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奴隷船の女船長だけど積荷のオークが全然犯してくれない

「面舵いっぱあああああい!」


 彼女の威勢の良い掛け声と共に、水夫達は各々の努めを果たす。ちなみに面舵いっぱいは船を向かって右に傾ける動作なのだが、晴天で岩礁もないこんな大海原の真っ只中にその必要は全く無い。


 もし万が一どこかにあるとすれば、それは船長たる彼女の趣味だ。積荷に対する嫌がらせこそ、この長い航海での唯一のモチベーションと言っても良い。全ては一つの目的のため。


「お、お頭ぁっ! 積荷のオーク共が這い上がってきましたぜえっ!」


 水夫の一人が大声を張り上げる。来た、と船長である彼女は内心大喜びをするが、顔は当然怒りを顕にしたものだ。


 ――積荷のオーク。残酷な話ではあるが、彼らは皆奴隷であった。戦争で負けてしまったオークの王国は、海を超えた人の帝国に最安の労働力として提供されている。国力の差では劣るものの、オークの体躯は労働力として人にとってあまりに魅力的であった。


「チッ……なんだいなんだい、あれしきのことで!」


 船長は帽子を深々とかぶり直し、操舵輪を後にする。水夫に止められる奴隷オークの代表は、両手両足を鎖い縛られたままじっとしている。それに負けじと彼女は両腕を組み対峙する。身長差は大人と子供そのものだったが、それでも彼女は顔をそむけない。


「またアンタかい!? 全く奴隷の分際で文句なんて……とんだ豚骨野郎だよ!」


 大人しい奴隷に向かって、彼女は焚きつけるような台詞を吐く。だがこれは、力の差を誇示するためじゃない。そう、彼女は。


「全くそうやってアタシの事をジロジロ見て……夜のオカズにしようっていうんだろう! ええ!?」


 エッチなことが、されたかった。


 なんというかこう人間にはない重量感に思い切りメチャクチャにされてみたかった。男性と一夜を共にするどころか手をつないだこともない彼女だったが、とにかく兄が持っていた薄い本に書いてあるような事がされたかった。


「いえ、それよりビスケット増やしてくれたほうが良いです……じゃなくて、そのできれば揺れないようお願いします」


 対するオークは冷静だった。オーク基準で言えば引っ込み思案の部類だ。奴隷になるオークは、得てしてそういうものであった。


 体躯に優るオークが負けた原因は、ひとえにその爆発的な人口の増加だ。普通戦争においてメリットになり得るそれは、貿易を断たれたことによる食糧難の前にあっさりとデメリットに変わっていた。だから奴隷になるオークは、家業すら継げない五男、六男以降が殆どである。


「えぇ!? 私のおっぱいが……揺れてセクシーすぎるって?」

「船長より僕らのおっぱいのほうが揺れるんですから勘弁してください……」

「ふ、ふん! そんなこと言ってアンタらはいつだってこの船を奪ってついでにアタシの貞操も狙ってるんだろ!」

「いえ狙ってないです……むしろ僕らは皆さんに感謝しているぐらいですから」

「感謝って……」

「戦う事しか出来なかった僕らの種族が、人間から農耕を学べるんです。十年もすれば向こうに帰れますから、ようやくオークが農業を始められる。こんなにありがたいこと、無いです」


 出稼ぎ、という方がオークの感覚に近かった。確かに労働環境や給金は良いものとは言えなかったが、知識はそれ以上の価値があった。何より飢えることがない。戦争のために食料を奪われ、多くの弟を見送った彼らにとってそれ以上に大事なことはなかった。


「何が農業だ! アンタらなんて畑じゃなくて……アタシを実らせる事しか考えてないくせに! 孕ませようとしてるくせに!」

「いや、船長子供だから無理ですよ」

「あ」


 一人の水夫が、思わず言葉を漏らす。遅かった。オークの代表もその顔をみて、ああ禁句だったのだと察する。この船でチビと子供とお嬢さんは言ってはいけない。それは全て、船長に書き換えなければならない。


「ーーーーっ!」


 顔と耳を真っ赤にしながら、無言で袖を握りしめる船長。それをみて水夫達はポケットからこういうときのために用意してある飴とか玩具を取り出す。


「ほ、ほら船長ペロペロキャンディですぜ……ヘヘッ」

「こ、こっちは音の出る玩具ですぜクヒヒッ」


 真剣そのものである。何せ彼女はこの船のオーナーである貴族の娘で、伊達と酔狂で船長をやってるわがまま娘でご機嫌を損ねるわけにはいかない。もちろん手を出そうものなら、そのままサメのエサになったほうがマシな結末が待っている。


 船長のご機嫌が斜めになってしまった事を攻める水夫達の目が、一斉にオークに向く。お前のせいだお前がやれ。気の利いたことを言える彼ではなかったが、何とか彼の知識を総動員してようやく重い口を開いた。


「いや、でも船長はきっと十年もすればとても魅力的な女性になると思います」

「本当!?」


 一瞬年相応の笑顔を見せる彼女だったが、直ぐに咳払いをして腕を組む。えっへんという擬音付きで。


「ふ、フン! そんな事言われなくたってアタシにはまるわかりよ! ま、まぁでも十年って言ったらちょうどアンタが戻る頃ね」

「そういえばそうですね」

「よ、ようし……なら、決めたよアタシはアンタが戻る時、またこの海を渡ってやるよ」

「ええ、ぜひその時は」


 オークは笑う。十年後、故郷に凱旋する日を夢見て深々と頭を下げる。


「揺れないようにお願いします……!」

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