28:編集試験への道のり
候補校が決まると同時に、レイとその周囲は慌ただしくなっていった。
候補校をティラマウス学園に決めて二日目の事。
一日目は願書や書類を書くのに一日を費やした。後から聞くと普通は一週間で仕上げるものだったらしい。
レイにとって苦痛ではなかったが、面倒くさいと思うものではあった。
十日後に試験があるとも教えられ、それまでに出来る事をこなさなければならない。
「過去の試験問題が届いたし、今日は一日これをみっちりやってもらうからね」
ロリエが満面の笑みでレイに分厚い問題の束と解答用紙を渡す。
確実に2〜3kgはあった。
仕事はいいのか?とレイが聞いたが、
「遠くまで行く仕事したし、忙しい時期でもないから一ヶ月ぐらい大きな仕事は無いと思うよ。あるとしても一日か二日で終わる仕事だと思うし、事後処理と報告書の作成に一週間はかかると思うし。そんな事よりサクサク問題解かないと!試験まで残り九日!」
そう言われて、レイは問題に答えを書き込んでいく。
問題の束の方を全て読み切った後、解答用紙の方に筆を走らせる。
それからレイの答えを書いていく音が途切れる事は無かった。
一時間もしない内にレイが発した言葉は、
「終わりました。答え合わせしてください」
ロリエは読みかけの本から顔を上げ時間を確かめて驚いた。
「もう終わったの!?」
「はい」
「全・・部?」
「はい」
レイは笑ってロリエに解答用紙を差し出した。
確かに回答欄は全て埋まっている。
ロリエの丸つけは三十分で終わった。
全問正解だった。
レイはその結果を穏やかに笑って受け止めた。何処も不審に思わず、そうなる事が当然だと分っていたかのように。
対してロリエは驚愕しいていた。たった13の女の子が、普通の大人でも間違えるのが当たり前と言う程の問題をいとも簡単に全問正解するなど・・・。
(アル、以上だ。アルでも、13の時にこんな難しい問題を全問正解なんて出来る筈無い)
戦慄した。
まともじゃ、ない。
レイはまともじゃない。
穏やかにただ笑って受け入れていい事じゃない。
当然だと、受け止めていい結果じゃない。
ロリエは一瞬、急にレイが恐ろしくなった。
何が怖いのかはわからない。
ただ、何かに飲み込まれてしまいそうに、なった。
その何かとは、強大で底が無く、得体の知れないものだった。
「どうしたの?ロリエ」
レイが黙りこくっていたロリエに声をかけた。
その瞬間、“何か”は消え去った。
レイが心配そうに顔を覗き込んで来ている。
「何でも無いわ」
ロリエがそういうと、自分でも本当に何でもなかったのだと思い込んだ。
すると、本当になんでもなかったのだと思えた。
「こんなに早くレイが問題全部解くとは思わなかったから、明日の分もやっておこう!」
ロリエがそう言うと、レイは素直に従った。
結局、編入試験前日まである筈だった問題を一日で全て終わらせたレイは、図書室へと連れて行った貰った。
レイが自由に本を読んでいる中、ロリエは解答用紙の丸つけに勤しんでいた。
レイの周りに読み終えた本が十冊程並べられた頃、ロリエの丸つけは終了した。
結果は、全問正解だった。
「すごいね、試験勉強・・・必要ないかも」
レイはそんなロリエの呟きに本から顔を上げた。
図書室には二人以外誰もいない。扉の近くに二体の人形がいるだけだ。
「もうそんなに読んだの!?」
ロリエが小声の、それでも驚いていると言う風に声を上げた。
この図書室では規定以上の声を上げると、即刻つまみ出されてしまう。
つまみ出されたら最後、しばらくの間図書室への入室は禁止。つまみ出される時の扱いも乱暴だ。
「うん、読んだ事無い本が幾つもあるし、一般には売買されてない本も沢山ある。蔵書が本棚に入りきらない程あるみたいだし。また来てもいい?」
レイの言葉に、ロリエは呆れたように肩をすくめると、
「勿論」
と答えた。
その時、レイは笑った。
(可愛いっ!!)
ロリエは嬉しそうに微笑むレイを抱きしめたい衝動に駆られた。
ずっと妹が欲しいと思っていた。
レイの可愛さは、ロリエにとって理想の妹だ。
「試験勉強は終わらせて出来なくなっちゃったけど、毎日勉強はするからね?」
ロリエのその言葉に、レイは素直に、
「はい」
と返事をした。
結局勉強は必要ない。と言う事になってしまいました。
本当にレイとファラルは何者なのでしょう?
これから試験までどうやって過ごすのかを少し書いた後、試験当日を書きたいと思っていますが、予定は未定です。
ちなみに、ロリエとレイが二人で勉強してる時、他の皆はファラルに隊の説明と各所の案内。ファラルの紹介を行っています。
そんな時もファラルは無口無表情で、自己紹介も何もかもアル達に任せているので受けは悪いでしょうね。
実力はあるので取り合いもあるかもしれませんが、アルが隊長なので取られるというヘマはしないでしょう。