つけ出す才能。伸ばす事が出来れば、戦術士として隊に迎えたいな・・・)
その為には皆を従わせるカリスマ性・人徳・経験、不安にさせない自信・希望・雄弁さが必要だ。
他者と交わった事が無いのなら、学校には是非通わせないといけない。とアルは思っていた。
「やっぱり、学校に通うのが正解だよね」
ロリエもポツリと呟いた。
とても小さな呟きで、それが独り言だという事も分った。
どうやらロリエも同じ事を考えていたようだ。
「先に行っていても良いって言ったのに。どうしてまだ居るの?」
レイが図書室から帰って来た。笑いを含んだ口調で二人にそう言った。
「少し考え事をしていたんだ。さあ、下へ行こうか」
アルはそう言って、レイとロリエを下へ促した。
食堂へ降りるとファラルが一人食事をとっていた。人の姿は相変らず無い。
他の隊の人は任務で全員が出ているのだ。
いまだ、レイは12小隊の者以外に住人を知らない。
「ファラル殿?後の二人は・・・」
恐らくベクターとヘルスに世話を頼んでレイの元へ来たのだろう。
ファラルは表情を少しも動かさず、
「医務室にでも居るんじゃ無いか?・・・反撃してもいいと言われたので返したら吹っ飛んだんだ」
レイが心の中でもう少し説明してあげてと飛ばすと、ファラルはちゃんと補足してくれた。
どちらが?と聞く前にアルは医務室へと向かっていた。
ロリエもその後を追っていく。
「慌ただしいね」
レイが呟く。ファラルは何も言わない。
「治癒魔法かけた?」
ファラルは鷹揚に頷く。
レイは目の前に昼食を差し出された。
「そろそろだと思って、用意しておいた」
恐らくレイを通して見ていたのだろう。他人が聞けばいい気はしないだろうが、レイはそんな事全く気にしない性格をしていた。
「いただきます」
レイはそう言って、アルとロリエを無視し昼食を始めた。
さっさと食べ終え食後のお茶を飲んでいると、アルとロリエが帰って来た。
「もう少し、手加減が出来ないか?ヘルスが風の精霊に気に入られていても、限界はある」
その言葉から怪我をしたのがヘルスだという事が分った。
「レイを相手にしていると手加減の仕方が分らなくてな。一応処置はしておいたが?」
ファラルの言葉にアルは、
「確かに治癒魔法は完璧だ。もう傷は癒えかけていたし、見かけの汚れでは想像出来ない程の本当に小さな怪我になっていた。貴方には脱帽しますファラル殿。何故治癒まで出来るんですか?」
「自己流の知識と勘だ。誰に習った訳でもない」
ファラルは簡潔にそう答える。アルからしてみれば自己流でここまで力を操れる人物を未だかつて見た事は無い。
魔力とは、大きければ大きい程、使いこなすのは困難なのだ。
アル自身も幼い頃は魔力の制御が出来ず、沢山の人々に迷惑をかけたし、負傷させた事もある。
それは強い魔力を持つ者の宿命でもあり、人を傷つけたからこそ、力の恐ろしさが分り使いこなそうと努力をする。
アルがファラルの事を考えていると、
「今日はもうやる事無いの?ファラル」
「ああ」
レイが何を言おうとしているのかアルには分らなかったが、ファラルには分っている。
「じゃあ、今日は勉強を見て」
「私は構わないが、いいのか?隊長殿」
ファラルはアルに答えを求めた。
アルはファラルの実力を測る為にもいい事かもしれない。と思い、それを認めた。
アルもロリエもベクターも服を着替え体を洗ったヘルスも、レイとファラルの会話に驚くしか出来なかった。
二人は発音や綴りが難しく、自在に使える者が少ない考古代語で流暢に会話し、なおかつ問題や答えに考古代語を使って勉強していた。
はっきりと言えば、考古代語は魔術には使えない。その目的で作られた物では無いから。
