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血の契約  作者: 吉村巡
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18:宿舎【蓮華館】

 少しの間馬車に揺られ、町の奥にあった壁を通り抜けるとアルが説明した。「この国は、最奥に王城、城壁を隔て今通っている貴族・兵士区域、そして先程通り抜けた第二の城壁の向こう側が市民区域だ。もしも町で何かあれば市民達はこの区域に来る事になっている。町中よりは静かだが、店などが建ち並ぶ所もある」

 アルの説明に耳を傾けていたレイは適当に相槌を打ちながら窓から景色を見る。

「そろそろ宿舎に着く」

 不意にそう言ったアルの言葉に偽りは無く、アルのその言葉から五分と経たない内に馬車はある館の前で止まった。

 アルとヘルスが降りていく。ファラルが降りてレイに手を貸す。

 全員が地上に降り立った。

 レイは館を見つめた。館は馬車で見て来た中では普通の規模のものだったが、一介の魔法使い達に宛てがうには十分すぎるものだった。

 だが、それはレイの視点であり、帝国というものはレイの想像以上に魔術師達を尊び、財政もしっかりとしているのだろう。

 外観だけでも高級そうな雰囲気が漂っている。だが、派手ではない。

 レイが感じる事はただ一つ、

(ファラルも一緒だから良いけど・・・。住む気がしない)

 レイは素朴なものが好きだ。高級感など求めてはいない。ずっとそう思って生きて来て、周りの者も華美な物を敬遠し高級な物等あまり目にしない生活を送っていたので忘れてしまっていたけれど。

(ファラルは、大丈夫だろうけど・・・。お金を使うのは趣味だけにしたい)

 レイはしみじみとそう思っていた。

 ちなみにレイの趣味とは読書だ。買っては読んで売り、買っては読んで他人にあげ、買っては読んでどこかに寄贈する。時々本をもらうこともあるが、末路は変わらない。

 レイは一度読んだ本の内容を忘れはしない。

 そんな事を考えながらずっと館を見ているように見えるレイにアルが声をかけた。

「今日からここが、レイの帰る家だ。付いて来ないと迷子になるかもしれないぞ」

 声をかけられレイは館から視線を外すと、館に入っていくアルの後を追った。ヘルスとファラルも付いて来ている。



 館に入ったレイは妙に納得していた。

 外観に似て内装も高級感に溢れているが、華美な所など何処にも見当たらない。

 むしろ、完璧なインテリアコーディネートだが、違和感がある。

 ファラルも気が付いているだろう。館全体にかけられた保護魔法に。

(確かに、魔法が暴走したら直すのとか大変だもんね。壊れないように最初からかけていれば問題ないか)

 恐らく、何度も何度もかけ直したのだろう。保護魔法は強力で、ちょっとやそっとの魔法では何も壊れないだろう。

 だが、魔力が制限されている感覚はない。

 試行錯誤の結果だろうが、ファラルには関係ない。つまりはレイにとっても関係のない保護魔法だ。

(ファラルなら軽く本気出せば壊れそう、この館。アルにも出来るんじゃないかな?ロリエ達だと三人が全力でかかれば出来そうな位の保護魔法だな〜)

 その程度の物だ。だが、大衆には立派にその意味を果たすだろう。

 爆発が起これば被害を留めようとし、屋敷が壊れそうになればその力を全て跳ね返す。

 ヘルスは居るのにアルはいつの間にか居なくなっていた。そう言えば管理人か誰かに会いに行くと言っていたな、とぼんやりと思う。

 暫くボーッとしていると、三人分の足音が聞こえて来た。

 レイはその足音に注意を向けた。

 現れたのはアルと知らない、若い優しそうな女性と、もう既に幼い孫でもいそうな雰囲気の女性だった。

 女性二人は同じような服を着ていて、優しい微笑みを浮かべている。若い女性の方は好奇の眼差しも向けていた。

「レイ、この方達はこの宿舎の管理人兼私達のお世話をしてくれる方だ。右がマブゼラ、その隣がマーシャルだ」

 御老人、若い人、の順で頭を下げて来る。

「二人とも、この二人が・・・」

「私はレイと言います」

「ファラルという」

 アルの言葉を遮ってレイとファラルは自ら名乗った。

 アルは一瞬ほうけていたが、直ぐに説明を再開した。

「歳はレイが13、ファラル殿が17だそうだ。今まで旅をしていたと言う。二人はここに住む事になるので世話を頼む。マブゼラ、マーシャル」

 アルに呼ばれた二人はもちろんです。と答えると、にっこりと笑った。

「レイとファラル殿を部屋に案内してやってくれ。二人の部屋はロリエとベクターが今居る所だ。荷物を置いたらすぐに二人を私の部屋に案内するように」

 アルはそう言うと、ヘルスを従えどこかへ行った。

 マブゼルとマーシャルは相談するように顔を寄せ合っていたが、直ぐにレイとファラルに向き直り、ファラルをマーシャルが、レイをマブゼルが部屋へ案内した。




 部屋にはアルの言う通り、ロリエが待っていた。

 一人で使うには十分すぎる程の大きさの部屋。館の大きさと窓の数から予想をしていなければ驚いていたかもしてない。

「そうそう、家具とかは備え付けだけど取り替え自由だから気に入らなければ言ってね」

 マブゼルがレイの荷物整理を手伝っている時に、魔術を使い掃除していたロリエがレイに言った。

ロリエの使っている魔術は空気中にある目に見えない水を操り、埃などを窓から外に出すというもの

「気に入っていますよ。私には勿体無い位」

 レイは当たり障りなく答えたが内心では、

(使う気はないのに・・・。何であるんだろう?壊したい)

