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血の契約  作者: 吉村巡
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26:候補校

 レイとファラルが二人きりで朝食を摂っている時、アルとベクターが入って来た。

「早いな、相変らず」

 アルがレイの前に座り朝食が運ばれてくるのを待っている。

「二人も早いじゃないですか」

 レイの言葉にアルは、

「ベクターは馬達の世話があるから朝は早い。私には仕事が腐る程あるからな、朝は早く起きないと一日にしようとしている事が消化出来ないんだ」

 アルが当然の事のように言う。

「そう言うレイとファラル殿は何故そんなに朝が早いんだ?」

 レイは笑って、

「ファラルも私も昔からのクセで。それに私達の旅では朝早く起きて一日に歩く距離を稼ぎますから」

 と答えた。

 アル達の会話に相槌を打ったり、問われた事に答えたりした。

「そうだ」

 アルが思い出したように呟くとレイとファラルに向かって、

「九時頃に私の部屋に来てくれ。レイに関係する・・・候補校を決める為の話し合いだ。今後の事に関わるので忘れないようにな」

 レイとファラルは朝食を食べ終えていた。

 もう帰ってもいいと言う事だろう。会話を終わらせるようなアルの言葉からそう思うと、ファラルと一緒に、

「九時にアルの部屋ね、了解。それじゃあ、お先に失礼します」

 そう言い残してファラルが二人分の食器を返すと、食堂から出て行った。

「どうした?」

 二人を見送ったアルはベクターが怪訝そうな顔をしているのに気がついた。

 レイとファラルが出て行った食堂の方を睨むように見つめている。

 アルの言葉に答えようかどうしようか迷っているように押し黙っていたが、

「むせ返るような血の香りが、した。恐らくレイから」

 ベクターの嗅覚は獣使いによくある、動物のように発達している節がある。

「それでも一瞬だ、気のせいかもしれない。疲れがたまっているのかもしれないし」

 ベクターはアルが否定するよりも早く、自らの疑いを否定した。

「気にしないでくれ」

 それ以上、何を言う事も無くその会話はそこで打ち切られた。



 九時になった。ファラルは食堂からレイの部屋まで、ずっと付いて来ていてレイも何の躊躇いも無く自分の部屋へファラルを招いていた。

 

 コンコン


 レイがアルの部屋の扉を叩く。

 直ぐに、入室の許可が出て二人は部屋の中に入った。

 アル達は執務机では無く、ソファーとその前にある机の上に資料を積み重ねていた。

「こっちこっち」

 ロリエに腕を引かれソファーに座らせられたレイは目の前にある資料をじっくりと見た。


 《シュワルツ学園》

 《ヴェンヘン中等学校》

 《ラナミネ学院》

 《帝国立ティラマウス学園》

     


 数校の学校の資料が机の上には並べられていた。

「帝国内の学校全ての中からレイの学力に合う基準を設け、全寮制の学校は除かれている。この候補の中から各校の資料を読んでどれにするか決めてくれ」

 レイは躊躇いながらも一校につき何百枚と纏められている資料に目を通していく。

 ファラルはレイが読んでいる資料を覗き込んで見ているし、他の皆もレイが読んでいない資料に目を通している。

(どれも学費高いなぁ。お金がかかる上に何でワザワザ学校に行かないと、いけないんだろう?)

 読み進めていく内に、そんな事を考え始める。

 どの学校も歴史は長く、優秀な者を何人も輩出しているらしい。

(興味ない。今更、何を学ぶ事があるんだろう?)

 それでもちゃんと資料に目を通していく。

 レイにもファラルにもどれも一緒のように思えた。

 全ての資料に目を通し終えるのには二時間も掛からなかった。

 正直レイにはどれも同じように思えたし、何処にも興味がわかなかった。

「レイは何処がいい?」

 ロリエが聞いて来る。

 笑顔を貼付け、レイは答える。

「そうですね・・・どの学校も優秀な人達が多いらしいから私はレベルが違うんじゃないかな?学費も高いし、私にはお金が無いから、誰かに迷惑をかけるのは嫌だとも思ってるし」

 やんわりと候補校の変更を申し出て、なおかつ学校に行くのも嫌だという雰囲気を出してみた。

 やる事が無いから、足掻いてみる。

 反抗はただの暇つぶしで、誰かの困っている顔が見てみたい。

 それに・・・真剣に、ただ一心に、純粋に、何かに打ち込んでいる子供を見たくない。とも思っている。

 レイにとって内面の美しさ、純粋さは、嫌悪の対象。

(見ていると、吐き気がする。その全てを壊したいとも、思ってる)

