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28章 6日目〜曇り空

ここに来て初めて曇りになった。

昨日もいつもよりかは雲が多かったが、曇りとまではいかなかった。

「今日はなんだか涼しいね」

目が見えない中村さんも、気温でその天気の違いを感じているようだった。

私たちは家を出た。

中村さんは何か考え事をしているようだった。そのせいか、いつもよりも注意力が散漫になっていて、ものにぶつかりやすくなっていた。なので私は言った。

「中村さん、何か考え事をしているんですか?いつもよりも物にぶつかりやすくなってますから、少し気をつけたほうがいいと思いますよ」

「……そうだね、わかった。ありがとう」

中村さんはそう言ったけれど、あまり変わらなかった。そうこうしているうちに、学校に着いた。

「じゃあまた部活の時に会おうね。そういえば今日も音楽の授業があるみたいだよ」

「わかりました。ありがとうございます」

私は中村さんと別れた。そして音楽室に向かい、音楽の先生に会った。

「こんにちは。またお会いしましたね。今日もあの小部屋を使わせていただけませんか?」

「もちろん構いませんよ」

「ありがとうございます」

私はその小部屋でピアノを弾き始めた。その歌は、命について歌っている歌だった。

私は、数日前のことを思い出した。

あれはここに来て3日目の事だっただろうか。

「私には、未来がない」と気づいたのは。

私は今後どうしていくべきなのだろうか。

行くべき場所はある。私はいつの日か死の国に旅立たなければならないということはわかっていた。

だけど私はもう少しここにいたかった。たくさんの優しい人たちと一緒に過ごしていたかった。何も覚えていなくとも、いつか思い出せそうな気さえしていた。

でも、不安でもあった。

私は、いつになったら死の国へ帰れるのだろうか。いつになったら自分の記憶を取り戻せるんだろうか。

もし、死の国へと帰ることができなかったら?

もし、このままずっと記憶が戻らなかったら?

そうしたら私は一体どうなってしまうんだろう?

疑問は尽きなかった。

何とかしてその疑問たちを頭の中から追い払いたかった。私はそれらを忘れたくて、ピアノを弾き続けた。

でも、そういう事は頭から離れないのだろうと思った。そう。3日前に、私には未来がないことに気づいてしまった時のように。

きっと大切なことは頭から離れないのだと思った。

その後もピアノを弾き続けた。曲を変えてみたりもした。でも予想通り、その考えたちは頭から離れてはくれなかった。

今日は午前中しか授業がなかったらしく、音楽の先生が「午後は自由に音楽室を使っていいわよ」と言ってくださった。私はお礼を言い、音楽室へと移った。そしてピアノを弾き続けた。

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