22:稽古(仮)
簡易テストは時間の都合もあり、残りを午後に回す事になった。
お昼までの時間は今までの学年の応用のような問題を幾つか出されたり、聞き取り、語り、作文のような事が主だった。
ロリエが終了間際に言った言葉は、
「レイは、すごいね。完璧な答えばかりで、そのうえ知識だけではどうにも出来ない語りや作文も誰が見ても完璧な出来」
「語りは、旅の途中色々な話を聞いて立ち寄った所でよく子供達に聞かせていたからだと思うけど」
理由を語るレイの言葉に嘘は無い。
立ち寄った所ではいつも話をせがまれた。
語った内容はでっちあげだったり、事実だったり、各地の神話だったり、色々な話をした。
「旅人には、語りが得意な者が多いと言われているけど、旅をしていると何故か語りが上手くなるの。小さい頃の私なんか、喋りかける人あんまりいなかったんだよ?」
笑って答える。事実だ。昔の私に話しかける人は居なかった。ずっと、一人だったのだから。
(そういえば、テスト。年齢相応と言うか、この学年ではこれが最高ランク、ぐらいの結果にしたし怪しまれてないよね?)
レイの今日の不安はそこだった。
下手に力を入れてはいけない。かなりの力を抜きながら、どうすれば学年で最高ランクの結果のように出来るか?がレイの目標でもあった。
「午前のテストはこれで終わり。午後から次の学年に移るけど、始めるのは二時からだから」
レイにそう伝えると、ロリエはレイの行ったテストの結果を書いた紙を封筒に纏め、
「さて、食堂に行きましょう!」
と言った。
食堂へと向かう途中、ロリエが、
「今日の午前分を、今日一日かけてするつもりだったのに。語りや作文も一日かけてじっくりやって、午後からするテストも結果を見て一日かけるつもりだったのよ?」
と言った。
何と返したら良いのか分からない、という表情をすると、ロリエは笑って、
「レイがとても優秀という事よ。学校での評価が楽しみ」
と明らかに年下や、妹に接するような態度で返された。
食堂では既にアル達が早めの昼食をとっていた。
昼食を頼んだ後、アル達に近付いて行くと気付いたのか二人分のスペースを空けてくれた。
「終わったの?まだファラルさんの武芸の実践見てるんだと思ってたのに」
ロリエの言葉にアルは複雑な表情で溜め息をつき、
「それは既に全員分終えていた。ファラル殿の強さは半端ではない、むしろ・・・私も叶わないかもしれない」
その言葉を聞き、レイは内心、
(今更気がついたのか。当然の事だ)
と思っていた。
ファラルがこんな状況で負ける筈が無い。
「レイ、ファラル殿にも聞いたが、どうしたらあんなに強くなるんだ?練習法があるのなら知りたいんだが・・・」
アルの言葉に微笑みながらレイが言った言葉は、
「ファラルは元々、資質から良かったんです。そのうえ過酷な旅を続けて、私が危険な目に遭えば助けてくれて、それも一人で、です。ファラルに近付きたいのなら稽古をつけて貰うのが手っ取り早いですよ?私も、ファラルに稽古をつけて貰ったんです」
レイの言葉にファラルも頷く。
「論より証拠。差し支えなければ、私とファラルの稽古事を見てみますか?」
レイの言葉に、アルは頷いた。
(そう言えば、普通学校でも武芸・剣術の実践練習はあったな。それを知る為にも良いだろう。ファラル殿もよく知っている者には手加減出来るだろう)
アルの予想は大きく外れる事になるのだが、レイの申し出を許可したアルの考えはそんな思惑も含まれていた。
レイは今、ファラルと向かい合って立っている。
二人の手には刃を潰した剣が握られている。
少し離れた場所に、アル達が立ち、二人の様子を見守っている。
「始め!」
アルの声が響く。
レイとファラルのいつもの稽古の一場面を見せるつもりだったレイはいつもの通り、素早く間合いをつめて行く。
カンッ
ファラルは軽々とレイの一打を跳ね返す。
ハッキリと言うが、どちらも本気では無い。遊び感覚で昔の稽古の場面を再現しているだけだ。
それでも、アル達には本気に見えるのだろう。動いていても耳を澄ませば、
「レイの剣術のセンスはいいな」
と呟いている。
ファラルと契約して暫くと経たない内に始めた稽古だ。
今では兵士くらいなら倒せるかもしれない、という自信も生まれている。(やった事は無いが)
何度も連続して攻撃を繰り返すが、ファラルは身体を動かしもせず腕だけで全てを返す。
(昔はこれが悔しくて、かなり必死に練習したなぁ)
暢気にそんな事を考える。
(そう、そんな頃もあったんだ。孤独だと思っていた頃から幾許も経たない頃だった。それから、真実を知った後からも、本当に稀にそんな事があった。何時から、無くしたんだろう?)
