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私を抱きしめてくれたのは  作者: ぴのすげ
にかげつめ
16/24

016 修繕されたコート

 鏡の前にある椅子にはメアリーが座っている。アラクネに手伝ってもらい、無事に着替えることができた。

 その後ろでは、アラクネがくしでメアリーの髪をといている。おめかしにも詳しいようで、その動きは手慣れていた。

 メアリーの髪はとてもさらさらしていて、一度もひっかかることがない。それをアラクネは羨ましそうに見ていた。


「いい髪質だね、さぞかし自慢の髪なんだろう」

「えぇまあ。母から受け継いだ、自慢のひとつです」


 綺麗にとかれた髪は三つ編みでまとめられ、乱れないようにゴムでとめる。そして、可愛らしいシュシュがつけられた。

 鏡に映る少女はひときわ麗しく、どこかきらびやかな雰囲気を感じさせる。その少女の両肩に、白くて大きい手が置かれた。


「とても似合っているよ。今日はなんの予定があるか私にはわからないけど、さぞかしとても大事な予定なんだろうね」

「はい。でも不安で仕方なくて、正直怖いです」

「こんなに可愛くなったんだからきっと大丈夫だよ。嫌な奴がいても殴り飛ばしてしまえばいいさ」

「ふふっ、その言葉覚えておきますね」


 アラクネは冗談のつもりで言ったことが面白かったらしく、メアリーはくすくす笑い始める。

 それを見てアラクネは「大丈夫そうだね」と、メアリーの肩から手を離した。


「アラクネさん、わざわざ私の着替えを手伝ってくれてありがとうございます」

「どうってことないさ。……そろそろ下の階に向かうといい、彼が待っているようだ」

「どうしてわかるんですか?」

「城中にいる蜘蛛は遠くにいても私と伝達することができる。今下の階にいる子から情報が入ってきた」


 そう説明するとアラクネは「ほらお行き」と催促する。メアリーも催促されるがまま、ベッドにあったふたつのコートを持って部屋を後にした。

 襟元は首を締め付け、すでに肌がかゆい。やはりこの服は好きになれないな、と思いながらメアリーはコートを羽織った。


「どこにいたんだ。もう行くぞ」

「あ、ごめんなさい。アラクネさんに着替えを手伝ってもらっていたんです」


 階段を駆け下りると同時に機嫌の悪そうな声が聞こえる。下の階にある大広間には、アラクネが言っていた通りリュウがいた。

 最初は不機嫌そうだったが、メアリーの説明を聞いて「そうだったのか」と納得する。

 そしてリュウは侍従が両手に掲げているコートを選んでいるようだ。どちらも落ち着いた色で、落ち着いた雰囲気のリュウにあっている。

 メアリーは今日を彩るコートが決まる前にリュウの元へ急いだ。


「リュウさん! あ、あのこれ」

「なんだ?」

「大変お待たせしました、完成しましたよ! きっとリュウさんに似合いますから」


 そう言ってメアリーが差し出したものは、リュウが元々気に入っていたあのコートだった。

 コートは随分前に穴だらけになったが、今では綺麗に塞がれている。それも色とりどりの布によって。

 穴を塞ぐ布ひとつひとつに目を向けていくと、どれも違った形をしている。動物の形をしていたりと、手の器用さにリュウは感心した。


「外は寒いですからね、特に森の中は。リュウさんはそれを着て行きましょう」

「……うーん、ハードルが高い」


 一応コートを受け取ってみたものの、いかんせんハードルが高い。羞恥心をかなぐり捨てれば問題ないのだろうが、リュウにはできそうになかった。

 しかしメアリーが真っ直ぐにリュウを見つめている。その目は心なしか輝いているように見えた。


「なにか言いました?」

「いや……」


 期待を寄せる視線がリュウに容赦なく突き刺さる。

 修繕されたコートを羽織るべきか、別のコートを羽織るべきか、心の中で葛藤していた。

 葛藤する以前に「着たくない」が正直のところだが、そういうわけにもいかない。


「着ないのですか?」

「あーもうわかったよ」


 着るのを渋っていたところ、メアリーが悲しそうな表情を見せた。それを見たリュウはやけくそ気味にコートに袖を通す。

 恥ずかしさで身が悶えそうな感覚になりながら、リュウはコートを羽織った。

 メアリーがにこにこ笑顔で「似合ってます」と両手の親指を立てる。とうのリュウは今すぐにでもコートを脱ぎたい気持ちに駆られた。


「はぁ……もう準備はいいな?」

「はい。私もリュウさんも準備万端ですね」

「……じゃあ会いに行くか」