 そこまで考えが及び、考える事を止めた。

 そして、レイの返した反応に悩んでいるアル達の表情を見た。

 何かに必死になっている表情。

 そして、レイの視線に気がついたのかアルが、

「学費などの心配は要らないと言っただろう?自分が負担などと思わないでくれ。こっちは好きで世話を焼いているんだ。気にする事など全くない。ただ、私達にレイの世話を焼かせてくれないか?」

「・・・・・・」

 レイは何も言わなかった。

 ヘルスとロリエは掛ける言葉が見つからないでいるアルとベクターを一瞥すると、何事も無かったかのように、

「レイ、好きな学科とか無いの?色んな学科が揃ってるのが私達の母校でもあるティラマウス学園で候補の中では一番生徒数も多い。実験・開発・研究ではヴェンフェン中等学校が力を入れてるみたいだし。武術が得意とか興味があるとか言うんならラナミネ学院。歌とか演劇とか踊り、語り、歴史とかが好きならシュワルツ学園かな。私のオススメは私の母校でもあるティラマウス学園!」

「僕もロリエと同じいけ〜ん」

 外見を最大限に生かして屈託の無い顔を向けて来る。

(ヘルスって、本当にロリエが好きなんだね。自分の外見嫌いそうなのにロリエの為に使ってる)

 でも、レイにはそんな笑顔効かない。レイには見えてしまうから、

(大人になる前に、ロリエに恋人が出来なければいいね)

 笑顔を向けられても気持ち悪っ!と思うのはレイだけだろう。

「それじゃ、レイが決められないと言うのなら、ティラマウス学園と言う事で決定!!」

 レイが口を挟む間もなく全てが着々と進められていく。

 口を挟まないのはファラルだ。恐らくどうでもいいと思っているのだろう。



「テストの結果によって得手不得手を分析されて、選択肢が決められる。もちろん自分の意見も通せるし転科も出来る。レイはどんな教科が得意、もしくは好き?」

 ヘルスの言葉にレイは少し考えて、

「どの教科、と言われると・・・薬学、かな。生態系や心理学、分類学にも興味があるし」

 ファラル以外の全員がレイの言葉に少し驚いたような顔をしている。

「えっ!?なんか変な事言った?」

「いや、変っていうか・・・意外っていうか・・・」

「分類学とか心理学ってなんか、レイには意外だね」

 レイはその言葉に反応した。

「意外って。何が意外なの?」

「薬学は分るんだが、分類学や心理学はレイには必要ない気がしてな」

 アルの言葉にレイは一瞬見ている者が不安になってしまう程、ゾッとするような冷たい何かを讃えた無表情に戻った。アルとファラル、ベクターしか見ていなかったその表情に言葉を失っている様子だった。


               ヒトガ ウカベテイイ ヒョウジョウ ジャナイ


 ファラル以外の二人は少し顔が青ざめ、引き攣っている。

 レイは表情を何事も無かったかのように笑顔に戻した。

「そんなに以外ですか?でも、一番興味を持っているのは薬学です」

「何で薬学なの?」

 ロリエにそう聞かれ、

「旅の途中で体調を崩すと自分で処方するしか無いんです。だから興味を持ったんです」

 レイの言葉にロリエとヘルスが納得したように頷くが、アルとベクターが微動だにもしない。いまだ表情が引き攣っている。

「どうしたの二人とも?」

 ヘルスの言葉に二人はハッとしたように表情を変えた。

 ぎこちない表情で何でもない、とアルが言っている。

(いきなり素に戻ったのが間違いだったかな?)

 でも、誰にだって失敗はある。

 間違いだってある。

 言うべきではない言葉も存在する。

(まぁ、いいか。言って欲しく無い言葉を言ったのはあっちだったし)

 自己完結しているレイにロリエがもう一つ質問して来た。

「じゃあ、苦手な教科ってある?」

「苦手というか、興味が無いのは魔術です。力が無いし、基本はファラルに教えてもらったんですけど、使えなければ意味も無い」

 レイの答えはズレているような気もしたが、まあ納得出来るのでロリエは何も言わなかった。

「そんな事より、ティラマウス学園と言う事に正式決定でいいのか?」

 色々アル達で盛り上がって話を進めていたのに、ベクターが最終確認をして来た。

「実感は無いけど、分らないんなら流されてもいいかな〜、と思ってるから」

 レイの言葉にベクターはそうか、と呟いた。

 





 

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