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血の契約  作者: 吉村巡
104/148

103:怒りと対策

 夜会後、それぞれにあてがわれた部屋に戻った。

「アー!!苛つく!何なのよ!アイツらのあの態度!」

 高級そうな部屋で居心地が悪いとか、壊したら幾らだろうとか、居心地悪く思っていた事は頭から吹っ飛んだ。ボスボスとそこら辺にあったクッションを壁に投げていると、

「マリア、落ち着け」

 と冷静な声でクッションを投げていた手を掴むマリがいつの間にか部屋に入って来ていた。

「何っ!?マリは悔しくないわけっ!?」

「悔しいよ。でも、レイがどんな目で他人に見られようとレイがレイである事には変わりない」

 静かな声で諭され、マリアは少しだけ冷静になれた。

「マリも、怒ってるね」

 冷静になったからこそ分かった事だ。平静を保っているように見えるが声が全ての感情を無理矢理抑えているような声で長年ともに育ったマリアからすれば腸が煮えくり返っているがここは冷静にならなければならない、と自分をギリギリまで律しているのだ。

「マリの言う通り。別に何を言われても周囲の勝手な評価はどうでも良いと思うし、慣れてるから今更って気もする」

「レイ」

 何時からそこにいたのかは分からないが、扉の脇の壁に寄りかかり小袋の紐を持ってマリアとマリを見つめているレイがいた。

「ノックしても返事がなかったから勝手に入らせてもらったけど、良かったかな?」

「勿論、私は気にしないけど・・・。でも、あの会場の奴らがレイの事、あんな目で見たのは許せない!なんでレイはそんな平気そうな顔してるの!?」

 その言葉を聞いて入って来たときから口元に軽く笑みを浮かべながらマリアの怒り模様を見ていたレイがクスクスと声を漏らす。

「笑い事じゃない!!」

「ごめん。ごめん。でも、慣れているのは事実だから。一々怒ってたら疲れるだけよ。昔は怒った事もあったけど、ファラルがそんな連中に表立って怒りもせず、ただ当たり前のように淡々と報復をしていてくれたから怒る事は無くなったし何を言われてもその後のファラルの報復を考えるとまだそんな命知らずな連中に同情できたから、かな。それに、今は私の代わりに怒ってくれる友人もいるからね」

 そう言ってゆっくりとマリアとマリに近付いて来て手の平を見せるよう言った。

 2人が大人しく手を出すとレイは持っていた小袋から何かを取り出すと一つずつ2人の手の平に落とした。

 それは包装紙に包まれた丸くて固い物だった。包装紙は透明で中に入っている物が見える。入っているのは丸くて白い、言い表すならば大粒の真珠のような物だった。

「これ、何?」

 マリの疑問にレイはすぐに、「飴」と答えた。簡潔すぎる答えの突拍子のなさにマリアとマリは揃って首を傾げた。

「何で、飴?」

「食べて欲しいから。私の主観では、別に変な物は入ってないと思うけど」

 さあ、食べろ。という雰囲気のレイにマリは眉を顰めた。レイは何を考えてこんな事を言っているのだろう、と。

 そう思った瞬間隣でペリペリと音がした。見るとマリアが包装紙を開き飴を口に入れた。

「美味しい」

 コロコロと舌の上で飴を転がしながらマリアが顔を綻ばせながら感想を言う。

「レイが作ったの?」

 口の中に飴を含みながらマリアがレイにそう聞くと、レイは頷く。

 その様子を見てマリも包装紙を取って飴を口に含んだ。

 レイは料理全般が得意なようだ。学園に持参する弁当もファラルが作ったものだけではなくレイが作って持参する事もある。そして、その弁当(怪しい料理ではないものだけ)を味見すると、とても美味しい。月に何度かある女子必修の家庭科の時間でも教師を唸らせる程の逸品を作り上げた、と同じ授業を受けていたサラから聞き、しかも何度目かのその授業の時に作ったお菓子を持って来た事があってサラの言葉が真実だと納得させられた。

 口に含んだ飴は甘過ぎないスッキリとした甘さで、苦手ではないが普段余り甘いものを食べないマリの舌に丁度いい甘さだった。甘い不思議な香りが広がり、落ち着いた気分になる。

(苛々には、カルシウムと糖分が良いと聞くけど、本当かもしれない)