魔術に使うのは考古代語ではなく古代魔術語だ。アルには一応考古代語も少し知っていて時偶会話の中で交わされる言葉の単語がわかる。
アルに分ったのは、正解・髪の毛・宝石・不正解・時間等だった。
つまり、二人を除く全員が会話の内容が分らないという事だ。
考古代語が使えるという事は分ったが、肝心の知識がどれほどあるのかは分らなかった。
二人は真剣に会話し(ファラルは相変らずの無表情だが)、何時間も問題を解いていく。どんな問題を解いているのかはわからないが、二人の会話は手を動かしていながらも途切れる事は全くと言ってよい程無かったと思う。
『毛髪が薬になるとされている。その効果は何かを答えろ』
ファラルがそう言うとレイは、
『毛髪を黒焼きにして作る乱髪霜という生薬がある。止血効果があるとされている』
レイはすらすらと答えていく。昔読んだ本に書いてあった事だ。
『青金石にについて述べよ』
『青金石は宝石ラピスラズリ、別名ラズライト(瑠璃)の主成分である鉱物。硫酸塩・硫黄・塩化物よりなり、ケイ酸塩鉱物に分類される。人口顔料としても使用される。魔術では雨の妖精の召還に使われる事が多い」
短く、触りだけを簡潔にレイが答える。
その後も問答が繰り返され、段々と難しくもなっていく。
さすがのレイも後半部分で三度間違えた部分があった。
だがその後半の問答は既に、専門的な知識を超えてしまっていた。名のあるその道の者でも、答えられない程複雑な答えを要求して来る。
それを考えれば、三度の間違いは既に奇跡とでもいえる程の少ない間違いなのだ。
だが、ファラルは納得しないし、レイも納得しない。
特にレイは、間違えてしまうと間違えないように更に知識を深めて来る。
問答が終わり、レイが呟いた第一声は、
『間違えちゃった・・・』
ファラルは何も言わない。言ってもどうにもならない事を知っているからだ。
下手に何かを言って、機嫌を損ねられるのは避けたい。
それに、慰めなどしない方がレイの為になる。
『次の問題に移って』
ほとんど喋りっ放しだったのに、レイの声は掠れてもいない。
そして、それはファラルも同じだった。
『次は時間についての証明。時間軸へ侵入する為に必要なエネルギー消費。光の速さで進むと時間が遅くなる理由」
レイはもの凄い速さで計算を行いながら、同時に証明の為の説明を論理的に行った。
二人の授業が終わったのは始めてからもう何時間も経った後だった。
他の人を見渡すと、全員が手に本を持っていた。
「ずっと待ってたんですか?」
レイは最初存在を確認してはいたが意識はあまりしていなかったのでそう聞いた。
意識をしていないという事はつまり、レイは自分が襲われない限り、相手に反応する事も注意を向ける事も無い。
アル達は声をかけられたのに少し驚いた風に顔を上げ、「終わったのか」と呟いた。
レイとファラルの言葉は、他の者には全くと言っていい程わからない物だった。聞いていても何を話しているのかわからない。そんな言葉を長時間聞くのにはかなりの根気が必要だ。
全員がそんな中で達した結論は、終わるまで本を読みながら待つ。というものだった。
やる事も無く、二人に加わる事も出来ないのなら仕事をするという選択もあったが、どうせなら本でも読んで待とう。と言ったのはアルだった。皆も納得し賛成して二人の勉強が終わるのを本を読みながら待っていた。
全員が本を閉じ、ヘルスの魔法で元の場所へ返すと、
「そろそろ夜になるな、このままで試験に受かると思うか?レイ」
アルの質問は直球だった。
レイは無難に、
「先の事はわかりません。ティラマウス学園はとても優秀な生徒が多いのでしょう?私は平凡なので受からない可能性もあります。ですが、最善を尽くす為に今努力しようと思っています」
と答えた。ファラル以外は、レイが“平凡”と自分を称した部分が気になった。
