終章 銀色の船に乗って
『……私は霧の道を歩いて、ここまで戻ってきた。そして私は、ここで今までの7日間の記録をつけている。だけど それももうすぐ書き終わる……
そう。私の旅は、これで終わり。だけど、これは始まりでもあると思う。今から再び生まれ変わる日までの、新しい旅の始まりなのだと。
……そろそろ船が出る。
この辺りでこれを書くのもおしまいにしよう。
思い出は宝物。だから、たまにこの紙を取り出して、幸せに浸ることにしよう。
さようなら、皆さん。
さようなら、内川咲希。
内川咲希』
私はペンを置いた。そして、今書き終えたばかりの紙の束を持つ。
「書き終わりましたか?」
「はい」
そこにいるのは、あっこ先輩の双子のお姉さんだった。名前は、聡美だったはずだ。
あっこ先輩に言われた通りに左手に息を吹きかけると、手紙が現れた。
私は内容がどうしても気になって仕方がなく、こっそりとそれを読んでしまった。
『さっちゃんへ
今までさっちゃんのことを忘れたことはなかったの。うちは、さっちゃんのこと、忘れないよ。だから、さっちゃんもうちのこと、あっこのことを覚えていて。うちは現世で頑張ってるよ。だからさっちゃんも頑張って。遠いところからだけど、さっちゃんのこと、想ってるからね
あっこより』
「……聡美さん」
私はあっこ先輩の双子のお姉さんの名を呼んだ。
「……何でしょう?」
「あっこ先輩から、手紙を預かっています」
聡美さんは驚きの表情を見せた。
私はその手紙を手渡した。
その手紙を受け取り、すぐに読んだ聡美さんは、ひとしずくの涙をこぼした。
「……久し振りだわ、涙を流すなんて……あっこ、ありがとう……」
聡美さんはしばらくうつむいていたが、顔を上げると、私に言った。
「さあ、船に乗って!乗り遅れると、二度と乗れなくなるわよ!」
私は慌てて銀色の船に乗り込んだ。
「……出発致します……」
どこからか、そんな声がした。低くて小さく、細い声だった。そんな声なのによく通るのは、ここがしんとした場所だからだろうか?
聡美さんが花畑の川岸で手を振っていた。
花畑の方から春風のように暖かい風が吹いたように感じた。だからだろうか、聡美さんが私達のことを、暖かく送り出してくださっているかのように見えた。
私は、実感した。
いよいよ、第2の旅が始まるのだ。
このお話はこれで完結となります。
今まで読んでくださった皆さん、ありがとうございました。
明日からはこの物語の番外編の投稿が始まりますので、そちらも読んでいただけますと幸いです。




