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血の契約  作者: 吉村巡
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9:消化=運動(レイの持論)

 これは、八話で走り出したレイとベクターを中心にしています。

 後ろに、人の呼吸音が聞こえる。一応手加減はしているが、それでも走る速度は速い。

(本当に実力があるんだ)

 レイは後ろを付いて来るベクターの気配を感じながらそう思った。やわな者、ロリエなら直ぐにギブアップしているだろう。だが、ベクターはちゃんと付いて来る。

(少し苦しそうだけど・・・)

 レイの苛虐心をくすぐられた。走る速さを少し上げてみる。

 様子を少しうかがうと、ベクターは眉をひそめそれでも自分も速度を上げた。ずっと一定の距離を保っている。

 もう、一団からはかなり離れている。地面を照らす明かりも、月明かりしかない。そんな中でレイは森に入った。今走っているよりも足場は悪く、月明かりも届きにくい。

 ベクターは、それでも何も言わず付いて来る。

(話す余裕も無くなったのか、話をする気がないのか。どっちだろう?)

 レイは、また速度を上げた。もう三回目のスピードアップ。10分は走り続けていると思う。

 流石に、ベクターの息づかいが少し荒くなっている。それを感じながら、全く息の乱れていないレイは、

(そろそろ休憩しよう。このままだと彼が倒れそう・・・)

 苛虐心はあっても、少しの思いやりはあるレイは、ファラルよりましだ。ファラルは最初から飛ばすだろう。レイにはそれ程でもないが、他人になると容赦なくサディスティックになる。

 3分程、走り続けると広い空間に出た。そこでレイは止まった。ベクターは、保っていた距離よりも少し遅れていた。

「少し休憩しましょうか。消化行動」

 清々しい程の笑み、暗闇ではよく見えないがその笑みをレイは浮かべていた。

「助かる。少々息が上がっていた所だ、鍛練が足りないな」

「ええ、私は実力の半分も出していません。もう少し鍛えてみたらいかがでしょう?」

 ベクターの言葉に追い討ちをかけるレイ。

「アルのような事を言うな。手厳しい」

「私は、自分に出来る事は他人にも出来ると思っていますから。所詮、人に出来る事は限られています。才能の有無や、環境の差でも、出来る事は変わってきますが、人のする事には限りがある。決められた中で頑張れば何だろうと出来ると思います。個人の力量によっても変わると思いますが。才能や環境があっても努力しない者は無駄です」

「本当にアルのようなことを言う」

 ベクターは、本当にそう思った。昔、アルが言っていた言葉。


『所詮、人には限界があり、それを超えれば誰にでも死が待っている。だが、その限界を遠ざけようと人は努力をする。権力の上にあぐらをかく者や、どうでもいい、と諦め努力をしなくなった者は無能・無駄以外の何者でもない』


「そうですか?」

 レイが呟いた。笑いを含んだような口調だった。

「多分、アルシアさんと私は、根本的な所から違うと思います。私は、努力しない者は無駄だと言いました。その見解は変わりません。でも、私はそんな無駄な人が嫌いではありません。何故なら私も無駄な者の方に入るから。アルシアさんは、そんな無駄な人達が嫌いでしょう?」

 レイはよく見ている、それが、何となく浮かんだ思いだった。

「私には、貴方がよくわからない。レイ殿、貴方は年相応の言動と思い。歳に似合わない考えと、精神を持っている。どちらが本当の貴方なんだ?」

 ベクターは真剣に聞いた。

「どちらが本当だと思いますか?」

「分らない。レイ殿の感情は読みにくい。気配も、獣使いのはずの私が・・・」

 悔しそうに苦々しく言うベクターに、レイはクスクスと笑った。

「どっちが本当の自分かなんて分らないんです。人によって見せる自分は違うでしょうし、感じ方も人それぞれです。私があっちの方を垣間見せたのが、貴方だったのは何となくです。貴方がアルシアさんを止める所を見て、何となく貴方にだけは、もしくは、貴方に最初に見せようかな〜と思い立って。ファラルが言うには私は気紛れ屋、だそうです」

 レイは、歳相応の口調でベクターに返した。

「さあ、休憩は終わりです。先程よりも少し速度を上げるのでベクターさんも頑張って下さい」

 笑顔らしき声で悪魔のような事を言うレイに、ベクターは、

「呼び捨てで構わない」

 と、唐突に言った。レイは、意外な言葉にえっ?っと言っていたが、直ぐに

「ベクターさんは年上の方ですから」

 とやんわりと、穏やかに断ったが、

「気にしない。そもそも、ファラル殿には呼び捨てだろう?」

 ベクターの言葉に、それもそうですね。とレイが呟くと、

「では、ベクター。休憩は終わりです。戻りましょう」

 違和感なく、すんなりと呼び方を変えたレイに、

(どうせ、思った事には呼び捨てを使っていたんだろうな)

 と考え、レイが走り出したのを見て、ベクター自身も走り始めた。



(地獄のようだ。あんな速度で走って何故、そんなケロリとしていられる)

 食べた物をもどさないよう、必死に我慢しながらベクターはアル達の元へ戻って来た。

 遠くから、アルが何か言っているのは聞こえていたが、内容までは走るのに必死で聞こえなかったが、レイには聞こえていたらしい。

 何故なら、急に喋ったからだ。内容を理解した上で、ファラルの代わりにアルに答えていた。

(アルと同じで化け物だ・・・)

 むしろ、まだアルの方が耐性があるので平気だ。レイの場合、魔力があるのかも、どんな力があるのかも全く分らない。今の所、人間にしか思えない。ファラルには恐らく魔力があるだろう。とても強い。

 しかし、レイに魔力があるのかは全く分らない。異常な体力と聴力、高い精神年齢以外に、分る事が少なすぎる。レイもファラルも、感情が読めない。本性が分らない。

(二人とも、ただ者ではなさそうだ)

 ベクターはそう思うと、少し固まっているアルに耳打ちをした。

 二人とも、ただ者ではない、と報告するために。

 

 時間軸を変えているので分りにくいかもしれませんね。つじつまの合わない所がありましたら、教えて下さい。

 目標だった、レイがベクターを呼び捨てする、が叶いました。(ベクターの呼び方は変わらないのですが・・・)

 後は、アルとヘルスが問題ですね。

 ファラルは、レイ以外をあまり名前で呼びません。ファラルの呼び名は、レイ以外だと殿・さん、が付きます。

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