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2 ここにいる理由なんだけど

 村の大人は誰も信じてくれなかったけど、ただ一人、友人だけは信じてくれたの。その時には赤くなった鱗は親に取り上げられていたんだけどね。まだ五歳だったのだから仕方がない事ではあったと、いまなら分かるわ。でも悔しかったことは、今でも忘れていないの。


 次に鱗を見つけたのは八歳の時。友人と一緒に貝を取りに岩場に行った時のことだったわ。海流の関係なのか、そこにはいくつかの鱗が纏まってあったの。それを見つけた時に、私達は顔を見合わせた。親に知らせるかどうするかと葛藤はあったけど、結局私達は黙っていることにした。


 その代わりその鱗を使って実験を始めたの。最初は五歳の時の再現だったわ。火の魔法を使って、鱗が赤く変わるかを試したの。もちろん、変わったのよ。でも、私と同じように友人がやってみたら、出来なかったの。代わりに友人は水の魔法を使って青く色を変えていたの。これは私にはできなかった。


 そこから私たちの実験・研究が始まったの。だんだんと解ってきたことは、私達の魔法の相性のことでした。他の魔法より、私には風の魔法が一番親和性が高くて、友人は水の魔法が高いということが解ったのよ。。他にも色が変わるためには、籠める魔力の量がかなり必要だということも。


 そういったことが解るころには、友人と私は魔法の扱いに長けてしまっていたんだよね。



 おっと、また、余計なことを思い出していたわね。


 それで、学院に行く時に私と友人はカイナンの鱗も持ち込んだの。せっかくだからそれを使って研究を進めようと思ったのよ。でも、友人と私は研究の方向性が違っていったのだけどね……。


 友人はカイナンの鱗を眼鏡のレンズに使うことを思いついたの。こちらは一年足らずで実用化にこぎつけてしまったわ。


 神童と学院内で大騒ぎになったのよ。すぐに王宮にまで報告がいって、わずか十四歳で友人は王宮の魔法省に籍を置くことになってしまったわ。

 私も友人に遅れること二年、十六歳の時にコンタクトレンズとイヤーカフを発明し、友人同様、魔法省に籍を置くことになったのよ。


 勿論、私と友人はまだ学生であるから、学業が優先されたのよ。でも、それだと各国からの注文が捌ききれないからと、学院の最終学年の生徒に技術指導をすることになったの。そのことで少し騒動が起きたけど、結局国王命令ということで収まったわ。そしてその卒業生たちが眼鏡とコンタクトレンズとイヤーカフの生産を担うことになったのよね。


 ◇-◇


 つい、意識を過去に飛ばして現実から目を背けていた私は、手に持った眼鏡を見つめ直した。フレームがぐんにゃりと曲がり、これではかけることはできないだろう。仕方がないからケースにしまうと、自分用のコンタクトレンズとイヤーカフを取り出した。


 鏡とにらめっこしながら、少し苦戦しつつもなんとか装着して、ため息を吐き出した。具合は悪くないけど、どうしてもコンタクトは好きになれない。


 私はマントを羽織ると、フードを深くひっぱって顔を隠すようにした。そして、自室がある宿舎へと、研究室を後にしたのだった。


 ◇-◇


 翌朝、普段より早めに食堂へと向かった。フードに顔を隠すようにして、今日のAセットのオムレツを受け取った。チラリと給仕をするコックに視線を向けたら目が合い、コックは目を大きく見開きポカンと口を開けた。私は眉が寄りそうになるのを我慢して、軽く頭を下げて、スープやパンをトレイに載せた。そして返却口に近いテーブルに腰を下ろした。


 そして俯きながらできる限り早く、料理を消費していった。食べ終わり席を立とうとした時に、嫌な奴に声をかけられた。


「おやおや~、爽やかな朝だっていうのに、朝から陰気くさい奴がいるなー」

「おい、朝から気分が悪くなるようなことを言うなよ」

「お前こそ間違えんなよ。俺は爽やかな朝にふさわしくない恰好をした奴がいると言っているだけだろ」


 同僚の騎士にたしなめられても、自分の信条を曲げない(バカな)奴は、わざわざ私のそばにきやがった。


「おい、聞こえてんだろ。返事くらいしたらどうなんだ」


 するか、馬鹿。というか、こっちは最後の一口を飲み込むために咀嚼中なんだ。そういうことも察することが出来ないから、お前は令嬢方から敬遠されているんだろう。


 と、関係ない事を考えながら、口の中のものを飲み込んだ。あとは水で口の中のものを流し込んで終わりと、コップを手に取ろうとしたら、馬鹿の手が伸びてコップを取り上げた。フード越しに馬鹿を見たら、口元を歪ませて私のことを見下ろしていた。


「ただでさえ灰色のマントで陰気くさいのに、フードで顔を隠してんじゃねえよ。いくらブスだってなあ、食事の時くらい顔を見せたらどうなんだ。いくら頭が良くたってマナーがなってなさすぎだろ」


 コップの縁を持ってユラユラと振りながらそんなことをいう馬鹿。こいつが触れたそれで水を飲みたくないなと思い、私はゆっくりと立ち上がった。


「おっ、なんだ、やるのか」


 馬鹿が身構えるような素振りをしたけど、それを無視してトレイを持つと返却口へと歩きだした。


「てめえ、無視してんじゃねえよ」


 その声と共に、パシャッとマントに何かをかけられたのだった。


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