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第11章 霧が浜駅

私は中村さんと霧が浜駅へと向かった。中村さんは白杖をついている。

「たしかね……霧が浜駅は、咲希が人身事故に遭った駅だよ。もしかしたら、何か思い出せるかもしれないよ」

すいすいと人の波を避けながら中村さんは言った。一方、私は人を避けきれないことが多く、そんな時は決まってぞわっと鳥肌が立った。

「少しでも、何か思い出せたらいいんですけど……それにしても中村さん、人を避けるのが上手いですね……」

「まあ、咲希の場合は他の人には姿が見えてないからね。向こうからぶつかって来るようなものだよ。うちは気配は読めるけど、避けるのがそこまでうまいわけじゃないよ。目が見えない人が目の前にいるとなると自然と避けちゃう人もいるだろうしね」

たしかにその通りである。

駅には10分くらいで着いた。

「……着いたよ!ここから一駅分だけ電車に乗るんだ。さ、電車に乗ろう!さすがに咲希は料金を取られないと思うけどね」

中村さんは定期券をタッチして改札を通った。ピッ、という音がする。私はそのまま改札をすり抜けた。お金を払わずに電車に乗るのは初めて……のはずだ。

「さて、今の時間は……5時ちょい前かぁ。咲希、次の電車は何分?」

「えーっと……あ、15分後です」

「ありがとう!じゃああっちで待ってようか」

中村さんは慣れたように白杖をついてホームの1番端っこに行った。

「ここが1番、次の駅の改札に近いから」

そう言って、電車を待つ中村さん。私はその隣に立ち、ぼんやりとしていた。


「……咲希?どこ行くの?」

中村さんの声を聞いて、はっとした。

いつのまにか、私はホームの反対側の端のほうに来ていた。しかも、下りの電車が来る場所に。

ここは7号車が止まるところらしい。足元にはそう書かれていた。

……ん?

7号車?

どこかで聞き覚えがある。

『……私達は7号車の真ん中のドアから乗っていたから……』

ああ、これは……春花さんの声だ。

『……咲希!』

不意に、昼間に聞いた声が耳に飛び込んできた。辺りを見回しても、その声の持ち主はいない。でも、思わずその名を呼んだ。

「……髙橋、さん?」

その数秒後には、また別の人の声が聞こえて来た。

『私ね……人身事故に、遭ったの。私はもう、ここにはいられない』

『……あのラインは、事実だったの?ねぇ……嘘だって、言ってよ……』

「……西野さんと……私?」

もちろん、私は喋ってない。西野さんもいない。このホームには、私と中村さんしかいないのだ。

『まもなく、二番線に、普通、津浜行きが、参ります。危ないですから……』

『まもなく、一番線に、普通、厚菜行きが、参ります……』

何だろう……目の前が暗くなってきて、足元が心許ない。全てが歪んでいるような感覚に陥り……


「……き……ねぇ、咲希!」

中村さんの声で、再び私ははっとした。

私は、中村さんの隣にいた。決して、7号車の停車位置なんかではなく。しかも、私は立ってすらいなかった — 中村さんの隣に倒れていたのだ。

「……夢?」

「もう、急に崩れ落ちたんだから、びっくりしたよ!さ、電車も来たし、乗ろう!」

中村さんは私に手を差し伸べて起き上がらせると、電車に乗り込んだ。私もその後を追いかける。

ガタンゴトン、と電車は揺れる。

全てのことが、夢みたいだった。でも、1つだけ確かなことがある。

私の中に、1つの疑問が残った。

……あれは一体、何だったんだろう?

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