「そうか、ファラル殿と少し話があるんだ。皆先に食堂へ行っていてくれ」
皆はいわれた通りに動いた。
ファラルはその場に留まっている。
皆の姿か見えなくなり、気配も離れた所でアルはファラルに単刀直入に言った。
「レイの学力は、はっきりと言えば中等機関の範囲を軽く越している。高等機関の中でも十分、否それ以上の結果を出せる程に。旅人であったファラル殿とレイが何故そんなにも深い知識を手に入れる事が出来る?あまつさえ、何故それが当然であり、平凡な事だと思えるんだ?」
アルは真っ直ぐとファラルの目を見て聞いた。
ファラルは相変らずの無表情で、感情と言う程の感情が感じられない。何を思っているのかさえもわからない。
十分すぎる程の沈黙のあと、ファラルは淡々とした、だが聞いている者を引き込む美声で語った。
「旅人が深い知識を持たない、と言う理論は何処から出てくるんだ?独学でも理解出来れば知識を持てるだろう?深い知識を持つのは旅人にとって難しいというだけだ。本の内容を理解出来ない者、文字すら読めない者。読めても間違って覚えてしまい、それを訂正する者が居ない、というだけだ。知識を持てない訳ではない」
アルはその言葉に無理矢理納得した。
「つまりファラル殿は本を読むだけで間違えずに全てを理解した、と?」
ファラルはただ頷いた。
それだけで高等機関以上の知識を手に入れた者をアルはいまだかつて知らない。書物には、限界がある物だ。
文字だけでは書ききれない何かがある。
だが、今ここでそんな議論をしても仕方が無い。
「では次に、レイがあの若さで何故そこまでの知識を手に入れられ、なおかつそれを当たり前のように思う?ファラル殿は気が付いているのだろう?レイの異常に」
ファラルはクックッ、と笑いを漏らした。
だが目はひどく冷めていた。
「レイが異常だ、と?正常に決まっているだろう。愚弄するのなら許さないが・・・それでもレイを異常というのか?」
それは初めてファラルが見せた感情だった。
そこでアルも気が付いた。
(ファラル殿の世界でレイはとても大切な存在なのだ)
と。
それでも、アルはいう。
「レイの異常は、無自覚さだ。何故そうも自分の才能に気が付かない?ファラル殿も気が付いているのなら何故、しかるべき機関で教育を受けさせない!?」
それが、アルのファラルに対する思いだった。
わかっていながら、何故?
ファラルはアルの言葉を吟味していた。そして語った。
「第一に、旅人でも知識は深められると言っただろう?レイには私も居たんだ。間違えても正す事の出来る存在が、な。
第二に、レイが無自覚なのは他との交流が無いからだ。自分が突出した才能を持っているとは思っていないだろう。
つまり、レイにとっては知っている事が当たり前なんだ。否、私が当たり前にしてみた。知識を与え、伸ばし、育手ていった。その結果が今のレイに至る。当然の結果だ。異常ではなく、正常なんだ。私やレイからしてみればな」
アルはファラルの言葉に唖然とした。
そして、聞きたい事を聞いた。
「レイは、求めたのか?自ら、知識を」
ファラルは答えによっては自分を糾弾するであろうアルの質問に正直に答えた。
「進めたのは私だったが、レイは直ぐさま納得し、楽しそうに学んでいった。元々の素質もあり乾いたスポンジが水を良く吸うようにどんどんと知識を吸収していく。そしてそれは終わる事を知らない」
アルそんなことを言うファラルに複雑な視線を向け、
「話はこれで終了だ。下へ行こう」
と、締めくくった。
勉強についての話は少ないですが、レイとファラルの勉強で書いた
“髪の毛”の話で漢方に本当にある薬です。(ただし、医薬品ではありません)
本当に効果があるのかはわかりませんが・・・。