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血の契約  作者: 吉村巡
110/148

109:ふたりの瞳

 流血・暴力表現があります。

 苦手な方はご注意下さい。

「な、に?ここ、何処?」

 起きてみたら、いつの間にか暗い部屋の中に居る。誰もいないし自分の声以外聞えない。窓もなく、光もない。そんな闇に押しつぶされそうな状況を打開すべくサラは立ち上がり部屋の中を歩き回ろうとした。しかし、

「・・!?ウッ、アァッ」

 何かに阻まれるようにそこから先の闇へは進めない、何かを考える前に襲って来たのは凄まじい痛みと熱。

 慌てて後退すると足を何かに掴まれた。小さく悲鳴を上げて反射的に引き抜こうとすればそれは足を這い上がり体にも纏わりつき締め付ける。

 圧死、と言う言葉が朦朧とする頭の中にどこか冷静に浮かぶ。

 意識が飛びそうになった瞬間、圧迫感が消えた。

 体に力が入らず床に倒れ込む。聞えるのは自分の荒い息づかいだけで目には涙が滲む。怖くて、惨めで、どうにもならないこの状況が悔しかった。

 ようやく落ち着いて体を起こし気付くのが遅くなったが魔法で光を灯した。まず体の状態をよく見るとあちこちに鬱血が出来ていた。

「起きていたのか」

 急にかけられた声は穏やかで聞き覚えのあるものだったがこの状況では安心どころか恐怖しか覚えなかった。それに気のせいでなければ、その言葉の中には害意や悪意が含まれていたような気がする。

「魔法が、使えるねぇ。彼女の言葉は本当だったようだ。お前だけは他の者にくれてやらなくて正解だったな。他の者のように玩具にしてバレてしまえば私を追い落とそうと画策するものも出て来る所だ」

「な、に?何で、貴方が?宰相様」

 一歩一歩近付いて来るヴァンスにサラは先程の痛みも熱も忘れ反射的に後ずさった。何かにぶつかる感じ、次いで襲う先程と同じ衝撃、それでも目の前の男からは目が離せず恐怖は痛みを忘れさせ声さえ出てこない。

(嫌、この人を見ていたくない!知りたくない!気付きたくない!)

 それでもヴァンスから目を逸らすことは出来ず、レイの言っていたあの時は分からなかった言葉の意味を理解しそうで、一度気付いたことも忘れようと思っても頭にこびり付いて離れない。

 這い上がって来る圧迫感も、この男の前では露程も気にならない。

 男が口を開き声を発しようとする。

 サラは全力でその声に耳を傾けないよう努めたが、この静かな空間では無駄な足掻きだった。その言葉はハッキリと耳に届く。

「お前は、私の娘だ。お前を生んだのは何処の娼婦だ?」

 侮蔑。娘という割にサラへの視線と態度は汚らわしく憎らしいものを前にしているようだ。

「娘?貴方が、私の?」

 茫然と呟くサラにヴァンスは苛立った様子で持っていた杖でサラの頭を殴りつけた。痛みと衝撃に悲鳴をあげるがそれさえも鬱陶しそうに何度も何度もサラを杖で殴る父という存在にサラは絶望した。

 元々、期待もしていない存在だったがこんなのが自分の父親なのだと思うと、この男の血が自分にも流れているのだと思うと自分自身が汚らわしく思える。

「さっさと答えろっ!!さもなくば他のガキ共がどうなっても良いのか?」

「皆に、何するつもり!?」

 弱々しい、それでも精一杯張り上げた声でヴァンスに向かって叫ぶ。

「何をしても良いさ。散々慰み者にした後殺しても、生きたまま腹を割っても、手足を切断してもなぁ」

「そんなっ」

「早く答えろ、お前を生んだ娼婦は何処の誰だ?」

 友人達が大切な人達が巻き込まれている、自分が巻き込んでしまったのか、それとも偶然なのか、本当に皆は無事なのか?どれも、今のサラには知る術はなくただ、信じてもらえるか分からない真実を口にするしかなかった。

