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15章 私とクラスと小林くん

少し長めかもしれません……

昨日通ったルートを逆に辿って行き、学校に着いた。中村さんはクラスで1番に教室に着いて、みんなの声を聞いたり教室に異変がないかを確認することが日課だと登校中に話してくださった。その言葉は本当らしく、1・2年生の教室のあるB棟には、人のいる気配がない。

「さて、どうする?ちょっと教室に寄ってみる?」

「……まだ、考え中です」

「行ってから決めてもいいよ。授業に出るか、音楽室にこもるか」

音楽室……ああ、昨日合奏をした部屋だ。あの大きくて黒いものは、ピアノという楽器だと中村さんが教えてくださったっけ。でも、それが弾ける自信はない。でも、あそこならほぼほぼ人に会わないだろう、ということだった。

うーん……どうしよう。

「……まずは教室に行ってみます」

「そっか、分かった。咲希の教室はすぐそこ、1年1組だよ」

「ありがとうございます」

昇降口、という場所で中村さんと別れた。次に会うのは、部活の時だ。

私が通っていたらしい教室に、入ってみた。

無人の教室はがらんとしていて、なんだか寂しかった。

窓からは植え込みや空が見えた。植え込みはちゃんと整備されていて、整っていて、美しかった。それがまた、空と相性がいい。緑や黄緑が、水色とあっているのかも、なんて考えていると、ふいに、声をかけられた。

「……そこにいるのは、だれ?」

振り返ると、男の子がいた。

「……僕の、知っている人かな?……きっと、そうだよね?……だって、いつもより……なんか、強く霊感が働いてるからさ、多分……そうだよね?」

口下手な、男の子だ。

いや、そんなことより……この子、ほんの少しだけど、霊感がある!

だって、姿は見えなくても、私の存在に気付くんだもの。きっとそうなんだろう。

答えたい。彼の声に。

でも、きっと彼の耳では私の声は聞こえない。姿が見えないなら、きっと声も……。

でも、ここでお守りを持って戸惑わせたくもなかった。昨日の春花さんみたいに驚かせたくなかったのだ。

……ああ、何か筆記用具があれば。

そうすれば、多分相手も驚かずに会話を続けてくれる気がするのに……

と、その時。私の目は黒板を見た。

……これだ!黒板とチョークを使えば……

『私は 内川咲希』

試しに、そう書いてみた。

「……やっぱり、僕の知っている人だった。咲希は……ここにいるんだよね?人身事故に遭ってしまったけど……魂は、ここにいるんだね?」

よかった、会話が続いた。

でも、私はこの言葉にどう対応していいか分からなくなった。

『分からない』

「えっ?」

『私は本当に 内川咲希なのか』

「……まさか」

『私には生前の記憶がない

あなたのことも分からない

私は人身事故で死んでしまった内川咲希

らしいけど、混乱してるの

何も覚えてないから

何も思い出せないから』

男の子は、しばらく私の書いた字をじっと見ていた。そして、私に言った。

「僕は、小林優太。このクラスに所属してる。吹奏楽部員でもあるんだ。だから、咲希とはクラスでも部活でも一緒なんだ」

『そうだったんだね』

少し間が空いた。

私は決めた。

『……今から小林くんに私の姿を見せるね』

「……えっ?」

小林くんは拍子抜けした声を出した。

『これは、お守りの魔法なの

私の持つお守りの魔法

それだけは覚えていて』

この子 — 小林くんに、私の姿を見せよう。

深く息を吸って、吐いた。

そして、お守りを、持った。

「……私が、誰に見える?」

少しの間。

震える声で、小林くんは言った。

「……咲希だ。間違いなく、咲希だ……!」

小林くんは、目をこすってぱちくりさせた。

「本当に、咲希だ。……ここにいるんだね。このクラスの人は霊感がある人が多いから、それに、何人か僕よりも霊感が強い人がいるから、きっと咲希がいることに気づいてくれるね。きっと、みんな」

「……」

その言葉を聞いた時、ふと、昨日のミーティングの時のことを思い出した。

「……私、やっぱりここにはいないことにする」

「えっ?どうして?」

「……昨日の朝のミーティングのこと、覚えてる?」

「えっ?……ああ、そういうことか」

私はうなづいた。

昨日の朝のミーティングの時の、とある会話を思い出したのだ。

『……嘘、嘘でしょ⁉︎絶対嘘!だって』

『千尋、落ち着いてよ……。僕は、彼女が亡くなった時、その場にいたんだ。間違い、ないんだ。みんな、信じたくないよ、そんなこと……』

中野さんにも、霊感がある。

そして、中野さんはそのミーティングの時、初めて私が死んだことを知った人だった。

何も聞いていない状態で私が死んだと聞く。でも、私の姿は見える。ならば、霊感を持つことなんか忘れて、目の前に私がいるという事実を信じたくなる。頭のどこかでは私が死んだこと、目の前にいる私は魂であることを理解していても、目の前にいるのは魂じゃない、生きている私だと心はそう思いたがるのだ。きっと、同じ部活の仲間を失いたくないが故に……。

もし、それが教室で起こったら?

霊感を持つ子が多くて、私の姿が見える子もいる、この教室で起こったら?

……大混乱を招くに違いない。

「私ね、他のところに行くことにしたの。私は誰のことも覚えてないんだから、ここからいなくなっても寂しいことはないの。行く場所も決めているし」

小林くんは、ちょっぴりがっかりしたような顔になって、でもその後笑って言った。

「そっか。分かった。じゃあ、部活の時に、僕が気付いたらまた話そうよ」

「うん。またね」

私は小林くんと手を振り合い、教室を後にした。

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