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血の契約  作者: 吉村巡
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1:傍観する者

「どうしよう?」

 別にそんなに困っていない風に見える少女は、隣にいる男に話しかけた。

「なるようになるだろう?」

「そうだね」

 風が吹いた。少女の長い髪をなびかせる風は、建物の窓を割っていく。

(魔法で作られた風だろうから怪我人は出ないだろうけど)

 フードを被り直しながらそんなことを思った。

「なるようになる・・・」

 それはこの状況と今までしてきたこと、そしてこれからの未来のモットーの様なものだ。

なぜこんな会話をしているか?

それは・・・・・・・



 少女は旅をしていた。

 その途中、鐘のある大きな建物があった。そこから少し離れた所には、小さな集落がある。

 よく耳を澄ませれば、近くの海の波の音の合間に、人の声も聞こえて来る。

「ファラル?あそこに数日滞在するから。予感がするの、良い事か悪い事かは分らないけど」

 少女はファラルと言う人に話しかけている。

 だが、姿はどこにも見えない。

 少女は一人で歩いている様に見える。

『レイの決定に従う』

 レイと呼ばれた少女の頭に、男のものと思われる声が響く。

 緩やかな風が吹く。

 レイの被っていたフードはその風に煽られ少女の顔をあらわにした。

 レイの前髪が風になびく。

 空は澄み切っていた。

「最近まともに空見てなかったな」

 そう呟くと、立ち止まってフードを被り直した。

(後少しで着く・・・)

 そう思うとまた歩き出した。


 目の前には、柔らかい笑みを浮かべる男性が居た。

「私はこの施設の責任者のグラハムです。滞在は歓迎いたします。ですが、その代わりと言っては何ですが、子供達に旅の途中で聞いた話などを聞かせてやってくれませんか?」

 初老の、もう白髪混じりのグラハムにそう言われ、フードを脱いだレイは、

「私の様な若輩者の語る話で喜んで頂けるのなら」

「決まりですね」

 グラハムはその柔和な顔に微笑みを浮かべると、一人の女性を呼んだ。



「皆さんに紹介する前に簡単に私の自己紹介をしておきますね」

 そう言うのは、先程グラハムが呼んだ女性だった。

「私の名前はセシル・ジルディです。ここには祖母の代からずっと勤めているので、この施設内の事は詳しいですから分らない事があれば、聞いて下さい」

 ここの人たちには警戒心が無いのだろうか?そう思える程レイはあっさりと滞在を認められた。

(こんなにも凄い予感がするのに・・・)

 それは、少しでも勘の良い者なら感じられる程の予感だった。

「それでは、セシルさん。この施設は何の為に建てられたのですか?」

 レイが早速質問すると、セシルは快く答えてくれた。

「この施設自体は、最近立て直しをしたので新しいのですが、歴史は古いんです。ここは約300年程前・・・ここに集落が出来た直後、帝国の指示で建てられた施設です。目的は託児所と診療所、交流の場です。宿泊の役割もあるのでレイさんはここに泊まる事になります」

「なぜ託児所まで?」

「ここは海が近いこともあって、漁が盛んなんですが何日も帰らない事になる程、遠くまで行ってする漁もあるです。食事の用意の為に付いて行く女性も居て・・・。それにその漁は危険で、流石に子供は、と言う事で出来たのがこの施設です。それに、その漁で命を落とした方の御家族の方はここで生活することが出来ます。教会のような所でもあるんです」

「そうだったんですか・・・。勉強になりました」

「ちなみに、東側が宿泊所、西側が診療所、北側が託児所、南側が交流所です」

 他にも所々で説明や注意を受け施設を一周すると、託児所に着いた。

「子供達に貴方の事を紹介します。うるさいかもしれませけど・・・」

 そう言うと、セシルは部屋に入った。

 レイもその後に続いた、入った途端、十人弱の子供達が全員目を向けてきた。

「こんにちは、私の名前はレイです。これから数日間ここに滞在する旅人です。滞在中は、私と仲良くして下さいね?」

 そう貼付けた笑顔で言うと、

「おねえちゃん、たびびとさんなの?」

 と言った一人の男の子を幕切りに、次々と子供達が何かを言い出した。

「どんなとこ旅してたの?」

「おはなしきかせて」

「たいへんなことってなにかあった?」

「いいな〜。ボクもたびに出てみたい」

 ガヤガヤと騒がしくなっていくと思うと、レイは、

「それじゃ、私の旅してきた所で聞いたお話、聞きたいかな?」

 というと、

「「「うん!」」」

 と声をそろえて、子供達は言った。

「じゃあ、皆に聞こえる様に私の周りに集まって座って。お話の途中におしゃべりはしないでね」

 皆がレイの周りに集まって全員が座ると、レイは話を始めた。

「私は旅の途中でよった村で、この話を聞きました・・・・・・」



 夕食のとき、レイはその場に居た人全員に紹介された。                                   騒がしい夕食が済み、お風呂に入った後、セシルが部屋を案内した。