そろそろ最後だ。
レイが一撃を入れればファラルは反撃してくる。
ガキンッ ドンッ ガチャン
レイの最後の一撃はいとも簡単に弾かれ、逆に身体にもの凄い衝撃が襲って来た。
背後で、弾かれて飛んで行った剣が落下した音が聞こえた。
ファラルは手加減しているが、下手をすれば内臓破裂をも伴う程の衝撃を刃の方ではなく柄で繰り出し、そのまま無様に地面に倒れ込む筈のレイの身体を支えていた。
アル達は予想と全く違った結末に唖然としたが、直ぐにレイに駆け寄り大丈夫か?と声をかけて来る。
レイは内臓破裂くらいでは死にはしないし、そんな衝撃には慣れきっている。
むしろ、何度も死にそうになった身体にはそんな衝撃はただかすり傷を負った程度という事になっている。
今では、ファラルにこんなに簡単にあしらわれる程弱く無い。
ファラルに支えてもらっている身体をレイ自身の力で立たせると、アル達に向かって、
「これが、私とファラルのいつもの稽古です。ファラルは手加減をしてくれているので大丈夫ですよ?」
と言った。
アル達は何か考えるような素振りを見せると、
「ファラル殿は、本当に手加減しているのか?」
とレイに質問した。
「当然です。今の稽古で力はとても抑えられてるし、最後のトドメも柄を使ったんだから。本気なら、私は既に死んでいるかもしれません」
と答えた。
アルは悩みながら、ファラルに稽古を頼む事に、
「検討してみよう」
と答えた。
だが、レイの予想ではそんな事は起こらない。と思っている。
(ファラルは強い。もしかしたら相手に再起不能な程の怪我を負わせてしまうかもしれない。それに・・・ファラルは私だけの師匠だ)
子供のような独占欲、レイもそんな事を思う自分に驚く。
“まだ、何かに執着するような感情があったのか”
と・・・。
そんな感情、全て無くなったのかと思っていた。
いや、無くなったのだろう。
レイ自身が捨てたのだから。
きっと、無くなっているだろう。
離れて行っても、引き止めないと思うから。
独りきりになるとしても、離れて行くファラルを送り出せると思うから。
そして、独りになった事を泣かないと思うから。
そう思うと、レイは自分の中の何かが、心が、喚いているのを感じた。
アル達が何か話しかけてくるのを聞いている振りをして、自分の中の心が叫んでいる感情を深く考える事をせず、心の奥底に鍵をかけてその感情を閉じ込めた。
「レイ、これから午後からのテスト始めるけど、体力大丈夫なの?」
ロリエの言葉に一応は話を聞いていたレイはハッキリと、はい。と答えた。
題名の(仮)とは、本気の稽古ではないという意味です。
稽古を始めた当初の稽古の様子を完璧に再現しているだけです。現在の稽古は、レイがもう当初のレイよりも何倍も強く、ファラルも最後には本気でかかってきます。(レイはいつもファラルに負けています)
ファラルは強いです。悪魔の中でもトップかそれに近い程。立場もかなり高いです。
最後に、私の書いている小説を読んで下さった方が5,000人を超えました。
自分でも驚いています。
そして、同時に嬉しいです。
私の書いた小説を読んで頂き、ありがとうございます。
これからも頑張って書いていきたいと思っています。