「母は、数年前に、亡くなって、います」

「・・・母親を庇うつもりか?ガキ共がどうなっても良いんだな」

 最後の卑しい笑みとともに吐き出された言葉に全身が粟立つ。そして気付く。自分がなんと答えてもこの男は何も信じないのだろう。

「全く、お前がこの私と繋がっていることさえ忌々しい」

「・・・・・・本当に、私と貴方の血が繋がっているという証拠はあるんですか?」

 もしかしたら、勘違いかもしれない。最後の足掻きだった。だって、この男と血が繋がっているなんて考えたくもない。友人を傷付けて笑っているこの男と。

 サラも、十数年の人生の中でこの男は危険人物と判断できる程度には人に傷つけられ、人を疑って生きてきた経験がある。

 この男は、きっと、もう友人を傷つけているのだろう。もしかしたら、殺しているかもしれない。

「お前は、ここで魔法を使えるだろう?ここではな、私の血が流れているものしか魔法を使えんのだ。魔道具さえもな。お前は先程、魔法で光を作っていた、それが証拠だ」

「・・・そんな魔法を、貴方がかけられるんですか?」

「残念ながら、私に魔法の才はない。使えるのは魔道具だけだ。だが、私には協力者が居てね。君には確証を得る為に私の協力者が何重にもはった結界の中で簡単な魔法しか使えないようにしたんだ」

 さも、自分のことのように自慢げに言う、この目の前の卑小な男にサラはただ何の感情もない目を向けた。

 この男は、なんと弱いのだろう。その虚栄心と優越感と権力をこの男から取り上げれば、それらが見事に隠しているこの男の卑小さしか残らないのではないだろうか?衝撃で頭は一杯になりそれを掘り下げる前にこの目の前の男への感想が出て来た。

 ヴァンスもサラの視線に気付いたのか急に無表情になる。

 サラはヴァンスの忌々しげに自分を見る目を見て、それに気付く前に顔を背けようとした。

 しかし、背けようとした時に髪を掴まれ無理矢理対峙させられる

「・・・その目」

 ヴァンスの、その言葉を聞いた時、気付いていないフリをし続けた事と向き合った。

 目の前にある自分と同じ系統の瞳。髪の色も、顔立ちも、体型も全く違うのにそこだけが際立って似ている。

 若紫をベースにオレンジ色が散らしてあるサラの瞳。

 深い紫をベースに朱色が散らしてあるヴァンスの瞳。

 茶色と金色や、緑色と青色や金色、赤色と茶色、青色にシルバーやグレイや紫などはあっても紫に赤や黄色系統の色が散らしてある瞳の人間はサラは自分以外にヴァンスしか見たことがなかった。

 血の繋がりを感じさせる唯一のもの。

 それだけで判じられるということは、この瞳はヒュースター家特有のものなのだろう。

 ヴァンスが手に持っていた杖を振り上げるのを見たと思ったら次の瞬間には頭に衝撃が来た。

 脳が揺れ、視界がぼやける。その痛みを感じた時には体中の痛みもその存在を主張し始め、サラはいつの間にかに消耗していたらしい体力と精神力によって悲鳴もか細くしか出なかった。

 最初から少し時間を空けて二度目の衝撃が来た。続けざまに何度も何度も殴られる。時には足で蹴られ、その衝撃には躊躇いや容赦など全くなかった。あるのは明確な殺意と時折聞える上から見下ろし楽しんでいるような愉悦の笑い声だ。

 この男は、私を殺す気なのだ、とサラは思った。

 もう、何度殴られたか考える余裕もない。体中が熱くて痛いし、何本か骨にヒビも入っているだろう。声を出す体力もないし、頭は割れるように痛い上に働かない。

 ただこびり付いたように離れない、これが自分の父親なのだ、この男の血が自分にも流れているのだ、と言う事実が思考を占める。

(・・・皆、大丈夫かな?)

 頭から生暖かい血が流れ、目に入ってきて痛い。

「グゥッ・・ゲホッゴフッ」

 ヴァンスに腹を蹴られ反射的に咳き込む。蹴られた際内臓を痛めたのか咳き込んだ時に少量の血が喉からせり上がって口から流れている。

「その目が、気に入らない」

 抵抗する力もなかった。

 目に、ヴァンスの手が近付く。

「アッ、アアァァ」

 絞り出すような声。

 侵入して来る異物。

 焼け付くような熱さに、目の中をグチャグチャとかき回される嫌悪感。

 意識を保てたのはその時までだった。ヴァンスの手にはサラの片目が握られている。ヴァンスはそれを床に落とし、踏みつけた。

 ヴァンスは気付かなかった。それが、暫くして闇の中へ溶けるように消えていった事に。



 この伏線を張ったので最初の方の話に人物についての外見描写を簡単に入れました。

 見切り発車するとこんなことになるんですね。

 

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