「ありがとうございます。レイさんのおかげで子供達が楽しそうで。それに、いつもは騒がしいあの子達が大人しくしているのを初めて見た気がします」

 本当に感嘆した様に言うセシルにレイは微笑とともに、

「子供達に喜んで頂けたのなら幸いです」

 と答えた。

 廊下を進ん行き突き当たりの扉を開けると階段があった。それを上ると二階に着いた。

「レイさんの部屋は、この階段側から4つ目です。朝は7:30に声をかけますので、それまでゆっくりなさって下さい。

何か困ったことが起きましたら交流所に来て下さい。常に誰かが居るはずですから」

「分りました。何から何までありがとうございます」

 レイがそう返すと、

「いえ、何でもおっしゃって下さい。出来ことなら何でも協力しますよ。では、おやすみなさい」

「おやすみなさい」

 にこやかにレイがそう返すと、セシルは階段を下りていった。

 取り敢えず、指示された部屋に入るとレイは、

「協力・・・か。無理だよねぇきっと、多分今夜だろうし・・・」

 と呟いた。

「どうする?」

 いつの間にか、レイの目の前に一人の男が居た。

 レイは別段驚きもせず、

「取り敢えず見学。何なのかは探ってないから分らないし、何なのかは興味あるから。丁度いい所に全てを見渡せる所もあるしね、ファラル」

 そう言って、窓の外を見た後、レイはファラルと呼んだ男に怪しい微笑みを投げかけた。

 ファラルの方は、自身の赤い目にレイの微笑みを映しながら、口元に小さな笑みを浮かべた。

 畳んだローブを広げレイが着ていると、ファラルは窓を開けていた。

 レイが着終わったのを見ると、ファラルはレイを抱き上げた。

 そして窓に足をかけると言いようの無い浮遊感が一瞬あった後、交流所の上にある鐘の下に来ていた。そこには、鐘を鳴らす為の空間があったのだ。

「あと三十分くらいかな」

 レイがそう呟き座り込むと、誰かに引っ張られる感覚があった。

 いつの間にか、ファラルのマントの中にいた。ファラルの手はレイの肩にまわされていた。

 レイがフェラルを見上げると、ファラルもレイを見下ろしていた。

 夜、真っ暗な中でファラルを探しても見つける自信がある。こんな時いつもそう思う。

 赤い印象的な目。黒く艶やかな髪は一つに結びマントの中に入れている。そして、その顔はどこまでも繊細だった。

 たとえ真っ暗な闇の中でも浮かび上がるその姿は、初めて出会った時のままだった。

(私は、こんなに変わった。体型も、髪も、目も、力も環境も全てが変わった。たった、3年で・・・)

 そんなことを思いながら、ファラルに寄りかかった。

 

 

 しばらくたった頃、予感が近づいてきた。

「来た・・・」

 レイが小さくそう呟いた。

 

 ドドドドドドドドドドドッ 


 何かが凄い速さでここに向かってやって来る。

「うるさいな、レイ」

「まぁ、多分ここを立てこもりに使うでしょう」

 ほら、とでも言うかのように、やって来た賊を見下ろすレイの目はとても冷たかった。

 賊は施設の中に入って来た。

 階下では、子供の泣き叫ぶ声や、女性の悲鳴が聞こえた。

 それに重なるかのように怒号が入り乱れる。

「もう一つ、来るな」

 ファラルがレイに言った。

「おそらく、追う者」

 レイが呟いた。

 その目は、純粋な興味の光りだった。



「反逆者共、もう逃げられはしない。大人しく人質を解放しろっ!」

 

 賊の後に来たのは、追う者。10人弱からなる小隊だった。

 そして、その中に魔力を感じた。とても強い。気配からしても数人は・・・。

 声は、おそらく空気と声帯に魔法をかけ、大きくしたのだろう。

 凛としたその声は威厳と自信に満ちていた。

(でも、暗闇だから顔が分らない。ファラルには見えているんだろうけど・・・)

 見えるのは、月に照らされた銀色の髪と白いマント位だった。

 先頭に立って賊に交渉しているのが、恐らく隊長か副隊長。

「賊共は出てこぬ、と言うことが分っていながら・・・。うるさい奴らだ」

 ファラルが淡々と言った。

「多分、様子をうかがって明日攻め込むと思う」

 レイがファラルに言うと、彼は唐突に、

「じゃあ眠れ。明日起こす」

 と言った。

 レイはポカンとした後、笑い出して、

「うん、じゃあ寝る」

 と笑いを噛み殺しながら言うと、ファラルに寄りかかった。

 ファラルは自らのマントの中にレイを入れて、まるで守るかのように優しく抱きしめる。

 すると、レイは5分もしないうちに深い眠りについた。

 レイは眠る直前、思った、

(悪魔も、暖かい。人と同じ位。時に人なんかより、ずっと暖かい。3年も前から変わらない)




