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血の契約  作者: 吉村巡
22/148

21:正当な意見への反対

「ところで、私は学校に行くんですよね?」

 レイの疑問は、よく分らない事だった。

 その為に今、簡易テストを受けてもらい、実力を知ろうとしているのだ。

「何度もそう言っているだろう?その為に帝国にまで来たんじゃないのか?」

 そう、レイはその為に帝国に来た。

 だが、レイの意見では、

「普通の学校は魔術学校とは違い六学年を終えると学校を辞め家に戻ったり、仕事を始める人も居ると聞きました。それなら学校に行くよりも働いた方が良いのではないか?と思ってるんです。小隊に入ってもいない私が何もせずこの館のお世話になるのも変だと思いますし、それなら学校に行くよりも迷惑でなければここのお手伝いが出来たら、と思ったんですけどどうでしょう?」

 確かにそうとも言える。

 十分な学力があるのなら、これ以上勉強せずに働くのも選択肢の中にある。

 レイの意見は正しい。でも、伸びるかもしれない芽をここで摘むのは惜しい。

「ファラルは別に、私に学校に通えって言わないよね?」

「ああ、レイが自分で決めると良い」

(反対しろよっ!!)

 それがアルの内心だった。

 確かに館で働く人はマブゼルとマーシャルの二人だけ。あとは人形で補っている。もう少し人員が欲しいと思ってはいたし、若い者が良いとも思った。

(でも、レイ?確かに何でもこなせそうだ。器用だし、本人が言い出すのならやる気もあるのだろう。だが、人材として埋まるには惜しい)

 ファラルが行けと言うのならそれに便乗して言う事も出来たが、好きにしろ、というのなら口を挟むのは躊躇いがある。

 レイの保護者は実質的には今まで共に生活して来たファラルにあると思うからだ。

「レイ、学校に行かないって本気?あれだけの才能があるのに」

 ロリエが反論する。近くでレイの問題を解く様を見ていたロリエにはレイの考えは信じられない物だった。

「才能なんて無いよ、煽てないで。人ってそうやって勘違いしていくものでしょう?」

 煽てるのは無駄だと分かった。

 それでも、レイの意見には反対したい。

 レイの意見が正しいものとは分かっている。分かっているが素直に賛成は出来ない。

「でもさ、レイ。当初の目的が学校への就学ならこのまま学校に通えば良いんじゃない?」

 ヘルスの意見。それでもレイは、

「確かに当初の目的はそうでした。ですが、最低限の学力があるのならこれから学校に通う意味が無いような気がするんです。そもそも、この館で生活する理由は私の我が侭です。むしろ、我が侭で生活するという事は生活する理由がありません。出来るのであれば、私は正当な理由を持ってここで生活を送りたいと思っているんです」

 確かにレイが【蓮華館】で生活するのは特例だ。

 アルの地位と権力と実力と立場が無ければレイの館での生活は無かった筈だ。

 ますますレイの意見は筋が通っていく。むしろ反対するという事は逆に色々な人の反感を買いそうな事だ。

「だが、レイは学校に通うと言う名目で帝国に来て、ここに住むと言う特権を与えられた。それに甘んじ知識を広げていくのも良い事だと思うが?」

 ベクターの意見ももっともであるが、些か説得力に欠ける。

 アルはここで自分の意見を言った。

「私も、このまま就学を取り止めるというのには反対だ。ベクターの言う通り状況に甘んじてみないか?レイはまだ13で大人に面倒を見てもらい保護されるべき年齢だ。それに今、就学を諦めるのは些か早計でもあるし、これからの可能性を潰す事でもあるように思える。確かに、レイの意見は正しいと思う。それでも、私の意見としては就学して欲しいと思っている。年上として、そしてここでのレイの保護者の一人としてもっと可能性を伸ばして欲しいとも思っている」

 アルは本心と建前を上手く混ぜ合わせ、学校に通って欲しいという事を伝えた。

「それに、館での食費及び生活費は12小隊全員から出ているので必要ない。確かに、レイがここに住めるように立場を使ったが承認されたんだ、レイの思っている事は誰が何と言うと心配入らない。気を回すな。年上に甘えれば良い時もあるんだ」

 アルはそう言ってレイの頭を撫でた。

 ファラルにはもう触って来た人を片っ端からぶっ飛ばすな、と言っているので心配は無い。

「それでもっ・・・」

 レイがまだ何かを言おうとすると、

「じゃあ、学校に行ってテストや研究なんかでいい結果を残して、私達にレイを自慢させて。それで私達は満足です」

 アルの言葉に全員が頷く。

 レイがファラルの方を見ると、反対も賛成もしないような目でレイを見ていた。

 目はレイに“好きにすれば良い。レイの決める事だ”と語っていた。

「本当に、良いんですか?こんなボランティアみたいな事して。きっと、いい成績なんて残せませんよ?」

 レイの最後のあがきにも、全員笑って返して来た。

(本当は、残酷なくせに。お人好しだ、アルは。不確かなものにお金をかけるんだね皆)

 心の中でレイはファラル以外の全員を嘲笑った。

 そんなお人好し、レイの中には無い。

(理解出来ない)

 学校なんか別段興味は無い。

 だから、理由を付けて学校へ入るのを断ろうと思ったのに、失敗した。

(まぁ、想定の範囲内だけどね)

 冷静な部分でそう考え、表面上は少し俯いて黙っていた。

「よし、レイ。十分休憩出来た?これからテストの続き始めるよ」

 ロリエが気まずい空気を破り、レイに言った。

「後片付けはやっておく。行け」

 アルが促すように言った。

 レイは、しょうがない、諦めよう。と思いながらおずおずと立ち上がるとロリエの後を付いて行った。

 レイの内心を正しく理解しているのはファラルだけであろう。

 ファラルでさえ、時々考えている事が分からなくなってしまうレイだ。


 悪魔と人間は相容れない。そんな部分もあるが、レイと人も相容れないのだろう。

 考えている事が分からない。それは当たり前の事で、何を考えているのか分かってしまう人間が居るとしたら、それこそ脅威だ。

 レイは、その脅威の一つだ。

 相手の考えている事、というよりも、相手の考えていた事が分かってしまう。

 意識すればいくらでも。

 だから、それを封印した。

 それでも、分かってしまう。相手の考えていた事が。

 それも、暗く貪欲で恐ろしい事が。

 相容れる事は出来ないだろう。レイがレイである限り、周りが今のままである限り。


(なんか、本当に化け物みたい)

 ロリエの後を付いて行くレイは、ふとそんな事を考えた。

 それを考えれば悪魔であるファラルが可愛く思える。存在するべくして存在するファラルが羨ましい。

 綺麗な心を持てる人が羨ましい。

 だから、殺したい、壊したい。

 憎しみに、恐怖に歪む顔が見たい。

(そうだ、学校で見れば良い。嫌われて、攻撃して来た奴を突き落とせば良い。・・・ふふっ、それを考えれば学校も楽しみになる)

 そして思う。

(私は、狂ってるね)

 そんな時のレイの瞳は狂気に輝き、それと同時に絶望に暗く染まるとファラルが言っていた。

 

 

 レイはかなり頭がいいです。

 読書が趣味なので、知識も深いです。簡易テストは手を抜きながらしています。

 レイが学校へ行くのだとしたら何年生になるでしょう?

 

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