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私を抱きしめてくれたのは  作者: ぴのすげ
にかげつめ
13/24

013 写真にうつるは

 心地よい質感の生地に鋏を通す。そして扱いやすい大きさに切り分けていった。

 コートに空いた穴の数を数える。修復出来そうな穴には待ち針を差し込んでおいた。

 穴の数はそれほど多くはない。が、骨の折れる作業になりそうだ。


 スケッチブックを取り出しぱらぱらとめくる。開かれたページには可愛らしい落書きがいくつもあった。

 その落書きを参考にして生地に鉛筆を走らせる。描き終えると、線に沿って切り始めた。


 メアリーが魔王と名乗る男・リュウに連れ去られて、二ヶ月以上が経過している。

 一度は想像した陵辱や拷問もなく、平穏な日々を送っていた。加えてリュウはメアリーに対し、過保護気味でどこか甘いようにも思える。

 ゆえにメアリーも少しずつ心を開き、今でははっきりと主張ができるほどだ。

 そんなふたりはまさに兄妹のよう。


 穴を塞ぐ予定の生地はどれも色鮮やかだ。コートと色が同じものはひとつもない。

 型を取った生地にふたつのビーズを転がし、縫い付け始めた。

 それから黙々と縫うだけの作業に入る。


「んー、疲れたぁー!」


 縫い付け始め、しばらく経つと針と生地を無造作に机へほっぽった。穴に縫い付けるための生地は、半分以上が仕上がっている。

 しかし集中力が切れたため、これ以上は続けられそうになかった。

 気分転換がてら、メアリーは廊下を歩き始める。本当は外を散歩したいところだが、それは自殺行為といえた。


 今日もリュウは留守にしている。アラクネも昨晩から出払っていなかった。

 そのため話し相手がいない。侍従も言葉が通じず、ましてやトラウマがあるため近寄りがたかった。


 ある部屋の前を通った瞬間、一瞬だけ中が見える。

 よしておけばいいものを、メアリーは好奇心に誘われるまま半開きの扉を開けた。

 部屋のなかは殺風景で、興味が惹かれるものは特にない。だがほかの部屋と違い、この部屋には生活感があった。


(誰かの部屋かしら?)


 気の赴くままに部屋の中へ足を踏み入れる。

 中はきちんと整理され、部屋の主は几帳面だということがわかった。物を乱雑に扱ってしまうメアリーとは正反対だ。

 何気なしに机の上に目を向ける。いくつかの本が綺麗に収納され、埃ひとつないように見えた。

 そこでメアリーは興味を惹かれるものを見つける。


「これは……写真?」


 不意に気になって写真立てを手に取った。

 このご時世、写真はあまり珍しくない。近頃は主に写真が流通しているくらいだ。

 しかし、それも貴族の間だけになる。

 ひと昔前は油絵で描かれた似顔絵が、写真の代わりになっていた。


「わあ、なにこれ。凄く鮮やか」


 写真には色が付いている。色のついた綺麗な写真をメアリーはこの時に初めて見た。

 少し色褪せているが、鮮明に写し出された写真に見入ってしまう。

 よく似た顔の年頃の男女が写真に写っていた。

 変わった服を着て、カメラ目線で撮ったのか目がこちらを向いている。


 どこか懐かしさを覚えるような、不思議な感覚がした。おまけに男のほうには見覚えすらある。

 見覚えのある男が誰なのか、思い出そうと写真に顔を近づけた。その瞬間──、


「そこでなにしてる」

「はひっ!?」


 突然背後から声が聞こえる。危うくメアリーの心臓は止まりかけた。

 恐る恐る後ろを振り返ると、リュウが扉の背面に寄りかかっている。眉間に皺を寄せ、メアリーをじっと見つめていた。


「あ、あー。あの、ここ……もしかして、リュウさんのお部屋でしたか……?」

「言わずもがな。ここは俺の部屋だよ」


 リュウがやけに声を低くして答える。この時にようやく、やってはいけない事をやったと悟った。

 写真立てを急いで元の位置に戻し、咄嗟に笑顔を取り繕う。が、依然としてリュウの表情が変わることはなかった。


「なにか言うことはないのか?」

「ご、ごめんなさい」


 リュウが言った台詞の意味をすぐに察する。事態を悪化させる前に、メアリーは観念して謝った。


「はあ。なんだって俺の部屋に入った?」

「えと……少しだけ扉が開いてたもので、つい気になって。リュウさんの部屋だとは思わなかったんです」


 弁明に似た言い訳をする。案の定、リュウはさらに深い溜め息を吐き出した。


「この部屋の扉は元々建て付けが悪かった。部屋の中が見えるのは仕方ない」

「はい」

「かといって、部屋の中に無断で入るのは考えようものだな」

「すみません」


 言葉の裏に潜む圧をひしひしと感じる。メアリーは圧に押し潰されそうな感覚を覚えた。

 その圧に耐えながら、メアリーはただただ謝り続ける。


「それはさておき、どこか妙なところを触ってないだろうな? メアリー」


 一寸の嘘も見逃さない、と言わんばかりの眼差しが少女の姿を捉えた。

 途端にメアリーの胸は締め付けられる。


「写真立てを触りました。本当に触っただけです」


 嘘を積み重ねて怒られる前に正直に白状した。

 メアリーは写真立て以外には触れていない。それは神に誓って言えた。


「そうか。……メアリーはその写真を見て、なにか

感じたか?」

「……? いいえ」


 質問の意味がわからず、首を傾げる。とりあえずリュウの質問には首を横にふっておいた。

 メアリーの返答に「そうか」と答えたまま、リュウは押し黙ってしまう。

 どこか考え込んでるようにも見えた。


「あ。その写真に写ってる男の子って、もしかしてリュウさんですか?」

「そうだよ。よくわかったな」


 リュウの横顔を眺めていると、不意に合点がいく。

 写真に写った男の子とリュウが酷似していることに気づいた。


「どおりで見覚えがあると思いました!」


 胸を張って、声高らかに答える。

 写真に写っている人物をひとり当てたことで、メアリーはご満悦の様子だった。


「リュウさんの隣にいる女の子は誰ですか?」


 写真に写っているもうひとりが誰か訊ねる。

 メアリーと歳が近いように見えるが、リュウとはどういった関係なのか気になった。


「俺の妹だ」


 メアリーの質問にリュウは手短に答える。

 たった一言だけだったが、声に憂いさがはらんでいたのをメアリーは確かに感じ取った。

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