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異世もふ SS   作者: NAGI
1/12

頑張れ、ノア君

おいらの名前はノア。

熊系獣人の父ちゃんと人族の母ちゃんから生まれたハーフだ。

父ちゃんは傭兵?ってやつで、すっげー強くて羽振りも良かったらしいんだけど、商隊の護衛仕事の途中で魔獣の群れに襲われて、死んじまったんだと。

おいらが産まれる前のことだから、全部、母ちゃんに聞いたことだから詳しくは分からねえ。

母ちゃんはおいらの見ていないところで隠れてよく泣いていた。

おいら、母ちゃんの力になりたかったけど、ただの赤ん坊に何が出来る訳ではない。

せいぜい「アーウー」言うくらいだ。

ある日、立派な建物が建っているまで連れていかれて、そこに預けられることになった。

それが神殿の養護院とかいう場所だった。

そこにはおいらみたいな赤ん坊やら幼児やらがたくさんいた。そんなチビ達の面倒を見てくれているのが、神官見習いの姉ちゃん達だ。

「そんな風に乱暴に扱ってはいけません」

「アダーブー」

おいらは聞こえなかったふりをして、手にしたジャイアントベアのぬいぐるみを再び床に叩きつけた。

「駄目だと言っているでしょう?」

声の調子がきつくなったけど、おいらは平気だ。

全然、怖くないよーだ。へへん。

今度はブンブンとぬいぐるみの腕を持って振り回した。

すると、乱暴に扱ったせいで腕がもげて、ジャイアントベアの胴体部分が宙を飛んでいった。

「ピギャ!」

兎系獣人のモルルがウサギ耳をぴっと立て、鳴き声を上げる。

飛んでいった先には運悪く、モルルが積木で遊んでいたのだ。

ぬいぐるみの胴体部分がモルルが積み上げた、積木の城?を直撃して崩れてしまった。

「ピイープイー!」

モルルが怒って、おいらに抗議した。

(悪かったって、そんなに怒るなよ)

(お前は乱暴が過ぎる、だから親に持て余されて、ここに連れて来られたんだ)

(違う!母ちゃんはおいらを迎えに来るって言ってくれたもん!)

(そんな訳ないだろ。まんまとだまされちゃってさ、だっせえの)

それから先のことはよく覚えていない。

逆上したおいらはモルルの耳をかじって、怪我を負わせてしまったとしか。

おいらは一人、皆から隔離された。そこは養護院で喧嘩したり、言い付けを守らない者が閉じ込められる部屋だった。

悔しくて情けなくて、おいらは一晩中鳴いた。

「ガヴアオオ、オオオ!」

どんなに鳴いても、誰も様子を見に来なかった。誰もおいらのことなんて、構ってはくれない。

そのことがモルルが言ったように、母親もまた迎えになど来てくれないような気がしてきて、悲しくてしょうがなかった。

「ガアオオー‥」

喉が嗄れ、か細い鳴き声が深夜にこだまする。

すると、外から施錠されていた部屋の扉が静かに開かれた。

廊下の光を背に立っていたのは、数日前に見習いから神官へと昇格し、養護院を出て行ったアリーサ姉ちゃんだった。

「ヴオ‥」

「喉が痛むんでしょう?もう、泣かないの」

そう言って、涙と鼻水でぐしょぐしょとなった、おいらを抱き上げてくれた。

「ズッ」

鼻をすする。アリーサ姉ちゃんが持っていたハンカチでおいらの鼻をかんでくれた。

ついでに涙も綺麗な面に返して、拭ってくれた。

「悪いことをしたら、謝らないといけませんよ?」

「ガゥ」

おいらが小さく抗議の声を上げ、熊耳をぴぴっと振るわせた。

「ええ、そうね。モルルはひどいことをあなたに言ったわよね」

「ヴオ」

姉ちゃんに獣人の赤ん坊の言葉が分かる訳はない。

おそらく鳴き声の感じや態度から推測しているんだろう。

「あなたのお母さんは約束してくれたものね。あなたはそれを信じてもいいのよ」

「アー」

(母ちゃんは嘘なんか、つかねえ)

「そうね。きっと、そうだと信じましょう」

そう言って、姉ちゃんはおいらの体を優しく揺すりあげてくれた。

いい匂い‥。

母ちゃんとは違う、けど、優しい匂いがする。

おいらは泣き疲れたのと柔らかい腕に抱かれたのとで、ウトウトとしてしまう。

「…信じられるなら、幸せね」

姉ちゃんの声が遠くに聞こえた。

(なに?何て言ったの?)

問い掛けに答えなどなく、おいらは深い眠りに落ちていった。。

 それからもちょくちょく、アリーサ姉ちゃんは養護院を訪れるようになった。

ある時、妙にテンションの高い女の人、見た目は神官見習い達と変わらないけど、どことなく違うニオイのする、ナツキ様とかいう人を一緒に連れて来た。

「もっふもふー!」

とか何とか言って、おいらをぎゅっと両手に抱きしめる。

(な、なんか、こいつ変!)

