25:事実確認
皆が夕食のため食堂へ降りた後、アルは引き出しの中に入れておいた調書を取り出した。
(レイと、ファラル殿の素性・・・)
その調書はアルが専門の機関に頼んでいた物だった。
資料に目を通していく。
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〈ファラル殿についての調査〉
出身地不明・名字不明・経歴不明・家族構成不明・年齢不明・能力不明………
アルは呆れた。国一番とも噂される調査機関がこうまでも情報を集められないとは、
(不甲斐ないというか、ここまで秘密主義のファラル殿が天晴と言うか・・・)
アルは気を取り直して、レイの調書を読んだ。
〈レイ殿についての調査〉
候補2名
第一候補:ジーン・ウィンスレット 当時9歳
4年前の夏、ジーンの住んでいた村で人身御供として悪魔に捧げられたとされている。家族はジーンが3歳だった頃に火事によりジーン以外全員死亡。ジーンの住んでいた村は4年前ジーンが悪魔に捧げられた頃、謎の壊滅を遂げる。 (詳しくは3枚目より)
第二候補:マリア・クレイヴ 当時10歳
4年前の冬、悪魔に攫われるも、その後マリアの住んでいた村で一度目撃情報が見られる。家族は父親だけであったがマリアが6歳の頃、罪を犯し処刑され死亡。マリアの住んでいた村は悪魔に攫われた後のマリアの目撃情報があった日、謎の壊滅を遂げる。 (詳しくは10枚目より)
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ファラルよりも枚数は多かったが、決定的な証拠は無かった。
どちらがレイであっても良い。
だが、おかしい所もある。
(名前が、名乗っているものと違う)
過去を捨てる為に名前を変えるという方法もあるだろう。
アルの疑問はそんな観点から見るとすぐに解決した。
何にせよ、恐らくこの二人のどちらかだ。後でレイに確認しよう。
アルはそう思うと、書きかけの書類を整理し夕食を摂る為に自分の部屋を後にした。
アル以外の者は既に夕食を食べていた。
「遅かったな」
ベクターの言葉に、
「早急に読む資料があってね。それより、レイ。一つ質問がある」
アルの言葉にレイが食事の手を止める。
「何ですか?」
レイがアルの目を真っ直ぐに見つめる。
アルも見つめ返し、
「君は、ジーン・ウィンスレット。もしくは、マリア・クレイヴを知っているかい?」
優しく聞いて来る。
レイは少し押し黙った後、
「その、ジーン・ウィンスレット。という方は知りません。ですが、マリア・クレイヴは知っています」
アルはそのレイの返答に満足したのか、
「そうか」
と言った後、何も追求しては来なかった。
ロリエもヘルスも聞いてはいけない事なんだろうと無理にレイを探ろうとはしなかったし、ファラルは無関心に食事を続けていた。
アルは内心満足していた。
(事実確認は採れた。これからマリアの事などについて調査を続行してもらおう)
そうすれば、レイの身元はちゃんと確認出来る。
マリアの調書によれば、マリアは親を無くし大人の庇護も無く貧乏で学校に通うお金もなく働いていたが、父親が罪を犯した、という立場から周りの迫害にも遭っていたらしい。
アルの感想としては、悲惨な人生だと思った。
(そう考えれば、一度死んだと思いレイという名で生まれ変わり、ファラル殿と共に旅をするのが始めての解放で幸せだったのかもしれない)
アルにも罪を犯した者の親近者という立場になった事があった。
幸いにもアルの特別な立場のおかげで家名断絶という最悪の結果も親戚の命も免れたが、その親戚は家名に泥を塗ったので流罪になった。
アルへの風当たりも当時はキツかったが、実力で伸し上がり泥を塗った以上に国に貢献した。
最近では、その親戚の名前をいう者は少なくなったし、家族達もその名を忌み名とし、口にするのも憚っている。
アルの、叔父であった人は悪魔の研究に手を出した。
悪魔、という関連性もあり、アルはレイの事を出来る限り援助するつもりだった。
これは24話の前の出来事です。
アルの過去の一部が明かされました。レイに接するのには自分の過去も少し重ねています。
そして今回の調書で尚更。
ファラルの経歴が全部不明というのはアルにとっても予想外でしょうね。
ファラルは基本、秘密主義と言うよりも必要な事以外は話したく無いと言う人です。(レイには別)
ちなみにアルが調査を頼んだのは、帝国直属の調査機関です。色々な方法を駆使してもファラルの事は掴めなかったみたいです。