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血の契約  作者: 吉村巡
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2:出会い

「ここで待っていてくれ」

 そう言うと、男は銀色の髪をなびかせ走っていった。

 周りを見渡すと、兵や大人が走り回り子供は興奮し女性達の手を煩わせていた。

 賊は捕まり、施設は半壊している。ここに住んでいたり、頼っていた人たちはどうなるのだろう?と思いながら見渡していると、

「やっぱり見張られてるよね」

 レイはそう呟いた。

「当然だろうな。あんな所に居たんだ」

 とファラルが返してくれた。

「ファラルは姿見せてなかったけど、セシルさんとかどう思うんだろう?やっぱり兵の人って思ってくれるかな?」

「それ以前にレイに気付けないだろう。顔を変えていたんだから」

「やっぱり?」

 二人の緊張感は皆無だった。

 兵の男が何人か二人に近づいて来た。

「コイツらが賊の一味かもしれないって言う旅人だって」

「へぇ」

「体つきもしっかりしてるねぇ」

 レイを見て、ニヤニヤと笑いながらそう言う男達を、

(仕事、すればいいのに。サボっているのかそれとも使い物にならないのか・・・どっちもだろうな)

 と思って無視していると、男の兵の一人がレイに触ろうとした。

 兵は触る前に吹っ飛んだ。

 ファラルが蹴ったのだ。

(あ〜ぁ、あの蹴りが見えた目のいい人は何人かな?)

 と思っていると、銀髪の男が後ろに数人を従え二人の元にやって来た。

 放心していた他の兵も、その人たちがやって来たら、吹っ飛んで気絶した兵を担ぎそそくさとその場を後にした。

 銀髪の男はレイとファラルの前に来ると、

「すまなかった。兵が無礼を働いたようだ。実を言うと私もあの者達には困っていたんだ、礼を言う。それにしても、先程の蹴りは見事だった。私でも避けられるか分らない程だ」

 そう言う銀髪の男に、後ろの人達も頷く。

 恐らく後ろの者にもファラルの蹴りが見えたんだろう。

 そして、兵は本当に立場を使って色々していたんだろう。

「場所を変えよう。ここは人の目が多い付いて来てくれ」

 そう言われ、二人は大人しく従った。



 次ぎに行った場所は、小隊のテントの中だった。

「ここならば、私達以外に人はいないし、話を聞かれる心配も無い」

 そういわれ、レイとファアラルは椅子を勧められた。

 二人が大人しく座ると、彼の後ろにいた人達も思い思いに座っていた。

「そういえば、まだ名前を名乗ってなかったな。私は帝国立魔法小隊12番隊隊長アルシア・トニン、属性は白の光。十七だ。気軽にアルとでも呼んでくれ。お気付きかとも思うが、ここにいる全員が魔法を使える」

 アルがそう言うと、待ってましてたとばかりに、

「初めまして!僕は12小隊所属ヘルスト・リュースです。今年18になるんだ、属性は白の風。ヘルスって呼んで」

(貴方の顔と背は、せいぜい12歳に見える。理由はあるんだろうけど)

 とりあえず、空気を読んで言わなかった本音。

 実際、外見は18歳には見えない。顔は美青年と言うよりも美少女に近かった。

 背は高いが華奢な体型、細く重いものを持てなさそうな腕。

 サラサラの耳にかかる白い輝く髪。元気に外を駆け回り焼けたらしい肌。

 そして何よりクルクルと動き回る空を切り取った様な澄み切った青は輝きに満ちていた。

「興奮し過ぎだ、ヘルス。次はベクターだな」

 アルがそう言うと、

 アルの近く居座っていた体格のいい男がレイとファラルに近づき握手をしながら、

「ベクトル・カルダー、18だ。属性は赤の獣。ベクターと呼んでくれ」

 ベクターは年相応に見えた。

 ここにいる全員の中で一番高い背としっかりとした体格。

 貫禄があり威厳に満ちて誇り高いと言えるが、

(保護者タイプ)

 レイは心の中でバッサリと切る。

 くせ毛なのか、とがった濃い茶色の髪。

 緑がかった青の瞳は大人のような感情が浮かんでいるように見えた。

「最後は私よね?」

 綺麗な高い声がヘルスの隣に座っていた少女から発せられる。

「私はローリエ・マヌエット、16よ。属性は青の水。ローかロリエって呼んでね」

 そういうと満面の笑みで笑った。

 純真で汚れの無い笑顔は、(表面だけならレイにも当てはまるが)ヘルスよりも子供であると直感した。

(精神面では一番弱いかも)

 思うだけで言わないのは優しさなのか・・・。

 ロリエは美少女の部類に入るであろう顔と体型をしていた。

 スレンダーでありながら凹凸のはっきりとした身体。

 高過ぎず、低過ぎない背丈とすらっとのびた手足。

 小さな顔に綺麗に配置されたパーツ。

 肩のちょと下まで伸びている淡い水色の髪と、瞳。

 レイの本性が冷たい雰囲気ならば、ロリエは子供のように純粋で本当に暖かい雰囲気だろう。

 どっちも綺麗なのだが醸し出す雰囲気は正反対だろう。


(面倒くさいな。それに愛称で呼ぶのなら、しばらく一緒にいることになるのかな?)