おいらは身を捩って暴れ、その手から抜け出す。

「テディベア、ケモミミ天国…」

訳の分からないことを言って、おいら達、獣人の子供を触りまくる。

おいら達は身の危険を感じ、逃げ惑う。

(こえぇーよ)

その人は凝りもしないで、暇を見つけてはやって来る。

たいてい、歩みの遅い奴らが餌食となった。

おいらは腕力に任せて、ナツキ様の手を払いのける。

「ヴオ!」

ナツキ様ははたかれても、めげない。

逆にどこか嬉しそうだ。ちっ。

ナツキ様はどうでもいいけど、ナツキ様が来るとアリーサ姉ちゃんも来るからなー。

あんまり邪険に出来ない。たまに遊んでやる。

「ぶっとい腕だねー。この子はおっきくなるよー」

おいらの腕をグニグニとつまむ。

そんなナツキ様の膝の上にはマルルが丸まってた。

こいつとはいまだに冷戦中だ。

マルルが心地よさそうにピスピスと鼻をうごめかせている。

養護院では子供の数の方が多くて、甘えることが出来ない。

ナツキ様はベタベタと甘えることが出来るので(なにせ当人が喜ぶので)、一部の甘えたな連中には人気がある。

おいらはふと、悪戯心を起こして、マルルの白いしっぽを握った。

案の定、マルルのやつは飛び上がって驚いた。

赤ん坊と言えど、ウサギの脚力だ。ナツキ様の顎を直撃する。

「ピイ!」

(何するんだ!)

(へーんだ。甘えんぼ)

カオガオ、ピイピイやっていると、おいら達は同時に首根っこを掴まれた。

「まずはナツキ様に謝れ」

狼系獣人のヴァンだ。もちろん、おいら達の言葉は理解出来る。

おいら達はブラーンと宙づりにされながら、謝った。

ヴァンはかっこいいけど、こえぇよ。

「あー。いいよ、いいよ。かわいいから」

かわいいは最強だよ?って、意味が分からん。

おいら達は床の上へと降ろされた。

「こいつらにはよく言って聞かせます」

ヴァンが頭を下げるのを真似て、おいら達もペコリとお辞儀した。

女だらけの養護院じゃ、ヴァンは男で、しかも貴重な成人男性の獣人だ。

おいら達のお手本となるだけでなく、ちょっとだけ、父ちゃんみたいな感じがする。

ヴァンに言われると逆らえないのだ。

そんな風においらはそれなりに楽しく養護院で暮らしていた。

 そんなある日、母ちゃんが迎えに来た。

「ごめんねぇ。随分とまたせちまったね」

おいらを抱きしめ、頬ずりする。

「ヴオ!ガオー!」

「ごめんってば。許して」

「ガア!ブオオ!」

なおも文句を言い募る。けど、ちょっぴり泣いちまった。

しかたねーだろ。赤ん坊なんだからな。

「お世話になりました」

母ちゃんは見習いの姉ちゃん達に挨拶を終えると、おいらを抱っこして養護院をあとにする。

「ピイ!」

鳴き声に、おいらは母ちゃんの肩越しに後ろを見た。

マルルが二本足で立っていた。

(お前すげえな。もう、立てるんか!)

(当たり前だ。俺にはお前みたいに迎えに来てくれる家族なんていないからな。

早く大人にならないといけないんだ)

(そっか。かっけーな)

(ふん。恐れ入ったか!お前も傭兵になるんなら、俺の店で雇ってやってもいいぞ)

マルルの将来の夢は商人だ。

(ならねーよ。おいら、神殿の騎士になるんだ!)

マルルが驚いて尻もちをつく。

「ガオ」

「ピュイ」

そうして、おいらは養護院を去った。


おいらを連れて、母ちゃんがやって来たのは幼稚園?に併設された職員寮だった。

そこには幼稚園に雇われた、母ちゃんみたいな子連れや夫を亡くした女の人達ががたくさんいた。

「あたしらがこうして一緒に暮らせるようになったのは全部、ナツキ様のお陰なんだ。

あんたも感謝しなくちゃいけないよ」

母ちゃんもそうだけど、一緒に生活する女の人達は常々そう言っている。

ふーん。ナツキ様ってそんなに偉いのか。

アリーサ姉ちゃんも懐いているみたいだし、ヴァン兄ちゃんは剣を捧げて?いるらしい。

よく分からん。

けど、おいらも神殿の騎士を目指しているからには敬うのが礼儀だ。

例え、おいらの耳を見て、ピコピコしてるー!萌ー!と、騒ごうが。

おいら、頑張る!







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