 朝が来た。ファラルが少し呼び掛けると、レイはすぐに起きた。

 ファラルが、どこから調達して来たのか、暖かい飲み物と朝食に丁度いい果物とサンドイッチを差し出して来た。

「こんな状況だ、ちゃんと食べろ。まぁ、要らぬのなら消すが?」

 無表情に言うファラルの手の中にある朝食を受け取ると、

「ありがと、ファラル。いただきます」

 そうレイが言うと、

「アヤツらも、準備をしている」

「朝食と、攻め込む?」

「あぁ」

 短い会話。その中で、お互いの言わんとしていることを察するのは、長い付き合いだからこそ出来る技。

 ゆっくりとした朝食をとった後、ジッと小隊を見ていると一人の銀髪がレイ達の方を見た。

 別段焦りもせず、スッと後退して死角に入ったレイ達は、

「多分見られたよね」

「あぁ」

「どうせ、皆が解放されれば分ることだから良いけど」

「そうだな」

「あの人、多分魔法使い。ファラルのことバレたかな?」

「その時はそのときだろう」

 ファラルの構えに感動しながら、

(この大陸では、悪魔はどうなのだろう認められていただろうか?)

 と考えていた。



 ドッドドォォォォォォォォォォォォォ

 もの凄い轟音がした。

 海の方を見やると水柱がたっていた。

 そして、施設の中央を見ると竜巻が出来ていた。


 風はレイのフードを脱がせた。

 長い髪は風の煽りを受け舞い踊る。

 そんなことを気にせずボーッと竜巻を見ていると、竜巻はまず交流所を目がけて向かって行った。


 ドォォンバァンガッシャーン


 窓や壁が壊れる音がする。

 爆風も凄い。

 こんな中で怪我人が出ないだろうと思うのは竜巻を作り出したのが魔法使いだからだろう。


 ドッドッドッザザァーン


 海にあった水柱が割れた窓から中に入っていった。

 中にいる人は溺れないだろうが、びっくりはするだろう。

「パニックと足場の悪さから行動は遅くなるだろうしその前に攻めて行けば一網打尽。被害も建物だけで男の人質は少ないから、無理に一般人が協力することも無い。だぶん、既に一般の人には水でガードしていると見た」

 レイがそう言うと小隊の三分の二が施設内に入っていくのが見えた。

 すると、数分後には何人もの男達が小隊の兵によって中庭に連れて行かれしっかりと縛られているのが見えた。

「さすがプロフェッショナル。仕事が迅速だねファラル」

「そうだな・・・・・・。だが」

 そこでファラルが言葉を切ると、後ろを振り返った。

 見ている方向にはレイとファラルのいる所へ続く階段がある。そこから誰かが駆け上がってくる音が聞こえた。

「あれはどうする?」

 そう言った時にはもうそこに一人の男がいた。

「どうしよう?」

 レイは軽く笑いながらその男を見た。

 まだ若い、おそらくまだ10代だろうと予想した。

「お前らは、賊の一味か?ずっとここで何をしていた」

 その男の声は凛としていて、威厳に満ちていた。

 その男の銀色の髪は太陽の光を浴びキラキラと輝いていた。風になびかれ男にしては少し長い髪は舞っていた。服の上には白いマントを纏っていた。

 顔立ちは中性的な、でもちゃんと男だと分る。瞳の色は金に近い琥珀ではっきり言って美形だった。

 細身だが、おそらく何人か捕まえた後、階段を結構な速さで上って来ていたのに、息一つ切れていないことから普段からしっかりと鍛えているのだろう。

「もう一度聞く。何をしていた」

 男は聞いて来た。

(やっぱり、昨日の隊長、副隊長クラスの人)

 声をもう一度聞いて確信が持てた。

 ファラルの方を見ると別段慌ててはいなかった。ついでに興味もなさそうだった。

 それでも髪と瞳の色を変えるのを忘れていなかった。

 レイはそれを確認すると、自ら被っていたフードをとった。

 薄茶色の真っ直ぐなくくらず、流しているサラサラの長い髪が風になびく。

 夏の、森の色の緑の瞳は男を真っ直ぐに見つめた。白い肌の顔は神に愛されているかの様な作りだった。



 男の方は女の顔を見て少し目を見開いて見とれた。しかし直ぐ、

(恐らく俺と同じくらいの年。何を考えているのか分らないタイプか・・・)

 そう思っていると。

「小隊の方ですよね?」

 と女に聞かれ、

「あぁ」

 と短く答えた。

「私の名前はレイ。こちらはファラル。一緒に旅をしている旅人です」

 と言った。

 フードを被っていたファラルと言う男もフードをとって顔をさらした。

 群青と濃い紫を混ぜた様な艶やかな青色の長い縛った髪と、深緑の瞳の男は、その繊細でありながら雄々しい顔の作りに感情らしい感情は浮かんでいなかった。

「実は昨日、旅の途中ここに着きこれから眠ろう、と言う頃に沢山の馬の駆ける音が聞こえたんです。旅人の性で何なのか確認しようとここにあがったら、この施設か占領されてしまって・・・。出るに出られなくなったんです」

 微笑みを絶やさず、言うレイに、

「そうか、本当にそうなら捕らえることは無い。事実確認の為、話しを聞かせてもらいたい。付いて来てくれ」

 少し警戒心を無くした男はレイとファラルにそう言った。

 そして二人もその指示に従った。


 

 


 

 

 

 


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