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Another view 〜妹の憂鬱~

 わたしの兄はバカである。


 どれくらいバカかって言うと、それはもう言葉では表せないくらい。


 いつもグチグチうるさいし、兄のくせにお調子者だし、あんな冴えない顔してるのに料理が出来るところとか。


 悔しいしムカつく。


 わたしの方が稼いでたりはするし、家での立場も上だったりするけれど。


 兄のバカっぷりには、さすがのわたしでも勝てない。


 まあ、あんなのに勝てなくてもいいんだけどね。むしろそんなところで勝っても全然嬉しくないし。


 勝負するまでもなく、わたしの方がバカではないというのはわかっている。わかりきっていることだ。


 ……それでもわたしの方が、『バカ』だったりもする。


「ほんと、難儀なものだね」


 わたしは柄にもなくため息を吐き、頬杖をつく。いわゆる『悩んでますよ感』を醸し出しているのだ。


 いや、本当に悩んでるんだけどね。


「ほんと、いつ言お……」


 わたしとしては、言ってもらいたいって気持ちもあるんだけどさ。


「……お兄ちゃん、いつまでわたしに『血が繋がってない』ってことを隠してるんだろ」


 兄はグチグチうるさくて、お調子者で、顔に似合わず料理が出来るバカで──


 ──わたしを混乱させないようにと、すごく大きな秘密でも黙っていられる超スーパー妹バカだ。


「ほんと、バカだよね。……このわたしがそんなこと、知らないとでも思ってるのかな」


 自分の周囲の人間については一通り調べてある。生い立ちから性格、果ては性癖までも。


 そんなことをしているわたしが自分たち『兄妹の秘密』を知るのは、そう難しくないことだった。


 お兄ちゃんがどうしても隠していたいみたいだから、わたしも『血の繋がった妹のフリ』をしてきたけど。


「……お兄ちゃんには悪いけど、その努力を無駄にさせたくなってきちゃったね」


 わたしとは血が繋がっていないという事実。そしてそれを隠すためにしてきた兄の努力。


 今までお兄ちゃんが積み重ねてきた『兄妹』としての関係。


 それをわたしは、今さら壊したくなってきた。


 だって、わたしは──ただの妹なんかじゃ、いたくないから。


 手のかかる妹だろうけど、積み重ねてきた『時間』とその深さだけは、誰にも負けていないのだから。


 ……別にお兄ちゃんのことが好きってわけじゃないからね? そこは勘違いしないでよね。


 でも、誰にも負けていないものがあって、お節介焼きの優柔不断鈍感難聴兄に色々と感謝したりしているからこそ──。


「──さて。今日はどんなワガママを言ってあげようかね」


 わたしは、そんな兄をどう尽くさせようかと、常に考えている。

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