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私を抱きしめてくれたのは  作者: ぴのすげ
にかげつめ
15/24

015 準備をしよう

大変お待たせ致しました。最新話です。

 リュウに「父親に会いたい」と懇願した日から、数日が経とうとしている。


 父親が無事に辿り着くまでの間、メアリーは水晶から片時も離れることはなかった。

 肉親に会えるという喜びが不思議と心を満たしていく。そのおかげか、最近は頻繁に見ていた悪夢もなりを潜めつつあった。

 だが寝不足が解消されたわけではない。

 メアリーは四六時中水晶を眺め、父親の安否を確認していた。夜は命の危険が最も高まるため、夜明け前まで見ていることもざらにある。

 実際に毎日毎晩、少しずつ仲間が減っていっているのは確かだ。そのたびに父親も命を削っている。

 メアリーは「死なないで」と祈りながらその様子を見守っていた。しかし不思議と、父親が魔物に襲われたことは一度もない。

 きっとリュウがなにか術でもかけたのだ。確証はないが、メアリーはそう信じている。


「今日も一日、パパが無事でありますように」


 机に置かれた水晶を前に、日課となりつつある祈りをこの日も捧げた。

 水晶に映る父親は険しい顔ばかりしている。しかしそれはいつものことだ。

 記憶の中にある父親の顔はいつだって険しい。綻んだ表情をしている場面はあまり見たことがなかった。


 父親と再会したらなにを話そう。ひとまずリュウは約束を守っていると説明するのが先だ。

 だけどきっと、メアリーは父親にたくさん怒られるだろう。なんせ今まで多くの心配をかけてきた。

 きついげんこつを食らっても文句は言えない。

 だが今のメアリーにとって、それすらとても喜ばしいことに変わりなかった。


「リュウさん、おはようございます。いい朝ですね」

「んーあぁ。おはよう」


 日課と化した挨拶を交わす。

 リュウは相変わらずぶっきらぼうなままだ。何事もないように、普段と変わらない様子で過ごしている。

 メアリーも普段通りに振る舞い席へついた。ただ変わった点と言えば、常に水晶を持ち歩いていること。

 だがリュウがそのことに触れる事はなかった。メアリーの情事を知ってか、単純に興味がないだけか。


「メアリー、今日は一緒に外へ出てみないか?」

「外ですか? でも危険なのでは」

「俺がそばにいるから大丈夫だよ」


 普通なら有り得ない誘いに、メアリーは好奇の眼差しをリュウに向けた。その視線に気づいたリュウが「なんだよ」と問いかける。


「いえ。珍しいなと思いまして」

「まあそうだよな。メアリーの父親がそろそろ近くに来る頃だし、行ってみるのもいいと思ってな」

「え、そうなんですか!? じゃあこうしてはいられません! 今から支度をして」


 椅子に座ったばかりだが、父親に会えると知った瞬間にメアリーは席を立った。そして食堂を出ようとした途端、リュウに「だめだ」と引き止められる。


「朝飯はちゃんと食べていけ」

「で、でも!」

「今日の予定はなしにするぞ」

「うっ……うぅ、はい」


 まるで親みたいな脅しを受け、メアリーは渋々席に戻った。目の前にいるのは魔王ではない、きっと己の立場を悪用する保護者かなにかだろう。

 当初抱いていた魔王としての恐怖よりも、今では別の恐怖がメアリーに根づきつつあった。


 リュウはメアリーにだけは甘くて、たまに過保護気味になる。

 勿論メアリーが連れ去られるまで、ふたりは赤の他人のままだ。しかし、いささかではあるがリュウの距離感覚が近いように思える。

 まるで長い時間を共にしてきたような、そんな気さえする接し方だった。


「……思ったんですけど、リュウさんにはご家族の方はいるんですか?」

「いない。両親は同じ時期に死んだし、ふたつ歳の離れた妹がいたんだが……」

「あのっなんかその……ごめんなさい。それ以上は話さなくても大丈夫ですよ」


 何気なしにした質問のはずが、途端に居心地が悪く感じる。リュウは至って平然としているが、メアリーは軽率な質問をしたことに心の底から後悔した。

 メアリーはひとりっ子で育てられたため、兄弟間のことには疎い。小さい頃は弟か妹がいれば──と妄想したことも何度かあった。

 しかし両親は健在のため、肉親を失った悲しみはまだ知らない。それが余計にメアリーへ居心地の悪さを感じさせた。


 朝食後、一目散に自室へ引き返す。

 この時、メアリーは連れ去られた当時の服に着替えたいと考えていた。が。お茶会用に着ていた服なだけあって、メアリー自身はあの服が好きじゃない。

 襟の部分は首を締め付け、腰の部分はきつく紐を結ばないといけなかった。おまけにその服を着ていると肌が痒くなる。

 そのため着の身着のまま連れ去られ、ここで生活をしていくうちにあの服は着なくなった。今では自室のクローゼットに眠っている。

 それでもあの服を選ぶのは、父の母親──メアリーの亡き祖母から譲り受けたお下がりだからだ。

 あの服はこれっぽっちも好きではない。が、粗末に扱える物でもなかった。


 クローゼットを開けると、服は端っこに収納されている。連れ去られた日に着て以来、ずっとここに眠ったままだった。

 お下がりの服を取り出し、着替えようと思い侍従がいないか探し始める。祖母からのお下がりなだけあって、ひとりで着替えるのは難しかった。

 ゆえに着替えを手伝ってくれる人が必要になる。


「あ! アラクネさん、ちょっといいですか?」

「こんにちは。そこでいったいなにをしているのかな、お嬢さん」


 メアリーが部屋の前でうろうろしていると、その近くをアラクネが通りかかった。彼女に呼び止められたアラクネは、機嫌良さそうに受け答える。


「あのー、侍従さんを見かけませんでしたか?」

「いつもは必ず見かけるはずなのに、今日は不思議と見かけないね。なにかあるのかな?」

「そうでしたか……。ありがとうございます、呼び止めてしまいすみません」

「おやまあ、なにか困ったことでもあるのかな?」


 落胆して引き返そうとするメアリーを見かねて、アラクネが咄嗟に呼び止めた。アラクネの呼び止めに対し、メアリーは「実は……」と話し始める。

 あらかたの経緯を聞いたアラクネは納得し、指をパチンと慣らした。そして自慢げに口を開く。


「それなら私に任せるといい」

「え。お任せしていいんですか?」

「もちろん、君は私に任せなさい。なんせ私は仕立て屋を昔やっていたからね、服には悔しいんだ」

「へえ、そうなんですね! ではお願いします」


 大きな腕がメアリーの小さな手をつかみ取った。メアリーも怖気づくことなく握り返す。

 このとき、メアリーは初めて自分の部屋に客人を招き入れた。緊張よりも、同じ女の子という点から嬉しさのほうが高まっている。

 そうしてふたりは部屋の中へと消えていった。

更新が遅れてしまい申し訳ありません。

フレンドと仲良くフックに吊るされまくってはぼこぼこにされていたり、あとは去年成しえなかった絵の方面で追い詰められていました。今後も本作をよろしくお願いいたします、フックに吊るされるのはまだやめられないです

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