春の兆し
解放とはどんなものだろうか?それは人によって違うだろう。
俺、鳴瀬裕人は今、とてつもない解放感に見舞われている。
だが、少し、いやかなり寝不足気味なのだ。
だって夜中の三時までネームだぜ?もう死ぬかと思ったね、割とガチで。
あ、あと俺は今解放感以外のものにも見舞われている。
それは、危険である。
「やばいやばいやばい」
マジでどうしよう、このままだと遅刻確定だ!!
夜中までネーム作業をしていたおかげか、朝は見事に起きられませんでした。だって夜中の三時だよ?そこから朝の七時に起きるとなるとかなりつらい。
でも、俺には頼りになる?奴がいたはずだ!
そう思い、ふと目線をソファにパジャマ姿で寝転がっている俺の妹へと向ける。
「美亜!お兄ちゃんのこと、起こしてくれてもよかったんだぞ!?」
俺の妹である鳴瀬美亜はグータラ姫でもあるが、愛おしい(はず)のお兄ちゃんを起こしてくれると思っていたのだが、そんな話はなかったみたいだ。お兄ちゃんちょっぴり悲しい。
「なんでわたしがそんな面倒なことをしなくちゃいけないのさ」
「ですよねー」
一瞬で真っ二つに切られたな。まぁ、そんなことだろうと思ってたけどさ。
べ、別に最初から期待なんかしてなかったんだからね!
まぁそんなことは置いといて。
「急がないと遅刻するぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
通常の三倍の速さで行動する。今の俺は多分赤いぞ、何せ三倍だからな。
よし、仕度完了。
「美亜ー、俺は行くけどお前はどうするんだー?」
そう美亜に尋ねてみるものの、返ってきたのはまぁ予想していた通りの答えだったわけで。「は?何言ってんのお兄ちゃんは。私がこの時間にいる時点で学校行くとか考えないでしょ、普通。」と言われてしまった。
「はいはい......てやばっ!じゃあ、行ってくる!」
とにかく学園に急がねば。HR開始が八時四十分だからあと十五分。ちなみに俺の家から学園まで走って十五分。これはもう遅刻必死である。
◆
走って走って走りまくって学園の近くまで来た。もしかすると俺足速くなった?ははは、これは体育祭でリレーの選手に選抜されてもおかしくはないかもな。
HR開始まで五分ある。五分もあれば十分だということで余裕をかましていたため、曲がり角から走って近づいてくる「彼女」に気づかなかった。
「え」
「えっ?」
——ドンッ
誰かとぶつかった。
「いててて......」
——誰だ?こんな時間にここ通るのは、朝ランニングするおじいさんくらいしか思い浮かばないんだが。
だが、ぶつかった相手は意外も意外。うちの学園の生徒で、しかも『学園三大美少女』のうちの一人である二年生の天ヶ瀬有希葉だった。
「あ、えと、大丈夫か?」
すぐに立ち上がり、まだ倒れたままの彼女に向かって手を差し伸べる。
「あ、ああうん、大丈夫だ」
俺が差し出した手を取り、立ち上がる。
——女の子の手って、柔らかいんだな......。
「手を貸してくれてありがとう、よければキミの名前を教えてくれないかな?ぶつかってしまったお礼をさせてほしんだ」
こ、これは......夢か?遅刻寸前で学校に急ぐ途中、曲がり角で女の子にぶつかり、そこから始まる二人の甘い甘いラブ的展開が......!!
「ってああぁ!?」
「ど、どうしたんだ?」
俺がいきなり上げた悲鳴のようなものに驚く天ヶ瀬だが、そこまで気にしている暇は多分ない。
「俺たち、このままじゃ遅刻するぞ?」
彼女も多分遅刻しそうだから走ってきていたのだろう。あれ?遅刻しそうだから走ってきていたんだとするとなんで俺とぶつかったんだ?学校はぶつかった曲がり角の先。彼女はここを通る必要はなさそうだが......もしかして?
「ああぁ!確かにそうだったな、急がないと!」
そう言って彼女は学園とは反対方向に向かって走り出そうとする——ところを俺が引き止める!
「な、何だ?どうかしたのか」
「いやいや、どうかしたのかじゃないだろ!?そっちは学園とは反対方向だぞ!」
彼女はそこでやっと気づいたのか、頬を赤らめて俺を睨む。
「べ、別にわかってはいたんだぞ?でも、何故かはわからないが私は、昔から道を間違えることが多いんだ......」
あ、方向音痴な感じか天ヶ瀬は。
「じゃあもういい!ついて来てくれ!」
そう言って俺は天ヶ瀬の手を取り、学園がある方向に走り出す。
「あっ......き、キミは強引なんだな」
「強引って言われても、意味がわからん!遅刻しそうだし、天ヶ瀬が方向音痴だからだろ!」
方向音痴と言われたからか、視界の端に見える天ケ瀬の顔が少し赤に染まる。
「そ、そうか......私は方向音痴なのか、薄々そんな気はしていたんだがまさかそうだったなんて......」
何故かしょぼーんとしている天ヶ瀬。そんなに方向音痴が嫌なのだろうか?
そんな風に考えているうちに学園に着く。滑り込みセーフ!といったところだろう。
「ふぅ......じゃあ、天ヶ瀬俺は教室こっちだから。そっちも急げよ」
「あ、うん、わかった」
「それじゃな!」
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「あっ、名前聞くの忘れた......なんで彼は私の名前を知っていたんだろう」
遅刻せずには済んだものの、何というか嵐のような時間だった。それに、
——初めて、お、男の子に手、手を握られてしまった......。
何だろうこの感じは。
私の手を取り、走る彼の横顔がなんだかか、かっこよくて。
せめて、彼の名前くらいは知りたい。ぶつかってしまったお礼も言いたいし、それに聞きたいことも出来たから。
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放課後。
今日は朝のこと以外特に何もなかったから他は割愛させてもらった。まぁそれだけ朝のインパクトが強かったってことで。
それに、今日は早く帰って次の物語の原案を考えなくてはいけない。
というわけでサイや雅也には悪いが、一足先に帰らせてもらうぜ。
そして下駄箱から靴を取り出そうと下駄箱を開けた時、何かがひらひらと落ちてきた。
——これは、手紙?
周りに誰もいないことを確認し、何だろうと思いつつ手紙をみる。
内容は、『キミに話したいことがあるんだ。放課後屋上で待っている。 天ヶ瀬有希葉』と書いてあった。
こ、これはもしや、こここっここ、告白!?
——まぁ、そんなことあるわけないよな。だとしたら何だろう?あ、なんか名前聞きたいって言ってたっけか。
まぁ、行ってみるか。
だが、行った先で思いもよらないハプニングが起きた。
「き、キミが......裕人が、す、好きかもしれないんだ!」
待っていたのは、告白。
——こ、これは急すぎるだろ!?
俺に告白をした彼女の目からは、本気だというのが伝わってきた。
更新がかなり遅れてしまい申し訳ありません。ただ、楽しんで読んで頂ければと思っています。
更新などの情報に関してはさらだいものTwitterで上げますので、そちらの方で確認をお願いします。