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4 莫迦二号の頭もお花畑だったようだ

「わあ~、すごいね~。カミーラは~、モテるんだね~」


 とぼけたことを言うミポルのことを睨んだら、ミポルは反対側へと移動して、口笛を吹くように口を尖らせた。でも、音は漏れて来ない。ミポルに文句を言うのは簡単だけど、それでこの鬱陶しい男達がいなくなるわけではない。


 男達に視線を向けると、期待を含んだ目を向けられた。


「私はあなた方とは何処にも出かけるつもりはない。大体あなた方も私のことを眼中にないって態度でいましたよね」


 きっぱりと言ったら男達は、気まずそうに俯いている。だけど、うざいのはその周りにいる人たちだ。私が断ったのを信じられないというような顔で見てきているのだ。中には『お前が断んのかよ』と、心の声が駄々洩れの表情をしている奴もいた。


『ハア~』と心の中で盛大にため息を吐いておく。だから、眼鏡を常時かけるようにしていたのにと、ミポルのことを睨みつけた。ミポルは一瞬ビクッとしたけど、素知らぬふりをして少し私から離れて行った。


 私はこいつらをどかして先に進もうと、口を開こうとした。


「そこで何をしているんだ。通行の邪魔になっているのがわからないのか」


 厳しい声音が聞こえてきた。聞こえた声が奴ではないことを祈りながら、人々の間から近づいてくる人物を見た。……期待通りにインテリ(莫迦)野郎が歩いてくるのが見えた。奴も場の中心にいるのが私だと気がつくと、眉間にしわを寄せて睨んできた。


「この騒ぎの中心はお前か、カミーラ・ユンテス。また何かを壊したのではあるまいな」


 私のことを見つけた莫迦がそう言った。学院に入ったばかりの頃に、加減がわからなくて全力で魔法を放ったら、学院の備品をかなり壊してしまったのだ。ただ一度のことなのに、この莫迦はいつまでもネチネチと言ってくる。本当にケツの穴の……。おっと、これ以上は淑女にあるまじき言葉だな。心の中で考えているだけとはいえ、汚れていくような言葉は言うべきじゃあないだろう。


「おい、何とか言ったらどうなんだ」


 莫迦の手が伸びてきて、私の肩に触れようとした。そうしたらどういうわけか、フードがずれて私の顔が顕わになってしまった。


 莫迦は先ほどの馬鹿一号と同じように、目を大きく見開き大口を開けて、間抜けな顔を私に向けてきた。普段ほとんど表情を変えることがない、陰険インテリ莫迦の間抜け面だ。周りから驚きの声が上がってもおかしくないのに、誰も声を発しようとしなかった。


 皆して同じように固まっているから、私はフードを被って人々の間を抜けて、早足で歩きだした。


「ま、待ってくれ。そこのお嬢さん」


 後ろから莫迦の声が聞こえる。……うん、これは私のことではないな。あの莫迦は私のことを同じ学院生どころか女性扱いでさえしたことがないから。


 そのままスタスタと歩き続けたら、足音と声が近づいてきた。


「お嬢さん、謝罪をさせてください。あなたの顔を見ていなかったので、人違いをしてしまったのです。どうか、麗しいお嬢さん」


 莫迦の言葉にフードの陰でため息を吐いた。というか、他にも足音が聞こえるから、莫迦以外にも私を追いかけてきた人がいるのだろう。これだから眼鏡がないのは困るというのに……と、私の少し前を飛んでいるミポルのことを睨んでおく。殺気も滲ませたのに動じないミポルに、私のいら立ちは募っていく。


 だが、その前に……また腕をつかまれるのも面倒なので、私は立ち止まりくるりと後ろを振り向いた。途端に見えた莫迦の顔に、振り返るんじゃなかったと後悔が沸き起こった。


 馬鹿一号同様、若干頬を染めて潤んだ目を向けてくる莫迦二号。ポーカーフェイスでクールさが魅力だと言われた姿はどこ行った。


 それなのに莫迦は嬉しそうに話しかけてきた。


「本当に申し訳ありませんでした。あなたのような魅力的な方を、陰気で周りを騒がせるようなことしかしない、根暗眼鏡と間違えるだなんて。覚えていらっしゃいますか。五年前に学院でお会いしたことを。あれから探していたのですが、一度もお見掛けすることもできませんでした。もし、よろしければ、再会を祝して一緒にお茶でも飲みませんか」


 ……こいつの頭は花畑か。さっき私に投げかけた言葉を、もう忘れたとみた。人違いであろうとなかろうと、あのような暴言を吐くやつと、再会を祝したい奴なんているのか?


 馬鹿一号にくれてやったような蔑み切った視線を、莫迦二号にも向けた。


「本当に、めでたい奴だな。あんなことを言われて一緒に茶を飲みたい奴なんかいるわけないだろう」

「それについては謝罪いたします。お顔を見ていなかったとはいえ、陰気根暗眼鏡と間違えてしまいました。たまたまそのマントが、あやつと似たものであったので、間違えたのです」


 その言葉に、私は相手から口元が見えるように顔をあげた。皮肉な笑みを浮かべると言ってやる。


「あんたは人を顔で判別したことなんてないんだろう。いつも私のフードと眼鏡にしか目がいってなかったと、その口で証言してんじゃん。気分が悪いからこれ以上話しかけんな!」


 そう言ってやったら、信じられないものを見るように目を見開いて、顔色を青ざめさせた。


「ま、まさか……」


 それ以上言えずに一歩後退した莫迦。その後ろについてきたやつらは、私の言葉の意味が解らなかったのか、莫迦を追い越して迫ってきたのだった。


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