19章 3日目〜大切な人
昨日と同じアラームがなって、私が目が覚めた。
「おはよう!よく眠れた?」
昨日と同じように、中村さんが聞いた。
見た夢があまりにも不思議な夢だったからだろうか、私は思わず言っていた。
「……夢を、見ました」
「夢?どんな夢を見たの?」
「……中村さんにそっくりな人が、花畑の川岸で、死の国に行く人たちの案内と見送りをする仕事をしている夢でした……」
「……えっ⁉︎……もっと詳しく、聞かせて!」
中村さんの声は、驚きと焦りが混ざったような声だった。その中村さんの反応に驚きながらも私は話した。
私は花畑にいました。そこに、中村さんにそっくりな人がいたので、名前を聞いてみたんです。すると、その人は言いました。
『私の名は……聡美。そう、私は聡美という名前だった』と。
『あなたは誰なの?どうして私に声をかけてきたの?』
『私の名は内川咲希です。あなたが私の知っている人に似ていると思って、思わず声をかけてしまいました』
そう答えると、聡美さんは少し速い口調で尋ねてきました。
『その人の名は、なんというの?』
『中村顕子……です』
私がそう答えると、なんだか、少し呆然としたような顔をして、聡美さんは言いました。
『そう。彼女は元気なの?』
『はい、元気ですよ』
『なら良かった。……ところで内川さんといったかしら。せっかく霧の道を渡ったのにいいの?もうすぐ船が来るわよ?』
『ここは、私の夢の中ですから』
『もし、正夢だったらどうする?こういう夢って正夢であることの方が多いのよ?』
『えっ⁉︎』
『大丈夫。戻り方を教えて差し上げましょう。あそこに青い花があるでしょう?あの花の香りをかいでごらんなさい。きっと戻れるわ』
『ありがとうございます』
『……内川さん』
『はい』
『約束を忘れないで、ちゃんと守ってねと、中村さんに伝えてほしいの』
『……分かりました』
私はその花の香りをかぎました。すると、目の前に真っ白い霧が立ち込めてきました……
「……そんな、夢でした」
「……」
「あの人を、ご存知なんですか?」
「……さっちゃんは……聡美は、私の双子のお姉ちゃんなの。一昨年亡くなった、私の大切な人なの」
「……えっ」
「あの子は……さっちゃんは、死ぬ直前、ずっと昏睡状態だった。でも、最期に5分だけ、意識が戻ったの。その時、あの子は……あの子はうなされながらもこう言った。『早くあそこに戻らなきゃ。そのための、5分だけのお許しを得て来たんだから……』って。私があの子のことを呼んで叫ぶと、あの子は言ったの。『あっこ、ごめんね。私、あっちに行かなきゃいけないの。花畑の川岸で、働くことになったんだ。だからね、私はもうここから旅立たなくちゃいけない。5分だけ、もう一回あっこに会いに、お別れを言いに来たの。私は本当に幸せだった。今まで、ありがとう』って。そして、その時に約束したの。私はあの子の分まで幸せに楽しく生きることをね。そのあとあの子は、そのまま意識を失って……亡くなったの。安らかな、笑顔だった……。その時、病室には私しかいなかった。あの子の最期を看取ったのは、私1人だった……」
静かなすすり泣きが、部屋の中を満たした。
「……ごめんね、こんな姿見せて。さ!学校に行こう!」
「はい!」
私達は朝食を食べ、家を出た。