 破壊願望が渦巻く心を鎮めようと努めていた。

 数日もすれば慣れるだろうが、気を緩めると壊してしまいそうで怖いなぁ、と思いながら表情にはおくびにも出さず、ただ自分のするべき事を淡々とこなしていた。

「よしっ、終わったね」

 ロリエがそう言うと、レイもマブゼルも部屋の中を見渡した。

 空気は清浄で床には塵一つ落ちていない。

 ベットもタンスも机も綺麗な配置で、必要な物は最低限そろっていた。

 本棚はあるが中には本が一冊も入っていない事が寂しい感じがするがしょうがない。

 部屋の出来は上々だった。

「レイさん、アルシアさんの部屋へ案内します。付いて来て下さい」

 マブゼルにそう言われ、レイは大人しく付いて行った。

 レイは一刻も早くこの慣れない大きな自分の部屋から出て行きたいと思っていた。


 コンコン


 マブゼルが恐らくアルの部屋の扉をノックする。

「どうぞ」

 アルの声が聞こえ、マブゼルの後をレイは付いて行く。

「早かったな、ファラル殿にもそう言った」

 ファラルはもう既にアルの部屋に来ていた。レイはファラルの隣へと移動し、その半歩後ろに立った。

 そこから観察したアルの部屋はレイの部屋よりもずっと大きかった。部屋数もいくつかあるらしく、ここは応接間兼仕事部屋だろう。机には幾つもの紙の束が乗っている。

 部屋は機能的に整頓され、隅の方には魔術や法律、魔獣関係の本が何冊も本棚に入れられている。

 だが、全てレイが読んだ事のある本であったり、読んではいないが内容を全て知っている本ばかりだった。

「レイ、ファラル殿そこに掛けてくれ。マブゼルは退出してくれ」

 そう言うと、マブゼルは一礼して出て行き、レイとファラルはレイの向かいのソファーに腰を下ろした。

 部屋にはもう三人しかいない。

「楽にしてくれ、まず市民登録が速やかに受理された。これで二人は帝国の市民になった。君達の住む場所はこの宿舎という事も伝えておいたので住所はここという事になった。市民登録は完了済みなのでファラル殿の12小隊申請も直ぐに受理された。明日の朝、隊の事についての説明を行う。レイの学校は明日から準備を始めて行く、まずは私の作った簡易テストで実力を調べる事から始める。ロリエが付いているので問題無く終わるだろう」

 アルは報告、というような形でレイとファラルに説明を行った。レイもファラルも話を遮ることなく聞いていた。

「今までの事で何か質問はあるか?」

 アルの問いかけに、レイは首を横に振った。ファラルも何も言わない。

「そうか、次にこの宿舎についての説明に移る。この宿舎は【蓮華館】と呼ばれている。この館には12魔法小隊の者以に10・11魔法小隊の者も住んでいる。自分の部屋の位置は覚えているのか?」

 レイとファラルは頷いた。

「そうか、ファラル殿はこの階の私の部屋の真反対、ヘルスは私の隣でそのまた隣がベクターだ。レイの部屋はこの部屋の真下で隣の部屋がロリエだ」

 レイは瞬時に頭の中で屋敷をイメージし、全員の部屋の位置を確認した。

「二階から四階までが個人の部屋が集まっている所で、一階は食堂と浴場がある。浴場はいつでも入ることが出来、一人で入りたい者用の風呂もある。管理人室は食堂の隣。その管理人室の隣は医務室だ。四階より上は全小隊で共同に使う部屋がある。例えば、武器庫とか資料保管室、図書室などだ。それぞれに管理者がいるので分からない事は聞くと良い」

 レイは図書室や資料保管室に興味を持った。

「だが、レイは隊に入っていないので四階からは入れない部屋がほとんどだ。資料保管室や武器庫には入る事は出来ない。図書室などには入れるが、教育上入らない方が良い部屋もある。四階以上には必ず同伴者をもうけること」

 レイは思った、

(13だから、やっぱり子供扱いか・・・)

 やむなく資料保管室は諦めた。

「蓮華館には地下室がある。そこは研究室になっていて時々爆発が起きるので近付かないように」

 アルの忠告で逆に興味をそそられたが言われた通り近付きはしないことに決めた。

「館則、規則の事で、館内での乱闘は禁止。庭ではOKなので乱闘中に庭に入ると巻き込まれる事になるので注意しておくように。その他犯罪行為は一切禁止、正当な理由が無い限りは」

 ものすごく短くまとめられ、省略された説明で、レイもファラルも何となく分かった。

(まあ、細かい事一杯言われても困るしね)

 レイはアルの説明に好感を持てた。

「夕食の時に他の隊の者に二人の紹介を行うので覚悟しておいてくれ」

 アルが涼しい顔をして言った。

 レイは笑顔を顔に貼付け、

「そういうの、苦手なんですけどね」

 と言ってみた。

「その意見は受け入れられない、以上。疲れた頃だろう、夕食の席までまだ時間がある、部屋でゆっくり休むと良い」

 アルの言葉に、レイは諦めて大人しくファラルと一緒に退出した。




 【蓮華館】の中がよく分りませんよね。【蓮華館】は五階建てで、大きな屋敷と広い庭を想像してみて下さい。(中庭もあります)

 そんな【蓮華館】には10〜12魔法小隊の魔術師が住んでいます。

 これから少しずつでも、中の様子を出していきたいと思います。





                   

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