 そんなことを思いながら、表面上は微笑んで、

「初めまして。旅人のレイと言いますお好きに御呼び下さい。年は13歳になるのかな?多分そのくらいです。隣は一緒に旅をしているファラルですこちらも、お好きに呼んで下さい。年齢は・・・何歳だっけ?」

 レイがそう聞くと、

「一々、数えたことが無い。外見からして十代後半から二十代前半だろう」

「じゃあ14」

「十代後半と言ったのが聞こえなかったのか?」

「じゃ18」

「決定だな」

「ファラルは18歳です」

 淡々と普通の声で言っているので聞こえているだろうが、無視して言うレイにアルが一言、

「年齢設定を今するのはやめてくれないか?」

 だった。

「その前に、レイって言っていいのかな?・・・レイは本当に13歳?気に障るかもしれないけど、見えない」

(それは貴方のことですよ?ヘルスさん)

 心の中でそう思いながら、

「多分13です。もしかしたら14かもしれませんが」

 と答えた。

 実際、レイは13には見えなかった。

 ロリエと同じように凹凸のはっきりとした身体と、幼さを残していない色気のある顔で、16〜18に見える。

 16歳くらいなら小柄に見える背丈(13なら高い方だが)も13歳なら納得できる。



「自己紹介はすんだだろう?ここから本題に入る」

 アルがそう言って、ヘルス達をたしなめると、皆大人しくなった。

 全員が佇まいを直すと、アルの言葉を待った。

「これから、旅人レイと旅人ファラルの尋問を始める」

 静寂の中アルの声が響く。

「まず一つ、君達は、賊の一味か?」

 レイは、はっきりと否定した。

「いいえ、私達は国から国へと旅をするただの旅人です。定住の地は無く、他と交わらず、大勢の者と関わらぬ。それが私達です」

「証拠は?」

「ありません。私達は、私達の言葉しか持ちません」

 アルは少し考えた後、次の質問に移った。

「二つ目。なぜ、その年で旅をしている?旅には危険も付き物だ、例えもう一人が強くても何時も一緒にいるとは限らないだろう」

 レイは笑って、

「長い長い話になりますよ、全てを説明するのだとしたら長く、省略して話すにしても納得の出来ない所が出るでしょう、

ただ一つ言えるのは、私は普通の女性の方よりも強いと言うことだけです。それに、もしも人買いにさらわれても、彼はきっと私を見つけ出し助けてくれます」

 きっぱりと言うレイにファラルは小さく頷いた。

「そうか・・・。では三つ目、セシルという者が旅人の世話をしていたと言うが、面識はあるか?」

「えぇ、彼女には良くして頂きました」

「だが、彼女は君の顔を知らないと言っている」

 レイは微笑みを崩さず、

「それは、当然のことです」 

 と言い切った。

「何故だ?」

 アルが問いつめると、レイはあっさり、

「顔を変えていたからです」

 と言った。

 レイとファラル以外が、複雑な表情をすると、「実践の方が速いか」と呟くレイを見つめた。

 レイがファラルの方を向くと、ファラルはおもむろにレイの顔に手をかざした。

 ファラルがその手をどけると、先程まであった緑色の瞳は無く、青色の瞳を持つレイがそこにいた。

 その目は、レイが瞬きするともとに戻り、レイは、

「分りましたか?」

 というと、微笑んだ。

「ファラル殿は、魔術師か?」

「魔力はあるが、学んだことは無い。力は便利だが、この力のことを学ぼうとも思っていない」

 ファラルは簡潔にそう言った。

「では最後に、君達からは魔の気配がする。悪魔と契約をしているのか」

 アルは真剣にそう聞いた。

 悪魔と魂の契約をした者は、願いを叶える代わり、身体を乗っ取られる事があると聞く。

 人間の身体を乗っ取った悪魔は、殺戮を始めるともいわれている。

 そうなる前に、魔術師はその者を隔離する。

 時に、その命を奪い。

 レイの微笑みは崩れなかった。

「悪魔の気配があることは、分っています。契約をしているのかは解りませんが、少なくともそれが旅に出た理由の一端でもありますから。これだけでも、話聞きますか?」

 レイがそう言うと、アルは、

「あぁ、聞かせてもらう。それが君達のこれからを決めることになるかもしれない」

 まぁ。と、レイが笑いながらいうと、おもむろに服を脱ぎ始めた。

 止める間もなく胸元までを露にすると、そこには、見たことの無い刻印があった。

 白い肌にその一カ所だけ黒く焼け爛れた痕に全員が目を奪われる。

 刻印は悪魔の翼に包まれるように花が一輪ある。薔薇をモチーフとしているのか棘のある蔓が周りに円状の模様を描いている。

 痛々しく毒々しいその刻印に全員が惹き込まれ、胸を痛めた。

「生け贄の印です」

 と、笑いながらレイが言った。



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