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クリスマスイヴ 特別外伝 「サンタとトナカイ」

外伝ですので時間軸などは全く関係ないので悪しからず。

毎年、この季節になると周囲が騒々しくなる。


学園に行けば浮ついた学生の姿が目立ち、街の方へ繰り出せば、眼を見張るようなド派手なイルミネーションが否応なしに視界に飛び込んでくる。


そんな『聖夜』に白銀の粉雪が降った日にはもう、世間は『ホワイトクリスマス』と騒ぎ、仲睦まじい恋人たちは愛を囁き合う。


年齢=彼女いない歴の俺からすれば、生きにくくて仕方がない。


かと言ってリア充爆発しろ、と言ったりもしない。ここでそのセリフを言うか言わないかで将来的に彼女ができるかできないかが決まるんだよ。分かったか恋愛初心者ども(綺麗なブーメラン)。


まあ、多少の生きにくさは感じるものの、そこまでクリスマスイヴ・クリスマスに対して不満を抱いているわけではない。


俺にはやらなければいけない仕事があるのだから。


十二月二十四日──クリスマスイヴ。俺は頭に二本の角を生やし、鼻に真っ赤なフェルト球を付け、キッチンに立っていた。


「この格好でやるのは意外と面倒だったけど、何とかなったな」


俺はテーブルに並べられた料理の数々を眺めながら息を吐く。


やれやれ。トナカイのコスプレをしながらイヴの夕食を用意するのも骨が折れるぜ。


「……そう、俺にはやるべきことがある! 恋人がいないからと言って、俺のイヴに予定がないということはこれまでも、そしてこれからも未来永劫ないだろう!」


「そりゃ、妹様の面倒を見なくちゃいけないんだからね、お兄ちゃんトナカイはさ」


キッチンで高笑いをしていた俺のもとに、そんな涼しげな声が届く。


今まで死ぬほど聞いてきた、妹の──美亜の声だ。


「そりゃ、兄貴として妹の面倒を見るのは当然だろ?」


まあ、トナカイのコスプレを強要されるとは思ってなかったけども。


そう心の中で呟きながら、俺は美亜の声が聞こえてきた方──リビングのドアの方へ振り返る。


しかしそこにいたのは、俺の妹ではなく──。


「何さ、こういう自分に都合のいい時だけ『妹第一』を掲げてさ。恋人ができない欲求不満をわたしで解消しないでよね」


「み、美亜……お前、その格好……」


美亜が毒を吐くのはいつものことだ。しかし、俺の視界に映る鳴瀬美亜は、いつもの彼女とは確実に違っていて……。


「……別に、何もおかしくないでしょ? トナカイがいるなら、そのトナカイを操るご主人様がいてもおかしくないじゃん」


わずかに頬を赤らめながら言う美亜の姿は赤と白に彩られた──ミニスカサンタだった。


こ、これは一体何のご褒美だ?


いきなりのことに頭がついていかない。美亜が何を考えているのか、お兄ちゃん分からないィ!


「……あー、もう。そんなに見ないでよ。目線がいやらしくて妊娠しちゃうそうだから」


「いやしないよ? 俺にそんな特殊能力はないからね?」


「どうだか。エッチな漫画の原作者の言うことは信頼性に欠けるよね」


ニヤリと笑う美亜。


「……そうか。だったらエッチな漫画の原作者が作ったトマト料理は食べられないな。食べたら妊娠するかもしれないし」


イタズラのつもりでそう言ってみる。


しかし返ってきた答えは、


「はあ? 何言ってるの? するわけないじゃんそんなの。馬鹿なの死ぬの?」


こ、このクソ妹……っ!


ギリギリ奥歯を噛み締めていると、フッと美亜がそんな俺を見て笑い──


「いいから馬鹿なこと言ってないで食べよ。ほら、目的地はテーブルだよ、トナカイさん」


わざわざ俺を自分のもとまで来させ、おんぶを要求してきた。


……もしかして美亜のやつ、おんぶを合法化するために俺にトナカイコスプレを強要したのか?


それだと俺は今日一日中、美亜の足役じゃないか。


「……それでもいいけどさ。ほい、乗ってくれよミニスカサンタさんよ」


「ミニスカの部分言う必要ないと思うんだけど」


不満そうに口を尖らせる美亜だったが、しかしその後に、


──メリークリスマス。


そう囁いた気がした。


「兄妹で……家族で過ごすクリスマスが、一番いいかもな」


そう言うものの、美亜からの返事は返ってこない。


やれやれ、せっかくいい雰囲気だったのにな。


うちの妹サンタは手厳しい。


けどまあ、これが俺たちらしいクリスマスだな。







「……わたしも、これが一番かな」



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