僕はアウルム
僕はアウルム。猫型騎獣だ。生まれてから、ほんの数年しか経っていないけど、人を乗せて飛ぶことだって出来る。
他の仲間達(でっかい鳥型騎獣やなんか)に比べたら、すっごく小さいけど、騎獣は人を乗せられたら一人前だから、僕は立派な大人の騎獣だよ!
アウルムって名前は、僕の主のナツキがつけてくれたんだ。
マニャ姉ちゃんは「この人が一番!、この人のために翔びたい!って思う主にいつか出会えるよ」と、笑って言っていたけど、そうなのかなあ?
本当にナツキが僕の一番なの?
僕がナツキに連れられる前に、たくさんの仲間達と一緒に暮らしていた獣舎にはマニャ姉ちゃん以外にも猫型騎獣はいた。
僕はそこで、お母さんのお姉さん。つまり、おばさんに育てられた。
僕は、お母さんの顔も匂いも覚えていない。
僕を産み落とすと、すぐに主とともに出掛けていき、そこで亡くなってしまったからだ。
けど、なんとなく、柔らかくて、いい匂いだったような気はする。
覚えてなくたって仕方ない。僕は、生まれたばかりの赤ちゃんだったんだから。
あと、おばさんはことあるごとにお母さんと自分はよく似ているって言うけど、マニャ姉ちゃんが言うには、あんまり似ていないんだって。
お母さんは濡れたような、しっとりとした銀色の毛並みをした、猫型騎獣のなかでも、とびきりの美猫だったんだって!
濡れたようなって、どんなのだろう?お風呂で洗われて、湿った感じなのかな?
僕は、洗われるのはあんまり好きじゃないから、それってどうなの?って思っちゃうけど。
お母さんも、それにお父さんも僕にはいない。
たまたま、ギルドに立ち寄った旅の冒険者が乗っていた真っ黒な毛並みの大きな雄の猫型騎獣だった、らしい。
ちなみにマニャお姉ちゃんのお父さんとは別の猫。お母さんてば、モテモテだったんだね。
だけど、寂しくない。いとこ達とくっついて乾し草の中で寝ていると、あったかいし、ご飯だって、いつでも飲めるもん!
けど、そんなある日、獣舎に見たことのない女の子がやって来た。
僕はいつもの通り、ご飯のあとで眠くなって、おへそ丸出しで寝転がっていた。
これが一番、リラックス出来るんだ。
んん?何だか、騒がしいな?それになんだか、妙な視線を感じる…?
うっすらと眠たい瞼を開けて、騒がしい方向を見上げると、そこにナツキがいたんだ。
僕は、その顔を見て、一瞬、ビクッてなっちゃった。
それだけ、ナツキの第一印象は強烈だったんだ。
鼻息も荒く、ついでにニマニマ、クネクネしていた。
時々、いるんだよね。僕らは猫型騎獣だと言うのに、愛玩用の猫と一緒に考えちゃう人。
かわいーって!何だよ、それ。
そんな人達の視線に似ていた。
正直、うんざりしちゃう。僕は、まだ小さくて人を乗せられないけど、騎獣なんだ。
猫と一緒にすんなって。
けど、どういう訳か、僕はナツキに貰われていった。そこのところはよく分からない。
大人の事情?ってやつだ。
マニャ姉ちゃんが、「立派な騎獣になってね」って、最後まで
見送ってくれた。
僕は、悲しくなって「ギニャ!」って、ちょっとだけ泣いちゃった。
でも、仕方ないんだ。
騎獣は、たった一人と定めた主のもとで暮らすのが幸せなのだから。
けどさー、どうなんだろう?
やっぱり、ナツキって主って感じがしないんだよな。
それで反抗したりしていたら、おっかない妖精に怒られた。
だって、めっちゃ怖いんだよ?
大きさでいったら、僕の方が断然大きい。尖った(と言っても、まだ小さいけど)牙も爪もある。
けど、持っている魔力の容量といったら、それはもう半端なかった。
僕らは人や魔獣なんかを魔力で認識する。魔力量の高いものからは強烈なプレッシャーを感じるんだ。
それがこの妖精(セーラお姉さまと呼べって言われた)から、しっぽを股の間に挟んで逃げたしたくなるくらいのプレッシャーを感じた。
僕は全面的に降参だ。舎弟になった。
セーラお姉さまは、「ナツキのことも敬え」って言う。自分の魂の半身だからって。
なんだそれ?意味分かんない。
でも、セーラお姉さまが言うんだから、僕は渋々、従うことにした。
あと、ヒルダ様って言う、史上最高に怖い女の人にも出会った。本気でオシッコをチビりかけた。
「駄目ですよ?」って手綱を引っ張られた時、僕は死んだと思ったね。生きてるけどさ!
訓練士のニーちゃんもたまに怒るけど、怖くはないよ?美味しいものをくれるし。
けど、ナツキはなー。ブラッシングは下手だし、騎獣の乗り方も下手っぴいだ。
ダメダメだよ。
運動神経も悪いし、乗り方も下手なんだから、カナンに乗せてもらったらいいのに。
これを言うと、カナンに怒られるから言わないけどさ。
けど、けどさ。
ナツキにもちょっぴりいいところがある。
騎乗の訓練をした後に、必ず美味しいオヤツをくれるんだ。
あと、ブラッシングの時に顎をナツキの膝の上に乗せるんだけど、柔らかくっていい匂いがする。
まるでお母さんみたいな…。
でも、絶対に言わない!調子に乗るからね。
ナツキは僕の主で、僕の友達。
だから、いつも一緒。
いつだって、僕はナツキを乗せて大空を飛ぶんだ。
それが騎獣の幸せなんだから!