 口の中でコロコロと転がし飴が溶けていくのを惜しみつつもその味に舌鼓を打っていると、レイは急に、

「そうそう、私今から出かけるね。明日の夜までには戻ると思うから」

 と言って反論する隙も与えず部屋を出て行った。


 マリアとマリのいる部屋に行く前にマリはまずカナタとサラの部屋に行っていた。

 コンコン、と部屋の扉をノックすると中からカナタが静かな声でどうぞ、と応える。レイは躊躇いなく中に入るとつかつかとカナタに歩み寄り机の上にころん、と飴を置いた。

「渡しもの。すぐに食べてね。あと、サラは大丈夫?」

「一人にして欲しいと言われた」

「へぇ、で素直に部屋に戻って来たんだ」

「・・・・・・」

「その事について何も言うつもりはないけど、別の忠告。流れに身を任せて、決して逆らわないようにね。寝ていれば見る悪夢もあるけれど、寝ていれば過ぎる悪夢もあるから。もしもサラが悪夢に傷ついていたら支えてあげて」

「何の事を言っているんだ?」

「時が来れば分かる。私は流される先を知っているだけ」

 意味深な筈のレイの言葉はレイがそそくさと部屋を出て行った後に渡された飴を食べながら考えてみても思考に靄がかかったようで、深く考える事が出来なかった。


「サラ」

 部屋に入って来たレイをサラが赤く潤んだ目で振り返って、駆け寄って来てぎゅうと抱きつく。

「サラが、そこまで傷つかなくていいんだよ?」

「私が嫌なの」

「自分を見ているようだったから?」

 パッと、サラがレイを抱きしめるのを止めてレイの顔を凝視する。

「カナタに、聞いたの?」

「ううん。カナタはサラが触れて欲しくないって思っている事を無神経に口にする訳ない。それは、サラ自身が一番分かっている事でしょう?」

「うん。心配してくれてるの分かってるけど、追い返しちゃった」

「それはさっきカナタに聞いた。で、私の用事はコレ」

 ゴソゴソと小袋から飴を取り出してサラに渡す。

「飴?」

「うん。直ぐに食べて」

「ありがとう」

 サラはお礼を言って飴を口に含む。

「唐突だけど、サラに忠告。多分、サラは受け入れたくない真実を知って、大きな選択を迫られる事があると思う。だから、傷ついたら頼りたい人を、頼れる人を頼っていいの。甘えていいって言ってくれる人に甘えて良い。向こうもそれを望んでいるから。それに」

(サラなら立ち直る。きっと、呆気ないくらい短い間に。甘やかしたい方が物足りなく感じる程に。その苦悩し、他者の力を借りず雄々しく立ち上がろうとする姿にはそそられる。何故、人は弱くも強いのか?と、思わずにはいられない。結局、傷は残ったままで弱いことに変わりはないのに)

「何の話?」

「未来の話」

 己の中にある複雑な感情を気取られぬようにレイは微笑みを浮かべる。

 それ以上の説明もなくレイはサラの部屋を出て行った。

 部屋の外に出て、レイは自分の中にあった複雑な感情の正体に気付き口元に微かな笑みを浮かべ、ながら思う。

 ああ、彼女に感じたのは、羨ましさだったのだ、と。

 

 

 マリとマリアに会って来た後、レイはシオンの元へ向かった。

「レイ」

 シオンは人払いをして部屋を自分とレイの2人だけにした。向かい合ってソファーに腰掛け、レイがいれた2人分の紅茶がそれぞれの前に置かれている。

「悪かった。不快な思いをさせた」

「別に気にしていませんよ。寧ろシオンの方が不快そうでした」

「ああ。この国の中枢があそこまで愚かだとは思っていなかった」

「アルが言っていましたが、この国は今少し不穏な空気が流れているとか」

 紅茶を傾けながらレイが突っ込むと、シオンは肯定するように頷いた。

「はっきり言うと、今回の俺の視察はその不穏分子を探るのが目的だ。他の奴らを巻き込むつもりはなかったんだが、アルはレイに伝えたのか」

「ええ。少々特殊な事情がありまして。言っても問題無い、と判断されたみたいです」

 特殊な事情というのは神々とのつながりの事だが、アルは律儀にシオンにも言っていないらしく、

「確かに、レイはそこらのプロの魔法使いより優秀だからな」

 と自己完結で納得してくれる。

「さて、本題に入りますが頼みがあります」

「何だ?改まって」

「証拠も確証もない事ですから一応保険を掛けておきたいな、と思って。______と_______を2日後の夕方_____に向かわせて欲しいという事です」

「・・・・・・出来ない事はないが、何故?」

「確証がないから詳しい事は言えないんです。ただそこで不穏な事が起こりそうだという話を先程の会で小耳に挟んだので」

「分かった。万が一という事もある。内密に何とかしよう」

「ありがとうございます」

 にっこりとレイが笑うと、シオンはもう少し冷めてしまった紅茶を飲みほす。

「で、その格好を見る限り森にいく準備は既に万全、と」

「そうですね」

「まだ付き人の準備できてないんだけど」

「そうですか」

「・・・一人で行く気?」

「はい」

 にっこりと笑って答えるレイにシオンはふーっと溜息を吐くと「明日までに戻らないと捜索隊出すから」と諦めたようにレイに忠告した。

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