 リュウがおもむろに玄関へ向けて歩き始める。同時に固く閉ざされていた扉が、不気味な音を立ててひとりでに開いた。

 置いて行かれないようにリュウの後を追いかける。開いた扉の間から日差しが差し込み、メアリーはたまらず目を閉じた。

 新鮮な空気が肌に触れ、自然が放つ独特の香りが鼻腔をくすぐる。目を開けた先の光景にメアリーは思わず息を呑んだ。


「凄いよな。この城の出入り口前が崖って」


 リュウがぶっきらぼうにつぶやく。ふたりが城を出た数十メートル先は崖になっていた。

 そこから反対側の崖まで渡れるようなものは何処にもない。ここからどうやって父親の元へ行くのか、メアリーの思考は停止した。


 以前一度だけ城を抜け出そうとしたことがある。しかしその時は外を見ることは叶わなかった。

 そのため扉が崖に面しているとは、一度も考えたことがない。同時にメアリーは崖に面している城が、未だに無事でいることを不思議に思った。


「わあ。なんだか怖いです」

「この城の下には巨大な竜が眠っているらしい。だからここは崩れずに済んでいるそうだ」

「竜が起きたらどうなるんですか?」

「その時はこの城もろとも崩れる。まあ竜が目覚めることはないだろうけどな」


 宙ぶらりんになったメアリーの手が不意に握られる。呆然としていたメアリーは驚き、すぐにリュウへ目線を移した。


「リュウさんって積極的な性格でしたっけ」

「どういう意味だそれ。危ないから手を繋いだんだよ、俺から離れるなよ」

「はーい。って、え? リュウさんは一体どこへ向かってるんですか?」


 メアリーの顔が次第に青ざめていく。なにしろ、リュウは一直線に崖へ向かって歩いていた。

 当の本人は顔色ひとつ変えていない。

 空いている手でリュウの腕を掴み、必死に訴えかけた。これから父親の元へ行く予定だが、まさかここで死ぬつもりなんじゃと最悪な考えがよぎる。


「痛い痛い痛い痛い」

「崖ですよ死ぬつもりですか!」

「いや大丈夫だって」


 軽い押し問答をしているうちに、ふたりは崖の前までやって来た。

 メアリーは今にも腰から力が抜けそうになる。リュウの腕にしがみつき、立っているのもやっとだった。


「パパに会いに行くんですよね? ですよね?」

「行くから落ち着け。ほら前を見てみろ」


 リュウに促されて、メアリーは恐る恐る前へ視線を戻す。そこである異変に気付いた。

 ふたりがいる崖の反対側は、もうひとつの崖がある。その間にはなにもないはずが、それは少しずつ姿を現していた。


「一応ここには橋がある。だが普段は見えないようにしてある、敵を簡単に渡らせないためにな」

「では、この橋はどういう条件で私たちの前に現れたんですか?」

「簡単さ、俺が魔の存在だからだよ。橋は魔の存在を前にしないと出てこないんだ」

「そう、そういえばそうでしたね……」


 会話はそこで途切れる。メアリーは日々の生活に溶け込み、すっかり忘れていた。

 決して、リュウは人なんかではない。

 考えれば簡単なことだが、人を思わせるような振る舞いや表情にメアリーは意識することもなかった。


「橋を渡って、少し歩けばすぐだ」

「はい」


 メアリーが橋を渡ってしまえば、もう後戻りすることはできない。期待と不安がない交ぜになって、心臓が五月蝿く脈打っていた。

 ──もうすぐで父に会える。会いたい、家族に会いたい……もう一度、あの人に会いたい。

 そこでふと、メアリーは我に返った。隣には手を繋いだリュウが歩いている。

 まっすぐ前を見つめていたが、メアリーの異変に気付き「どうした?」と声をかけた。


「いえ、大丈夫です。少し不安なだけで」

「心配するな、俺がついてる。アレクサンダーとなにかあったら俺に言え、殴り飛ばしてやるから」

「ふふふ、頼もしいですね」


 冗談か本気か、いやリュウの場合は本気だろう。

 そんな彼の言葉に顔がほころび、心なしか気分も軽くなった。リュウとなら大丈夫だと、そう信じて繋いでいる彼の手を強く握り返した。

これを書いててふと思ったけど、リュウくんって無意識に誰かをたらしこんでそう。もう六年は経つ付き合いなのに全然知らなかった…((


今作を気に入っていただけましたらブクマ・評価など何卒お願いします。感想を送っていただくと布団にくるまって震えながら頑張って返信します。

誤字・脱字・おかしな文章や矛盾などもありましたらご指南いただけると嬉しいです。

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